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2018.10.26 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ミッドライフ・クライシス』~vol.5~

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ミッドライフ・クライシス』~vol.5~
‼警告‼
柴崎の危機。不快な描写を読みたくない方は絶対に読まないで下さい!
ご自身の責任で続きの開閉を操作して下さい。
クライシス圧縮

※※※「ミッドライフ・クライシス」※※※
仕事も私生活も順調だと思っていた自分の人生。しかし「本当にこのままでよいのだろうか」「悔いのない人生をおくれるのだろうか」とふと悩みが生じる壮年期。 人は時に人生の中頃に、自分の人生を問い直さずにいられなくなる深刻な心の危機が訪れる。
「ミッドライフ・クライシス」=中年期に人の心に巣食う危機






【More・・・】

≪ ミッドライフ・クライシス~vol.5~ ≫背中の靴跡シリーズ


「…………っ、」
身体の違和感に目を覚ました。――――動けない。
思考しない頭を必死に動かそうと努力する。
…………ここは…………
…………なにが…………
ぼんやりとまだ夢現のような視界。
視界を動かすだけで、ふらふらと揺れるような異常な感覚が付き纏う。
大きな部屋だ、と、なんとなくわかった。
動こうとして、ギシ…ッ、と縄の鳴る音がした――――ビクリと反射的に怯えてしまう。

忘れた筈の、忘れようとした、あの時と同じ――――

よぎった思考に、必死に身体を動かそうとして、まったく動かない。
縄の鳴る音だけが響く。
次第に自分の置かれた状況がわかる。――――わかればわかる程、恐怖は増幅した。
デジャヴなんかじゃなかった。
あの時とまったく同じ――――両手を頭上で組んだ形で縛られ、それがまたどこかに繋がれている。
両足も広げてそれぞれ縛られている。

夢?!

あの悪夢を見ているの…?!

だが、喰い込む縄の感触が痛覚を刺激した。
ギシギシと鳴る音。
あの時と同じ。

怖い。

肘や膝が少し曲がるくらいの稼働範囲にされているが、思うように動けない。
動けないのに、恐怖に煽られてとにかく動かなければ、ともがいてしまう。

怖い、
怖い……、怖い、怖い怖い…っ

冷静にならなければ、と心のどこかではわかっているのに、恐怖心に支配されてしまう。
本当に、恐怖のあまり、声も出ない。
――――と。
「ああ、やっと目が覚めたみたいだね。随分寝てたよ。待ちくたびれちゃった」
ふいに掛けられた声に、ビクリ…ッ、と身体が大きく震え、ギシッと縄が喰い込んだ。
痛みよりも恐怖にパニックになる。
グラグラと揺れる視界を必死に巡らせ、必死に声の主を探す――――と、ベッド横のサイドボードでモバイルパソコンを弄っていたらしい男がこちらを見て笑っていた。
息が止まりそうになる。
一瞬、あの時の犯人――――坂上に見えたが、坂上の残像が消えると鮎川がそこに居た。
鮎川が上機嫌で笑っている。
「どうしたの。――――怖い? イイね、麻子さんのそういう顔――――この犯人も、麻子さんのこんなところにヤラれたんだろうなぁ。ふふふ、今までで一番イイ顔してる…………ホントにイイ…………やっぱりこんな画像より生(なま)の麻子さんが最高だよね」
ニタリ、と満面の笑顔を向ける鮎川に、凍り付くしか出来なかった。
「ねぇ見て。この犯人――――プロ級だよねぇ。静止画でも俺、写真の麻子さんでこれまでも何回も抜いちゃったよ」
そう言ってパソコンの画面をあたしに見せた。
――――反吐が出そうだった。
…………あの時の…………坂上があたしの上半身を露出させながら順番に撮っていた写真達がスライドショーでエンドレスに映し出されている。
乱れたシャツから見えるブラ。逃げようともがく身体。手首に喰い込む縄。嫌悪に歪む顔。丸見えになったブラからはみ出る胸。男の手に胸を弄られながら苦痛に涙を流すあたし……。
見ていられなくて顔を背けたら、ふふっ、と鮎川がまた笑った。
「……ホント、イイね、麻子さんの嫌がる顔! ……堪んないよ……」
そういうと立ち上がって近づいてくる気配。
逃げられないとわかっているのに、それでも逃げようとして必死に身動ぎ、縄をギシギシと鳴らした。
「こんな風に無理矢理冒すのもそそられるけど――――まぁでも最初は、麻子さんからその気になってくれた証拠映像を残しておかないといけないから、やっぱり薬は飲んで貰うしかないよねぇ。――――嫌がる麻子さんを組み敷くのはまた次の機会の楽しみにして――――ああでも、そうだ! 薬の効果が出るまでの間はあの画像の再現をやってみてもいいよね」
~~~~ッ?! 
…く、くすり…っ?!
慌てて鮎川に走らせた視線の端に、鮎川の手に握られた小瓶が見えた。
ぞく…ッ、と言い知れぬ恐怖が身体を貫く。
ツカツカと近づいた鮎川は、あたしの顎を掴むと力づくで固定してきた。
骨が軋みそうな程必死に抵抗したけれど、全然敵わない。
唇に小さな小瓶を押し付けられたから、必死に唇を結んで拒む。
くくく、と鮎川が愉快そうに笑う。
「…………こうやって抵抗するところが、またそそられるんだよなぁ!」
そう言いながら顎を掴んだ手が緩んだ――――と思ったら、下にずらして首を締めてくる。
~~~~くる…し……っ……、
気道が抑え込まれて息が出来ない。
苦しくて苦しくて苦しくて、異常な震えが身体を襲い始めた瞬間に鮎川の手が離れた。
本能的に息を吸おうとして口が開いた。――――途端に、さっきの固い感触がまた押し当てられ、口内に液体が流れ込んでくる。
吐き出さなきゃ、と思うのに、息を吸いたいと全身が叫んでいて、身体が勝手に液体を呑み干してしまう。
液体を飲みながらも息を吸い、ゴクリと喉は鳴りつつも器官に入りかけて酷く咽込む。――――もう訳も分からず、もがくように口内に流し入れられる液体を咽びながら飲んでしまう。
ようやく解放されたものの、ゴホゴホ…ッ、と咳き込みは止まらず。
口の端からは汚らしくも飲み干し切れなかった液体が流れた感触。
みっともないやら、情けないやら、自分の無力さ加減が悔しくて堪らない。
「大丈夫? 最初から素直に飲めば良かったのに…………変な液体じゃないよ。麻子さんを気持ち良くさせるだけ――――媚薬だよ、使ったことない?」
言いながら唇から流れた液体の跡を拭うように、鮎川の手が肌を滑った。
虫唾が走ったような気持ち悪さに身体が震える。
と、「もう効いてきた? ……って、いくらなんでもそりゃ早すぎか」と1人で悦に入ったように笑う。
鮎川を睨みつけながら必死に虚勢を張る。
「――――は…犯罪ッ、……これは、犯罪よ! ……言っとくけど、これであたしをモノにしたところで、あんたの人生も終わりだわっ!!」
「なんで終わりなの? 麻子さんの方から『抱いて』『ぐちゃぐちゃにして』って俺に縋るようになるのに? ――――俺はそんな麻子さんに応えてあげるだけだからね」
「~~~~な、なに言って…っ」
「ふふ…っ、さっきの薬はね、ハイスペックな媚薬を調合したオリジナルブレンドなんだ。いろんな女に試して研究を積み重ねた俺の宝物さ。……どんな不感症の女でも処女でも効果があってね――――身体が熱を持ち出して、身体が疼いて疼いてジッとしていられなくなってくるんだよ。触れられてもいないのにアソコはビショビショに濡れ出て自身の身じろぎに喘ぎ悶え出してくる――――それでも触れずに観察してたらね、堪えきれずに皆オナニーしだすんだよね、泣きながら。やがて俺に懇願するんだよ、「お願い、抱いて」「グチャグチャにして」ってね。
……麻子さんも、あと30分もすればそうなる」
「~~~~ッ…?!」
口内が干乾びる。
飲んでしまった液体――――全部を呑んだわけじゃない、かなり咳き込んだし、口から零れた液も多い、と必死に自分に言い聞かせる。
鮎川のいいようになってたまるか!
その思考に噛り付き、理性を総動員する。
「……そんなわけで。――――同意の上だから犯罪にはならないよね?」
くくく、と笑いながら、あたしの頬を撫でる鮎川の手の感触が気持ち悪くて堪らない。
……大丈夫、大丈夫……あたしは、鮎川のいいようにはならない!
膨れ上がる反抗心に、鮎川を否定する。
「~~~~ふ…不倫、は…っ、……犯罪、なのよっ」
「俺は未婚だよ? そういう意味じゃ、麻子さんの方が罪が重いんじゃないの? ……それにさぁ、裏切り行為をした麻子さんを旦那サンは許すかな? ……妻が若い男と淫らにヤリまくってる姿見たらどう思うだろうね? ふふっ、麻子さんの乱れた姿、ちゃあんと映像に残してあげるからね――――いろんな角度で撮れるようにビデオを5台も用意したんだよ。その映像を公開しちゃうか、それとも俺と2人きりの秘密にするのか――――選ぶのは麻子さんだよ? ふふふ、苦悩する麻子さんも、きっと素敵だよね」
「~~~~ど…して……、こ、こんな、こと、しなくても、あんたなら……、あたし、なんかより、もっと若くて、イイ女性、が…………」
「女なら別に困ってないよ。俺が何もしなくても腐る程寄ってくる――――美人でスタイルの良い女なんかもゴロゴロ居るし、別に欲望の捌け口が欲しいワケでもない。…………正直、女なんか欲しくもないね。俺に媚びへつらって纏わりついて来るだけのつまらない存在――――挙句に俺にしゃぶりついてお零れの金や名誉が欲しいだけの腐った果実だよ。ゴミ以下の汚らわしい女達。
――――でもね、麻子さんだけは初対面からして違ってたんだ。最初から惹かれた。女性とは思えぬ理論と弁舌だけで文科省を動かしたよね――――文科省の後ろ盾と内閣総理大臣との極秘会談で図書館協会を日本図書館協会として認めさせたのは麻子さんの力量だよ。こんな女も居るのかとゾクゾクした――――気高く美しく聡明で非の打ちどころがない。――――その後も何度か文科省に足を運んでいただろう? 覚えてないかなぁ、わざわざ俺の方から自己紹介したんだけど――――俺が自分からそんなことするなんてかなりレアなんだぜ。なのにまったく君は俺に興味を持たなかった…………もう5年くらい前かな。
何もかもがこれまでの女と違ってた――――君を見るたびにゾクゾクしたよ。この気持ちが片想いってヤツなんだと気付くのに、人生初めての経験だったから少し時間がかかったけどね。
――――いつしか、麻子さんをオトすことに生き甲斐を感じるようになってた。君を虜にするにはどうしたらいいのか、気付けばそればかり考えていたよ。
初めてなんだよ、君が。
俺の思い通りにならない――――。
そんな君を俺のものにするにはどうしたらいいのか、考えることだけが楽しみだった。
それまでの俺は人生になんの楽しみも見つけられなかった。
父の地盤、父の遺産、何もしなくたってすべて手に入る家庭。文科大臣にはこのまま何もしなくたって今の大臣が居なくなればなるだろうし、大臣になったら今以上に仕事と責任が増えるだけのことで何の楽しみもない。
金も別に俺が働かなくとも勝手にあちこちから収益が上がってくるんだから、俺が仕事をしようがどうだろうが、一生困ることもない。
……大体さぁ……、いくら地位や名誉や金があったって、人は死んだらそれで終わりだ。どれだけ地位や名誉や金があったって死んだらその辺のホームレスと同じただの死体だ――――親父は偉大だったみたいだけど、それでも今親父を覚えてる人間なんていくらもいやしない…………まったく、くだらないよね。
ずっと人生に意味を見いだせなかった俺の前に、麻子さんは現れたんだ。
――――それからだよ。楽しくて仕方なくなった――――いつも毅然と美しい君をさんざんいたぶってぐちゃぐちゃに乱れさせて穢したら、どんな感じだろうって想像するだけで快感だった。嫌がる君をグチャグチャにする妄想が一番興奮するけど、君を貶めて俺から離れることが出来ないような苦痛を味わわせるっていうのもめちゃめちゃ興奮した。…………俺に興味のない麻子さんを振り向かせ、認識させ、手に入れる――――その為の手段を考えるとぞくぞくして楽しくて仕方なかった。
――――ようやく、ようやく、今、それが現実になるんだ……」
鮎川の言葉に凍り付いた。

闇。
病んでる。

…………狂ってる…………。

――――鮎川の異常な思考回路に怯える。

そんなあたしを見て、嬉しそうに鮎川が笑った。
「……素晴らしいね……想像以上だ! 気丈な君が精神をズタズタに裂かれていく様は絶対にイイと思っていたよ」
そういいながら、頬を撫でていた手を下ろし、服の上から胸を撫で始める。
喜ばせるだけだとわかっているのに、苦痛に顔が歪んでしまう。
「いいなぁ……嫌がる麻子さんは、本当にイイ。ようやく手に入るんだね――――ふふ、普通には落とせない相手だと思ったからこんな風に地道に接触を続けたんだけど、正解だったよね。麻子さんには図書隊や稲嶺顧問、手塚会長を潰しに掛かるような情報をチラつかせる方が確実に釣れるだろうって思ったのさ――――案の定、情報部稲嶺和市宛ての呼び出しに君が応じた時はほくそ笑んだよ。稲嶺も随分と汚いことをやってきた人物だ――――親父の遺品の書類から出てきた情報源の数々はそれを証明してる――――初めて親父に感謝したよ」
鮎川の言葉に、凍り付いたように動けなくなる。
どくん、どくん、と不自然に鼓動が鳴っている。
「手塚会長からの封書も何通か残っていたこともラッキーだったな。……まさか二人が旧知の仲だったとは知らなかった。あくまで事務処理的な書類しか残ってなかったからなぁ……だから手塚が親父を利用して図書館協会の地位を認めさせたんだろうって安易に考えてたよ。親父は当時文科省も警察も、意のままに動かせるだけの力を持っていたからね。
――――しかし、親父達の関係性まで調べ上げてしまう麻子さんは、やはり本当に素晴らしい女性だよ――――君はいつも俺の上を越えて来る――――そんな君を、今日、ようやく俺は手に入れるんだ!」
歓喜にギラつく瞳を輝かせながら、鮎川の手が、シャツのボタンをぷつんぷつんと外し始めた。
やめて、と逃げられないとわかっているのに、暴れようともがいてギシギシと縄が鳴る。
「……見られるの、嫌なの? まだ何もしてないよぉ? ふふふ、意外と純情なんだね――――可愛い」
ボタンをすべて外すと、あたしのシャツを徐に開いた。ブラが露わになる。
羞恥と嫌悪に顔を背ける。
ブラの上から大きさでも確かめるように触られて、虫唾が走って震えてしまった。咄嗟に身体を縮込めてしまい、縄が皮膚を破りそうな程喰い込んでくる。
「凄いね。……3人も子供を産んだとは思えない身体――――ふふっ、いやらしいなぁ! あの写真と全然変わらない――――さぁて、あの写真みたいにブラジャーを切ってあげようか。中身も変わってないのかな?」
舌舐めずりをしながら、鋏、鋏、と呟きつつ、あたしの上から下りた鮎川に、震えそうになる声を叱咤しながら詰問する。
「~~~~ああ、あの、しゃしん、は…っ、け、けいさつ、の……、けぃ…さつ、しか、知らな…い、はずっ、」
あたしの言葉に鮎川は小さく噴き出した。
「警察を信頼してるの? 麻子さんにしては幼稚な発想だなぁ……俺の親父が警察の武器を図書隊に流すように指示した節があるって話、さっき食事の席でしただろう? 警察なんてものはね、自分達の非を認めない為にはなんだってする組織なんだよ。自己防衛の為なら、守秘義務なんて関係ないのさ。
……俺はね、君が思っているより君に夢中なんだ。調べたよ――――君のなにもかもを知っていたかったからね。ストーカー被害のことに辿り着くのは簡単だったよ、警察沙汰になったことだしね――――バラ撒かれたコラ写真が欲しくなって――――親父が作った警察へのパイプを利用して教えて貰ったよ。ついでに、それ以上に素敵な事件当日の証拠写真も、何もかも全部貰った。
――――わかっただろ? 警察って組織は自分達の闇を隠蔽する為には手段を問わないのさ。……親父は警察組織に蔓延る闇を掴んだ上で、警察に独自ルートを作ってたような人物だったから……警察組織から見ても親父の死はありがたかったんだろうよ。――――なんたって、警察庁、警視庁の武器弾薬武装購入ルートを図書隊に紹介させられるくらい、親父の圧力に屈していた組織だからね。警察庁や警視庁にとっては、絶対に公表出来ない汚点だ――――親父が死んでホッとしたのは稲嶺や手塚だけじゃねぇ、警察もだったんだ。だから犯人を挙げる努力もせず、早々に捜査を打ち切りやがった。――――そのあたりの話を出しただけで、「この証拠写真欲しいなぁ」って言ったら、すぐにくれたよ。――――まったくバカバカしいよねェ……あんな組織が日本の治安を守ってるのかと思うと反吐が出る」
凄まじい話をしているのに、鮎川の言葉は抑揚もなく淡々としていた。ああ、あった、と呟いた声の方が嬉しそうな感情を乗せていたくらいだ。
鋏を手に鮎川が戻って来る。
整った顔に浮かぶ満面の笑顔――――なのにあたしの心を怯えさせる。
恐怖のあまり、また無意識に逃げようともがいたらしく盛大に縄が鳴り、手足をキツク締め上げる。
「……おやおや、まだ何もしてないよ? 本当に純情なんだねぇ、可愛いなぁ……この麻子さんが今度は淫らに乱れて来るのかと思うと、それもまた、余計に興奮するね」
舌舐めずりをする鮎川の声に、情けなくも言葉を失う。
…………怖い。
怖い、怖い、怖い……だれか…………

誰か、

…………ひかる…………

恐怖のあまりキツク目を閉じたその目尻から何かが零れ落ちたけれど、涙だと認識する余裕もなかった。
反射的に縋るように思い浮かべた人を、認識出来る余裕も、もちろんない。



――――と。

バギ…ッ、と地響きのような重く鈍い音が響いた。
と認識する頃にはもはや何度目かの音――――気付いた時にはバンッ! と凄い音がしたと同時に駆け込んでくる足音。
「――――麻子ッ!!!」
聞き慣れた声に目を開いた時には、既に、鮎川の身体は宙を舞いそして壁に激突した。
そのまま床に崩れる鮎川の襟首を掴むと部屋に落ちていた縄で両手を縛り上げ、ずるずると引き摺っていく大きな上背。
入り口近くにあるクローゼットのパイプにご丁寧にしっかりと結び付けてから、駆け戻る。
茫然と、その人を見つめる。

…………ひ……か……る?

まさか。
どうして。
お守りも持ってないのに――――……
どうして、ここに…………。

ひかる。

光。
……光、だ……。

呼ぼうと思うのに、蓋をされたように声が出ない。
「麻子……大丈夫か? ……もう大丈夫だからな」とあたしを安心させるように声をかけながら、開けたシャツのボタンを手早く留めてゆく。
そして床に落ちていた鋏を拾うと、あたしの手足を繋ぐ縄を切ってくれた。あの時と同じで、手首と足首に残った縄は、怪我をさせないようにか手で丁寧に解いてくれる。

――――ひかる――――

あの時と、光は何も変わらない。
優しさも強さも、何よりもあたしを大事にしてくれるところも。
光を避けて傷つけるばかりのあたしだったのに。

見つけてくれた。
助けてくれた。

縛っていた最後の縄が解ける。
「麻子」
大好きな光の声が降ってきたと思った時には、温かな体温に包み込まれた。
放心して凍り付いたように動けなかったあたしを溶かすように、温もりが伝わる。
お日様のようだ。
――――光――――
心の中に感情が溢れて、堰が切れる。
――――言葉も何もなく、ただボロボロと涙だけが零れ落ちてゆく。

光。
光、光……。

声は嗚咽にしかならなくて、その名だけが心の中を木霊する。
光の胸に顔を埋めながら、でも暗闇しかなかったあたしの中に光(ひかり)が差し込んできたように思えた。
明るくて温かくて優しい光(ひかり)。
あたしの中の闇を追い払ってゆく。
――――その光(ひかり)に向かって、あたしもぎこちなくも手を伸ばす――――震える腕が光の背に向かって伸びた。
不器用に縺れるように、光に抱き付く。

…………光は、あたしの光(ひかり)だ。

応えるように光がますます力強くあたしを抱き締めてくれた。
ここに居る、もう大丈夫だと、温もりがあたしに囁く。
あたしを包み込むように逞しい腕が回り込む。
あたしも震える指先で、必死に光に縋りつく。
もがれた半身を見つけて一身になろうとするように、あたし達はただただ強く固く抱き締め合っていた。



……To be continued.



********************



このお話のタイトル「ミッドライフ・クライシス」。実は手柴に向けてのことではなく、鮎川を指してのことでした。
人が羨むようなものはなんでも手に入れているように見えるけれど、本当に大切なものを鮎川は持っていなかった……そういう人は陥ってしまう闇ではないかと思いました。
手塚も柴崎も、お互いを支え合える人が居るから「ミッドライフ・クライシス」が襲ってきたとしても、きっと乗り越えられるだろうなと思うんですよね。ようやく自分の中の闇に彷徨いかけて見失いかけていたものを柴崎も見つけたのではないでしょうか。

というわけで、危機脱出! 続き頑張りますw






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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

★誰も愛情を教えてあげられなかったんでしょうね…

ママ様

確かに、鮎川はこれまで、本当に人を好きになったことがないのではないでしょうか。
そもそも、家族の愛情すら怪しい気がします…。
鮎川の父は早くに亡くなっている設定ですから父親の愛情はもちろんないですし、母親がどれだけの愛情を注いだのか…………ひょっとしたら父が作った遺産も相続した母は再婚もしたかもしれないし(母親もまだ若かったはずですし)、家族の愛情も微妙で、ただただ勉強して(塾三昧で)いい大学に入り(東大とか)、入省してからも父親の影響力があったりしてトントン拍子に割と人生を歩んできてしまったのかなぁ…と。
でも、本当の意味で、人を大切にしたり、愛したりすることはなかったのかなぁ、と。
ルックスにも恵まれて、金持ちの鮎川だったので、そういう見かけに寄ってくる女にうんざりしてる気配はありますから、そういう女にしか出会うことがなかったのかもしれないですね…。
「下手をすれば、自分も利用される」「どうせ俺の金目当てなんだろ」くらいなささくれた気持ちだったのかな。
だから、手に入らないものほど、ないものねだりになっちゃった、というところでしょうか。
ターゲットになってしまった柴崎にとっては災厄以外のなにものでもないのですが…………本当に手塚が間に合って良かったです!!
手塚と、互いに想い合う関係を手に入れて知ってしまった柴崎だから、昔以上に他人に自分が冒されることへの恐怖が強くなっちゃってますし。
大事にされる、ことを知ってしまったら、大事にされないセックスなんか怖くて怖くて仕方ないですもんね。
だから、坂上と対峙した時以上に(坂上との記憶も恐怖の引き金になってるってこともありますが)今回の麻子サンは恐怖を覚えていたのだと思います。
手塚が間に合わなかったら、麻子サン、精神的に死んじゃう! って思いました…。
修羅場を乗り越えたので、後はもうエンディングに向かって一直線!!!
とはいえ、次回ではまだ終わりませんが、とりあえず一番嫌なところを乗り越えたので、私もホッとしています!(笑)
こんな回も、丁寧に読んでくださって、本当にありがとうございました!
ツンデレラ |  2018年10月27日(土) 06:38 | URL 【コメント編集】

★苦難を超えて…

りんご様

いつもありがとうございます!
そうですね、私の書く手柴は、辛いことが降りかかってくると、いつも以上にお互いが必要になって互いを求める傾向がより強くなるらしく、辛いお話とか暗いお話を書いているときの方が、その後の互いに生きていくために必要なんだと認め合い方、求め合い方が愛おしく感じます。
こういう嫌なシーンもあるお話も、だから書き続けられる気がするんですよねw
読んでいる方の感じ方は、私にはわからないので、嫌なシーンは嫌なシーン、と見えるかもしれないし、こういう回は酷く気になります。
なので、りんご様みたいに、嫌なシーンを乗り越えての手柴を愛おしいと思う、とこうして伝えてくださると、本当に喜んで踊ります(笑)
手柴は普段は堂郁のように目に見えての体当たりはしないカップルですが、求め合い方は凄いカップルだと思うんですよね。
「好きだから付き合ってる」カップルじゃなくて、「いいところも悪いところも全部ひっくるめて、丸ごと大事にしたい相手だから」というところから、ようやく恋人という関係になれた二人ですしねー(((((^^;)
なので、若干「重い」愛情を互いに深く掛け合ってるカップルだよなー、とも思います(苦笑)
でもお互いに、だから、お互いに重いとは思ったこともないと思うケド★(笑)
中年になると、勢いで好き好きやってる頃とは違ってきますが、心の奥底の愛情がしっかりと根付いているので、若い頃よりもずっと離れられなくなってるものだと思いますしw

こんな展開になったお話でしたが、それによってまた、手柴が互いの愛情に気づいて、より強く求める姿に、愛おしさを感じてくださって、それを私に教えてくださって、本当にありがとうございますww
りんご様はいつも、私の気持ちが弱くなりそうな時に勇気を下さる方です(*^^*)
読んでいただけて、本当に嬉しいです!!!



ツンデレラ |  2018年10月27日(土) 06:24 | URL 【コメント編集】

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 |  2018年10月26日(金) 12:05 |  【コメント編集】

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