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2018.10.05 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ミッドライフ・クライシス』~vol.2~

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ミッドライフ・クライシス』~vol.2~
クライシス圧縮

※※※「ミッドライフ・クライシス」※※※
仕事も私生活も順調だと思っていた自分の人生。しかし「本当にこのままでよいのだろうか」「悔いのない人生をおくれるのだろうか」とふと悩みが生じる壮年期。 人は時に人生の中頃に、自分の人生を問い直さずにいられなくなる深刻な心の危機が訪れる。
「ミッドライフ・クライシス」=中年期に人の心に巣食う危機






【More・・・】

≪ ミッドライフ・クライシス~vol.2~ ≫背中の靴跡シリーズ


ギシリと軋むスプリングの音がして、身体が揺れた。
その振動に目を覚まさなければと思うのだけれど、酷く身体が重くて億劫だ。
それでもなんとか瞼を抉じ開け――――白い光が眩しくて、半分ほどしか開かない。
明るい。
眩しい。
……もう日が高い……
ようやく思考と認識が一致した途端、ガバッと飛び起きた。
~~~~っ?! ~~な、何時?!
「ごめん、起こしたな」
ふいに声がして、慌てて身を庇いながら振り向く。
プチパニックになりそうなあたしに、光は苦笑した。

――――――――え?

光…ッ?!

ななななんでっ…?!?!?!

光の腕が伸びて来てあたしの頭を引き寄せようとした――――のだろう。あたしときたら、咄嗟に身体を縮込めて固まってしまった。
男の手、と思うだけで、昨日の警戒心が髣髴して身も心も強張ってしまう。
「…………俺に怯えてるのか?」
光の声にハッとして、慌てて「~~ち、ちが、う…っ」と返そうとして酷く掠れた声しか出ない。
怒っているような悲しんでいるような光の瞳に捉えられ、言葉に詰まる。
ぽん、と光の大きな手があたしの頭に乗ると「少し話がしたい」と言われた。
あたしの中は混乱で訳がわからない。

どうして光が居るの。
光は出張の筈――――、

…………と、ふいに思い出した。
そうだ、昨日――――いや今朝――――帰って来た家の玄関に、光が居た。
――――出張…………だったんじゃないの?
予定が変わったんだろうか?
仕事先で何かあったとか――――

と考えたところで、ハッとまた我に返る。
「~~~~っ、~~な、何時…っ」
「11時だ――――大丈夫、お前の方は、今日は体調不良で休みにして貰った」
「~~な…っ、ななに言ってんの?! あ、あたし、今日は――――…」
「埼玉図書館の視察と武装放棄の確認業務は堂上二監達に進藤一監が同行するから問題ないとのことだ。むしろ、たまには休めと進藤一監も心配してたぞ」
「~~~~ななにを勝手に…ッ!! ~~い、今からでも直行すれば…っ」
慌ててベッドから降りたが、酷く頭痛がした。
二日酔いだろうか。
立ち眩みか眩暈か、身体もふらつきそうになる。

――――と、身体が宙に浮く感覚。

光に抱きかかえられて、ベッドに戻される。
「~~ちょ…ッ、ひかる…ッ…」
「無理するな。――――本当に体調悪そうだぞ、お前。二日酔いってだけならいいけど、顔色悪いし、寝てても苦しげな早くて浅い呼吸で、時々酷くうなされてた」
光の言葉にドキリと鼓動が跳ねる。
~~まさか、変なこと、口走ったり……してない、よね…………あたし。
「…………な…なんか、……言ってた? …………あたし、その……」
恐る恐る口にして、窺うようにチラリと光を見て――――射抜かれるような眼光に目が離せなくなった。
身体が竦んで、硬直する。

「――――『やめて、光』」

……………………え?

訳がわからず、真っ白になった。
理解しようと、必死に光の言葉を頭に繰り返す。
『やめて、光』
『やめて、光』?
ぐるぐると頭の中を駆け回るけれど、まるで理解出来ない。
…………なんの夢を見ていたんだろうか。
…………まるで思い出せない。
…………一体…………なんの…………

「……どんな夢を見てたんだ?」
まるであたしの心の声を引き継ぐような光の言葉。だけど、ゾクリとする程冷たい声だった。
ギシリとベッドが軋んで、光が覆い被さって来る。
冷たく鋭い眼光があたしを射抜き続けていて、目を逸らすことも出来ない。
「…………こんなふうに…………夢の中で俺はお前を襲いでもしたか?」
背筋を冷たい汗が伝うような気がした。

…………なに?

…………こんな目で、見られたこと、ない。

どうして。

どうして、そんなに冷たい目であたしを見るの。

怖い。

光が突き放すようにあたしを見ることが。

そんなことないって、言わなきゃ。
光になら、襲われたって、そんなこと、言わない。
違うって。

「…………『鮎川』が、いいのか」

――――――――え?

ドクン…ッ、と心臓が嫌な音を立てた。
光にまで聞こえたんじゃないかというくらい大きく。
『鮎川』
…………な……なんで、ひかるが、その、なまえ…………
思考が奪われる。
口内が干乾びて声が出ない。
そんなあたしを見る光が、ゾクッと凍りつくような冷たい笑みを浮かべた。いや、笑みじゃない――――口端は上がって笑みを形作っているのに、泣いてるように見えた。
「『鮎川』が――――『泊まりがけの仕事』か?」
涙はない。
でも、泣いてる。

そう思って、胸が苦しくなった。

だけど、否定出来ない。

光が何かを手に取って、あたしに見せた。――――本当に、呼吸すら、止まる。
鮎川があたしを抱き締めてる写真。
正面から。横から。肩を抱く手。腰に回る腕。車中であたしに覆い被さるようなものまで……。
薄暗い闇の中で寄り添う男女の写真達。
…………服から、あたしだと想像はつくかもしれない。あたしの後を付けていたのだとしたら『あたし』は確実だろう。
でも。
――――でも、どうして相手の男が『鮎川』だと…………。
この顔もよく見えない男が、どうして鮎川だと――――。

…………調べた、の?

……どくん……ッ……どくん…ッ…どくん……ッ!!
沈黙の中、あたしの鼓動だけが狂ったように響く。

「――――なにか……言え、よッ!!」

絞り出すような光の声に、またギシリとスプリングが嫌な音を軋ませる。

言おうとして――――喉の奥が塞がれたように声が出ない。

違うって。
違うんだって。
そうじゃないって。――――――――そう……言えたら。

そう……言えた、ら。

でも。

…………言えない…………

光の言葉は真実。
あたしは、『鮎川』と会っていた。
『鮎川』と会うこと――――それが『泊まりがけの仕事』だ。
…………ううん、泊まりがけになる…かもしれない、仕事、だ…………
縋るようにそう思って――――その思考があたしの罪悪感の『逃げ道』なだけだと知っている。
そして…………それもそう遠くない先で、閉ざされてしまいそうな…………。
『泊まりがけの仕事』になってしまいそうな、……予感。

絡み取られつつある。

少しずつ、動きが取れなくなってきている――――

でも。
でも、今は、まだ。

だけど、いつかは……

…………あたしは……、……光を……裏切ることに、なるかもしれない…………

呼吸すらままならない。
苦しい。
すう――っと目尻から涙が零れ落ちた感触。
そんな自分に、思わず反吐が出そうになる。

――――この期に及んで、泣くなんて。

浅ましくて、醜い。
汚い。
歪んでる。

気持ち悪さが胸に湧き上がり、嘔吐きそうになった。
堪えながらなんとか震える吐息を出したら、昏く重い息と共に囁くような声が零れた。

「…………ご……ご、…め…ん…………」

光の顔色が一瞬で変わった。
と思うと同時に振り上げられた腕に、思わず身を縮める。
目を瞑った拍子にボロボロと落ちてゆく涙。
ドン…ッ!!! とマットを叩いたとは思えない程の音と衝撃がしたが、痛みはない。
代わりに、あたしの顔のすぐ横で、耳元で、唸るような光の絞り出すような声がした。

「~~~~次は、俺も一緒に行くッ」
「~~~~?!?! ~~~~なッ、や、やめてっ、光ッ!!!」
思わず金切声で反論したあたしに、ピクリと反応した光の上体がまた持ち上がって、冷酷に見下ろされた。
冷たく口角を上げた光の顔は―――それでもやはり、泣いてるように見える。
「…………『やめて、光』……か。…………俺は、邪魔か?」
「~~~~っ! ~~ち、ちが…っ、~~ちがう、の」
「『鮎川』は駄目だ。――――俺が話しをする」
「~~や、やめ…っ、~~ッ、~~ち、ちが……本当に、ちがうの…………お願い……お願いだから、鮎川のことは、あたしが……」
「じゃあ、せめて聞かせろ。『鮎川』に接触してるのはなぜだ? 鮎川は文科省のナンバー2とまで言われている男だろう――――図書隊の地方における地位確立のためか?」
淡々と紡がれる言葉に胸が締め付けられる。
光は、疑ってる。
写真や耳にした情報が土台にはあるだろう、だけど。
だけど、光がなにより不審を抱いているのは――――あたし、だ。
あたしが、そうさせた。
あたしの歪みが、光まで歪ませる。

…………それでも…………。

「…………そう……、……そう、なの。鮎川は経済界にも顔が利くから――――その、図書隊の地方財源の話なんかも……」
ペラペラと饒舌に喋りたいのに、上手くいかない。
気持ち悪さがまた競り上がってくる。
必死に堪えて喋り続ける。
「……上手く…………もう、少し、で……、その気になって、くれ、そ…な…、っ」
必死に取り繕うとしたのに、胃酸が上がってしまい、喋れなくなった。
慌てて口元をキツク押さえて、力の限り光を押し退けてトイレ向かう。
形振り構わず、縺れそうになる足を必死に動かして辿り着くと、トイレの扉も開けっ放しのまま、吐いた。
大したものは出ず大した量でもなかったが、――――二日酔いで吐くなんて、あたしの人生で初めてかもしれない。
出したからと言ってまったく気持ち悪さは引かなかったが、荒くなった呼吸をなんとか落ち着かせ――――気配に気付いて慌てて振り返る。
真っ蒼な酷い形相で、あたしを見つめる光の目に竦んでしまう。
「…………おまえ…………おまえ、……まさか……『つわり』、なんてこと…」
「~~ち、違うッ!!!」

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!

張り裂けそうな胸の痛みが悲鳴のように溢れた。
「違う違う――――ッッ!!!!! 絶対に、違う…ッ!!!!!」
勝手に、涙が堰が切れたように溢れる。
しばらく立ち尽くしたままあたしを凝視していた光が、ゆっくり俯いた。
目を背ける。
「…………そう…か…。…………ごめん、頭冷やしてくる」
光の横顔が酷く傷ついていて――――あたしはまた、喉に蓋をされたように何も言えなくなる。
背を向けられた。
去ってゆく。

…………ひかる…………

違う、って。そうじゃない、って。
今は。……今なら、それはまだ、真実の、言葉――……。
でも。
泣いて縋りたくなる自分の弱さを、必死に殺す。
……そんな都合のいいこと……出来ない。
だって。
――――いつ、『過ち』が起きて――――光の言葉が現実になるかもわからない。
どうして――――どうして、こんなことになっちゃったの?
だけど。
光には、言えない。
ううん、誰にも――――死ぬまで。

――――これは、あたしだけが、墓場まで持って行く案件だから。

例え、刺し違えても、あたしだけで処理すべき問題だ。
過激な言葉が頭に浮かんだが、その言葉は妙にストンと胸に落ちた。
そう、刺し違えても――――
絶対公表出来ないように、この身を捨てても鮎川の弱味を握るべきかもしれない。
…………ううん……むしろ、弱味を作る、という手だって…………
鮎川が人妻と知ってこの身体を求めるのなら、いっそ差し出して――――…。

この身を盾にしても、鮎川の口を封じられれば。

考えた瞬間に視界が薄暗くなり、世界がぐにゃりと歪んだ気がした。
ふらりと傾いだ身体を、手を付き、必死に支えた。
ガクガクと自分の身体じゃないくらい震えていた。
胃からまた気持ち悪さがせり上がってくるのを必死に堪える。
頬から滑り落ちた涙が床を次々と濡らしてゆく。
明るい日差しが差し込んでいるというのに、真っ暗な闇に包まれたように視界が閉じる。
呼吸すらままならない苦しさと、凍えるような恐怖に、ただ震えることしか出来なかった。



……To be continued.






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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

★私立探偵に依頼した模様…(苦笑)

ママ様

コメント見て、「そーか、そーいう方向もあったのか!」と酷く感心させられた私です(笑)

> あの写真は誰が撮ったもの?もしかして柴崎と手塚を揉めさせて別れさせようと手塚宛てに何処からか送られて来たものなのかな。
そーかー! そういう方面もあった! そういう方面での話になると更にややこしくてサスペンスチック! と思いました。
残念ながら、そこまで考えてなかったので違います((((((^^;)
そう言えば、今回はなんで写真を手塚が持ってるのかの説明ゼロでしたね★ すみません~~~~m(__)m
手塚はね、手塚なりに調べてたので……麻子が行動を起こすのは自分の出張の日が多いということもわかっていたので、私立探偵に依頼してマス。こんなオチですみません!
多分、次にはそのあたりの説明も出て来るかと思いますけど……。vol.1ではまだ手塚は私立探偵の報告は受けてなかったです。
で、麻子サンが寝てしまって、その翌朝に探偵から連絡が来て報告を受けた次第です。
報告を受けたせいで、手塚の方は「……麻子と話をしなければ」という決意がふつふつと湧いたんですよね。しかも一筋縄の話合いじゃない……ということもあっての、まさかの麻子の職場(といっても図書基地だけど)へ本日の欠勤連絡でもあったんです。
そのあたりの説明がまったくなくて、本当にすみません!!
でも、この説明は入れるトコロがなくて。。。いや、最初になら入れれたかもしれないんですけど、本当につまらないシーンになっちゃうので、削っちゃいました★
ごめんなさいねー。

> 手塚には弱味を見せないのではなく弱音が吐けない柴崎←コレ柴崎の悪い所だと思う
私もそう思いますね。
まぁ元々は、手塚が倒れたのを見てから、ますます「負担を掛けたくない」意識が倍増してしまったんでしょうけれど。
でも、本当に抱え込むのは柴崎の悪いトコロだと私も思います!
そこは手塚にちゃんとダメって怒られて欲しいな。

> 壮年期って事は稲嶺顧問は既に図書隊にはおられないだろうから止める人が居ないんでしょうね。
ああ、鋭いです、そうです~~~~。
申し訳ないのですが、後でチラッとくらいは出てくると思いますが、稲嶺さんは既に亡くなっておられる想定です。
無くなって数年……というくらいのつもりですが、稲嶺さんが居たら、柴崎も多分違ってたと思います。
今回は話の流れ上、稲嶺さんは申し訳ないのですが、そういうことになっておりますです。。。すみません。

次回は手塚の葛藤から、もう少し話を見せるつもりなので、今回は一番よくわからない展開になっててすみません!
私の中では話は繋がっててわかった上での今の状況、という感じで書いてるんですけど、1話ずつ読んで下さっている方にとっては本当にわかりにくいですよね……とほほ。
そのあたりは、私の書き方が悪いんで、本当にすみません。
また次を読んで貰えれば、大体の麻子サンの抱えてる内容が見えてくる予定です!


ツンデレラ |  2018年10月07日(日) 08:15 | URL 【コメント編集】

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 |  2018年10月05日(金) 09:23 |  【コメント編集】

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