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2018.08.27 (Mon)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『彼女と彼』~中編~

なんだかんだで、今日からようやく子供達は全員学校が始まりました!
良かった!!゚ヽ(゚`∇´゚)ノ゚
……とはいえ、8月に入ってから気付いたことなんですが、9月は小学校・中学校・高校の行事が凄くて、バレーの試合もあり、仕事か予定かの毎日となることが判明。。。。。
今週も今日を覗けば何かしら毎日予定が入ってるという体たらくで。。。。。
か、書けない……( ̄□ ̄;)!!ガーン
もう本当に、書ける時間無くてごめんなさい。
今日の午前はやっと時間があって、中編を書き上げることが出来ました!!
さっき出来立てホヤホヤで、誤字脱字、ちょっとオカシイ所なんかもあるかもしれませんが、ようやくお届け出来ます。
後日読み直して、オカシナトコロを発見したらその都度訂正していきますね。(ヲイ★(▼皿▼メ)ノ )
まぁとにかく、放置になってるブログになんとか記事を……ということでご容赦願います。
次でラストまで行くつもり----書く時間を誰か私に恵んで下さーいっ!!!((((ノTTTωTTT)






【More・・・】

≪ 彼女と彼~中編~ ≫背中の靴跡シリーズ


…………あれ、まだかな。
階段からロビーが見えた時から気付いていたことを、ロビーを見渡すことで確定となった。
どうやら手塚はまだ下りてきていないらしい。
いつもなら、階段に柴崎の姿を見つけると既にロビーに居る手塚が先に靴を履いて外に出て、あたしもそのまま外に出るのが恒例。
だけど今日はまだみたい。
たまには待つのも悪くないか。
ある意味新鮮だ。

――――そう、事件後は毎晩、寝る前に必ず手塚の顔を見てから床に就いてる。

そうすることで、あたしはあの部屋に1人でも眠れるようになった。
ううん、きっとそうしないとあたしは眠れない。
手塚にそうするよう約束させられた――――ううん、自分が心配だから、とそういう体裁を作ってくれただけで、ホントはあたしの心がそれを求めてる。
だけど、あたしの口からそう言わすことなく、暗黙の了解を作ってくれた。
ほんと、なんでわかるのかしら。
あたしのことをあたし以上によくわかって、あたしらしく居られるように助けてくれる。
手塚のくせに、と憎まれ口を叩いたあたしに、手塚はほわりと優しい笑顔を浮かべて受け止めてくれたのだ。

     *

事件の日は、もうほとんど明け方だったけれど、笠原が寮の部屋で一緒に寝てくれた。
次の日も。
その次の日もまた泊まると言った笠原を断ったのはあたしだ。
流石に堂上夫妻の夫婦の時間をこれ以上奪いたくはなかったし、先の見えない緊張から解放されて疲労感も溜まっている感じがあったからストン、と眠れると思っていた。
だから、もう心配ないし大丈夫だと、渋る笠原を宥め空かして堂上の元に帰宅させた。これ以上堂上教官を拗ねさせたら、あたし晩御飯に呼んで貰えなくなるじゃなーい、なんて冗談めかして背中を叩いたあたしを、笠原は心配そうに何度も振り返っていた。
大丈夫、眠気は強い。
実際、ストンと眠りには就いたんだけど。
夢見の悪さに飛び起きた。眠りに就いて、2時間も経っていなかった。
夢だ夢、同じ夢はもう見ないわよ、と言い聞かせても一向に眠れなかった。
じゃあせめて横になっているだけでも少しは身体が休まるから、と布団に包まっていたけれど、だんだんとドキドキと心臓が煩くなって、恐怖心が湧き上がってくるのがわかった。
振り払ったつもりの記憶が甦る。もう救われたんだ、と言い聞かせても、追い詰められるような恐怖感が襲いかかって消えてくれない。
大丈夫、もう大丈夫だと必死に念じるようにそれだけを繰り返し、体勢を変えたり、向きを変えたりしてみたけれど、目を瞑っても壁を向いても怖くて、電気を点けても怖くて、怖くて部屋に居られなくなった。
廊下の窓から見える外の景色も、廊下も、何もかも怖い。
どこに行けばいいのかわからなくなって(今思えばプチパニックになっていたんだと思う)、とにかく落ち着かなければと言い聞かせながらふらふらとロビーに下りて――――自販機の方のソファに人影を見た時は、あまりの怖さに心臓が止まるんじゃないかと思った。
だけど、逃げることも出来なくて。
竦んだ足がガクガクと震え出して、腰も抜けたのか勝手にヨロケてそのまま無様に床に倒れ込むようにしゃがみ込む体たらくだった。
小さな音だったと思うけれどその音で人影が身じろいで「…………柴崎?」と少し眠そうな囁く声がした時には、混乱で頭が真っ白になった。
怖かった――――怖かった、怖かった、怖かった。――――だけど、それも終わった。あたしは救われた。
その声を聞いて泣きそうになった。
今、何よりも聞きたかった声。
大きな上背が立ち上がって急いで駆け寄ってくれた。
「大丈夫か? …………柴崎? ほら、ゆっくり深呼吸して……」
手塚だった。
震えているあたしをしっかりと抱き抱えると、近くのソファに2人で抱き合ったまま座った。
優しく、大切なものを慈しむように背中を大きな手が撫でる。
手塚の胸に顔を埋めながら、手塚の声に従ってゆっくりと深呼吸することに意識を集中する。
手塚の匂い。
手塚の温もり。
それに満たされるだけで、少しずつ、落ち着きを取り戻せた。
「……手、塚……、なんで……?」
なんでこんなところに居るんだろう。消灯時間はとっくに過ぎて寝てる筈だ。
手塚の胸から頭を上げられずに囁くように聞いたあたしに「笠原が心配してた」と答えたから瞬いた。
「……笠原がな、笠原が泊まってくれていた二日間も、両日ともお前が夜中に何度か目を覚ましてるみたいだったって言ってな。眠りに就けたとしても夜中が心配なんだって俺に教えてくれた」
「…………」
「俺もお前を1人にするのはまだ心配だったから…………ひょっとしたら眠れなくなったら気分転換を兼ねてロビーに下りてくるかもしれないと思って、消灯してからこっそり降りてきてここで寝てたんだ。――――良かった、顔見れてホッとした」
言いながらも、宥めるような優しい手の動きは止まらない。
ふわふわと優しい夢みたいだ。
ホッと安堵した気持ちが、ポロリと零れ落ちるように漏れた。
「…………ちゃんと……寝たのよ」
「うん」
「……………………夢見が、悪かった、の……」
「そうか、――――もう大丈夫だ」
手塚がそう言ってくれた言葉が、素直にストンと胸に落ちた。
手塚の香りと温もりに包まれていると、もう大丈夫なのだと、あたしはもう安心なんだと、急に実感が湧く。
自分で言い聞かせてもあんなに消えてくれなかった恐怖が嘘みたいに消えて行く。
手塚が、居る。
守ってくれた。
あたしは守られてる。
ホッと安堵するや否や、睡魔が襲ってきた。――――意識する間もなく、すーっと眠りに落ちてしまった。


「…………やっぱり、部屋を変えてあげた方がいいかしらねぇ」
「……起きたら聞いてみます」
答える声が、あたしの中に響くように聞こえた。
「……本当に柴崎さんには悪いことしちゃったから……同室なんか頼んじゃって、ほんと……謝って許されることじゃないけど、心から申し訳なかったと思ってるのよ……」
詫びるこの声は、寮母さんの声。
なんで、寮母さんが……と、あたしは身じろいで、なんとか重い瞼を抉じ開けた。
「…起きたか?」
身体を起こそうとして、いつもと違う感覚に――――……
「…………え…、……え? ~~なっ、なな、なにっ?!」
なんだ、これはっ?!
ギョッとすると同時に、顔が沸騰したように熱くなる。
なんでどうしてこんなことに?!
あたしったら、手塚を膝枕にして横向けでお腹に顔を寄せるようにして寝て…っ、とそれ以上は頭が働かない。
身じろいだせいで、あたしの身体に掛けられていたブランケットが床に落ちる。
「大丈夫よ、柴崎さん。まだ明け方5時――――誰も起きてきやしないわ」
「~~~~っ、~~お、オハヨ…ござい、マス…」
プチパニックになりそうだったあたしに、寮母さんがそう言って――――おかしなことに人間はキャパオーバーになると必死に平常心になろうとありきたりな言葉しか出ないものなのかもしれない。
~~~~え、えっと、~~この状況は一体……っ、
グルグルと働かない頭は状況整理さえ出来ない。
そんなあたしを見て、寮母さんが吹き出した。
「……柴崎さんのそんな顔、入隊してもう何年にもなるのに初めて見たわ! 可愛いわねー」
珍しいもの見れちゃった! と嬉しそうに笑うから、ますます顔が熱くなる。
「~~~~え、……えっと……、あの、これは、」
「夜中に調子が悪くなって、俺に連絡くれたんだ。――――そうだよな?」
手塚が優しい顔をしながらそんなことを言う。
寮母さんへの言い訳だと気付いて、口裏を合わせる。
「……あ…、うん。……ごめん、迷惑かけたわね」
「いや。もう大丈夫か?」
「うん、もう平気」
すみません、こんなところで寝ちゃって、と寮母さんに詫びると、寮母さんは少し困った顔になっておずおずと口を開いた。
「いいのよ。……それより……あの、部屋…………同期との相部屋とかの方がいい? なんなら今日中に割り振り考えて聞いてみるけど……」
「いえ、大丈夫です。――――誰かと一緒だと最初はやっぱりお互いにそれなりに気を遣うし、気も張っちゃうから――――今の部屋の方が気楽です」
「そう?」
「はい。本当に今の方がいいんで――――気を遣わせちゃってすみません」
「いいのよ、むしろ気を遣わせて?」
「本当に大丈夫なんで――――手塚にお礼言ったら、あたし、もう部屋に帰ります」
「そう? ……本当になにかあったら言ってね」
そう言うと、寮母さんは戻って行った。
気まずいながらも手塚の方を向く。
「あの…………ありがと……」
「いや別に」
「…………」
上手くお礼が出て来ない。醜態を見せたことが恥ずかしい気持ちもあるし、なんとかいつもの饒舌に持っていきたいのに。
――――大丈夫だと思ってたのに。
どうしたものかと、あたしとしたことが上手く思考がまとまらない。
「本当に大丈夫か、あの部屋で」
しばしの沈黙を破ったのは手塚で、事務的な話でホッとした。
「それは、ホントに大丈夫。――――多分、部屋がどうこうじゃないと思う」
「そうか」
「気を遣わなくて済むし、好きに出来るし、気楽」
「うん」
ポンポン、と言葉が出たところで、本音が零れた。
「……大丈夫だと思ってたんだけどなぁ」
呟いたと同時に、目の奥が熱くなった。
情けないやら悔しいやら――――上手く処理できない感情が湧き上がる。
ふいに優しく抱き寄せられた。
「――――よく頑張ってるよ、お前」
「そ……、けどっ、……昨日、みたいになっちゃう…っ」
怯えて竦むあたしは、自分で自分をコントロール出来ない。
そんな弱い自分は嫌いだ。
「それはお前のせいじゃない。卑劣な被害を受けて傷付いた心が、少しずつ今回復してきてるんだ――――それはお前が頑張ってるからで、ほとんどの奴らはお前の傷にさえ気付いてない程で、そんなお前は凄いと思う。
――――けど、お前が心を許してるヤツの前では弱ってる自分を見せてもいいんだ。……少しずつ、それを学んできただろ? お前に頼って貰えて喜んでるヤツがいっぱいいる。笠原とか廣瀬とか、もっと頼れって言ってたぞ」
手塚の言葉に泣き笑いが浮かぶ。
「……やだ……人に頼るとか、あたしのプライドが……」
「その余計なプライドを低くする勉強中だろ。頼ってやれよ」
手塚が子供をあやすようにゆっくりと背中を叩く。
大事にされてることを認めざるを得ない、その触れ方。
ふ、と零れた吐息と共に、あたしの中で少し力が抜けた。
「…………頼ってるよ、みんなに……。あんたにも」
うん、と手塚が頷いて――――だから、と言葉を繋げた。
「頼ってくれてるなら、寝る前に必ず、俺に顔見せろ」
グッと少しだけ力を籠められた。
苦しくないけれど、力強く抱き締められる。
「正直、昨晩は気が気じゃなかった。――――お前を1人にして」
「寝る時は1人よ」
「夜中になんかあっても笠原は居ないし――――お前になんかあったらって」
「事件は解決したのよ。もう何もないわよ」
「そうだけど! けどなんか……俺が心配だから、顔見せてくれ」
…………切実な真摯な手塚の声。
顔が見たくなって、手塚の胸をそっと押す。
離れ難そうに、おずおずと少しだけ隙間を開けてくれた。
声と同じ真剣な表情だ。
「…………毎日?」
「……毎日」
「寝る前?」
「寝る前」
「あんた見てから寝ろって?」
「そう」
「……夢見悪そう」
……嬉しいのに、天邪鬼なあたしが頭を擡げる。
「~~お前なぁ、彼氏の顔見て、夢見悪いってどういう了見だよ」
あたしの台詞に手塚は憮然とした表情を作ったけれど、あたしがクスクスと笑い出したから手塚も苦笑に変わってくる。
しばらく密やかに2人で笑った。
やがて、手塚が口を開いた。
「…………俺を見なくても夢見が悪かったヤツに言われたくない。観念しろ」
そこを突かれると、少し弱い。
「……仕方ないわねー。じゃあ、条件呑む代わりにあたしの条件も呑んで貰うわ」
「なんだよ、条件って」

「あたしを抱き締めること」

努めて淡々とそう言った。
手塚の目が見開いた、と思ったら、次の瞬間赤くなった。
「……あ、……え、あ……うん、」
「なーによー、その反応! 嬉しくないの?」
「~~う、うれしいっつーか、え、いや、その」
「あんたって、たまに反応が笠原」
「なんだよ、それは!」
「純粋培養乙女みたいってことよ。……じゃあ、そーゆーことで」
そう言って手塚の腕を解いて、床に落ちたブランケットを拾い上げ――――肩から掛けられていた手塚のジャージに気付いた。
ブランケットを畳んで手塚に渡し――――少し考えて、「このジャージ、借りてていい?」と尋ねる。
「へ? ……いやいいけど……なんだよ?」
柴崎の言葉が予想外だったんだろう、手塚にしては間抜けな声だった。
「魔除けに」
「魔除けって、お前なぁ仮にも彼氏の上着を」
「いいんでしょ? いいって言ったわ。ジャージはいくつか変わりはあるでしょ?」
「いや、それはいいけど……」
ブツブツ言いながらも立ち上がった手塚に続いて立ち上がった。
そっと落ちないように手塚のジャージを摘まむ。
手塚の香りがする。
――――多分、怖い夢は見ない。
そう確信が湧いて来て「じゃあ、ありがとねー」と笑顔でひらひらと手を振ったら、手塚も安心したように笑って、その大きな手が頭に乗せられた。
「ここで寝れてはいたけど、寝れそうならもう少し寝ろ」
「そうする」
そう言って歩き出した足取りは軽くて――――思った以上にスッキリ出来ている自分に気付く。
それからだ。手塚とこうして寝る前に落ち合うという暗黙の約束が出来たのは。
毎日、手塚に抱き締められ手塚の香りで自分をいっぱいにしてから眠りに就く。

不思議と、もう怖い夢は見なかった。

     *

「どしたのー柴崎ィ? 誰か探してる?」
手塚を待とうといつも手塚がいるあたりのソファに近づくと、同期に呼び止められた。
「あー…うん、まだみたい」
「手塚? 男が女待たしちゃ駄目だねー」
「別にィ。特に『何時』って約束じゃないから」
「そーなの? でも手塚でしょ? 呼び出しじゃないの?」
「呼び出しってわけじゃないわよ。……ってゆーか、なによその質問攻め」
「えー、いや、なんか……柴崎すっごく幸せそうだから、そろそろ聞いてみたくなった」
「なによソレ」
ふふ、と笑うと、それよそれ! と同期に言われる。
「…なぁんかさー、可愛く笑うようになったよねー」
「聞き捨てならなーい! それじゃあこれまでは可愛くなかったみたいじゃなぁい?」
「うーん、なんつーか……ほら柴崎って美人だからさぁ、可愛いっつーよりは綺麗な笑顔だったんだよねぇ」
「えー? 今でも綺麗でしょ」
「自分で言うなー!」
あはは、と笑い合う。
「まぁ柴崎は美人だけど――――けど、今のはちょっと違うんだよねェ…まぁいいや。そういや手塚とは毎日?」
さくっと聞かれて鋭いな、と思う。
「ん、まぁ……出来立てほっかほかの恋人だしねー。最初はみんなそんなもんでしょ」
否定する程のことではないだろう、と、ちょっとチャラけて肯定する。
「あはは、あんたらはご飯か! つーか、やっぱりねぇ。手塚がこの辺りで毎日新聞読んでるのは見かけるけど、柴崎と一緒の姿はあんまり見なくなったなーって思ってたんだよねェ。そーかそーか、2人で外に出てたんだねー! まぁ図書隊きっての美男美女のあんた達2人揃ってると皆の注目の的だし、あんた達が付き合いだしたって噂は他館にも回り始めてるからキャーキャー煩いし、ロビーじゃゆっくり出来ないだろうしねェ。…………そーか、やっぱ毎日だったかぁ! 手塚が新聞広げてる割には人待ち顔だから、ひょっとして、とは思ってたんだけど」
よく見てるな、と感心する。
確かにロビーで2人で話す時間は以前よりも減ったかもしれない。優しく包まれるように抱き締められながら話すことの方が増えたから。他愛もない近況報告をしながら、あたしは手塚を補充させて貰ってるのだ。
…………だけど手塚は以前から新聞を読みにちょくちょくロビーに下りてきてたのに、よくあたしを待ってるんだと気付いたわよねぇ。
…………鋭い同期達には、こうやってバレてるんだろうか。
…………こんな風に見守られてるんだろうか。
…………ううん、前からこんな風に見守られてきたんだろうか。
そう思うと少し恥ずかしく――――少し顔に熱が上がる。
喋りかけてきた同期が、ニヤリと笑いながら声を潜めた。
「――――ねぇねぇ…、ところでさ、手塚って付き合うとどうなの? もうキスはした?」
「…………急に下世話な話になったわねー」
「いやだって興味が! 手塚って他人にほぼスキンシップないしさぁ!」
言われてちょっと考える。
…………そう、だろうか。
…………そう……かな?
…………そう、だった、かもしれない。
今ではもう、そうは思わないけれど。
今のあたしは、頭を撫でてくれる大きな優しい手の感触や、酔っ払ったあたしに貸してくれた肩や背中の感触を知ってる。
抱き締めてくれる広い胸や逞しい腕や、…………呼吸すら呑み込まれるかと思う程の深いキスも。
思って気付く。
それらはすべて、2人だけの時に限っていることに。
「…………まぁ……2人きりの時は、多少、ね」
「多少なの? なんかじれったいわねぇ! あーんなに柴崎への独占欲は見せてるくせに『多少』ってこともないでしょぉ! しかも毎晩逢引きしてるわけだしィ――――もちろんキスは毎日よね?」
「やっぱりソコに戻るワケ? なに、あたし達のキスの回数で賭けでもしてるの」
「そーゆーわけじゃないけど。いやだって、あの手塚が付き合いだしたら毎日キス魔だったりしたら豹変具合が笑えるじゃない! イケメン野郎も恋すると人格変わる、とかネタになる!」
面白そうにそういう同期に苦笑する。
「……人の彼氏をネタにすんなー。残念ながら話してるだけでキスはしてませーん」
茶化すように言うと「ええー?!」と一際声が大きくなる。
「そんなバカな! んなこたぁないでしょ?」
「それがあるんですう。ロビーは視線が気になるから外に出てるだけだしィ」
「視線が気になるようなこと、してるってことでしょぉ?」
……それはそう、ではある。抱き締めて貰うには外に出るしかないのだから。
でも、キスは――――抱き締められている分、あんまりしていないのも事実ではあるのだ。
だからあながち嘘と言う訳でもないのだが。
その辺を説明するのは嫌だし、自分の情けなく恥ずかしいトコロでもあるので、諦めて適当に受け流しておくことにする。
「…………まぁ『多少』は、ね。あたしから仕掛ければ、たまにはそーゆーことも…ないことはないし、ね」
「うわっ、やっぱり付き合っても柴崎が主導権握ってるのかァ!!」
「そりゃそーでしょ。手塚があたし相手に主導権握れるとでも?」
「…………無理だねェ」
「でしょ?」
ふふ、と笑ったあたしを少し見つめた同期が、ふいに意味深に笑った。
「――――そっかぁ、ってことは、柴崎が手塚に甘えたりしてるんだ! そっかそっか、付き合って変わったのは実は柴崎の方かも知れないねー」
「~~~~っ?!」
言われた言葉に咄嗟に返し言葉が浮かばない。
みるみる顔が熱くなる気がする。
慌てていつものように切り返そうと、必死に言葉を探す。
「~~~~そ…っ、そんなことっ、……あ、あたしは、あたしで…っ」
「ん。……恋人らしく手塚に甘えたり?」
「~~~~っ」
違うわよ、と言うべきか、そうよ、と言うべきなのか、どちらがあたしらしいか判断が付かない。
わかっているのは、ここはサラリと対応すべきトコロなのに。
だけど、上手く言葉が選べない。
真っ赤になって口籠ってしまうなんて、一番あたしらしくないのに。
同期が吹き出しながら、急にあたしを抱き締めて来た。
「~~ああもう、こんなに可愛くなっちゃって!!! こんな顔して甘えられたら、手塚じゃなきゃ堪えらんないでしょーよ!! ある意味鉄の自制心だな手塚はっ!! そりゃあもう手塚が心配症になるのもわかるッ!!!」
「~~ちょっ…、そ、そそんなこと……」
「そんな顔見せられたら説得力ないですうー!! あんた今、どんだけ可愛らしいオンナノコの顔してると思ってんのぉ?」
~~~~自分の顔が見えるワケないじゃない!
と心の中で悪態を吐く。最近あたしをこんな風に『可愛い』なんて言って来る同期や同僚が増えたけれど、自分では全然わからない。
自分じゃわからないけど、あたしは変わったんだろうか?
…………ふと、笠原の惚気を思い出す。
『もし、あたしが……かわいく、とか、なったんだとしたら、』
笠原は、好きな人が堂上教官だったからだと言っていた。
だとしたら。
あたしは。
ますます、顔が熱くなる。
そんなバカな、あたしは茨城県産純粋培養乙女じゃないわよ!
そう思うのに、グルグルと思考が離れない。
きゃいきゃいと騒ぐ同期は相変わらず抱き付いたまま。
悔しいけど、顔が上げられなくてされるがままになってしまう。
結局、姦しい女同士の抱擁はロビーの注目の的となり、あたしはずっと顔を上げることが出来なかった。



……To be continued.







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12:56  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

★良かった、柴崎が可愛く書けててw

yikumi 様

ありがとうございます!
可愛かったですか? 柴崎。
柴崎が可愛く見えるように書きたいのですが、柴崎は柴崎でなかなか可愛いばっかりの発言にはならないので、可愛く書けてるか毎度心配します(苦笑)
もちろん、素直じゃないトコロがまた可愛いとは思っているのですが!
でもそういうトコロって、文字にすると結構難しいので……そこを可愛いと感じて貰えるって本当に嬉しいですww

> 手塚・柴崎カップルは、柴崎自身が分からない柴崎の事、手塚自身が分からない手塚の事を互いに理解しているのではないかなーとたまに思います。
そこはまさしく、yikumi 様の仰る通りだと思います!
自分の知らない自分のことも、自分を見守ってくれている相手にはわかってしまうんですよねw
手塚の慧に対する想いだったりするのもそうですし。
柴崎の素直じゃない甘えもそうですし。
本当にお互いの事を良く見ていて、大事にしたいと思われているからこそ、自分では無自覚の想いまで相手には伝わるんだろうなって!
それが手柴の、手柴を愛する所以ですねww

心配されて、大事にされて、そこで自分の新たな一面にも気付けるなんて、本当に素敵過ぎるカップルですww
yikumi 様にそう言われて、改めて「手柴が好きで、本当に良かったw」と思えました!!
ありがとうございますww
最後はラストまで突っ走りたいと思いますので、もうしばらくお待ち下さいね。

★yikumi様リクエスト★
********************
恋人になってすぐの初々しい感じの手柴がみたいです。手塚も柴崎も目立つ存在であるし、異性に大人気なので、互いに少し嫉妬する様な雰囲気を楽しみたいです。
********************
の『互いに嫉妬する』様な雰囲気、までなんとか持ってきたいところなのですが、意外ながら手柴ってあんまり嫉妬しないのかもしれないです。
もちろん、手塚は郁ちゃんに対して嫉妬心があると思うけど、柴崎に言い寄ってくる男達に対しては手塚と比べものにならない輩なんで嫉妬のしようがない(笑)……この男に対しては前編で登場した下士官を見立ててみたんですけど、全然嫉妬の「し」の字もなかったでしょ?(苦笑) いやでも、手塚自身が大したことないと思うような男が柴崎に言い寄ったところで、手塚にとっては嫉妬の対象にすらならないんだなぁ…って思っちゃいました、書いてて。
手塚に言い寄ってくる女に対しては、手塚がその女にあまりに興味なさ過ぎて身も蓋もなさ過ぎて、柴崎が嫉妬する隙がない気がしますし(笑)
という感じです(苦笑)
なので、そのあたりは上手く書けなくてもご容赦願いたいと思います~、テヘw(と笑って誤魔化したまま逃げる★)


ツンデレラ |  2018年08月28日(火) 17:40 | URL 【コメント編集】

★見守ってくれる友達とのw

ママ様

> こういう恋バナって柴崎には初体験(以下略)
そう思います!
彼氏が居た時も、どっちかと言えば「柴崎は美人だから彼氏に困らないわよね~」的な話にまとめられ、片付けられてたんじゃないかと思うので、いわゆる『恋バナ』という「彼氏とこんなことがあってね、」というような惚気を込められるような話や、他愛もないけど幸せだなって思えるような話を友達と出来るなんてことはなかっただろうな~、と思います。
そういう話をしようもんなら「いいわよねー。美人は何しても男もチヤホヤしてくれるし」的な冷たい返しの方が多かったんだろうなァ…とか。
だから、堂郁の恋バナも、いろいろと郁ちゃんにツッコミはしていましたが、嬉しかったんだと思います(*^^*)
幸せな恋バナが出来る友達が出来た訳ですからww
まぁ、これまで女同士の恋バナ経験が少ないから、柴崎の郁ちゃんへのツッコミは男目線でのアドバイスだったり、なーに言ってんのよ、惚気にしか聞こえなーい!というようなツッコミ方になっていた気もします(笑)
なんで……自分の恋バナをこんなふうに友達に出来るとか……多分素直じゃないから表面には出さないようにしているけど嬉しくて堪らないんじゃないかなァww

> 柴崎は乙女ですよぅ!
ですよねー。ある意味、本当の自分を見つけて欲しいとか、郁ちゃん以上の乙女だと思う!(笑)
それを堂々と「俺がみつけた」って言葉に出して言える手塚は、やはり小牧さんからもしっかりと恋愛のノウハウは(無意識のうちに)叩き込まれている気がしますね!
そこで、いきなり堂上さんみたいにチューでは、柴崎とは上手くいかないでしょう(笑)
回り道をした二人は、回り道をしながらも、ちゃんとお互いに大切なことをしっかりと身に付けていっての、今の2人があるんだと思います。

> 同期第一女子
武蔵野第一図書館女子達は、やっぱりなんだかんだ言っても、武蔵野第一図書館所属に選ばれたメンバーではあったんじゃないですかねぇ。
だから、最初は顔でキャーキャー言ってはいましたけど、現実に職場に配属されて職場でキャーキャーと公私混同で騒ぐなんてしなさそうです。
ちゃんと人を見るところは見てて、それぞれの男性の秘めた恋とかにも気付いて見守ってそうですよねw
そんな武蔵野第一図書館で一緒に働いてきた同期ですもん、こんな風に柴崎もリラックスして自分の話が出来るようになったのかとww
職場に恵まれてるって、事件の時に柴崎自身も言っていましたものね。



ツンデレラ |  2018年08月28日(火) 17:11 | URL 【コメント編集】

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 |  2018年08月27日(月) 22:13 |  【コメント編集】

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