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2018.06.02 (Sat)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『一歩先へ vol.2』~『1つだけの願い』番外編~

≪ 一歩先へ~vol.2~ ≫背中の靴跡シリーズ『1つだけの願い』番外編

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須賀原財閥主催のレセプション当日。一緒に行こうと手塚が柴崎の元へ……。

※このお話の手柴は現在20歳前(そして2人共経験値なし(笑))なので、若干行動が青いトコロがあります。ご了承下さい(苦笑)。






【More・・・】

≪ 一歩先へ~1つだけの願い番外編~vol.2 ≫背中の靴跡シリーズ


レセプション会場まで一緒に行こうと、柴崎の部屋をノックした。
少し恥じらいの混じった声だった気がしたが、特に気には留めず扉を開いた。
部屋の中に躊躇いもなく足を踏み入れ――――身支度を整えた柴崎を見た瞬間、固まってしまった。
手塚の様子に顔を赤らめながら柴崎が唸る。
「~~な、なによッ!! ~~コレ、ちゃんと服だからねッ!! 下着じゃないんだからっ!!」
そう言いながらも胸元を隠すように腕を寄せたものだから、正直豊かな膨らみが一層寄せ上げられ――――その深くなった胸の谷間に、思わず手塚の喉がゴクリと鳴ってしまった。視力の良さはいいことの筈だが、視線が外せず逆上せたように顔が熱い。
顔を顰めて身を翻した柴崎に、ようやくハッと我に返る。
「~~ななっ、ちょ…っ、お前、それ……」
「~~須賀原さんが!! 今日は泰国の方を主賓として招待してるから、彼の国の民族衣装を身に付けて参加して欲しいって渡されて…ッ!! あ、あたしは肩書もなんにもないのに出席させて貰えることになったんだから、せめてこれくらいのVIPサービスはしてこいって――――」
泰国と言えば確か、魔法のランプやら空飛ぶ絨毯やらの物語の国だ。確かにこんな衣装を身に付けた女性の挿絵があったりした記憶はあるが、普段は襦袢から何枚も重ねあわせた着物が正装の舜国では、かなり異質な衣装だった。
正直、上体は胸の先を隠す為だけに布キレを当てているだけとしか思えない。
「~~~~ふざけんなよっ!! そんなのお前が着る必要はないッ!!」
「着るわよ、悪いッ?! 泰国きっての億万長者、石油王として超有名人のミケシュ・アルバーニに会えるって――――これ着て行けばあたしにも彼を紹介してくれるって……そんな人と人脈を作れるチャンスをみすみす逃す手はないわッ!! これはれっきとした民族衣装――――恥ずかしくなんかないわよっ!!」
そう言いながらも、柴崎は首筋の方まで赤く染まってる。
普段は胸元は晒で締めていることが多い柴崎なので、口では強気なことを言ってはいるが、自分の身体のラインをあからさまに見せるこの服は恥ずかしくて堪らないんだろうことが見て取れる。
――――というか。
俺でもまだちゃんと見たことのない麻子のこのスタイルを、惜しげもなく、今日初めて会う奴らに見せるのか?!
手塚としては今の麻子の姿に自身の熱が暴れそうで困るだけでなく、麻子の身体のラインを他の奴らに見られることに憤慨だ。泰国の民族衣装は、それほど麻子の身体のラインをくっきりと晒していた。
普段は、今でも習慣なのか胸元は晒を撒いて出来るだけ主張しないようにと気を遣っているのに、今は惜しげもなくその豊かな膨らみを主張し、臍が見える細い腰のくびれは抱き寄せて腕に閉じ込めてしまいたい。
……というか、長い腕を伸ばして、もはや麻子を引き寄せて閉じ込めていた。
華奢なのに柔らかく――――うっとりと口付けを落としたくなるのを必死に堪える。
「……駄目だ」
「~~大丈夫よッ!! それに、ちゃんと上からショールを羽織るし…っ」
「駄目だっ! 他の奴らに見せたくないッ!」
「ショール羽織ったら見えないわよ…っ!! ~~だだ、大体、見られて減るもんでもないしっ! あたしは全然平気よ…っ」
「平気じゃない俺がッ!! 絶対駄目だっ!!」
「~~せっかく、このヤラシー身体を活かす機会じゃないっ!! 泰国の大富豪と繋がれれば今後の舜国にとっても……っ………」
柴崎の言葉は途中でぶった切られた。
急にグッと身体を持ち上げられたと思った時には、正面から唇を塞がれていた。
――――熱い…っ、
溶け落ちそうなくらい熱く激しいキスだった。受け止めることも返すことも出来ず、ただ熱に呑み込まれ溺れる。
息も出来ずに必死に鼻を鳴らしたら強請るような喘ぎ声になって、プチパニックだ。
必死に逃げるように顔を仰け反ってみても、上から覆われるだけで手塚は離れない。
手塚から伝わる熱が、自分の中で増幅して、頭の芯まで蕩けそうだった。
ガクン、と膝から力が抜け(手塚の腕がしっかりと支えてくれていたので、唇が離れることはなかった)、このまま意識もなくなるんじゃないかと思った頃、ようやく手塚の熱が離れた。
急に冷たい空気に触れて、身体が震える。
まるで力が籠らないあたしは手塚に身を委ねていて――――しっかりとあたしを支えた手塚は、熱っぽい男の目であたしをジッと見つめて――――しばらくして、あたしの目尻に向けて顔を近付けてきた。
思わずキュッと身を縮めるように固まったあたしは、反射的に目を閉じ――――ぽろりと零れた涙を手塚が吸い取ったのだとわかった。
こんなことで泣くなんて、居た堪れないくらい恥ずかしい。
俯いて必死に手塚の視線から逃げたけれど、ガクガクする膝はまだ上手く力が入らず、自分でちゃんと立てない。
情けないやら悔しいやら、また涙が出そうになって必死に堪える。
「……駄目だ。わかったろう? お前は訓練を積んだ優秀な『忍び』だけど、こうやって力づくで来られたら男には絶対敵わない。男ってヤツは――――まぁ俺も男だからあんまり言いたくはないけど、今のお前みたいなの目の前にしたら理性を保てる自身がない。……俺が今、どんだけ必死になって理性を掻き集めてるか…………お前は俺の鉄の自制心に感謝した方がいい」
そんな風に言われて思わず吹き出した。反動で涙が1雫床に落ちたが――――お蔭で新たに湧いてくる涙はなかった。
手塚の声が少し不機嫌そうな色になった。
「……なに笑ってんだよ? ホントに辛いんだぞ――…」
「~~わかるわけないじゃない、だって、あたし女だしィ。――――でも、だいじょーぶ……」
「だから、大丈夫じゃないって!」
「あんたが守ってくれる…でしょ?」
言いながら、柴崎が顔を上げた。……少し濡れた大きな黒目に、俺が映る。
思わぬ切り返しに、一瞬言葉に詰まって狼狽える。
「~~そ、それはもちろん――――、いやけど、そんな問題じゃなくて…っ」
「そんな問題よ。大丈夫――――あたし、レセプションの間、あんたの傍から離れるつもりはないし。
――――須賀原さんが紹介してくれるって言うんだから、あんたも舜国宰相として泰国の大物に一緒に会うでしょ? これからの舜国の産業改革――――その発展に泰国の石油資源は、おそらく不可欠になってくるわ。石油王との結び付きはこれからの舜国経済にとって利をもたらすはずよ。そうでしょ?」
「……それは――――いやけど……」
「――――あたし、今の舜共和国が好きよ。……あんたが望んだように、今の舜国は国民皆が国を良くしようと、豊かにしていこうと一生懸命頑張ってる――――あたしもその為に頑張りたいの。……その為ならハニートラップまがいのことでもなんでも全然平気よ」
そう言ったら、手塚の顔色が変わって――――驚いた時には噛み付くようなキスをされた。
深く、荒々しく――――ようやく取り戻しつつあった自分の身体が、また熱に侵されたように力を奪われて蕩けてゆく。ようやく解放された時には息も絶え絶えになっていて――――霞みそうな視界を必死に凝らして見た手塚の男の目に、少し怯えた。
怯えたことに気付かれたらしく、手塚の目がそっと伏せられる。
「――――ごめん。けど……けど駄目だ。そんなことする必要はない。お前が舜国の為にそんなことするって言うなら、そんな国、俺は要らない。お前、肝心なことがわかってない――――もっと自分を大事にしろ。お前がお前の為に自分を大事に出来ないって言うんなら、俺の為に大事にしてくれ――――」
言いながら、手塚の瞳がゆっくりと開いた。
深い色をした瞳が、あたしを映してる。
「…………結婚しよう、麻子」
強い意志を込めた声。
言われた瞬間、目を見開いた。
頭が真っ白になって、意味がよくわからないのに――――なのに胸の奥が熱くなる。
なぜだか潤みそうになる瞳で、必死に光を見つめる。
そんなあたしをジッと見つめて――――しばらく無言が続き、また手塚が口を開いた。
「……お前がなぜか『結婚』には乗り気じゃない感じがして――――お前がその気になるまで待つつもりだった。婚約はしてるし、お前の気持ちを疑うこともなかったから――――単にお前の中で『結婚の儀』に対する覚悟が出来てないんだと思ってた。それなら俺は無理強いするつもりはなくて…………正直、時間が経てば経つほどタイミングは解らなくなるし、お前に触れられないのもキツくなってきてたけど…………けど、それでも待つつもりだった。
けどな。――――お前のそんな姿、絶対に他の奴らに見られたくない! ……挙句に、ハニートラップまがいのことは平気だ? ――――バカを言うな!! もし、もし万一、お前にもしものことがあったら…ッ!」
仮定の話だとしても、想像することも感情が許さず口籠る。
その隙に、柴崎が珍しくヒステリックな上擦った声で反論する。
「……そ…っ、……そそそんなこと…っ、……け、けど、もし、万一、万が一にもあたしが穢されたら、あんたはあたしのことなんか捨てて……」
「――――ってことだったんだな?! …………やっと俺も……今、わかった、お前の間違った考えが――――結婚をしたがらない理由が。
……だったら無理矢理でも結婚する!! 今すぐだッ…」
怒髪天を突くような手塚は、軽々と柴崎を抱き上げると寝室へ一直線で向かう。
固まったままの柴崎の身体は、寝室に入る頃になってようやく抵抗を始めたが問題にもならない。
ベッドに柴崎を下ろすと、柴崎の顔の両横に手を付き、閉じ込めるようにそのまま手塚もベッドに上がる。
抗議するようにギシギシとスプリングが荒い音を上げた。
射抜かれるように上から見下ろされる。
鋭い手塚の視線と目が合った瞬間――――柴崎の顔色が変わって、そして、…………怯えた。
柴崎の瞳に怯えの色が浮かんだ。
その瞳を見て、熱く煮えたぎっていた自分の中の激情に冷たいものが注がれる。
柴崎にそんな顔をさせたのが自分だと気付き、暴れまわっていた身体の熱が急速に冷えてゆく。
……頭の中がぐちゃぐちゃになった。
呼吸すら止めて、ただ怯えて自分を見つめる柴崎――――硬直した身体はピクリとも動かないけれど、恐怖で身体の芯が震えてるのがわかる。
俺が、そんな顔をさせてる。
――――思考が千路に乱れる。
このまま、この分からず屋をぐちゃぐちゃにしてしまいたい身体の熱と雄の本能衝動。
そうすれば、麻子は俺のものだ――――3夜連続でこの身体を貫けば、法的にも完全に夫婦。そうなれば毎晩愛しい妻を抱いて過ごせるし、麻子が離れていくことを二度と心配することもない。
……それは酷く甘美な誘惑だった。
でも。
違う。

…………怯えた目で俺を見る――――俺が欲しかったのは、こんな目をして組み敷かれる麻子じゃない。

ベッドに付いた手を握り締めて左手の拳に額を落とした。
体中の熱を吐き出すように、大きな息を吐く。
泣きたくなるような気さえして、どれだけ自分の中に激情が渦巻いていたかを知る。
グッと拳に力を籠めた――――そうでもしないと、麻子に触れてしまいそうで必死に堪える。
どれくらいそうしていたのか…………酷く長い時間の気もするし、一瞬だったかもしれない。
「~~~~ちがう…………ごめん……」
拳に顔を押し付けるようにして、ようやく呟いた。
それだけで麻子の身体が震えたのがわかった――――こんなにも怯えさせたのは自分なのだと思い知る。
「~~~~ちがう、……こんなふうに無理矢理抱きたいんじゃない。――――その、ちゃんとお前の意向も……その、お前も納得して、合意の上で、……その、こんなこと……」
「…………ひ…か…る……」
小さな声で呼ばれた。
その声は濡れて震えてる。
怯えているのは麻子なのに、呼ばれて怯む俺が居た。
…………嫌われたか?
…………嫌がられる?
上から覆い被さって動きを封じるような体勢で、何を今更――――そう、自嘲するように囁く自分も居るけれど、嫌われたかもしれない、という恐怖に似た想いが酷く身体を竦ませて動くことも出来なくなった。
顔を上げられなくて――――拳を更に握り締めるしかなかった。爪が強く皮膚に喰い込んで来る感触。

――――と。
ほわり、と花の香りが鼻腔を擽った。
小さな手が、俺の髪に触れ、優しく撫でる感触がする。
その手はまだ震えてはいるけれど、愛おしそうにそっと俺に触れてくれる。
「…………いいの? ……ホントに……ほんとに、あたしでいいの?」
頼りなげに震える濡れた声。
なのに、その言葉を理解した途端、凹んでいた気分が急に回復し始める。
そっと顔を上げて見る。
麻子を見下ろせば、濡れた大きな黒曜石のような黒目が俺だけを映して揺れている。
目尻からは行く筋もの涙の痕が零れていた。
「…………あたし、…………あんたと……ひかると……結婚して、いいの、かな…………」
「いいんだよ。――――っていうか、お前を離さない為に半ば無理矢理婚約したんだぞ? ……お前が迷う理由の方がまったくわからない」
「…………でも……でも、まだあたし……あたし、なんにも…………まだあんたに相応しくは…………」
「俺が大事にしたいのは、お前だけだ。ずっとずっとお前だけだった。お前がいいんだ」
思わず零れた言葉に――――麻子が色付いた。全身がほんのりと紅色に染まる。
それを見て我ながら随分と恥ずかしい台詞を臆面もなく口にしたことに思い至る。
頭で考えるより先に思わず零れ出てしまったのだが、我ながら大胆な言葉だった。
だけど、今しかない。――――今が決断の時だとふいに悟った。
「結婚しよう、麻子。……大事にしたいんだ、離れたくない……別々の部屋じゃなくて一緒の部屋に帰りたい。何かあった時にお前が1人で泣いてるのは嫌だし、お前が泣いてることを知らないのはもっと嫌だ。
結婚しよう。一緒に居よう。二人で生きていこう。
俺が今の舜国を望んだのは、お前と居る為だ。お前が舜国の為に辛い想いをするというのなら、そんな国なら俺が壊してやる。誰かの犠牲の上に成り立つ国なんか、俺は要らない」
「~~~~ッ……、なななに言って…………」
「――――ホントだ。…………俺が大事にしたいのは……お前だけだ」
そう言うと、麻子が泣き笑いのように顔を歪めた。ボロリボロリとまた目尻から溢れた涙が零れ落ちてゆく。
「~~~~っ、~~あ、たしも……大事に、したい…っ! ああんたのこと、大事、にっ!!」
綺麗な涙が零れていくのすら惜しくて指先で拭う。何度も何度も絞り出すように『大事にしたい』と繰り返す麻子に愛おしさがどんどんと募り、ずっと聞いていたいとも思うその唇を堪えられずに塞いだ。
深く、角度を変えて執拗に口付ける。
長い。長い長いキス――――息の仕方すらわからなくて、苦しくなって必死に零した吐息は自分のものとは思えないような声が混じった。喘ぎだ。一度漏れてしまうともう、堪えようとしても知らず鼻から口から零れてしまう。
手塚の舌が更に激しさを増して口内を貪り尽くす。
歯列も、口蓋も、舌も、何もかも手塚の舌が征服していく。
触れているのは唇だけの筈なのに、全身の熱が急激に上がっていく。
――――ようやく離れた時には、手塚の方も荒っぽい呼吸になっていた。
熱に浮かされたような男の目――――ドキン…ッ、と胸が鳴ってまたポロ…ッと涙が落ちた。
どうやらキスの最中もずっと泣いていたらしいと気付いて、慌てて顔を横に向けて手で涙を拭く。
――――と、その手を取られて、代わりに手塚の熱い唇が目尻に吸い付く。
「~~~~ん…っ……、~~~~ッ……」
たったそれだけのことなのに信じられないような声が出て、羞恥に身体が熱くなる。
涙を拭ってくれているだけの唇――――なのに、全身が震える。
オカシイわよ、こんなの! と自分で自分に突っ込んで、冷静な自分を取り戻そうとするのに、手塚の唇が目尻から首筋に移動しただけで、また声が漏れる。
「~~~~ぁっ……、ん…ッ……!」
くすぐったいのかこそばゆいのか――――自分で自分の感覚がわからない。
ただただ手塚の熱に、震えながら悶えるように身じろいでしまう。
唇の感触から、舌で舐められる感覚に変わった途端、ビクン…ッ!! と身体が仰け反った。
厭らしい声が漏れたのを、必死にシーツに顔を押さえつけて声を殺す。

――――と。

「…………悪いが時間切れだ」

ふいに凛とした声が降り注いで――――柴崎はシーツに顔を埋めたまま完全に固まった。
柴崎に跨るようにして上から覆っていた手塚もまた固まる。
「流石、若いな。一仕事の前に、準備体操か?」
錆び付いたロボットのように、手塚の顔だけがなんとか振り向く――――声の主を視界に入れると固まっていた顔が強張った。返事のしようもなく、パクパクとほんの少し唇が動いただけ。
「……しかし驚いたな。お前らはまだこういう関係にはなっていないものだと思っていたが――――まぁ考えてみれば光ももう大人だったな」
驚いたと言っておきながら、視界に映る慧の表情はまったくいつもと変わらない。
「こういう関係になっていたのなら、未だ結婚してなかったことの方が不思議だな――――そうか…麻子、光に不満があるなら俺ともやってみてはどうかな? 俺はあらゆる技法をマスターしてるから、きっと大満足させてあげられると思うがね」
ふ、と口角を上げた慧の言葉に、いきなり呪縛が解けたように手塚が噛み付く。
「駄目だ!」
「なぜお前が答える? 俺は麻子と交渉してるんだ」
「うるさい黙れッ!! 駄目なものは駄目だ! 麻子は俺のだ!! お前になんかやるか! とっとと失せろッ!! 死ねバカ兄貴!!」
子供のように素のままの手塚の怒鳴り声に、思わず相好を崩して笑い声が零れた。
「まぁいい。それより、そろそろ本当に時間だ。――――時間になっても出て来ないからノックして入ってみれば――……。
もうあまり時間はないが、急いで麻子は衣服の乱れを整えてくれたまえ。須賀原女史に付け込まれる隙は見せない方がいい」
「…………はい…」
慧が部屋を出ると、ようやく柴崎が起き上がり、手塚とは目線を合わせることなく動き始めた。鏡を覗き込んで泣き濡れた自分の顔を認めて顔を顰め――――だが、キビキビと処置を始める柴崎はもういつもの柴崎だった。
濡れタオルで目元を少しの間冷やしてから化粧をやり直し、髪を整えてゆく。泣いていた様子なんて微塵も感じられない仕上がりを目にして、ようやく安堵の息を吐く。
手塚の方はずっと狼狽していて、居心地悪そうに部屋の隅から麻子の様子を見ていた。
慧も一緒に出席することをすっかり忘れて暴挙に出たことは完全な失態だった。――――どう麻子に声をかければいいのか――――結局は未遂で終わってしまったとはいえ、いい雰囲気だったのに無理矢理強制終了された後、恋人にどう声をかければいいのかなんて経験値ゼロの手塚には無理難題すぎる。
途方に暮れるばかりだ。
麻子が鏡台の前から立ち上がったのを見て、オロオロしながらも躊躇いがちに近付いて来て――――心配そうに柴崎を見つめる。柴崎はもう、いつもの柴崎に戻ってしまっていた。
「~~~~あ、あの…っ、…そのっ…」
「…………行きましょ。お兄さんも待ってることだし――――」
「~~そそ、そのっ、……その服…は…っ」
「……今日はこれでって須賀原さんとの約束だから――――あんたが守ってくれるでしょ?」
「~~そ…っ、それはもちろん――――けど…ッ…!」
「……こんなこと、今日で最後だから。――――だって今夜から……あたし達、夫婦になるんでしょ」
「~~~~~~~~っ! あ、ああ……」
どぎまぎしたように手塚は頷いた。
だんだんと頬が熱くなるのがわかる。
さらっといつもの口調を装ってそう言った柴崎は、ショールを手に取って羽織った。ショールを整えながらずっと俯き気味だから表情まではわからない。けれど――――見える頬はいつもよりも赤い気がする。
顔が見たいと思って、手を伸ばそうとして――――、ふいにノックの音がしたと思ったら、返事を待つ前にまた慧が現れた。
「用意は出来たようだな。行くか」
言いながら柴崎をエスコートしようと近づいて来るから、手塚が肩に手を置いて自分の方に引き寄せる。それを見て慧が苦笑した。
「……光は本当に心が狭いな」
「……今日の俺は麻子のボディーガードだ。片時も傍から離れる気はない」
「やれやれ、麻子もこんなヤツでいいのか。男もいろいろ居るんだ、光以外の男を見る機会も作った方がいいと思うがね」
「~~~~いいんだよ!! 関係ないだろ、お前にはっ!!」
思わずまた噛み付くように返した言葉。……と、麻子の腕が腰に回って来てキュッと力の籠る感触。
「……光以外の男に時間を潰すなんて、時間の無駄ですわ」
ふと見れば、見下ろした麻子の顔が完全営業スマイル全開で慧に応えていた。
「――――それから――――今日から義妹になりますので、これからよろしくお願いしますね、お義兄さん」
麻子の言葉に一瞬だけ目を伏せた慧だったが、すぐに苦笑を浮かべた。
「…………参ったな」
それ以上続ける気はないらしく、麻子が動く気配がしたので、麻子に合わせて俺も歩き出す。
手に触れる素肌は柔らかく滑らかで華奢だ。

『…………今夜から……あたし達、夫婦でしょ』

さっきの麻子の言葉が頭によぎり、――――急に顔に熱が昇る。
必死で緩みそうになる口元を引き締める。
そっか。
本当に。
今夜から俺達は夫婦になるんだ!
グッと麻子を抱き寄せたくなる気持ちを必死に宥めながら、俺達はレセプション会場へと向かったのだった。



……To be continued.




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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

★「そうかも!」と思ってしまった一言(笑)

ママ様

そうです、ようやく手塚が自分の想いを口に出来ました~!!
まぁ小牧さんのアドバイスがかなり効いてる(?)のもあるかと思われますが(笑)
手塚はかなり引いてしまうので、なかなか自分からゴリ押しのように思える案件については、柴崎に押し付けるようなことはしたくないと思っていた訳ですが、ここに来て、大事な彼女(婚約者)の赤裸々なスタイルを他人がみることに頭爆発しちゃいましたねー(笑)。
いやでも、自分でもなかなか見せて貰えないこんなスタイル、それを他人が見るとかもう、頭沸騰以外の何物でもないか(笑)
頭沸騰ついでに、これまで我慢してきたことが全部吐き出された感じでしょうか(苦笑)
手塚は、堂上さんと違って「言葉で伝える努力」はしようとするタイプなので、こういう時は強いなって思います。
そうですね、今回の手塚が柴崎を押し倒し、は、堂上さんの実家で郁ちゃんを押し倒す堂上さん、とまったくのシンクロです。
で、手塚の取る行動は結局は堂上さんと一緒で、押し倒したものの手が出せない(笑)
でも、手塚は堂上さんと違って、ちゃんと言葉にしようとするので、和解は早いですよねー。
堂上さんの言葉の足りなさは、ホント足りなさすぎ(笑)
経験値ゼロの郁ちゃんに「悟れよ」は絶対無理だし、絶対無理なことをなんでわからないかなー(苦笑)という感じですよね。
堂郁が上手くいったのは、やっぱりなんだかんだ言っても、郁ちゃんの素直さがあってのことだと思いますね。
「堂上教官に触って欲しいんです!」とか、もう郁ちゃんにしか言えない(笑)
そこまで言わないとわからない堂上さんの朴念仁は、やはりずば抜けて朴念仁だと思う(笑)

手柴も、結局は手塚の素直さがあっての正面から向き合えたわけですし、やっぱり素直さってのが、人間が一番大切ですね(笑)。
まぁ素直じゃない柴崎が愛おしいんですけども(笑)←矛盾してんなー
そうそう、柴崎と言えば、ママ様の仰った、

> 原作でも女性側の気持ちが今一解って無かった所為でアドバイスが男性寄りになってた感もありますし。
爆笑!
ですね!
言われて、そうだそうだ!と賛同しちゃいましたよー!
柴崎のアドバイスって、確かに結構男性的だわー(笑)
「男ってこういうもん」っていうアドバイスは出来るけど、そういう時に女性心理はどうだっていうアドバイスは、イマイチ柴崎には出来ないのかもしれませんね。
自分から好きで大事にしたい男とは付き合ったことのない柴崎ですからね……女性心理の方が実は難しいのかもしれません。

まぁともあれ、手塚は堂上さんと違って、必死に柴崎に伝えようとしたお蔭で(?笑)、めでたくすぐに仲直り→もっと上をいく、結婚。というところまで辿り着くことが出来た訳です。
さぁ、結婚しちゃいましょう!(笑)
…………ってところで、タイムアウトとなった訳ですが(笑)
慧お兄ちゃん、2人のベッドイン姿を前にしても平然(爆笑)
流石です(笑)
まぁ、黙って最後までイッちゃう2人を見なかったあたりは良心が少しは残ってた?(爆)
嘘です、時間でしたね、時間(笑)
時間じゃなかったら、最後まで見てんじゃないだろーか、このお兄ちゃんは(爆笑)
当然の、手塚の子供のような捨て台詞(笑)
私も満足でしたー! 久々の、「死ねバカ兄貴!」(笑)

というわけで、番外編は長編にするつもりはまったくないので、サクサク行きますよー。
次は須賀原女史登場です。
一応、ママ様も書いて下さってるようなイメージでは書いてます。
イメージでしかありませんが……須賀原さんの為人を読み解くほど、須賀原さんのことに興味が持てない私でした(苦笑)
須賀原女史は、ママ様も仰っているように、柴崎に対しては非人出身、程度の意識しかないです。
どうしてこんな子が政府関係者になってるの? ってことに憤りすら感じてそうな人物像。
このあたり、王制から共和制へと足を踏み出したものの、人々の間に根強く残る身分意識があることを物語っています。
なかなか、人間って難しいですよね。


ツンデレラ |  2018年06月02日(土) 23:15 | URL 【コメント編集】

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