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2018.09.28 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ミッドライフ・クライシス』~vol.1~

長らくのblog放置ですみません。
あまりに忙しくて、blogを見に来ることもなかなか出来ていない体たらくでした……。
明日は小学校の体育祭があるんですけど、関西雨ですよねェ。
そして明後日は台風ですよねェ。
また倒木に巻き込まれてどっかの電柱倒れたら停電かな、と思うと非常に怖い(苦笑)。
いやいや台風の怖さは停電ではないんですけども((((((^^;)
どうか皆様もお気をつけ下さいね! 台風は地震と違って備えることが出来ますから出来ることを出来るうちに!

というわけで、長らく書くことも全然してなかったのですが、今週丸1日仕事も学校行事もない日があったので、ようやく少し書けました。
書けた途端にアップップー★なので、誤字脱字文章の変なトコロなど…………ううう、すみません。
前回までのなんかほのぼの幸せな感じの話から一転、今回は暗いお話です。
一応、リクエストお応え。


2017年3月9日サンキュー祭りリクエストより
★sauly様★
********************
手柴夫婦で。
「ソプラノズ」というドラマに最近はまっておりまして。マフィアの父親がパニック症候群になりぶっ倒れて、セラピーに行くお話です笑
このお話では血みどろの争いもありますが、家族関係を描いたお話でもあります。マフィア物であり、家族ものでもあるのです。今回描いて欲しいのは家族ものです。
2人が中高年に差し掛かり、倦怠感が起きさらに手塚もストレスでパニック症候群になり、トラブルというお話を描いて欲しいです。
シーズン6 78話くらいまであるのでさすがにシーズン1の1話だけでも見ていただければ(^_^;)雰囲気だけ掴んでいただければ構いません。ではよろしくお願いします!
********************

とのことでしたが、すみません、実は1話だけも見てないです、ハイすみません。
正直この先も見れる気はしないです。
なので、明らかに、Sauly様が求めるお話とは(ソプラノズとは)全然違うお話ですが、このリクエストについて考えるたびになんとなく出来てきたお話でお応えに替えさせて下さい! 本当にすみません! 謝罪の気持ちだけは本物です! ごめんなさい!
一応、
○手柴中高年
○倦怠感
○トラブル
はキーワードとなり出来たお話です。
申し訳ないですが、手塚はマフィアではなく(当然血みどろの争いはなく)、パニック症候群を起こすこともなく、セラピーに通うこともありません。また、ソプラノズを結局1話も見ていないのでソプラノズのソの字もないです。ごめんなさい。
またSauly様以外の読者の皆様には「えー、また暗い話なの」とうんざりされること間違いなし!と百も承知で書いております。
一応、中編くらいの長さの話です(前編、中編、後編ではおわらなさそうだったので 『vol.』 としていますが長くないです)
そしてもちろん、最後はハピエンです。ええ、揺るぎません(笑)
なので、ハピエンを信じて付いて来て下さる方のみ、追記よりどうぞ。
ただし、最後の方まで2人の仲は良くなくて、ギスギスした面白味のないお話になることは、先に言わせて貰っておきますね。

設定は手柴46、47歳あたり。
この話では一応3人の子供が居ることになっていますが、子供が出てくることはないと思います。子供年齢は中学生~高校生を想定。

本当に最後の方まで楽しくないお話になるので、それでもいいよ、という方だけお願いしますm(__)m
ご自分の責任でお読み下さいませです。



※※※「ミッドライフ・クライシス」※※※
仕事も私生活も順調だと思っていた自分の人生。しかし「本当にこのままでよいのだろうか」「悔いのない人生をおくれるのだろうか」とふと悩みが生じるのが30・40代以降。
カナダの精神分析学者エリオット・ジャックはこの心理的葛藤を「ミッドライフ・クライシス」と名付けました。欧米ではすでにこの言葉が一般的になり、すでに社会問題として認知されています。
「ミッドライフクライシス」とは、 人生の中頃に、自分の人生を問い直さずにいられなくなる深刻な心の危機。中年の危機のことです。
…………ただしこのお話がそういう話というわけではない…かもしれない、いや、ないです(苦笑)








【More・・・】

≪ ミッドライフ・クライシス~vol.1~ ≫背中の靴跡シリーズ


もう若くはないもんね。
そう思えたのは、光が過労で倒れて緊急搬送された時。
数日の入院療養を勧められたのにそれを断り翌日には退院。退院したその日には蒼い顔をしながらも予定されていた地方出張の途に就いた。
40代も半ばも過ぎれば、仕事で重要なポストに付きバリバリと仕事を熟す一方で、昔のように身体は無理が利かなくなってくる。
捌ききれない仕事の山を前に残業続きで食事時間もロクに取れず、睡眠不足も重なってゆく。休日が休日ではなくなり、不規則な生活に身体は休みを欲しているというのに、そんな身体に鞭打って頑張る毎日の積み重ね。
特殊部隊に所属していた頃は身体が資本で、体調管理や食事にも気を付けて生活していた光だったけれど、図書館協会の会長職に就いてからは、自分の体調を省みる暇もなく働いていた。
当麻蔵人の亡命事件から20年が経った現在になってようやく、メディア良化法の大改正が遂に国会で承認され、良化委員会の実質上の解体に伴い良化隊及び図書隊の完全武装解除となった。
前手塚会長より図書館協会の会長の座を譲られた光は、日本図書館協会として内閣総理大臣より正式に公益団体として認められた代償に全国の図書館の再編成業務に追われることとなり、週の半分以上は全国各地を飛び回る日々。家に数泊することの方が稀になっているような状態だった。
久しぶりに帰宅した光が、ようやく再編の目途が見え始めたかな、と疲れた顔に少し安堵の色を浮かべながら微笑んでくれてから数時間後、急に頭痛がすると言った途端酷い眩暈に襲われて床に倒れ、そのまま意識もなくなった時は本当に心臓が止まるかと思った。救急車の中、意識のない手塚の手を握る柴崎の手は傍目にもわかる程に震えていて、救急隊員が柴崎の体調をも不安視する程の顔色の悪さだったという。

実際、柴崎自身も、仕事に家事に追われる日々だった。
図書隊の業務においては、武装解除決定の目途が付いた頃に、玄田から関東図書基地情報部長を任された。
「史上初の女司令を狙っているらしいが、悪いが今回はサブ役であいつらを支えてやってくれ」
そう言って肩を叩かれた。
「喧嘩は終わった! 俺の出る幕はない。――――こっから先はお前らの時代だ!」と玄田が退き、緒形、進藤を筆頭に、堂上、小牧が2人を支え、新体制を引くこととなったのである。
武装解除となった図書隊の新体制作りに情報は欠かせなかった。分野も多岐を極め――――文科省をメインに地方での図書館の地位の確立や財源の確保をこれまで以上に強固なものとし、その一方で防衛省との間で装備器具類譲受移行等の会議が何度も繰り返し行われ、良化隊の武装解除の動向にも目が離せない。図書館関係だけでも柴崎の身体も頭も幾つあっても足りない状態なのに、更に柴崎の手腕を認めた前図書館協会会長である義父からも柴崎の手腕を要する図書館協会の方の仕事にも一部相談を受け、陰ながらの兼任業務に多忙を極めた。
仕事量も半端無い上に、全国を飛び回る夫に協力を得られない家庭もまた、柴崎の肩に圧し掛かる。
子供も大きくなったとはいえ、中学、高校生であり、まだまだ毎日の生活に親を必要とする。
家事と育児と仕事と――――正直、家庭を省みる暇もない手塚への不満がなかったとは言えない。
そんな自分が心の内に居たことを知るだけに、目の前で手塚が真っ青な顔で倒れた時には、柴崎も血の気が引いて倒れそうになった。自分の恨みや歪みが手塚に不幸を呼んだのではないか――――そんなネガティブな思考にすら捕らわれる。
2、3日でいいから入院して休んで欲しい――――柴崎の必死の願いも虚しく、手塚は弱々しく笑うと「……今止まったら、もう動けなくなりそうだ。……もう少し、もう少しだから……ごめんな。心配かけて、迷惑掛けて、負担かけて、ごめん」と柴崎の髪を撫でる手塚にそれ以上何も言えなくなった。生真面目で勤勉で仕事熱心で、でも柴崎のことを大事に想って大切にしてくれているのは何も変わっていない。
「……少しだけ、傍に居てくれないか?」と珍しく久しぶりに甘えてくれた夫が愛おしくて、退院までずっと傍に付いて、眠る夫の大きな手をずっと握り締めていた。目覚めた光は、「久しぶりによく眠れた。……ありがとな」と優しくそう言ってくれたけど、まだ力の籠らないようなその声に必死に泣きたくなるのを堪えた。
体調は不完全なまま、病院からタクシーで出張に出る夫を見送って、柴崎は誓ったのだ。

――――光に、これ以上の負担はかけられない。

…………その想いが、2人を擦れ違わせることになるなんて思いもしなかった。


     *


そっと玄関を開ける。温かい筈の我が家には、人の気配がなかった。
溜息が零れる――――やはり本当だったのか、と自嘲か諦めか、なにかわからない感情を乗せて。
今日は、麻子には出張だと伝えてあった。
少し前に、実家の母から聞いてしまったことを確認する為に。
『光が出張の時は頼ってくれるのよ』と嬉しそうに話してくれた言葉。
俺が出張の時に、麻子も泊まりの仕事がある時は、子供達は学校からそのまま実家の方で泊まり、翌日は実家から登校するのだと言う。
…………泊まりがけの仕事?
聞いている俺は足元から冷気が迫ってくる気がした。
そんな仕事を抱えているなんて麻子の口から聞いたこともないし、俺が居る時に麻子がそんな仕事に出たこともない。
――――泊まりがけの仕事ってなんだ?
出張なのかと思おうとしたが、「――柴崎が出張? ないない、柴崎は司令塔だから動かせないよ。情報の解析もあるし、柴崎がいないと情報部員も相談出来る人が居なくて困るからね。子供も居るんだしその辺は緒形司令も進藤隊長もちゃんと配慮してくれてるから」と笠原は言っていた――――ますます困惑が増すばかりだ。
……1年程前までは、俺の方の仕事が忙しくて、ほとんど家に帰ることが出来ない日々が続いた。倒れて病院に運ばれたこともあり、麻子には多大な迷惑と負担をかけたという自負もある。
ようやくそれも目途が付き、今では落ち着いた日常生活が戻って来た。出張も多くて月に1、2回程――――ほぼ毎日自宅にちゃんと帰宅出来るようにもなったのだ。
母が言うには、数か月前から――――らしい。俺の出張の時に限ってどうしても断れない『泊まりの仕事』が入るんだそうだ。
管理職になると大変なのね、麻子さんは仕事も家事も育児も本当によくやってると母は麻子をベタ褒めで、光も大変だろうけれどようやく落ち着いたのだから、今度は光が麻子さんを助けて上げなさいよ、と言われる程だ。
――――麻子から、何も聞いていない。
…………考えて、ふいに気付いた。
いつの頃からか、麻子からまったく仕事の話がなくなっている気がする。
麻子が俺に話すのは、子供達の話や、他愛もないことばかり。
今麻子が抱えている仕事の話や相談を全く聞かなくなった。
任に付いた当初は、全国各地の図書基地における武装の状況把握や、武装解除に向けての廃棄手段やら譲受先の確保等、俺以上に忙しいんじゃないかという仕事を抱え、よく話も聞いていた。地方出張によく出ていた俺に、地方の図書館の実際の状況などもよく聞きたがった。その一方で、図書隊のみの一方的な武装解除にならないよう良化隊の方にも監視体制を敷いて貰う為の第三者委員会の設置等、慧や伯父等の政府関係者にも協力して貰って麻子らしく抜かりのない情報網を広げていること等、俺自身図書隊に所属していないのに図書隊の内情を誰よりも詳細に知っていた程だ。
もちろん、麻子の仕事柄、俺にも言えないことがあるのは百も承知だ。
だが、それを差し置いても、麻子は本当に何も俺に仕事の話をしてくれなくなっていることに、今になってようやく気付いたのだった。
気付いてみれば、少しずつ不安が広がってゆく。
昔は、互いに忙しすぎてストレスが溜まっている時には小競り合いのような喧嘩もあったりもした。それは誰よりも傍に居るからこその互いに対する期待と甘えの裏返しだ。だがそんなことは全くなくなった。俺を見る麻子の顔はいつも労いに溢れていて――――疲れた顔や麻子の素の顔を見ることがほとんどなくなっていた。
…………そうだ、夫婦の時間もない…………。
最後に麻子を抱いたのはいつだったろう――――そう考えないといけない程、麻子を抱いてない事実。
麻子に魅力がなくなったわけでは全くない。むしろ、四十も半ばを過ぎて尚、三十台に見える程若々しく美しい容姿。3人も子供を産んだとは思えない抜群のプロポーションも健在で、正直、仕事が落ち着いた最近では自宅でくつろいでいる時に麻子が傍に居るとムラムラと欲情を抑えるのに必死だ。
子供が大きくなってしまった今となっては、自宅でセックスをする時間がない。子供達が夜更けまで起きているから、いくら夫婦の寝室だとはいえそんな行為は出来るもんじゃない。
俺自身、1年前までは忙しすぎて家に居る時間すらほとんどなかったせいで、夫婦の時間が持てないことに慣れてしまったことも原因の一つかも知れない。
麻子とゆっくりと過ごす時間をまるで取れていない現実。
今の麻子が、何を悩み、抱えているのか、俺は何一つわからない。

…………そんな時、追い打ちをかけるように伯父から1つの忠告をされた。

「……麻子さんに……鮎川君には近づかない方がいいと伝えておいてくれ」
ドクン…ッ、と不自然に鼓動が跳ねた。
……なんだ? ……酷く、嫌な、予感。
伯父も酷く気まずそうにそれだけ言って、それ以上追及されたくないと言うように、そそくさと俺の傍から離れていった。
『鮎川』
誰だ?
ドクン、ドクン、と嫌な拍動は続きっぱなしだ。
不安。
酷く、嫌な、予感。
――――調べた。『鮎川』という人物について。
鮎川は伯父の側近で――――伯父の信頼も厚い筈のポジションの人間だ。仕事の非常によく出来る若手であり将来有望な人材。伯父もかなり彼に重要な仕事を任せ、伯父が引けば次は鮎川が文部科学大臣になるだろうとの声も大きい。
それなのになぜ、伯父はあんなことを…?
日立や日産の創設者家系とも関連があり、本家ではないもののそれなりの財力を保持する由緒ある血筋の生まれ。
年は手塚よりもずっと若く、まだ三十代後半だ。端正な顔立ちで女性に人気ながら、妻や特定の彼女の情報はなかった。
…………そんな鮎川に麻子は近づいたのだろうか。
仕事か? ――――確かに文科省の伯父を通じて政界を動かすような仕事もあった。
伯父も自分ではなく鮎川をその交渉人として使っていたのなら、麻子との接点もあるだろう。
そうだ、仕事だ…。
そう言い聞かせようとしても、嫌な予感が頭から離れない。
そこで手塚は堂上と密かに連絡を取り、麻子と文科省の仕事の話を聞いてみたが『鮎川』と言う人物は知らないし耳にしたこともないと言う(堂上は現在、武装解除に伴う武器弾薬の廃棄や譲受に関わる仕事の責任者であり、それに関する政府関係者との交渉事には麻子と共に同席することも多いのだ)。
それでも、なくならない予感。
そんな折に入る、自分の長期出張(と言っても2泊3日だが)。
――――いたたまれずに、手塚は私立探偵に麻子の動向調査を依頼した。
何もなければよい。
何もなければ。
だが東京に戻った手塚を待っていたのは、『泊まりがけの仕事』と称して実家に子供達を頼み、麻子は鮎川という人物とホテルに入って行ったという報告だった。――――ご丁寧に証拠写真まで添えて。
若く精悍ながらも知的でスマートな容姿の鮎川が、麻子の腰を抱いて引き寄せて歩いている写真。
その場で破り捨てたくなった。
報告をしてくれた私立探偵が怯えてそれ以上の言葉を失う程の形相だったらしい。
報告では夜の10時頃にホテルに入り、深夜2時頃に麻子だけがホテルを出て自宅に帰ったとのことだった。完全会員制のホテルで私立探偵は入ることが出来ず――――中での様子は不明とのことで、睨み付けた俺に、震え上がりながら料金は30%オフにします、と探偵は縮み上がった。
――――このことばかりが頭を占めてしまう。
麻子が美しい微笑みを向けてくるのも、後ろめたさの裏返しじゃないだろうか、と昏い思考にしか繋がらない。
麻子に久しぶりに抱きたいと囁いてみたが、困ったような顔をして「……今、生理中なの……」と言われてしまった。――――本当なのだろうか、なんて疑いそうになる自分が酷く醜く――――だが「じゃあ、来週か再来週……都合付くか?」と尋ねたら、俯いて「……仕事が……予定が、まだわからないのよね」とはぐらかされた。
そう言った麻子の目が、俺と合わなかったことが酷く気になって仕方がない。
嫌な思考ばかり、頭を渦巻く。
――――疑いたくない。
――――麻子を疑ってるわけじゃない。
そう言い聞かせる自分の言葉が嘘くさいと思ってしまった。
俺を頼らない。
俺に甘えない。
綺麗な微笑みと優しげな態度。
素の麻子が居ない。
そんな理想の妻のような麻子の様子に、逆に昏く冷たい感情が湧く。
――――後ろめたいから、……か?

麻子にとっての『特別な存在』は、もう、俺じゃない。

その思考に絡み取られてゆく。
表面だけの会話。
本音のない時間。
苛立つような、燻るような、嫌な、気持ち。
――――だけど、子供の目もあり――――子供の居る前では、と踏み込むことに躊躇してしまう。

だめだ。

だめだ、これは。

2人だけで話し合わなければ。

……だから、嘘の出張を告げた。
何もなければそれでいい。
俺の帰宅に驚くだろう麻子に、2人だけの時間をどうしても作りたいと話そう。
『泊まりがけの仕事』の話を。
『鮎川』という男についてを。
危ないことをしているのなら、ボディガードに使ってくれればいい。……昔、朝比奈を切った時のように。
そんな話だけじゃなくて、もっと日常生活についても話し合いたい。
俺の方は今、仕事が落ち着いているのだから、もっと家事の分担を増やしてくれと言ってみよう。
今は大したことは出来なくても、麻子の力になれるなら、努力もするし頑張ってみるから。
そんな風に、包み隠さずに話せる時間と場所を。
――――そして出来るなら。

身も心も繋がりたい。

そして、こんな時間を時々は作ることを約束をしよう。

…………そう思っていたのに。

誰も居ない我が家に佇む。
何もする気が起きなかった。
眠気も来ない。
ただただ、まんじりともせず、夜が明けるのを待っていた。

――――と。

家の前で車の止まる音がした。
起き上がって窓から覗くと、タクシーで。暗くてよくは見えなかったが、しばらくして下りて来たのは麻子だろう。小さな人影がこっちに向かって歩いてくるが、その足取りは酷く重そうで覚束なかった。
鍵を開けて入ってきた麻子は、玄関に立つ俺を見て目を見開いた。
「おかえり。遅かったな――――子供達は実家か?」
「…………え、ええ……そう……」
言いながら、珍しく麻子の目が逸らされる。
完璧に施された化粧。特別な場に着ていくワンピース。……相当に気合いの入ったお洒落な姿だった。
なのに、赤くなった頬やふらつく身体は、泥酔に近いくらいに麻子が酔っていることを示し、危うい隙が見え隠れしている。
「随分飲んで来たんだな――――仕事か?」
「……え…、ええ、そう……そうなの。……今、ちょっと……ややこしい、案件があって…………その、裏を取ろうとしてるから」
言いながらも、ふらつく身体は真っ直ぐに立つことも出来ないようで、壁に凭れる有様だ。なんとかヒールを脱いで上がる麻子の身体を支える。

――――男の香水の匂い――――

鼻腔を擽った麻子の匂いに混じる、麻子のものではない匂い。
「…………ターゲットは、男なのか?」
静かにそう聞いた俺の言葉に、ビクリと麻子の身体に動揺が走った。
「~~~~っ、~~え、ええ、そう……そう、なの」
「…………どんなヤツなんだ?」
「~~~~ッ、…………そ、それ、は、今、は、…………ごめん」
「今は言えない相手か――――目途は?」
「~~~~~~~~~~ま、まだ、……その……」
匂う。
色濃く、匂う。
気にすれば、その匂いは麻子の洋服に染み込んでいるような気すらする。
――――まさか、抱き付かれた?
想像するだけで腸が煮えくり返る思いがする。

嫌だ。

グッと麻子を引き寄せて、抱き締めた。
麻子の香りに混じるのは、俺の匂いがいい。
麻子の全部に俺の匂いが染みつけばいい。
包み込む。
頭も、身体も何もかも覆い被さるように。
強く抱き締めて――――気付く。
酷く痩せている身体。
ジャストサイズだった筈のこのワンピースに、服の中で身体が、腰が少し泳いでいる。
始めて気付いた事実に愕然とした。
元々細すぎるくらいの身体――――それが更に痩せてしまう程、無理をしているのだろうか――――
と思ったところで、急に麻子の身体から力が抜けた。
慌てて麻子の身体を立て直し、覗き込む。
呼吸は少しいつもより早くて浅い気はするが、とりわけ異常というわけではない。
でも意識はなかった。
アルコール中毒も一瞬考えたが、そんな感じじゃない。
…………眠ってしまったのだろうか。
覗き込んだ顔を見て、気付く。
丁寧に化粧で隠されているが、麻子の目の下にある濃い隈の影。
蓄積された疲労と寝不足の証だ。
その身体にアルコールを入れた。男の香水に気を取られていたが、アルコール臭もかなりしている。
酒に強いとはいえ、この状態では睡魔に勝てないだろう。
現に、帰ってすぐのこんな状態で寝てしまうなんて、いつもの麻子なら自分が許せない筈だ。
軽々と抱き上げて(抱き上げたことで麻子の痩せっぷりを思い知る)寝室に運んだ。
お気に入りのワンピースに皺がついてしまっては麻子がガッカリするだろうと思って部屋着に着替えさせた。
体勢を替え、身体を動かし――――なのに麻子は全く起きる気配がなかった。
それ程、疲れ果てているということか。――――と思って、ふと頭を過った酷く邪な思考に捕らわれる。

もしかして、疲れ果てるような何かを、男と、したのではないか、……と。

頭を振って必死に思考を振り払おうとする。
そんなことはない。
麻子の身体にキスマークらしいものなど、まったくなかった。
男が触れたような形跡も、なにもない。
下着までは取り換えてはないが、特に下着に汚れた気配もなにもなかった。

大丈夫。
大丈夫だ。

何度も何度も言い聞かせる。
――――ターゲットが男なだけだ。
酔いに任せて、麻子は情報を手に入れるつもりだったに違いない。酒に強い麻子が良く使う手だ。酒を入れながら切り札をチラつかせながら相手からの貴重な情報を手に入れる。
――――これまでもあったことだろう?

わかってる。
わかってる、わかってる、わかってる。
どうしてもその情報が必要だと感じた時――――麻子がそういう手段に出ることがあることは。
アルコール。美しい女。浮世離れした場に、男の理性が緩む。
心のたずなが緩んだ瞬間、男というものはつい口を滑らせ、情報を漏らしてくれる。
そうして麻子は、これまで何度も必要な情報を掴んで来てくれた。

でも。
…………それでも。

それも、ハニートラップの一種だろう。

怒りたい。
殴ってでもそんな行動は止めさせたい。
それが俺の本音だ。
だけど、そうと言えない程、麻子の情報は時に図書隊にとっての宝で――――危険とわかりながら飛び込む麻子の気持ちもわかるだけに、止めることが出来なかった。

でも。

泥のように眠り込む麻子を見つめる。
俺と違い、眠りが浅く物音に敏感な麻子が、ここまで無反応に眠り込んでいる。
…………化粧も落とさず、服すら着替えることも出来ずに寝てしまうなんて、本当に麻子らしくない。
疲労感漂う寝顔に、痛ましさが募る。
それと同じくらい、俺の中に不安が生まれる。

麻子。
なにを抱えてる?

歯切れの悪い口調。
俺を見ない瞳。

なにを隠してる?

問いかけても問いかけても、答えはない。
滾々と眠る柴崎を見つめる手塚は、明けることのない夜の闇に溺れそうな気がした。



……To be continued.







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14:24  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

★うわおー!!! 感動ですッ!!!

Sauly様

Sauly様----ッ!!!
ありがとうございますっ!!!
嬉しいですッ!!!
リクエスト貰って随分経つのもありますが、ソプラノズをあんなに丁寧に教えてもらったのに全然見ない私に愛想尽かされたかもしれないなぁ…と思っていたので、Sauly様に見ていただけて、本当に嬉しいです!!!
いや、結局はソプラノズは見ておらず、結局愛想尽かされてもまったく言い訳も出来ないのですが、手柴中年期の倦怠期、はずっと私の中にありました。
ずーっと気になっておりました。
とっても言い訳に聞こえるかもしれませんが、ネタが降ってこなかったので何も触れなかったですが、気になるリクエストでした。
なので、こうしてSauly様に見ていただけただけで、本当に嬉しいです!!!
とてつもなく生ぬるく、全然ご想像と違うものになっていくと思いますが、そこはツンデレラの書く手柴と言うことで、本当に寛容な目でご容赦していただくしかありません。
すみません。
というわけで、頑張って書いていきますね♪

こうして見ていただけたことをコメントでお知らせして貰って、本当に本当にありがとうございました!!!


ツンデレラ |  2018年10月01日(月) 22:45 | URL 【コメント編集】

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 |  2018年10月01日(月) 11:34 |  【コメント編集】

★その時になったら、手塚も…?

ママ様

ありがとうございます、手塚を信頼して下さってますね(笑)
うんうん、ちゃんと怒ってあげられるようになっているといいですね!
夫婦として自分主体で正面からちゃんと。
まぁ、話の流れや会話の流れもあるので、どうなるかはわからないですが、その時になったらその時の手塚、その時の柴崎を想像しながら書いてみますね。

そうですねー、柴崎は意外に、郁ちゃんに対してはそんなに愚痴めいたものは言わないと思うんですよね。
それはまぁ、郁ちゃんがいつも全力で頑張ってて、そんな人に対して愚痴を言うっていう気になれないのが柴崎かな、とも思うし、むしろ頑張ってる郁ちゃんを見て(無意識に)自分も頑張らなきゃって逆に思っちゃうようなトコロもあるかなぁ、とか。
だから、図書館危機以降は、郁ちゃんよりも手塚の方が柴崎の気持ちがわかってる気がする、と郁ちゃんがちょっと拗ねるような気持ちを手塚にいだいたりもしましたが(っていうほど大袈裟な気持ちでもなかったですが)、ある意味、郁ちゃんに対しては柴崎なりの見栄みたいなものもあったのかなー、と思ったりもします。逆に、手塚はそういう気持ちを柴崎にさせないくらい、包んじゃってたってことなのかなー…とも。
まぁ、柴崎が一番わかりにくくて、実際は違うのかもしれないんですけどね。

というわけで、続き、頑張りまーす。
結局運動会は雨で延期★
学区民体育祭も台風で延期★
というわけで、今週がとっても忙しくなりそうです(((((((--;)

ツンデレラ |  2018年10月01日(月) 09:32 | URL 【コメント編集】

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 |  2018年09月29日(土) 13:24 |  【コメント編集】

★おいおい……出していきますね!

ママ様

こんなお話にもコメントありがとうございます!
どんなお話も読んで下さり、本当に頭が上げられません!(苦笑)
新シリーズ、ではありますが、暗くて手柴が幸せでない話が続くシリーズでもあるので、チャチャッと終わらせる予定です(笑)。あんまりダラダラと長くなると、書きたくなくなっちゃいそうな話ですし(ヲイ!)
とはいえ、3話くらいでは終わりそうにないなって既に予想出来てるので、まぁ……しばらくのお付き合いになると思います。
でも、必ず最後はハピエンになります!(力説)
でも、最後の方まではずっと不幸です!(力説)(←ヲイ!)

> 図書館協会の仕事は手塚より兄ちゃんの方が向いてるとは思うんだけど兄ちゃんは国の仕事してるし手塚に白羽の矢が当たっちゃったんだね。
…………です(苦笑)
慧はもう政界にドップリなので、今更図書館協会会長にって感じじゃない★
まぁ政界を引退した後、図書館協会の顧問になってるような気はしますが。
手塚父としては、図書館協会会長としてこの大改革となるこれからの図書館協会を、やはり安心して任せられる信頼する人物に継がせたかったのかな、と想定して手塚に白羽の矢を当てさせて貰いました。
ええ、もちろん完全なる未来捏造ですけどね!
まぁ、基本真面目で何でも卒なく熟せる手塚なので、あながち向いていないこともないと思うし。
そして、ママ様も少しなにかしらの感じて下さっているようですが、正直このお話で、手塚と柴崎が同じ職場だと、聡い手塚が気付かないわけがない、ということも実は私の中であって…………別の職場の方が、このお話の場合は「擦れ違い」や「倦怠期感」がますます出るかな、という考えもありましたね。(苦笑)
麻子が自ら動かなければならない案件、ということで、いろいろとママ様も考えて下さっていると思いますが、それはおいおいに……。
今回は、擦れ違いからの不審が不信に変わっての夫婦の倦怠期もキーワードなので、苛々しますけれど、最後の方まで真実に気付かない、ということになりそうなんです。
相変わらず、ママ様の着眼点が鋭くて、いやもうネタバレしてる?と思っちゃいましたけど、まぁ麻子が必死なって自分が動いている理由も、麻子は麻子なりにあるので…………
ただ、長らく「不倫」を匂わせる描写になりそうですが、もちろん私の書く話に「手柴の不倫」は有り得ませんので、そこは安心して下さいねー(ネタバレ、すみません)
いや、続きを楽しみに待ってます、と言って下さる貴重なママ様なので、よければ続き、読んで欲しいし……(ぼそぼそ)

> 柴崎も郁ちゃんと一緒で相手に心配掛けさせたくなくて自分が我慢すれば良いって何処かで思ってるから、後から知った相方が悶々するんだよね。
そうなんですよね。
相方にとっては、頼って欲しかった、甘えて欲しかった、と心から思うんですよね、後から知って。
でも、当人達はその時は本人達なりに必死過ぎて、「自分が我慢すればいい」と思っちゃったことは頑張りすぎちゃうんですよね。
今回の話は、後から知る手塚に、最後は麻子は怒られるべきだと思ってます。
まぁ、手塚が怒れるかどうかは不明ですけどね(苦笑)

では、時間をなんとかひねり出して、続き書けるよう頑張ります!!

ツンデレラ |  2018年09月29日(土) 07:07 | URL 【コメント編集】

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 |  2018年09月29日(土) 00:23 |  【コメント編集】

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