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2018.05.26 (Sat)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『一歩先へ vol.1』~『1つだけの願い』番外編~

≪ 一歩先へ~vol.1~ ≫背中の靴跡シリーズ『1つだけの願い』番外編

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共和国としての国の基盤を確立すべく奔走する毎日。1年半程の月日を経て、ようやく内政も落ち着き始めた今日この頃……手塚の溜息の理由(わけ)は?
『1つだけの願い』番外編、手柴結婚への道のり編、はじまりはじまり~♪






【More・・・】

≪ 一歩先へ~1つだけの願い番外編~vol.1 ≫背中の靴跡シリーズ


「ねぇ、手塚とまだ結婚しないの?」
唐突な郁の言葉に瞬いた。
今さっきまで、半月後に控えている采国との貿易交渉の警備の話をしていたのに、なんの脈絡もなくどうしてこんな話になるのだろう。
小首を傾げながら、この手の話を流すことに慣れている柴崎はアッサリと言葉を返す。
「……忙しいから」
「忙しい忙しいって言ってたら、おばあちゃんになっちゃうよ。麻子はもう婚約してるんだから、後は式だけの話なんだしさ」
「婚約は簡単に解消出来るけど、結婚してしまったら簡単に離婚は出来ないでしょ」
「~~?! ちょっと待て!! オカシくないかその話?! 結婚もしてないのに離婚って……手塚に何か思うところがあんの?!」
「――――何か思うところってモノは、相手に期待があるから発生するモノよね。あたしは最初からなんにも手塚に期待してないからダイジョーブ」
「~~そ…っ、それ、大丈夫じゃなーいっ!!」
「ってゆーか唐突になぁに? ……堂上少将となんかあった?」
にっこり。
大輪の花が艶やかに咲いたように柴崎が微笑むと、同性なのにドギマギしてしまう。
その美しさだけでなく、正確に郁の揺れる心臓のど真ん中を抜く直球にノックアウトだ。
「~~~~え…っ…?! い、いいいや、なななんでっ…」
シドロモドロになる笠原に、ぷっと吹き出した。
「ほんと、あんたって可愛いわよねー。なぁに? あの朴念仁、ようやくプロポーズしてきたの」
「~~ッッ?!?!?! なななななぜそれを…ッ?!?!?!」
ガバッ!! となぜか腕を防御の構えにしてドン引きした郁の様子に、ケラケラと柴崎が笑う。
たらたらと汗を掻く郁の顔は茹蛸よりも赤く、燃えている鉄みたいだった。
ようやく郁が落ち着いた頃になって、今度は柴崎が問い詰める。
「やるわねー、堂上少将も。――――結婚式はいつ?」
「~~え…っ?! ~~え、えと、そそそれはまだ……。……ほ、ほら、あたしのお母さん、ちょっと難しいから……堂上少将の実力は認めてくれてるみたいなんだけど、婚姻となると話は違うって……」
「あー…」
郁の言葉に、一筋縄ではいかない笠原夫人の顔を思い浮かべる。
郁の母はガチガチの昔気質で、女の子は家に籠って楚々として可愛いものに囲まれているものだという考えの持ち主の為に長らくずっと郁と確執があった女性だった。
郁の婿となる人物は高い身分と確固たる財力の持ち主でなければ認められない、と臆面なく吹聴していたことでも知られており(…その為、伯爵夫人の御目に叶う人物が現れなかっただけに、郁はまだ婚約者が居なかったとも言える)、手塚との婚約解消の際は『王位を継承して良き王になることこそが民意です!』と手塚の目の前で泣き落としにかかったと後になって聞いた。もちろん手塚は歯牙にも掛けず決意を貫き、挙句には『自ら宣言する以上は誰よりも自分が率先して一平民として生きるのが務め。舜国の為に、一生この身を国に捧げて無償で働くことになっても死ぬまで国の為に尽くす所存』とまで言い出して笠原伯爵夫人を呆れさせ、婚約解消を認めさせたと言う。
(『無一文になることを良しとするような男は、例え男気があっても娘はやれぬ』と笠原伯爵夫人が反吐を吐くようにのたまったなんていう噂がまことしやかに流れた程だ(……手塚に確認してみたところ、そんな言葉を面と向かって言われた記憶はない、と言っていたが苦笑していたから似たようなことは言われたのかもしれない))
そんな女性からすれば、一介の軍人にしかすぎない堂上は、郁の婿としては認められないと言うところか。
「そうね……。でも、郁のお母さんが認めるのも時間の問題じゃない? 今度の采国との貿易交渉が上手くいけば堂上少将も中将に昇進出来そうだし。外務相総監である笠原家の貿易交渉の警護を一手に任されている堂上少将の手腕はかなり評価されてるのよ。各国の要人に対する警備体制まで毎回抜かりなくやっちゃって――――堂上に丸投げで玄田大隊長は関わってすらないって緒形大将がぼやいてるらしいわ。防衛相総監としては、あれじゃあただの給料泥棒だって。……まぁ今はまだ国内がゴタゴタしてるし精鋭部隊はそっちの鎮圧に忙しいから、玄田大隊長もそっちの対策に知恵を絞ってくれてるんだけどね。国内紛争が小規模なものばかりで大事に至らずに済んでるのは玄田隊長や緒形大将、進藤大将のお蔭よ。……ほんと、そのお蔭で手塚も国政に専念出来てるんだから……。
今回の貿易交渉が上手くいけば、近隣の国々すべてと国交を結べることだし、外交問題は一山超えることになる――――そのタイミングで昇進発表があると思うわよ。中将ってことになれば、各相総監クラスの地位――――笠原外務相総監の娘のお相手としてまったく引けを取らない立場になるわ」
「へ? ~~そそそんな話、出てるの?!」
……まったく、麻子に集まる膨大な情報量に圧倒される。
「そりゃそーよ。新生舜共和国を世界が認めてくれたことになるもの。
――――堂上中将となって『郁を嫁に下さい』って頭下げに来られたら、郁のお母さんももう流石に渋る理由がなくなるわよ。笠原外務相総監と同格になるんだもんね。
大体、郁のお父さんは堂上少将へ絶対の信頼を預けてるってあたしの耳にも届く程なんだし、そうなったら後はトントン拍子じゃないの?」
「~~そ…そうだと……いいけど…」
ぽぉ…っと頬を赤らめた笠原が可愛くて、思わず抱き付く。
「ほぉんと可愛いー!! この可愛い郁を堂上少将が攫ってくのかと思うと、憎いわねあの朴念仁!」
「~~ちょちょ…っ、ああ麻子っ!」
「ああ悔しい~っ! どうせ昨日もキスされたんでしょ?! こうか?! こっちか?!」
「ぎゃああああっ?! ややややめて、麻子に迫られたらヘンな気になる…ッ!!!」
ガバッ!! と力ずくで引き剥がすのはいとも簡単。力では全然勝てない柴崎は、引き剥がされて剥れて頬を膨らませた。ジト目で郁を見つめる――――けど、美人はそんな顔でも、逆にコケティッシュで可愛いくしか見えない。まったく困った女だ。
「…………あーっそ。やっぱり郁はあたしより堂上少将が好きなのよねぇ…」
「いやいやいや! そーゆー問題じゃないだろ?! ってか、麻子だって手塚が居るでしょ――――っ?!」
「手塚は手塚。郁は郁。あたしはどっちでもキス出来るわよ」
「~~~~な、ななななにふしだらなこと言って……」
っていうか、そーゆー問題じゃなぁい! と唸る郁を見て、ふふっと面白そうに柴崎が笑う。
「あたしは郁みたいな純粋培養純情乙女じゃないのー。遊郭で生まれ育った女の子はね、もはやキスなんか刷り込みみたいに日常茶飯事なんだから」
「~~ああああたしは日常茶飯事じゃないから…っ、~~きき、キス、とか……その……」
その先のことまで口に乗せられる郁じゃない。
昨夜の呼び出しで――――触れるだけじゃない蕩け落ちそうなくらい熱く激しいキスをした堂上が、そのまま離れられないという態で強く抱き締めて来た。随分と長く抱き締められて――――溶け落ちそうになっていた脳でも抱き締められている、と理解出来たけれどどうしたらいいのかもわからず硬直していたら、ようやく力を緩められ――――郁の顔を覗くと甘く優しい口付けをまたくれた。
……ようやく最近、キスにも少し応えられるようになったばかり――――抱き締められた時はどう応えたらいいかなんてまだわからない。混乱しながらも優しいキスに安心して力を抜いたら、後ろ髪を引かれるように名残落ちそうに唇を離した堂上がボソリと「……今はここまでだな」と熱の籠ったような低い声で囁いて、その振動に身体の芯からトロリとしたものが滴り落ちたことに驚いた。
キスの先――――その先は、、、
一応郁でも、一通りの婚姻儀式の知識は頭に入ってる。
だけど、その先に進むと考えるだけで、なんだか身体が竦んでしまう……。
舜国では今でも昔からの風習に倣い、結婚するまでは男女は契りを交わさないのが常である。婚約と結婚が決定的に違うことの1つで、その為婚約だけでは一緒に住むことはしない。
それは別に『規則』や『法律』で定められていることではなく――――身体の関係になったからと言って罰せられることはない。ただの昔からの風習だ。
罰せられることはないけど――――だけど3日間同じ女と契った場合に関しては『婚儀』として認められることが慣習となっており、男は女を娶る責務を負う、との決まりはある。……この決まりに基づき、駆け落ちという手段で親が決めた婚約を解消することが出来ると言う逆手の方法もあったりするのだ。
周囲の目を気にせずに、なにがどうあっても婚姻を結びたければ、堂上少将にこの身体を3日間捧げればいい…。
なのに、堂上も無理強いはしてこなかったし、あたしもキス以上のその先までは、竦んでしまって自分から求めることはしてこなかった。
――――強行手段を取らない堂上少将に、あたしは甘えてる……?
ふと浮かんだその考えが、頭から離れなくて、昨日はなかなか眠れなかった。
堂上のことが好きだという自覚はとっくにあった。堂上が自分を女として見てくれる日がくるなんて思ってもみなかったけど、手塚が混沌を倒して新王即位となって数日後、ようやく意識を取り戻した堂上にしがみついて泣きじゃくったあたしを堂上少将は抱き締めて――――あたしはあの恥ずかしい台詞(修羅場の中、最後まで堂上と一緒に居たくて叫んだ台詞――――『本当ですッ!!! あたし…あたしッ、好きな人と最後まで一緒に居たいんです…ッッ!!! 』ってやつ)を思い出さされ、プチパニックになっていた状態のままにキスされて、両想いだったのだと初めて知った。そして堂上の境界線がプライベートで明らかに変わって――――2人きりの時には甘えてくれたり、キスしたりなんかもしてくれるようになったのだ。だけど、それ以上の関係にはまだなってなかった。甘くて激しいキスの先に何があるのか興味がないわけではなかったけど、それ以上のことは少し怖くて――――その先はまだだったのだ。
そんな中、ふと浮かんだ麻子と手塚――――相思相愛で婚約までしてるけれど、もう1年以上経つと言うのに、まだ2人は結婚していない――――
気付いて、聞いてみたくなったのだ。
「…………ね、その……、教えて貰ってもいい? ……どうしてまだ結婚しないの…?」
また話が振り出しに戻った。
麻子がまた小首を傾げるから、今度は畳み掛けた。
「だだだって! 2人は相思相愛で婚約までしてて――――後は式だけの話でしょ? いつでも結婚出来る状態なのに…」
「…いつでも結婚出来る状態だから、よ」
「え? どういうこと?」
「――――あたし達はね、何も持たない者同士なのよ。光は自らの権利や利益をすべて放棄して新国家樹立を宣言した。その身を舜国の為に捧げる覚悟で、今の体制を選んだわ。そしてあたしは――――生まれ育ちは遊郭で、その後ちょっとだけ巫女になれたけどすぐ非人となって生きてきた人間よ。……本当に何も持ってないの。
光はプロポーズしてくれた時、あたしを守って2人で生きていけるように頑張るって言ってくれてるけど、あたしは光のお荷物になりたくない――――光に面倒見て貰って、養って貰うだけの女にはなりたくないの。……ちゃんと自分の地位やそれなりのお給料を貰って、光と一緒に歩いて行けるような女でありたいの。
王として強引にあたしを妾にする道じゃなく、対等に歩んでいける関係を望んでくれた光だから――――そんな光に相応しい女にあたしはなりたいの。光と支え合って生きていけるような――――もしあたしがそんな女になれないのなら、あたしはあたしが自分で許せないし、自分で光の前から姿を消すつもりよ。
……あたしはまだ、あたしが光と結婚するに相応しい人間だと思えない――――だから、まだ結婚はしたくないの」
柴崎の言葉に、なんだか胸がジーンとした。……のに、柴崎ときたら急に悪戯っぽく笑うと持論とは真逆の考えを笠原に提案した。
「けど、笠原と堂上少将は早く結婚した方がいいかもねー」
「え…っ?! え、え、え、なななんでッ?!?!」
「だぁって。堂上少将のあからさまな威嚇視線の怖いことと言ったら…! 最近、あんたがどんどん綺麗になるもんだから、あの人の眉間の皺が凄いことになってるわよー。独占欲と嫉妬心で頭が禿げる前に結婚してあげた方がいいんじゃない?」
「えええッ?! いいいいつ、あたしなんか全然ーっ!!」
「いやいや最近のあんた、凄いわよ。この前、会議で王宮に来た時があったじゃない? あんた見て女ったらしの治水農産相の次官があんたに声をかけようとしたら、あんたが気付く前に堂上少将が「…笠原に用件なら上官である俺が聞く」なんつって――――どんな怖い顔してたのかしんないけど、次官ったら真っ蒼になって飛んで逃げてったわ」
「えええええっ?!」
「そーゆーワケ。あんたに辿り着く前に、堂上少将が握り潰してんのよー。見てた小牧少将なんか、腹抱えて笑い転げてたんだからね」
「そ…っ、」
「愛されてるわよねェ。まぁ昔っから、ずっとあんたへの想いを殺してきた人だから……障壁がなくなった今、想いを隠す必要もないワケだしね。――――純粋培養純情乙女のあんたとしては、でも、やっぱりお母さんからも祝福されたいなぁなんて思ってるんだろうし――――まぁ今度の貿易交渉が上手くいけば絶対大丈夫だろうから頑張りなさーい」
最後はハートマークまで付いてそうな柴崎の激励に、笠原は真っ赤になったままコクコクと何度も頷いた。

     *

「…………はぁ」
「どーしたの。色気振りまくような溜息吐いて」
「~~~~こここ小牧少将…ッ?!?!」
思わず仰け反って――――椅子から落ちそうになった手塚に、小牧が吹き出す。
「一応ノックはしたんだけど……悩み事?」
「~~~~ななななんでもありません…っ!!!!!」
「そう言われても、いろいろありますって顔してるよ?」
「~~~~そ…っ、そそそんなことよりッ…! なななんでしょう、用件はっ?!」
「ああ、じゃあ先に用件なんだけど。……急なんだけど明後日の夕方、須賀原財閥主催の博覧展レセプションに出席してくれる?」
「明後日ですか。……確か…3日後のセレモニーに俺は出席する筈ですが」
「セレモニーとは別口の、あくまで身内やお得意様だけのパーティーらしいよ。須賀原女史は手塚慧副宰相にどうしてもって猛アタックしたみたいなんだけど、慧副宰相が手塚も行くなら行ってもいい、なんて返事を返したみたいでね。急遽こっちにも頭を下げに来たよ。
……先日の独占禁止法制定に向けての協議で、随分と憤慨して退室したけど……手塚のお兄さんはよほどのカモなんだろうね。須賀原伯爵家と言えば舜国の鉱山を掌握してるから無下に出来ないし――――今後もなんとか話し合いの場には付いて貰いたいところだから、ここは1つレセプションに参加して、なんとか須賀原女史の顔を立てることで貸しを作っておきたいんだ」
「……なんだか、柴崎みたいな言い方ですね」
「うん、柴崎さんの入れ知恵だから」
「――――え?」
「……いやね、慧副宰相も悪ノリで、最初は柴崎さんが同伴してくれるなら行ってもいい、だなんて言ったらし…」
「ふざけるなッッ!!!」
ダンッ!! と机を壊しそうな勢いで叩いて立ち上がった手塚に、小牧が吹き出す。
「ジョーダンだよ」
「冗談のつもりでも相手がそう受け取らないこともありますッ!!!」
「……うん、まぁ……確かに柴崎さんへ打診が言ったみたいで、柴崎さんは『手塚副宰相とは縁も所縁もないですので』って断ったらしいんだけど――――須賀原女史が相当ごねたみたいだね。手塚慧に言えないことも、柴崎さんになら明け透けに随分と口を滑らしたらしくて――――新制度を良く思っていないらしいことや、舜国の経済界が今の新政府を見限ることだってあるんだよ、なんて脅しとしか聞こえないようなことまで言っていたらしいよ。……相手が柴崎さんだったから『ベラベラ喋ってくれたお蔭で、須賀原女史の経済界での裏の繋がりが見えましたわ。情報が本人の口から洩れるなんて、ありがたすぎて涙がチョチョ切れます』なんて笑ってたけど、――――かなり言いたい放題言われた感じかな」
……そう……やはり旧貴族階級の人間からすれば柴崎は非人上がりの成り上がりにしか見えず、身分の低い人間だと蔑んだ目で見られたり扱われることも多い。
もちろん、柴崎の情報収集能力を活かした政治手腕の凄さはメキメキと頭角を現していて、最近では柴崎への評価や見る目を変えるものも出始めてはいるが、政府関係者以外の人々にまではまだ見えていないのが現状だった。
「今はまだ、須賀原女史を敵に回すのは得策ではない――――と判断した柴崎さんは、慧副宰相とも相談の結果、手塚も一緒なら行く、ということで2人共落ち着いたらしい」
「…………つまり決定事項ですね」
「うん、まぁ…。手塚もそんなところに柴崎さんだけを行かすつもりはないだろう?」
「…それはそうですが」
……そんなことがあったからか、と昨日の柴崎の様子を思い出して、また溜息が零れる。
珍しく昨日は柴崎の方から手塚の部屋に来てくれたのだが、「……またあの人があんたをからかうかもしれないけど……所詮あの人はあんたのことが一番なんだから、変に勘繰って臍を曲げたりしないのよ?」なんて訳の分からない話をして手塚を不機嫌にさせた挙句、その憎たらしくも可憐な唇を塞いでやろうとしたら「…今日はまだ仕事が残ってるから」と逃げられたのだ。
~~~~ったく、俺と仕事とどっちが大事なんだよ?! なんて思わず口走りそうになって、そんな自分に嫌気がさした夜だった。
そんな手塚を優しい目で見つめ、小牧はゆっくりと口を開いた。
「――――で、こちらの用件は済んだよ。だから聞くけど、手塚の溜息の元はやっぱり柴崎さんのことかな」
「…………」
答えられずに黙り込んだ。
しばらく沈黙が流れて――――どうしたものかとまた溜息が出そうになって、慌てて取り繕う。
「……大丈夫です」
「大丈夫じゃなさそうだから俺も敢えて聞いてるんだけど。――――そうだなぁ、手塚はもっと自分の感情を柴崎さんにぶつけてもいいと思うよ」
「…………感情とか……別に……」
「結婚は? まだしないの? ――――手塚と柴崎さんが婚約してもう1年以上になるよね。最初は新制度の立ち上げでそれどころじゃなかったのもわかるけど――――そろそろ手塚としては一緒に居たいでしょ」
にっこりと笑顔で言われた言葉に、思わず視線を外して、少し自信なさ気に呟いた。
「…………結婚は一人じゃ出来ないんで…………」
女性なら抱き締めたくなるような手塚の雰囲気に、小牧の口元が苦笑に変わる。
「――――これは俺の見解だけど……手塚からもっと強引に結婚を迫ってもいいんじゃないかな」
小牧の言葉に、俯いていた手塚の顔が上がる。
そんな驚かせるほどのことを言ったつもりはないのだが。
「……無理矢理柴崎さんの元に押しかけろって言ってる訳じゃないよ。……多分、手塚のことだから柴崎さんがその気になるまで待つつもりなんだろうけど――――けど、柴崎さんの生い立ちを考えると口では大人ぶってるけど実際は彼女…………って、あ、ひょっとして手塚も童貞?」
「ななななななにいってるんですかッッ?!?!」
手塚の声が可笑しな具合に裏返る。
「……そーか……、…それで…それは…大変……」
ふいに小牧の上戸が発動した。
手塚は真っ赤な顔で仏頂面だ。
小牧は一頻り笑い転げ――――ようやく笑いを納めると、冗談めかして手塚に提案した。
「……ホントに手塚はもうちょっと強引に出てみたら? 結婚はまだ先にするにしても、婚前交渉まで我慢することはないんだよ。――――婚前交渉は罪じゃないし、むしろ身分制度のあった頃は上流階級に生まれ育った男なら15歳までに女性との契りを経験しておくのは普通のことだったしね。性行為のあれこれを実戦で覚える――――上流階級の女性は初心で処女のまま婚約者に娶られるのを良しとしていたから男性がしっかりしないと『結婚の儀』が果たされないなんていう異常事態になりかねないし、両家の繁栄を願っての婚姻でもあるわけだから子宝に恵まれないなんてことになったら大変だ。だから結婚前から性豪で名高い男ほど将来有望だと妻方の家系からは喜ばれたくらいだしね。
……手塚の場合は、幼い頃に精鋭部隊に入隊してしまったから、その経験がなく今まで来てしまったのかな。笠原さん以外は男社会だし――――流石にあの人達でも、安い女性を王子に進めるってことは憚られたんだろうし――――まぁ手塚の想い人の存在も薄々皆気付いてたからね。手塚が恋愛に関して生粋の『箱入り息子』だろうこともなんとなく。
……けど、でもまぁ……よく今日まで我慢してるなぁ。
精鋭部隊の頃は想い人の柴崎さんがずっと陰で身を潜めていたから、姿を見ることもままならなかったし会えるだけで満足してたんだろうけど――――けど、今は柴崎さんは手塚の婚約者なんだし、2人きりで会った時にはスキンシップとかないの? 好きな女性の可愛い仕草を見て抱き締めたいと思うのが男だし――――キスとか…あ、生命の受け渡し以外の『恋人のキス』の話だけど……まさかそれもまだ、なんてことはないよね?」
「……そ、そこまで…ではありません」
少し頼りなげな瞳をしながらも、そこはきちんと訂正する手塚に吹き出しそうになるのを堪える。
「――――でも、それ以上は手を出してない――――優しいんだか弱気なんだかって感じだね。
だけど手塚が無理矢理自分を抑え込んで我慢してるツケが、周囲の女性を酷く騒がしてるって自覚ある? なまじ身分制度を廃止したから王族の手塚に対してもひょっとしたら、なんて期待が出ちゃうんだろうね。最近の半端無い手塚の色気に、憂いを含んだ表情とか切なそうな横顔とかが女心を掻き立てるって――――今、宮廷中が持ちきりだよ。毬江ちゃんの耳に入るくらいだから……相当だと思った方がいい。…………あんまり凄いから、俺がこうして余計な忠告をしてるくらいだしね。
……まぁ多分、柴崎さんから【新生舜共和国が落ち着くまで】とか【自分が世間から認められるまで】は『結婚』に関しては待って欲しい、って言われてるんだろうけど、そこまで我慢する必要は…」
「なな、なぜそれを?!」
小牧のほぼ正確な言葉に、驚いて目を剝く。
「あ、図星? ……柴崎さんなら言いそうだよね。律義にまったく手も出さずに待ってるあたりが手塚だし。
けど――――溜まってるせいだと思うけど、最近の手塚の色気が半端なくてひっきりなしに女性が近付きに来てるって気が付いてる? これまで一番人気だった慧副宰相を抜いて今はダントツだって。柴崎さんならそんな噂もすぐ耳に入るだろうし……だから余計にギクシャクしてるんじゃないの? ……意外だけど柴崎さんって、自分に対して生まれ育ちが悪いって観念が強くて、そういう意味での自分には自信がないよね。
――――手塚と柴崎さんの場合は相思相愛なんだし、意向の摺合せもラクなんだから、あれこれ考えすぎないで手塚が強引に踏み込んでもいいと思うなぁ」
「……………………」
返事のない手塚に、苦笑する。
「……慎重だね、手塚は」

「…………柴崎は……俺と本当に結婚したいんでしょうか?」

零れ落ちるように口から出た言葉に、言った手塚本人が驚いたように慌てて取り消す。
「~~あ、いえ、……なんでも……」
心の中で驚いて――――でも、平静を装って手塚に向かって断言する。
「――――柴崎さんは、間違いなく手塚が好きだと思うよ」
言われて驚いたように目を瞠り――――視線を泳がすと俯いた。
でも染めた頬や耳朶の赤さは目に入る。
たったそれだけでも、絵になる仕草。
恋をする男の、色気の漂う横顔。
…………なるほどね、一番人気…………
今、国内で一番人気だと言われてるのもわかる。
女性であれば見惚れるだろう。
恋する女性は美しくなる、とはよく耳にしていたが、その言葉が男にも当てはまるとは!
恋する男性も人を惹き付ける――――手塚の場合は、相手のことを想っていると出来る“隙”のようなものがまた、女性を堪らなく引き付け庇護欲を掻き立てるんだろうな。……と妙なところに感心した小牧だった。



……To be continued.




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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

★ご明察★そして、相変わらず鋭い((((((^^;)

ママ様

番外編にもコメントありがとうございます!
そうなんですよねー、そうなんです。このお話のそれぞれの人物(国民の意識まで!)に対しての1人1人の立場や考えなんかにまで思いを馳せながら読んで下さったようで、本当にありがとうございます!!
そうなんですよね。
共和制になりました、手塚はもうただの人です。ってな感覚には当然ならない。
『御魂の巫女』として認められはしたけれど(麻子が『巫女』という職務に戻らなかったせいもあり)ただの政府関係者(しかも役はない身分)になった麻子に対してはやっぱり、非人だった女だし無名の女です。
そういう状況で、手塚と結婚までいっきに、という発想は麻子にはない、と私も思ったんですよね。
『自分がちゃんと手塚の相手として相応しいと認められるまでは…』という意識も強いと思います。あと、もう一つは、このお話の麻子は基本的に『自己犠牲』の意識が強いので、『手塚と結ばれて自分が幸せになる』という意識が薄いというのもあるかも。
…………と、書いてるのは私ですが、私なりにこのお話の麻子サン分析をしております(笑)
なので、手塚は小牧さんと同じくらいには本当はもう結婚までしておきたかった筈なんですけど、でも麻子の意思を退けてまで結婚する気にはならず…………で、その機会を逸してしまうと、どう話を持ち出していいのか今となってはわからなくなってきた感じですね(ややこしいな★苦笑)
郁ちゃんには、麻子の気持ちはわからないと思いますねー。堂郁のトコロは逆で、堂上さんなら麻子の気持ちがわかる筈です(苦笑)
そういう意味で、堂上さんも現在我慢中(笑)
でも、中将昇進になったらもう、引かないと思うけど(笑)。世間的にしっかりと認められて同格になるわけですし、もう遠慮はいらなくなりますからね!

ただ、一点だけ…………今はまだ言えないのですが、ママ様の推察が違ってるトコロがあるんです…………が、それはまたオイオイ出て来るので楽しみに(?)しておいて下さい。

攫われるのは、王宮は無理だと私は判断しましたー(笑)
国軍の配備もしっかりしてるので(しかも、玄田を筆頭に、緒形、進藤で内政の軍配備はしっかりなされているので)★
なのでなので、のこういう話に……。
須賀原さんは、私は実はあんまりよくわかってないのですが、結構自分の保身と自分の欲に流される人物だったような気がして採用(採用って……苦笑)。まぁ、すみませんがオリキャラ化するかもしれません。脇キャラまでしっかり把握するほど、読み込んでない自分が恥ずかしい……。このオバサンは、そんなに深い考えは持ってないのですが、自分が儲けることに関して貪欲な人、という感じになるかと(すみません、可能性だけの話で、まだ書いてません)
そういう意味で、商売をするなら、光相手ではなくて慧相手の方が儲かるんですよね!!
だって慧は『黄国の姫君』を奥さんに貰ってますからね、このお話では。身分も財力も安定の人材です(笑)
でも、ママ様も仰るように、慧は一筋縄ではいかないですけどね。
なので、須賀原さんのターゲットは慧が第一顧客なんですよねぇ…………まぁ、適当な須賀原さんを取り巻く環境があるので(私の頭の中の妄想設定です)、事件発生はそのあたりからなので、まだ誘拐までは全然見えない状況かと思います。。。。。が、そんな少ない情報の中も鋭くいろいろと考えて下さってて本当にありがとうございますw
私も参考にしながら(?笑)読ませて貰ってます(笑)
次回はまだレセプションまでは行き着かないと思いますが、次回のお話をいつ書けるかと今頭を抱え中です。
このお話を忘れる前には続きを書かねば…………忘れてしまったとしたらもう、身も蓋もない★
ただ、来週もお話は遅れそうです…………1週間よりもうちょっと見て貰わないと無理だと思われます…………亀更新ですみません。
そうそう、ようやく、完結31話の少将→中将に変更しました!(ついさっき……苦笑)
そして、今回の番外編も、堂上さんと郁ちゃんのくっつくあたりの回想(?)のあたりで文章がぶった切られていることに驚愕して訂正しました……。読んだ人達、あの文章ではわからなかった筈…………弄っていたあたりがおかしくなったまま保存してしまってたんですね、すみませんでした!
という、本当にバタバタな感じで日々過ごしていますが、なんとか手塚に柴崎を抱かせてあげるために(爆)、がんばりますよー!!!いやん、書きたいのに忙しくなるとかホント『ジレンマ』ですー!



ツンデレラ |  2018年05月27日(日) 07:42 | URL 【コメント編集】

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