FC2ブログ

12月≪ 2019年01月 ≫02月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031
2018.10.19 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ミッドライフ・クライシス』~vol.4~

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ミッドライフ・クライシス』~vol.4~
クライシス圧縮

※※※「ミッドライフ・クライシス」※※※
仕事も私生活も順調だと思っていた自分の人生。しかし「本当にこのままでよいのだろうか」「悔いのない人生をおくれるのだろうか」とふと悩みが生じる壮年期。 人は時に人生の中頃に、自分の人生を問い直さずにいられなくなる深刻な心の危機が訪れる。
「ミッドライフ・クライシス」=中年期に人の心に巣食う危機






【More・・・】

≪ ミッドライフ・クライシス~vol.4~ ≫背中の靴跡シリーズ


「……今日はね、麻子さんにこれを見て貰おうと思って――――例の書簡だよ」
今日もまたいつもの会員制ホテルに呼び出され――――豪華なディナーはまだ半ばだというのに、鮎川は席を立ち、あたしの背後から抱き付いて来た。
虫唾が走る――――鳥肌が立つような悪寒。
そんなあたしの様子を、抱き締める鮎川も気付いているだろうと思うのに、なお一層顔を近寄せて、頬に吹きかけるような吐息はねっとりと熱く、気持ちの悪さにまた嘔吐きそうになる。
…………最近ではもう、鮎川のことを考えるだけで吐き気が込み上げてくる程、気持ち悪くて仕方がない。心が病み始めるこんな状態は以前にも経験したことがある――――まったく自分の弱さが情けない。
なんとかグッと堪えて、目の前に広げられた書面を見る。
「……今は亡き稲嶺顧問が、父に図書隊武装資金の融資を乞うた時のものだよ。――――『日野の真実』を担保に…だって。どういう意味だろうね?」
「…………稲嶺顧問は『日野の悪夢』の当事者でしたから、誰よりも真実の傍に居たでしょう」
「その真実とやらを担保に1000万円も融資したんだよ、父は。普通は考えられないよね――――脅迫されたとしか」
「……さぁどうでしょう? それが脅迫になるとしたら――――貴方のお父さんは『日野の悪夢』になんらかの加担していた首謀者、もしくは仲介者だったのかしら。真実を伝えられたくないことの裏返しってことですものね」
くくく、と鮎川が笑う。
鮎川の顔が近づいてきたのを、反射的に腕を上げて避けようとしたのにその手を取られる。
重ねるように指を絡ませられ、そのまま強引にワインのグラスを重なった手のまま引き寄せる。
「……本当に堪らないね、麻子さんは……。会話だけでこんなにドキドキさせられる女性は麻子さんが初めてだよ――――ねぇもっと話をしよう。……今日はあんまりワインが進んでないよ? ゆっくりと朝までこの話を追及しようじゃないか」
言いながら無理矢理力づくでワインを口に運ばれる。
…………正直、今日はいつものように飲める気がまったくしなくて、ほとんど口を付けていなかった。

光の口から『鮎川』の名前が出てから――――……光を裏切っていることに変わりないのだと自覚した。
わかっていたことだ。なのに、自分を認められなかった。――――ただただあたしの弱さだ。
…………光の傍に居たい…………
そんな自分勝手な想いが、『今はまだ何も起こってない』と自己欺瞞していたにすぎない。
本当はもうとっくに光を裏切ってる。
『間違い』が起こってもおかしくないこの状況。
最近は『泊まりの仕事』になるかもしれない、といつも覚悟してきた。
――――それでも…………。
なのに、それでも。
…………気持ちの整理が付くまで随分と時間を費やしてしまった。

光と別れる。

その決断をするのが辛すぎて、グズグズと時間ばかりが過ぎた。
子供も居るというのに、子供の世話も家事も何も手につかなくなって、手塚の家にお世話になった。
睡眠不足と精神的なものだと思うが、情けなくも体調もずっと崩しっぱなしで――――体調の悪さをとにかく気付かれないようにと隠すことだけで精一杯の毎日だった。
それでも親しい人には気付かれる――――だから出来るだけ視察の名目で近場の図書館へ出向くようにした。
もちろん、図書基地にも顔を出さないわけにはいかないから、出せば同僚にはバレて「……大丈夫?」と声を掛けられる始末。『出張続きで流石のあたしも、疲れが溜まっちゃったかしら』なんて苦笑を浮かべて必死に誤魔化した。
……そんな体調だったから、ワインを一杯飲むだけでも今日は、酔っ払ってしまい鮎川と互角に話も出来なくなりそうな気がして口に出来なかった。
押し付けられたワインはそのままグッと鮎川の力で傾けられ、赤い液体が襲ってくる。
必死に自分の手にも力を籠めてなんとか阻止しようとしたけれど大した抵抗にもならず、濃厚な芳香が咽るように口の中に流れ込み、口に収まり切れなかった液体が肌を伝って胸元にまで流れてゆく。
ゴクッ、と呑み込みはしたものの、次から次へと流し込まれるアルコールに抗議するように、あたしの身体は咽て咳き込む。
苦しい。
何口か飲んだものの、ゴボッ、と大きく咽て嘔吐きそうになった。醜態を見せる訳にはいかない。――――必死に堪えて身体も顔も渾身の力で背けてなんとか逃れる。
咳き込みながらも必死に鮎川へ侮蔑の言葉を吐き出した。
「~~~~こ、こんな…ものっ、こんな、もの、で、図書隊が…っ、――――ッ?!」
気配がして、驚いて身を引いた。
あたしの肌を伝ったワインの跡を舐めようとでも言うかのように、鮎川の顔が首元に近づいてくる。
鮎川の気が一瞬それに逸れていたのだろう、掴んだままだったワインの残りを必死に鮎川の顔目掛けてぶちまけた。
あたし自身も汚れてしまうが、そんなこと、もうどうでも良かった。
突然ワインを顔に掛けられた鮎川が怯んだ隙に、全力で突き飛ばして鮎川の束縛から逃げる。
ガタンッ、と大きな音を立てて椅子が倒れた――――なのに、ホテルスタッフも誰も来ない。
……その事実にまたゾクリと悪寒が走る。――――ここで何かあっても、誰も来ないように指示されてるということだ。
ワインを滴らせた鮎川は、意外にも笑い出す。
「――――麻子さんの、こういうところ……大好き」
子供のような無邪気な台詞なのに、背筋が凍りつくような気がした。
「ガッカリしなくてもイイよ。これだけで麻子さんをモノにしようなんて最初から思ってない――――次は、コレ……君のお義父君への親父の譲受書だよ。まぁ親父は仲介したに過ぎないようだけど、なにかあった時の証拠品として用心の為に複写しておいたんだろうね。武器弾薬を関東図書基地に納品したとの警察庁の書簡だよ。……凄いね、神奈川、埼玉、群馬、千葉……こんなに警察庁の協力を仰いじゃって」
「…………図書館協会会長として、図書館のバックアップに尽力されていたんでしょう。……今になってそこを突かれたからと言って、誰からもとやかく言われる筋合いのない話だわ」
「……そうかな。じゃあこの資金源はなんだろうね?」
「手塚会長はあなたのお父さんと同じく、元々国内有数の資産家よ。それが図書館の為になるのなら、自己資産から図書隊の為に数千万の資金を出すことも厭わない男気もある方だわ。――――あたしはそんなことより、貴方のお父さんがどうして手塚会長と警察庁のバイパスになっているかの方に疑問を感じるのだけど? そもそも警察庁から武器弾薬を譲っていただくなんて至難の業の筈。そこをバイパスしたという貴方のお父さんの力の方があたしは末恐ろしいとさえ思うわ」
「おやおや。麻子さんは実は年上好きなのかな。――――そんなに褒められる親父に妬けるよ」
「……あなたのお父さんは凄い人だと認識してるわ。――――図書隊が力を持つ為に図書大学を創立し、図書隊が力を持つ為に協力もして下さった方――――図書館がどんな時代でも自由を守る礎であり続けられたのは、鮎川氏の協力があってこそだったのでしょうから」
「――――けど、どんなに凄くても、用がなくなったら捨て駒だ。殺したのは暴力団だと言われてるけど、本当にそうかな…………俺に言わせれば暴力団なんかよりよっぽど良化隊や図書隊の方が親父殺しの動機はある。むしろ図書隊は、証拠隠滅とでも言うように、親父の死後まもなく図書大学を不自然に閉鎖したよね」
「…………閉鎖しなければならない程、あなたのお父さんが図書大学の後ろ盾になって下さっていたということでしょう。それだけの力を注いで下さったことに、あなたのお父さんの意志を感じます――――意志なくしてそこまでの尽力を注げるものではないわ」
「……勝手な解釈だね。――――まさか、親父が自らの意志で図書館協会に組したとでも?」
そう問うてきた鮎川に、柴崎が掴んできた情報が輝きを放つ。
「…………ご存知かしら。あなたのお父さんと手塚元会長は大学時代の同志なのよ」
「……………………」
鮎川の目が大きくなった。どうやら知らなかったらしい、と心の中で安堵の溜息を吐く。
「……あなたは、あなたのお父さんを見捨てたように見える図書隊が許せなかったのかもしれない。――――でも、あなたのお父さんはご自分の意志で、図書隊に協力してくれていたように、あたしには思えるの」
「…………ばかな! 親父と手塚の親父に接点はないだろう!!」
突然声を荒げた鮎川を静かに見返す。
「――――――――学生運動」
「……………………」
「――――あなたのお父さんは、メディア良化法に反対する学生運動に参加してらしたのよ。そこに手塚会長も参加していて――――2人は既知の仲だったの。在学する大学は違えど、法務省が大学にまで検閲の手を入れようとしていたのを断固として拒否して撤退させたのは、大学生達が互いに連携を取り一致団結して徹底抗戦したからに他ならないわ。
言論の自由――――大学が、学校が、……文科省が最後の砦となったのも、あの学生運動の勝利のお蔭よ。
あなたのお父さんの志――――文科省のトップにまで上り詰めたお父さんの信念が、あなたならわかるでしょう」
鮎川は何も言わない。
しばしの沈黙が2人を包んだ。
今日はこれくらいが潮時だろう。
「…………違う方向から物事を見れば、違って見えてくることもあるでしょう。――――今日はもうこれ以上、話し合うことはなさそうですよね。あたし帰ります」
内心でホッとしながら、今日も無事に帰れるのだと思うと急いで荷物を手に取って歩き出そうとした途端、眩暈がした。
必死に堪えて数歩……だが、立っていられなくなり無様に床に崩れる。
必死に倒れた身体を起こそうともがくけれど、上手く手足に力が籠らない。
ともすれば意識が遠退きそうで、必死に起きなきゃ、帰らなきゃ、とただそれだけに縋り、意識を繋ぐ。
――――と、すぐ傍にしゃがみ込んで来る気配。
声が降ってくる。
「――――強情だよね、ホント……今日もまた薬が効かないのかと思った。これで駄目なら次は致死量になっちゃうんじゃないの、と悩むトコだったよ――――良かった、ちゃんと効いてるじゃん。……ああ、安心して、ちゃんと医者から処方された睡眠剤だから。ま、俺が飲んでる5倍以上は今日のワインに仕込ませてもらったけどね。……麻子さん、ちっとも睡眠剤効かないんだもん、驚くよ。流石にこの前3倍量が効かなかったのを見て、ひょっとして本当に鉄血の女なのかと末恐ろしくなったけどね。――――帰り、ちゃんと家まで帰れた? 途中で眠り込んだりしなかった?」
先程までの沈黙が嘘のように、ペラペラと喋る鮎川の言葉を、半分も聞き取ることが出来なかった。
なにかを考えようにも、考える傍から消えてしまう。

急速に意識が遠退いて――――、なにもわからなくなってしまった。

何もかもが闇に呑み込まれた。


     *


特殊部隊の親しい上官達と話をして久しぶりに気持ちも軽く帰宅した手塚だったが、麻子の姿がないことにまた気持ちが沈みそうになる。
実家にまだ帰ってきていない。
ひょっとして家の方にいるとか、それともまだ図書基地で仕事――――と思って、でも特殊部隊面々が何も言ってなかったことから、図書基地での仕事の可能性は低いと判断する。まだ残業していたならあのメンバーは教えてくれただろう。
家か。
――――話し合うには丁度いいかもしれない。
子供も居ないし二人きりで話し合える。
実家から踵を返して自宅まで急ぎ――――電気の点いていない家に少しだけ気持ちが凹んだ。
寝てるのかもしれない、と自分に言い聞かせて中に入る。

人気のない家。

玄関に麻子の靴はない――――落ち込みそうになる気持ちを堪えた。
電気を点ける。
綺麗に片付けられた家。
柔らかな香り。
麻子と2人で買い揃えた家具。
居心地のいい空間。
…………なのに、酷く寂しそうに見えた。
溜息が零れる。

リビングを見回し、ダイニングを覗き、寝室へ――――。
…………ひょっとしたら、今日は麻子もこっちに帰って来るんじゃないか?
俺、こっちに居ようかな。
そんなことを思いながら寝室に足を踏み入れ――――サイドボードの上に置いてある紙に気付いた。
手に取って、それが何かわかった途端、金縛りにあったかのように動けなくなる。

離婚届。

麻子の方はすべて記載済みだった。
バクバクと有り得ない音を立てて心臓が喚く。
錯覚じゃないか、見間違いじゃないかと、目を凝らして見つめても、何一つ変わらない。
――――どうして――――……
まだ、ちゃんと話もさせて貰ってない。
麻子の気持ちも、俺の気持ちも、何一つ話し合ってない。
なのに、どうして、これが、なぜ、いきなり、どうして、麻子は、
混乱する頭で言葉が羅列してゆき――――ふいに凍り付いた。

『まさか』

『まさか、今……』

バクバクと鳴る心臓。
嫌な予感。
背筋を冷や汗が流れる。

なぜ今……と思った途端、麻子の身がヤバい、と反射的に浮かんだ。
これを書き置いて行く程の覚悟で、今日、麻子は家を空けてる――――と、ふいに悟ったのだ。
特殊部隊メンバーから、特に何も聞かなかったことから、今日麻子は普段通りに図書基地の仕事を熟している筈だ。
なのにこんな時間になっても麻子はまだ帰って来ていない。
そして、麻子は離婚届を置いていった。
もしもの時――――自分が穢れた時には、俺を切り捨てる為に。

…………自分だけが汚れを被るつもりで。

空間を切り裂くような音が鳴る。
気付けば、離婚届を破り捨てていた。

認めない。

急がなければ。

……私立探偵の調査から2人の逢引きの場所は、国内随一の会員制のホテルだとわかっている。
いつでも殴り込めるように、先日、手塚も会員手続きを済ませた。
踏み込んで、麻子を救う。

すぐさまタクシーを呼び、さっき別れたばかりのメンバーにも連絡を入れているうちにタクシーが到着した。
飛び乗り、行先を告げる。
手塚の形相と気迫に、運転手は頷くことしか出来ずアクセルを踏んだ。
闇に向かって出発する。

麻子。

祈るようにその名を繰り返す。

麻子。
麻子……麻子。
頼む。
頼むよ……神様でもなんでもいい、どうか、あいつを守ってくれ!
俺が行くまで、どうか麻子を……。

麻子。

後生だから無事でいろ!!



……To be continued.





スポンサーサイト
05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

★罪だと思いまーす

ママ様

急転直下の手塚の巻…。
離婚届に頭に血が上ってしまって、麻子サンの意図を汲み取れなかったらどうしよう……って思いましたが、なんとか手塚も気づいてくれてよかったです。
まぁね、なんだかんだ言っても手塚は麻子サンを信じてるんで、本気で浮気してるとかは思わなかったんでしょうね。
隠してても、手塚には麻子サンが毎日辛そうな様子は感じてるだろうし。
大体、麻子サンが本気で浮気や不倫してたら、手塚ごときには感づかれるようなマネしないと思う(苦笑)。
手塚が好きで、手塚に対する罪悪感も大きくて、だからうまく立ち回れないんだし、それに手塚もやっぱり感じてしまいますよね!
大丈夫!! 手塚、愛されてるからね(*≧▽≦*)!!

鮎川の行動は、ちゃんと立証出来れば犯罪だと思います。
鮎川に関しては、次回、鮎川に喋らせますので、そちらで何が目的だったかを知ってください。
ええ、全然大したことのない、最初からわかりきっていた目的ですが。(なので面白くもなにもないですが)
いろいろ勘ぐって考えてくださっている人には拍子抜けの結末です、ごめんなさい。

麻子サンのハニトラに対する自分の考えが、かなり歪んでるかな、とは思いますね。
そこを考えたときに、「自分はタスクフォースと違って命を懸けて戦うことができない代わりに、この身をかけて戦う=ハニトラ」になってたのかもしなれないな、とも思ったり。。。
情報部としての仕事上、タスクとはかかわりのあった麻子サンだけど、自分は命を懸けて戦場に出るわけじゃない。という負い目(?)のような感情があったのかなぁ…と思わなくもないというか。
だから、頭では「自分の貞操くらい大したこともない」と、必要だったら自分の身をかけて図書隊の為に戦ってもいいんだ、と思っちゃってたのかなぁ……って。
そのあたりは、麻子サンの間違いですけどね!
坂上の時は、仕事に関係なかったけど、今回は麻子サンも思い知った方がいいですね。
手塚も気が気じゃないしねー(苦笑)

次回は今回以上によろしくない展開になりますが、もう話は折り返しているので、後は手塚に頑張ってもらいます!
頑張れ手塚!!
(うちの話ではいつもコレだな(苦笑))

ツンデレラ |  2018年10月20日(土) 07:22 | URL 【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2018年10月19日(金) 08:50 |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除に必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

この記事のトラックバックURL

→http://hujikoba.blog135.fc2.com/tb.php/793-095a0b2b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME |