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2018.05.04 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『1つだけの願い』~vol.29~

≪ 1つだけの願い~vol.29~ ≫背中の靴跡シリーズ

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新王となった手塚に命を救われた柴崎。手塚に告白された柴崎の心中は…。





【More・・・】

≪ 1つだけの願い~vol.29~ ≫背中の靴跡シリーズ


「……うわああああぁぁ…………、綺麗……。……柴崎、ホントに綺麗…………」

今日は、手塚の戴冠式。
聖剣による光のお告げが国中を駆け巡ったので、国民は既に新王即位については周知ではあるが、形式も必要だと言うことで、あの日から1週間後の今日、形式的な戴冠式が行われることとなった。
あたしは正装というものを持ってなかったし陰からそっと隠れて見ているつもりだったのに、玄田大隊長他いろんな人達(稲嶺大老までが口を添えた)がどうしてもあたしは出席しないといけない、と譲ってくれなかった。
「お前さんが、ある意味立役者だからな」と玄田大隊長なんかはニヤリと意味不明なことまで言う。
まったく困る。
挙句に、柴崎はこれだな、と用意されたのが巫女装束で…………あたしはもう非人です! といくら言っても、もう光の力も戻ったんだし構わない、と司祭や巫女達まであたしは巫女装束を身に付けるよう勧め、最後は押し切られてしまった。
…………巫女の正装なんて、身に余り過ぎて酷く恐縮する…………
もう二度とこの衣装に袖を通すことはないと思っていたのに。

だって光の力が戻ったって、もうあたしは非人なのだ。舜国民から一度でも抹消された身は、もう二度と国民にはなれない。非人はどう足掻いても非人なのだ。それが掟。

だから、【忍び】として光の傍に控え、陰から戴冠式を見守ろうと思っていたのに、どうしてもあたしを戴冠式のバルコニーに並ぶメンバーに入れると言うのだから頭を抱える。
バルコニーで光は、国民を前にして、初めての勅命を出すことになっていた(これを初勅と言っている)。
勅命は各王によって、それぞれ違う。王としての所信表明演説、公約のようなものだったり、これからの国のあるべき姿を示すような理想論だったり――――その為の最初の命令を下すことだってある。
…………光は何を話すのだろうか。……どんな話をするつもりなのか、あたしは聞いていない。
稲嶺大老や玄田大将を筆頭に精鋭部隊の一部の人達には意見を聞いたりしていたようだけど、あたしは敢えて光に何も聞かなかった。
だってあたしは――――あたしは、光がどんな道を選ぼうとも、進んでいく光を助けていければそれで良かったから。

巫女装束を身に付けて少し身だしなみを整えていたら、ふいに笠原が現れた。
あたしのことを凄く綺麗だと褒めてくれるけど、あたしは苦笑するしかない。
「…………借りものよ。あたしはもう巫女にはなれないから、所詮、偽りの姿だわ」
「えー! でも、柴崎はもう光の力を使えるじゃない!」
「光の力を使えることと、巫女であることは違うのよ。
……それより、あんたの方がすっごく素敵…………想像以上にチャイナドレスが似合うわねー。特にそのスリットから見えるあんたの御見足に男は釘付けね。来るまでに変な虫が付いて来なかった?」
「……変な虫? なになに、カメムシみたいなやつ? 背中に付いてる?」
「~~~~ぷぷっ、虫じゃないわよ」
「ええ?! 柴崎が虫って言ったじゃん!」
「そういう虫じゃなくて、男ってことー」
「男? 男の人は、堂上少将がずっとボディガードしてくれてたから……」
言いながらほんのりと頬を染めた笠原に、にんまりと笑みが零れてしまう。
「あれー? 流石ね、朴念仁の癖に大事なトコロは押さえてるわけだ。堂上少将が睨みを利かせてくれてれば、普通の男は寄って来れないもんねー。…………で、笠原の姿見て、あの朴念仁、なんて言ったの?」
「え?! え、えーっと……いや特に別に…………」
「いやいやいや、なんか言われたんでしょ? 似合うとかなんとか?」
「…え…えーっと……。…………その……、俺から絶対離れるな……って…………」
言いながら思い出したのか、笠原の顔がふにゃりと緩む。
――――あーもう、やってらんないわね、あの朴念仁!
笠原のこの感じからすれば、ちゃんと言葉にはしない癖に、そう言いながらあの朴念仁はきっと笠原を離さないように手とか握ったに違いない。

…………笠原の気持ちは知っているだけに胸が痛む。
だけど、笠原は――――手塚の許嫁、なんだよ…………?

ツキン…ッ、と痛んだ胸に目を逸らして、「…笠原、こっち来て。髪の毛も綺麗にしようよ」と声をかける。
笠原の髪でも上の方だけならお団子に出来るだろう。
きっと、チャイナドレスによく似合って――――それでいて、この子らしい可愛らしさも加わるに違いない。
手塚もきっと見惚れるような…………。

また、ツキン、と胸が痛む。

ううん、気のせい――――胸なんか痛んでない。
言い聞かせるように繰り返し、黙々と笠原の髪を纏める。
纏めながらも、ふと手塚の顔が頭に浮かんだ。

『…………俺、お前が、好きだから…………』

ドキン、と鼓動が大きく鳴って、思わず手まで震えた。
…………ドキドキして、少し顔が熱い。

…………違うわ…………あれは、あの時、…………光は体力の限界で…………意識が朦朧としてて…………

光は、自分の持てる光の力のありったけをあたしに注いだせいで、ぶっ倒れて意識もなかった。
様子を見に来た稲嶺大老や従者達に運ばれ、それから数日、光は床に就いていた。
あたしもその日は心配のあまりずっと光の傍で付きっきりで看病した。(もっとも、あたしも死の淵から光のお蔭で生き返ったような状態だったから、稲嶺大老にあたし自身の光の力を渡しすぎないようにと随分と制限されながら(とはいえ、あの時のあたしはあげたくても少しずつしか光の力も集まらなくて、少しずつしかあげることが出来なかったんだけど)、ずっと光に癒しの力を注いだ)。
今考えると滑稽な話で、つまり、光はあたしに力をくれ、その力をあたしはまた光に戻すっていう作業を時間をかけてしたわけだ。
光の看病をしながら、あたしはあたしの命が止まったところからの話を稲嶺大老から聞いた。
光の凄まじいまでの行動――――聖剣の本来あるべき光の力を甦らせたり、その聖剣の力に自らの力を加えて凄まじい浄化の力を発揮したりと、流石は御魂に選ばれし者の力だと、感嘆するしかなかった。
それだけの力をあの一瞬で使ったと言うのだから、聞いていて震える。あたしに光の力を注いだせいだけではなく、それだけの光の力を使って、よくぞ命が無事だったものだと、本当に敬服するしかない。その消耗や疲労がいかほどか想像も出来なかった。
光は、丸1日目を覚まさなかったから――――本当に心配した。
目を覚ましてもしばらくは、光も本調子じゃなくぼんやりしていたけど(あたしの手を握って、安心したようにまた眠ったりして)、そのうち意識もしっかりしてくると――――妙に熱っぽい瞳を向けてあたしを呼ぶから、あたしとしたことが、思わず逃げ出してしまった。

――――聞きたくない。
――――光の傍にいちゃいけない。

ただそれだけがグルグルと頭に渦巻いて、あたしは光を避けていた。
逃げる口実はいっぱいあって、戦闘で傷ついた兵士達も多かったから、巫女達に交じって彼らの看病に駆けずり回った。彼らの世話に追われれば、考えなくて済む時間もありがたかった。
光は光で、戴冠式やらこれからの舜国についての話し合いとか本当に忙しかったから、怪我人の手当てをしているあたしを召し上げてまで話をするようなことはなく、時折教会や医務室に顔を出してあたしを探す光を避けていたらなんとか今日まで顔を合わせずに済んでいる。
そう言えば光から逃げて隠れている時に笠原が来て、光と笠原の話を思いもよらず聞いてしまったこともある。
あの時光と笠原は、光が正式に笠原家に話をしに行く日程の話をしていて――――ズキリと胸が痛んだ。

…………そう……あれは、あの言葉は、たまたま魔が差したのよ…………ほら、あんな状況だったし、吊り橋効果っていうか、いろいろドキドキしたりもして…………だから、光もちょっとトチ狂ったこと口走っちゃっただけで…………

こんな風に時間があると、あの時の光の言葉を思い出してしまう自分が嫌だ。
あたしはもう非人だ。
一度抹消された人間は、二度と国民にはなれない。それが掟。
非人のあたしは、こんな表舞台に立っていい人間じゃない。

「柴崎? どうかした? 顔赤いけど、熱があるとか?」
「~~え…ッ?! え、ええ……だ、大丈夫。……ほら、あんたがあんまり可愛いから……ね、見惚れちゃったの……。こっちの髪型の方がチャイナドレスに映えるでしょ?」
「う、うん……、いやでも、なんかあたしじゃないみたい……」
頭の上にお団子をしたところに髪簪もつければ、可愛さと艶やかさが絶妙にブレンドされる。
男ならもう、笠原以外に目はいかないだろう。
誰よりも美しく清楚に可愛く仕上がった。
あたしは自分のやった仕事に大満足しながら、笠原の唇に艶を付けた。
うん、完璧だ。
「最高に綺麗…………笠原は素材がいいんだから、もっと自分に自信持ちなさいよ!」
ふふ、と笑ったら、控えめなノックがして、返事を返す。
カチャリと扉が開いて――――入って来た人を見て、思わず一瞬息を呑んだ。
――――光――――しかも、正装で、もう完璧な王子様だ。
引き剥がすように視線を外して俯いた。
…………一瞬だけ合った視線の先で――――なぜか、笠原でなくあたしを見た光の目が驚いたように見開かれたのを視界の端に見た。
…………その視線をずっと感じる。

…………やだ…………なんで見るの……。

笠原のチャイナドレスの方が素敵だ。
可愛いのにサイドの深いスリットからは艶やかな色気も見え、――――いつもの笠原の魅力に新たな笠原の魅力を付加して、存分に笠原の魅力を引き立たせてる。
笠原の方に絶対に目が行く筈なのに、なんで、よりによって…………。

なのに笠原ときたら、まるで無頓着に手塚に話し掛ける。
「おーっ、手塚も正装じゃん! ……あんたって、そういう恰好させたら、ホント男前だねー。……って、せっかく褒めてあげてるのに、あたしの話聞いてる? 手塚ってば柴崎に見惚れすぎ」
「~~え…ッ?! な、なん…なに言って――――……俺はただ……その、今日は絶対麻子が逃げ出さないようにって迎えに…………」
「あー……もう時間?」
「いや、まだ早いんだが、人の集まりが凄いからもう始めた方がいいんじゃないかって――――確かに王宮前の広場どころか、あちこちの高い塔の上にも人々が乗ってる姿が見えて、危険でな」
「そうなんだ。――――じゃあ、はい、」
ふいに、グイッと笠原の手があたしを手塚の元へと引き寄せる。
「~~~~か、笠原…っ!!! え、え…えっとあたしッ、あたしは……ッ!!!」
情けないことに声が上擦る。
なのに、あたしの手を、光ったら躊躇なくグッと掴んだ。
有無を言わせない光の強い視線を感じる。あたしは狼狽えて視線を彷徨わせていた。
「麻子は初勅の間、俺の後ろに控えてて貰うから。聖剣を持って貰うかもしれないし」
「~~~~え…ッ?! せせ聖剣…聖剣なら、笠原に……っ」
「笠原とはもう話は付いてる」
「そーそー。あたしはこういう時の『しきたり』とか全然知らないからさー。柴崎の方が適任なのよ」
ニヤリと笑いながら事もなげに言う笠原に反論しかけたのに、あたしを無視して笠原は手塚に話しかける。
「それよりさー。手塚ってば…………こんな話より先に、柴崎に言わなきゃいけない言葉があるでしょー!」
「~~~~な、ななんだよ…」
「ほらー! この柴崎のすっごく綺麗な姿見て、なんとも思わないの?! あるでしょ、言うべきことが!」
笠原の言葉に、思わずあたしと手塚が同時に口を開いた。
「~~なっ、笠原…ッ」「~~きき綺麗すぎて…っ、こんな綺麗で……言葉なんか出るか…ッ!!」

「「……………………」」

思わず互いの目が合って、言葉を呑み込んでしまう。
顔が熱い。
気まずい雰囲気を笠原の明るい笑い声が救ってくれる。
「そっかそっかー! ホント柴崎綺麗だもんね! 同性のあたしでもドキドキするー」
「~~な…っ、あああたしなんかより、笠原の方がずっと……っ」
言いかけた言葉は、光の熱っぽい視線に狼狽えて視線と共に彷徨ってしまった。
グッとまたしっかりと手を握られて、手塚が歩き出すから慌てて足を動かす。

…………いやだ、ほら…………気まずいじゃない…………。

モヤモヤした感情が胸に渦巻いて、なんだか泣きたくなるような気もして、チラリと顔を上げた。
見えた後ろ姿の手塚――――その手塚の耳や首筋が真っ赤だ。
手塚は振り返らず――――でも手だけはしっかりと繋いで歩いてゆく。
――――それを見て、なぜだか、少しだけ落ち着いた。
王宮の長い廊下がありがたい。

バルコニーへと続く広間に着くと、怪我を負った進藤が真っ先に声をかけて来た。
「おう柴崎。この前は手当て、サンキューな。お蔭で治りがめちゃくちゃ早ェ…もうほとんど傷口は塞がったよ。お前さんがまさか伝説の巫女だったとはなー。お前さんと小牧の嫁さんのお蔭で、悲嘆にくれる筈の負傷者達の士気が急上昇でよ、『女神と天使、降臨』とか言われてっぞー。お前さんらに治して貰えるのなら、何度だって戦えるってよ」
「良かったです、でも、傷口が塞がったからって急に無理すればすぐにパックリと開きますからね。しばらくは安静を心掛けて下さいよ」
「わかってるって。…………ってか、小牧、手塚、怖ぇよ」
「…………柴崎さんの人気が凄いとは聞いていましたが、まさか、毬江ちゃんまで?」
「そりゃぁそうだろうよ。お前さんだって嫁さんの可愛さは自慢だろ?」
「そりゃあ可愛いですけどね、他人に騒がれるのは面白くない」
「…………お前なぁ……ひょっとして次回からは天使とバディで治療に回るつもりじゃ……」
「もちろんですよ、彼女には俺が居るってことは、皆に知っておいて貰わないとね」
ニッコリと微笑んでいるのに、小牧の笑顔が怖い。
進藤は話を逸らすべく、手塚と柴崎の後から部屋に入って来た笠原と堂上へと話し掛けて誤魔化した。
変わって、玄田が豪快に笑いながら手塚に声をかけた。
「逃げられないようにしっかり確保か。手塚も結構やるじゃないか」
言われてハッと我に返る。
柴崎の小さな手をしっかりと握りしめたまま、まだ離さずにいたのだった。――――見る間に二人して顔が赤くなる。
慌てて離したものの、酷く名残惜しかった。
「――――今日は、手塚にとってのみならず、舜国にとってかけがえのない大事な日だからな。……柴崎、お前さんも俺達と同じく手塚を守り、後見する一員だ。手塚の地盤を固める為にも国民に知らしめねばならん」
「~~~~っ、でもあたしは忍びで――――…」
「稲嶺太尉の一番弟子だろうが。稲嶺太尉はこれからの手塚にとっては一番の相談役――――丞相(じょうしょう)の立場に就くことがほぼ決まってる。それにお前さんは常に誰よりも手塚の傍に居る人間だろうが。公式な場ではその姿を見せねば傍に控えることすらままならんことだってこれからは増えるだろう。今日がその手始めだ。だから、逃げるんじゃねぇぞ」
玄田野太い声でそう言うと柴崎の肩を軽く叩いた。
随分と手加減された筈なのに、その玄田の力に柴崎は僅かに顔を顰める。
ぐるりと広間を見渡せば、玄田大隊長を筆頭に、緒形大将、進藤大将、堂上少将、小牧少将等、精鋭部隊の中核も揃い踏みだった。
稲嶺大老も。笠原も。
だが、貴族の数は少ない――――やはり手塚の後ろ盾が少ないせいだろう。
最後に今、車椅子を侍従に押されて手塚慧までもが入って来た。
慧は柴崎を見るなり、ニコリと声をかけた。
「――――麻子。式典が終わったら、俺にも『癒し』を頼む」
「~~~~もう身体は回復しただろ…ッ!!! 後はもうリハビリで十分だッッ!!!」
瞬時に手塚が噛み付いた。
どうやらこの1週間で、兄弟の関係もくだけてきたのだろうか。
手塚の雰囲気が、『普通の弟』と変わらなくて、柴崎をほんわりした気分にさせた。手塚本人は苦虫を噛み潰したような顔になったが、兄に物申せる関係になったことは、これからの手塚にはいいことだろう。
ずっとずっと慧殿下に一目を置き、兄には敵わないと思い続けてきた手塚が、こうして随分と強気に出ることが出来るようになったのだから。
慧が最後だったらしく、玄田が手塚を促すように見た。
手塚は表情を改めると、聖剣を静かに引き抜いた。
手塚の後ろに玄田隊長と稲嶺大老が控える――――と思ったら、稲嶺大老に「麻子」と呼ばれる。

…………え…………

そんな、玄田隊長、稲嶺大老と並んで手塚のすぐ後ろに控えるなんて恐れ多い…………と踏み出せない足。だけど手塚までもが振り向いたから思わず後ずさってしまう。
だけど、あたしの背中を押すように緒形と進藤があたしの両脇を固めて、逃げられないように封じた。
手塚が颯爽と近づいてあたしの手を取ると「行くぞ」と呟き、手を引いた。
動かない足が縺れて躓きそうになるのを手塚が支えると「往生際が悪い。……抱いて行くぞ」と本当に手を伸ばしてくるからまた慌てた。
「~~な…ッ、ちょちょ…っ、じじ自分で歩けるッ!! 歩けるわよ…ッ!!」
「――――うん…」
ふわり、と柔らかくなった手塚の目元にドキリとする。
手塚はあたしの手を離すことなく歩き出した。
「~~~~ちょ…っ……、手塚、てて手を……っ……」
必死に言うのに、まったく聞こえないように頓着せずにバルコニーの前へ。
従者が扉を開けると、眩い太陽の光が射しこみ――――凄い歓声が上がった。
世界が揺れるかと思う程の、大歓声。
手塚は躊躇なく、バルコニーへと進む。
…………城の前の通りだけでなく、遠くまでずっと続く人々の波で街が人で埋め尽くされているかのよう…………。
あまりの光景に怖気づきそうになる。だけど、竦みそうになる足は、手塚の手があたしの手をギュッと握り締めて引っ張るから前へと動くことが出来た。
バルコニーの中央辺りで、手塚が歩みを止める。
茫然と景色に見入っていたあたしに、「……ここで見てて」と言うと、手を離した。
酷く心細い気がしたあたしの横に、すぐに玄田隊長と稲嶺大老が並んでくれて、ホッと息を吐く。
見ればズラリと手塚を囲むように、手塚の後見となる人々が並ぶ。
そして。
ゆっくりと手塚が、バルコニーの最前まで歩いてゆく。
「いつの間にか生意気になったものだな」と慧が愉快そうに呟いた声は、また一際大きくなった歓声に掻き消された。
凄い人の群れが手塚に集中して手を振っている。
「聖剣の御触れの威力はスゲェものだ」と玄田が言い、「国民にとっては、まさしく神の声そのものだったでしょうから、そんな王の戴冠式ともなれば国民にとっても特別です」と稲嶺が穏やかに応える。

大歓声がようやく少し引いたところで、手塚が聖剣を掲げた。
すると太陽の光が吸い込まれるように聖剣に集まり、眩い輝きを放ち始めた。
あまりの荘厳さに、皆が静まる。
ゆっくりと手塚は口を開いた。
手塚の言葉を、聖剣が国民1人1人の元に届ける。――――国中に手塚の声が光と共に降り注ぐ。
先王の偉業への敬意と尊敬、そして今は亡き父王への哀悼。
先王の死について、深くは言及しないものの【闇の影】の存在は匂わすような表現で、聞き入っていた国民達が息を呑んだのがわかった。だがその闇は、舜国の宝である【御魂】と【聖剣】の力によって浄化され消失したと宣言されると国中に拍手が沸き起こった。
伝説の神器【御魂】と【聖剣】の力に、舜国民のすべてが喝采を上げる。

――――舜国新国王に、先王が次男、我、手塚光――――【御魂】と【聖剣】に認められし。

堂々とした光の宣言に、国土が揺れたのではないかと思う程の国をも揺るがすような歓声が沸き上がった。
あまりにも眩しい光(ひかる)の背中に、柴崎は思わず目を細めてしまう。
光があまりにも遠い場所に行ったのだと、今更ながらに実感が湧き上がる。
…………あたしの手の届かない、遠いところへ――――
なぜか胸が締め付けられるような気がした。

熱狂の嵐が吹き荒れ、その興奮がようやく少し落ち着いたところで、ゆっくりと手塚が口を開いた。
よく通る声。
はっきりと宣言する。

――――そして【御魂】と【聖剣】によって導かれし王の歴史は、我をもって終わる。

……………………え……?

手塚の言葉が理解出来ずに、柴崎の思考が止まる。
国民達も同じらしく、隣の者と顔を見合わせ、怪訝な言葉で囁き合った。

…………な……どういう…………?

あまりに眩しく感じていた背中を凝視していたら、ゆっくりと光が振り向いた。
驚きに目を見開くが、光は穏やかな顔であたしに近づくと、腰に腕を回して支えるようにして、また国民の前に立つ。
あたしは混乱したまま、茫然と光を見つめることしか出来なかった。
光は国民を見渡すと、ゆっくりと口を開いた。

――――我を導きし【御魂】は今、我の愛する人の【命の光】なり。

国中に響く、光の声。
さっきまでの歓声はどこにやら、舜国は静まり返って手塚の言葉を待っていた。
国民の視線を静かに受け止め、手塚はわかりやすく話し始める。

――――先王を滅ぼした闇は、我に『闇そのもの』になるよう刃を向けた。
その刃の前に立ち、その身を犠牲に我を守りしは、我の愛する人だった――――。
…………彼女は闇にその身を貫かれながら私を守ってくれた。
闇にその身を喰らわれ、貪られる狂気のような激痛の中――――彼女は最後まで私の幸せを願い続けてくれた――――その心が私を闇から救い、闇を祓いし【聖剣】の力を我に与えたのです。

「……言うねぇ」と進藤が愉快そうに笑う。「小牧、お前さんの入れ知恵か?」
「あんな、単刀直入に言え、なんて言ってませんけどね。流石の俺も、まさか手塚がこんな国民すべての前で大々的に【愛の告白】に踏み切るとは思っちゃいませんでした」
と小牧が笑いながら答える。
「まぁ本当の話だからな、余計に凄い。…………まさしく現実は小説より奇なり、だ」と緒形までが呟く。
国民は手塚と、手塚が抱き寄せるようにしている小さな美しい巫女に注目したまま、固唾を飲んで話の続きを待つ。

――――【御魂】は、絶命した彼女の身の内に入り、今尚、彼女の中で輝き続けています。
    【御魂】は彼女の命となったのです。

そう言うと、手塚は手にしていた聖剣を空高く掲げた。
するとそれが合図のように、柴崎の胸元(昔呪詛の痕があったあたり)が呼応するように輝いた。
御魂の輝き――――……
国民からざわめきが起こる。

――――彼女は幼少の頃、巫女でした。けれど、その時も私を闇から守るために闇の呪詛に冒され――――国籍を奪われ、非人となりました。
それでも彼女は闇に冒されながら、忍びとしてずっと私を守り続け――――最後は私を庇って、闇の牙に貫かれて絶命したのです。
完全に闇と化した彼女――――その彼女の中で【御魂】は輝き、彼女の命となりました。
【御魂】と共にある光強き者――――【御魂】が最後に選んだのは、彼女です。
非人である、彼女だったのです。

――――これは、何を意味するのか――――
    
――――ずっと考えていました。
    【御魂】が輝いてから、もうずっと…………。
    どうして私の御魂が輝いたのか、と、ずっと自問自答を繰り返しました。
    私にはわからなかった――――私よりも光の力の強い人はたくさん居て、私よりも博識な人も、勇猛果敢な人も、富豪も、他国の情報に精通した人も――――世の中には私よりも素晴らしい人は溢れんばかりに居る。
帝王学に秀でると言うなら兄の方が上だ。なのに、私が王になると言う…………。
    私は王族であり、光の力は強いと言われていますが、それもこの彼女より力は劣ります。
    王族は神ではない。…………そして私は何かに突出した人間でもない。
    なのに、私が王になるという…………。
    ずっとわからなかった――――なぜ、私なのか、私は王になり、国をどう導き、どうしていきたいのか――――。
   ですが、御魂が彼女の命となり、王族のものでなくなったことで――――私にはわかったのです。
   なぜ、私が選ばれたのか。 
    私が為したいこと。私が目指す舜国。
    【御魂】と【聖剣】は、私を、舜国を、新たな時代へと導いてくれたのです。

そう言うと、手塚はしばし、息を整えた。
威風堂々と、国中に響き渡る声で宣言する。

――――我は宣言する。
これより、舜国は君主制度を廃止し、舜共和国と為す。
これは、初勅である。

手塚の声が国中を駆け抜け――――その宣言に、水を打ったようになった。
こんなにたくさんの人々で埋め尽くされていると言うのに、広場はシーンと静まり返る。

人々が言葉を理解するには十分すぎる程の時間を待って、ゆっくりとまた手塚が口を開いた。

――――今こそ、舜国の為に国民一人一人がその力を結集し、未来への確かな一歩を踏み出す時――――
    舜国は今より、『王』という『個』の小さな殻を破り、皆の叡智を結集し『新生舜共和国』として新たな第一歩を踏み出す。
舜国は、舜国民の国である。
すべての王族、貴族、平民、非人は、等しく舜国民である。
舜国を想い、舜国を愛し、舜国の発展を願う同志である。
舜国繁栄の為に知恵を出し合い、肩を並べる仲間である。
よってここに宣言する。
初勅敢行のため、以下の3つのことを推し進める。
一、 王政の廃止。
一、共和国国家の樹立。
一、身分制度の撤廃。
これらに困難を伴うことは重々承知している。
その為に必要な措置は、随時行うこととなろう。
だが、舜国の更なる国家繁栄の為には、この一歩を今踏み出さねばならない。
いつか、ではなく、今が改革の時なのだ。

そこまで言うと、手塚は一旦口を閉じた。
だが、国民はまだ静まり返っている。
隣の柴崎も、瞬きも忘れて手塚を見つめていた。
ゆっくりと息を吐くと、手塚は少し柴崎を見た。そして、僅かに困った顔をし――――それからまた決意を込めて顔を上げ、国民を見据えた。

――――改革の志の証に、我は本日をもって、身分、財産を一切放棄する。
王家の財産は、すべて新生舜共和国樹立の為に必要な予算に当てるものとする。
当面、我が『国家元首』の地位を預かるが、体制が整い次第その地位は議会へ返還する所存。
我は、舜国の為に忠誠を誓う。
我のすべて、我の全身全霊を『新生舜共和国』の為に尽くすことを誓う。

――――舜国は、国民による国民の為の国民の国である。

――――【御魂】と【聖剣】の光に導かれ、神のご加護の元、『新生舜共和国』は今ここに生まれる。
    国民の声、希望、夢――――それが舜国の未来である。
我ら一人一人が進む道――――それが舜国の未来なのだ。
諸君の力を輝く未来へ――――我々が望む未来へ、共に繋いでゆこう。

……手塚の凜と通った声が、舜国中を駆け巡った。



……To be continued.



********************



…………長い…っ! もうちょっと先まで書きたかったのですが(手塚の初勅を受けての柴崎の心中まで)、そこまで書くとなるともう1週間はかかりそう……というわけで、ここまでで切らせて貰いました……ごめんなさい、ホント中途半端で。(((((((((°Д°;)
意味がわかるように書いたつもりですが、わかって貰えたでしょうか……(大汗)
手塚は、新王即位の戴冠式で、『王制を廃止し非人を含む国民のすべてを平等にする』と宣言したんです。
手塚が、混沌との戦いで見出した【自分が王に選ばれた理由(自分が理想と考える国のあり方)】は、【王制を廃止すること】【身分社会をなくすこと】 だったんです。幼い頃からずっと麻子と一緒に育った手塚だからこそ、ずっと麻子と一緒に居たいと思った手塚だからこそ、【王】という【身分】を持つ自分に疑問を抱いたんじゃないかなって思います。そして、10歳から所属した精鋭部隊のあり方や、その中では自分がまだまだな存在で、自分より大きな器の人達がたくさん居ることを知ったこともまた、要因だと思います。

さぁ、そこまでの覚悟を示した手塚に、次回、柴崎はどう応えていくのか。

----ってところで、ちょっと気付いたことがあって。
このお話の柴崎って、処女なんですよ?!(爆☆いきなりの話の展開…笑)
処女柴崎を抱く、童貞手塚が書ける唯一の絶好のシチュじゃないの?!と(笑)
でも、そこまで書くと、まだまだお話は続くことになっちゃうから、【麻子、大人の女になる】編を、番外編として書きたいなァ…なんていう欲望が湧きまして。
今更、番外編にしなくても十分長い話なんだからこのまま書いちゃえば、と言われそうですが、このお話の根底は
【柴崎が手塚を守る話】
なんですが、ふと降ってきた脱処女へ繋がる事件は別冊Ⅱを模したような【手塚が柴崎を救う】シチュエーションからの【上書き】で。
これまた、『……うわ……読みたくない、そんな話』と、読んで下さる方が減りそうな話展開を思い付いちゃって、本当にどうしようもないヤツです……。
まぁもういい加減、今回のパラレル話で、大分読者様からは見放されたので、この際このお話は私の好きに書けばいいかなって思えて来たし、もしそんな展開の話でも読みたいと思ってくれる人が居れば、その人だけでも読んでくれれば……。

というわけで、番外編が降って来たので、それを忘れないためにも本編は頑張って終わりに向かって直走りますっ!!!
ようやく、完結が見えてきましたね~~:*:・(*´∇`*)・:*:









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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

★楽しんで……いただけるように頑張ります(((((^^;)

りんご様

ときめきますかぁ?
う、嬉しい…w(密かに、とても嬉しい…)
今回の回は、結構固い言い回し多くて楽しくないかなって回だったのですが、私的にはどう手塚の心情を表現するかですっごく時間のかかった回だったので、その回を楽しんでいただけたことが、す~っごく嬉しいです!!
ありがとうございますww
GW、ようやく終わりましたよ~!
ある意味、ガンバロウweek(苦笑)ですから。
子どもの為に、ちょっとは遠出もしないといけないし、親はいろいろ気ィ遣うんですよ((((((--;)
りんご様もGWお疲れ様でした!!

番外編、楽しみにして下さるの、嬉し恥ずかしです~♪
でも、柴崎女になりま~す、は、番外編の本当に最後の最後でしょうから、前半はこれまた面白くない話になると思いますが、最後に美味しいモノが待ってる!ってことで、どうか楽しみにしながら読んで貰えたら……いいなぁ……(希望的観測)
でも、処女柴崎は、是非とも女にしてあげたい(//∇//)
ので、ホント、こうやって楽しみにして下さるりんご様が居れば、頑張って書こうという気分が盛り上がるので、本当にありがとうございますww
いつも、タイミングよく励まして貰って、本当に力が湧きます(*^^*)
ツンデレラ |  2018年05月07日(月) 17:25 | URL 【コメント編集】

★……です。

ママ様

いろいろと考えながら読んで貰って、ありがとうございます!
そうですね、身分制度の廃止もアリだったかもしれませんが、王制廃止でした。
王としての器のある人達が指導してくれる王政は、国を大きく発展させてくれるものですけれど(決め事は独断で出来るので早いですしね)、肝心の王が乱心された時は最悪な事態になることを学んだんじゃないですかね…?
舜国は良く出来ていて、(ファンタジーですから)御魂が王の器である物を選ぶ、ということで、そこでの選別があったために王政でも良き王がずっと君臨していたんですけれど、王になった後にもし、混沌みたいなものに王が乗っ取られたらそれこそ一大事……ですから。
というわけで、手塚の一大決断(もちろん、稲嶺や玄田始め、手塚はちゃんと周囲にも相談していましたけどね。……慧にも(笑))を受けて----私も、柴崎は手塚に食って掛かると思います(笑)
珍しく手塚が柴崎のはるか上の行動を取った事例(笑)

> まさかの王制廃止。これから大変だよね。
そうなんですよねー。本当にこれからが大変なんです。
なので、手塚と柴崎は、もちろんハッピーエンドなんですが、結婚までには2年くらいかかる予定です(もちろん、そこは細かくお話には書きませんが(笑)。そこを一部番外編にしたいな~と思っています)。
手塚も柴崎も、とにかく、国を安定させることが最優先、ということはしっかりとわかっていますからね(一応、図書戦でもきっての優秀な2人ですから(笑))。

> 命令される事になれてる国民に自分の事を自分で考える事を教えなきゃいけない
そうなんですよねー。
ここが本当は一番難しい……、まぁその辺りは詳しく書きませんけれど、本当にこれからの手塚はこれまで以上にしっかりしないといけないことになります。まぁ優秀な兄が、いろいろと助言をくれると思いますけどね。共和制ですから、慧ももちろん中核に入って来ますし。手塚はきっと、いろんな人の考えを聞いた上で決断していくでしょうね。
……ところで、[花咲ける青少年]のお話を知らないのですけれど、こういう『自分のことを自分で考えて行動する』ということが出てくるんですか?
ママ様のコメントを見てwikiを見てみたのですが、ちょっとそういう話だということまでは読み取れなくて残念でした。
それとも、王でなくなって、平民と結婚するような話が出てくるのかな…………。
郁ちゃんとの婚約解消を一番手塚がスムーズに行うには、王制廃止が一番寿子さんを納得はさせられるかな、と思います。
とりあえず、手塚との婚約解消は、事前に手塚が笠原家に出向いて話をしていますし、寿子さんは今頃ぶっ倒れてるとは思いますが納得していると思います(笑。笠原家は、新舜共和国において、外交や経済については何かしらのポジションに着きます……という話が、手塚が婚約解消に頭を下げる時にもされています。……そのあたりはもう書くような展開もないので、この場で☆)
ただ、そのすぐ後に堂上さん……は、まだ無理なので(当たり前ですよねー。なんたって寿子さんですから(苦笑))、堂郁も、2人はしっかりともう心を隠さないことにしましたが、結婚までは大分かかります(笑)
大丈夫です、ちゃんと堂郁も最後はハッピーエンドにしますので。(もちろん、詳細をお話として書いてると長くなりすぎるし、ダラダラするだけになるので割愛はしますが(苦笑))
出来れば、寿子さんが納得しての堂郁の結婚になって欲しいですしね。(まぁ、結婚した後に、堂上さんに不満を抱くようなことはないと思うんですけど、寿子さんはなんだかんだでやっぱり、身分だとか経済力とかを重視しそうだからなぁ…)

ということで、次回……はまだ無理ですが、次々回くらいには終わりそう!
GWも終わり、家庭訪問期間も終わり、ちょっとはまた書く時間が出来ますように……!!!
ツンデレラ |  2018年05月05日(土) 06:42 | URL 【コメント編集】

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 |  2018年05月04日(金) 19:03 |  【コメント編集】

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