FC2ブログ

09月≪ 2018年10月 ≫11月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031
2018.04.27 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『1つだけの願い』~vol.28~

≪ 1つだけの願い~vol.28~ ≫背中の靴跡シリーズ

SD-magadama08.jpg

絶命する麻子の身に、王の証である御魂を封じた手塚だった。果たして慧との決着は、光は、麻子は…。





【More・・・】

≪ 1つだけの願い~vol.28~ ≫背中の靴跡シリーズ


俺の服で包みこんだ麻子の身体を、そっと床に横たえた。
兄――――慧を見据える。
兄の身体から黒い煙のようなものが立ち上っていた。
怒り、苦しみ、悲しみ、恨み…………負の感情が湧き上がっている。
闇を纏いながら、そこに兄は居た。
だが、兄の表情は静かで――――笑みさえ浮かべているかに見えた。
「――――俺が憎いか」
そう問われて、俺はゆっくりと立ち上がった。
静かに、兄を見つめる。
そのまま、手を掲げた。
掲げた俺の手に、さっき大広間を光に染め上げた聖なる光の源――――聖剣が、光の炎を噴き上げながら納まった。
「――――俺を殺して、玉座に就くか」
明からに、慧の口角が上がった。
酷く楽しそうな表情――――そんな兄の元に、1歩1歩、ゆっくりと歩を進める。
「…………そうだな、お前(混沌)は殺す。お前が居る限り、お前に染まった人々が死んでいくからな」
「――――憎いだろう? 俺を憎めばいい……」
そう言う慧の表情は、舌なめずりをしそうな程に蕩けた顔をしていた。
「…………そうだな、憎かったよ――――麻子をこんな目に合わせたお前を、兄を兄でなくしたお前を、父王を殺したお前を、心から憎いと思っていた」
1歩1歩近づく――――足取りと同じく、口調もゆっくりと落ち着いて返す。
俺の言葉に、慧は酷く嬉しそうに笑う。
くつくつと無邪気な笑い声まで上げて。
静かに兄の前に立った。
嬉しそうに俺を見る兄。
「ようやく、俺の元に来てくれたか。…………長かったぞ――――単純そうなのに、なかなかお前には手が出せなかった」
言いながら、兄から発せられた黒い煙が、一瞬で俺を覆い尽くした。
…………が、覆われたと思った時には光(ひかり)の炎に浄化された。
兄の表情が一転して苦悶の顔になる。
「~~~~な…っ……、……なぜ…ッ…………」
「…………憎いと思ってた――――確かに憎しみが心に湧いた――――だけど、麻子が、俺のそんな気持ちを浄化してくれたんだ。
麻子はお前を憎んでなかった。
最後の最後まで幸せだと――――幸せだったと、心からそう思いながら闇に喰われていた。
そして、俺の幸せだけを願ってくれていた。
だからわかったんだ。
幸せになる為に――――俺が幸せになる為に、皆が幸せになる為に、俺が何を為すべきか――――。
お前(混沌)は俺なんだよ。滅ぼしてもお前はいつも俺の中に居るだろう。俺だけじゃない、お前(混沌)は皆の心の中にも居る。それが【人間】だ――――迷って、悩んで、時に自分の選択を後悔したり、やり直したいと願い、時に自分を否定する――――でもそれは人間として必要な負の要素で、そうして苦しんで人は成長していくんだ。
――――けどな、妖魔として実体化したお前は、この世の毒になった。
元々は人々の負の感情が、お前を実在化させてしまったのかもしれない。…………お前の闇は強すぎるから、普通の人ならば憑りつかれたら間もなく死んでいくだろう。光を求めて、生命エネルギーを求めて殺戮を繰り返した者もいるかもしれない。…………お前は闇でありながら光を求めるんだ――――寄生してもすぐには死なない身体を手に入れるために…………まさに混沌だ。
もう何年もお前と共生している兄上だから、もうその身体には兄上の光の力がほとんど残ってない。
――――混沌、だな。闇であるが故に光を喰らい尽くし、寄生する宿主を食い殺してしまう――――実体化するための身体を手に入れれば、その宿主が死んでいのだから。
…………もう終わりにしよう。
お前(混沌)はいつでも人間の中に居る――――実体化する必要はない。だから――――……」

空間を切り裂く程の光が迸った。
攻撃圏内に踏み込んだ瞬間に、兄を聖剣で貫いた。
――――迷いのない、一撃。

次の瞬間、地割れのような呻き声が上がり――――混沌が纏っていた黒い煙が次々と光の中に消滅していく。
やがて、光が膨れ上がり、すべてを呑み込み――――視界が真っ白になる。

世界のすべてが、光に包まれた――――

     *

手の感覚もなくなり、折れた剣で必死に襲いかかる敵を薙ぎ倒し――――だけど、後ろから飛び掛かかられ組み敷かれた笠原が、振り上げられた剣を見た瞬間――――。
堂上が、体当たりで笠原の上に乗る敵を殴り倒した。そのまま敵の剣を奪い斬る。――――堂上の剣もとっくに折れ、肉弾戦と、こうして敵から奪った剣での応戦となっている。
堂上1人で、もはや数十人もの敵を薙ぎ倒していたのだが、立ち上がろうとした堂上の身体がふらついて崩れる…………必死に剣を杖のようにして身体を支える。
肋骨の折れた骨がずれたのだろうか、さっきから、息をするのも辛い。
「~~~~堂上少将…ッ!!!」
一瞬、影が通り過ぎ、笠原が敵を薙ぎ払った。
鉛のように重い身体を動かして、襲いかかってきた別の敵に応戦する。
「~~くそ…っ…、笠原ッ、この剣を使え…ッ!!!」
笠原に剣を渡した瞬間、敵の槍が肩に突き刺さる。
激痛――――だが、その槍を引き抜き、掴んだ。
血が噴き出ているが、構ってる暇もない。
その槍で2人倒したところで、左膝が崩れた。
必死に立とうと上体を起こしたところで、敵が襲いかかるのに槍で射抜く。
息も上手く出来ない。
霞みそうになった視界に、倒した敵の後ろから雪崩れるように続く敵襲が見え――――

と、笠原が目の前に立った。

「~~~~ば…か…ッ、逃げろッ!!!」
「逃げませんッ!!!」
「~~バ…ッ!!!」
「逃げませんッ、離れませんッ!!! 言ったでしょう、最後まで堂上少将と同じ景色を見るって…ッ!!!」
「~~な…っ…」
「死ぬ時は一緒ですッ!!! あたし、堂上少将と死ねるなら本望ですッッ!!!」
「~~な……、バカ言っ……」
「本当ですッ!!! あたし…あたしッ、好きな人と最後まで一緒に居たいんです…ッッ!!!」
言いながら襲いかかる敵の剣先を跳ね返す笠原の背中に、僅かに後れて堂上も立ち上がると、笠原を狙う別の剣先から笠原を庇うように引き寄せ、抱き締めた。

敵の剣先が襲いかかる――――

「…………な…に…?」

目を瞑っていてもわかる程の、光。
太陽が落ちてきたのかと思う程の、光。
辺り一面、真っ白の世界。
時間が止まったかのようだった。
何も見えないのに、光が膨れ上がったように感じた。
その光が吹き上がり――――
風の声が、国中に響き渡った。

新王、即位――――

殺戮を止めよ。
新王の命である。

身体の中に染み入るような王令に、戦闘中のすべての人々の動きが止まった。

やがて、光が少しずつ消え――――堂上に抱き締められた笠原が、惚けた顔をして堂上を見下ろした。
「……なん…………、…ひょっとして…………てづか…?」
「…………だろうな…………新…王……」
言いながら、堂上の膝が崩れたのを、笠原が慌てて必死で支えた。
「~~堂上少将ッッ?!」
気が緩んだのだろうか、堂上は気を失ったようだった。――――見れば、身体のあちこちに負った傷からの出血が酷く、顔にも血の気が薄い――――呼吸も酷く苦しそうで――――自分を庇ってくれながらどれだけ堂上が応戦していたのかを思い出し、慌てて笠原は応急処置を施し始めた。

     *

光(ひかり)の中、新王即位の命が、手塚自身にも聞こえた。

……こんな戴冠式は初めてだ。

恐らくは聖剣の声なのだろう、となんとなく理解した。
形式的な戴冠式ではなく――――古来の戴冠式は、こうして聖剣の声で行われたのかもしれない。
国中に光の声が木霊したのだろうことを、手塚はなんとなく理解していた。

聖剣の炎が、兄、慧の身体を貫いて混沌を浄化してゆく――――……
爆発のような凄まじい聖剣の聖なる光の力。

やがて、治まって来ると――――崩れ落ちそうな兄の身体を腕に抱いた。
聖剣を引き抜く。
聖剣が貫いていた筈だが、兄の身体には傷はない。
兄の容体を確認し――――衰弱しているものの、生きていることにホッとした。
「…………兄上」
少し荒っぽく頬を叩くと、兄の瞼が重そうに開いた。
「気付かれましたか……俺がわかりますか?」
「…………ひかる…………」
「……ご安心ください……混沌は浄化しました」
「…………すまない…………麻子は?」
「これから光(ひかり)を注ぎます。兄上の命甦丸、頂戴致します」
「…………麻子に……大丈夫なのか…?」
「おそらく…………俺の息吹を込めれば、御魂が守ってくれるかと」
そう言って笑った手塚の顔は、精悍な男の顔をしていた。
ふ、と慧が笑う。
「……我が弟ながら、抜け目ない奴だな…………それを盾に麻子を自分のものにするか」
「麻子は麻子です。そんなことで、俺のものになるような奴でもないし――――だけど、誰にも渡しません」
「…………それが言いたくて、俺を起こしたのか? 玉座も麻子もすべてを貰う、と……」
「いえ、それについては兄上の承諾は必要ないことだ。ただ、命甦丸を貰い受けることだけ承諾を得ようかと」
「…………嫌だと言ったら?」
「兄上に拒否権がないことを説明させていただくまで」
「……いつの間に、そんな根性の曲がったヤツになった?」
「周囲の影響です。……兄上も含めて」
「…………生意気を言うようになったものだ」
そう言って笑った慧の顔は、これまで見た中で一番穏やかな表情だった。
「……混沌に支配されていたとはいえ、お前にくれてやると言った代物だ。二言はない。お前の好きにするがいい」
慧に一礼すると、王宮で一番の従者に兄を寝室へ運び手当を命じる。
さっきまでは攻撃を仕掛けていた近衛部隊は、素直に手塚の命に応じ動いた。
急いで手塚は柴崎の元に駆け寄る。
稲嶺大老も傍に寄り、気遣わしげに麻子を見る。
――――闇に侵されていた黒い肌だった柴崎は、真っ白な肌の色に戻っていた。だけど、血の気はまるでなく、まったく生気もない。屍を前にした時と同じ――――絶望的とも思える状況ではあるけれど、闇の気配がなくなっていることだけが、微かな希望だった。
そう、麻子の身体の中で――――生命の光を全く感じない麻子の身体の中で唯一、微かに御魂の存在だけを感じる。…………御魂の力だけが、麻子の中にまだ残っているのだ。
「……凄い力ですね、御魂は――――御魂が麻子を守ってくれてます」
「…………ええ……、俺の御魂は、この為に光ったのだと思っています」
「光殿下が混沌を浄化したことで、麻子の闇の呪いも浄化されたんですね――――麻子を侵していた闇は、元々、混沌が付けた呪詛ですからね」
「…………これから……麻子を呼び戻します」
そう言って、兄の小さなロケットを手にした手塚に、稲嶺が首を振る。
「…………命甦丸をお使いになるのは止めなさい。――――今の麻子は、麻子としての光の力はもう尽きています。命甦丸の力には耐えられない――――混沌に支配されていた慧殿下も仰っていたでしょう、麻子の身体が吹き飛びます。…………命甦丸は完全無欠の薬ではないのです。むしろ表裏一体の――――光(ひかり)少なき者にとっては、強すぎる光が毒となり絶命させてしまうものです。だからこそ王族の、国王陛下と王位後継者にしか渡されないものなのです」
「~~ッ、……でもっ、では稲嶺大老の御力で――――」
「私の力では及びません」
「~~~~ッ!! ~~な…ッ、それじゃあ麻子は…ッ…!!!」
血の気が失せる手塚に、稲嶺大老が優しく微笑んだ。
改めて、稲嶺が静かに麻子の身体の中に潜む力を確認する。
「――――光殿下の――――貴方の『光の力』ならば、麻子を救えるかもしれません」
「…………俺…の……?」
「――――そう…………麻子の中に感じるのは、貴方の御魂の力――――麻子の中に居るのは、貴方です。貴方ならば、あるいは麻子も、光の力を受け入れるかもしれません。
…………麻子を呼び戻せるのは、麻子に生きたいと、生きる気持ちを呼び戻せるのは、貴方しか居ないのです」
「…………俺…………でも、……俺、光の力のコントロールは……」
「――――難しく考えなくていいんですよ。……麻子に命を注ぎたいと思う、貴方のその気持ちが、光の力となるでしょう。
…………それにね、貴方以外は麻子が受け入れるとは思えない――――ずっと麻子は、貴方を見ていましたよ。闇に侵されながら、地獄のような苦痛の中、生きることを選び、貴方を見ていた。今日まで生きてきたのも、貴方の傍に居たかったから……ではないでしょうか。…………貴方はね、貴方が思っている以上に、麻子の生きる力なんです」
「……………………」
思い出す。ずっとずっと、感じていた存在。
姿が見えなくても、ずっと誰かが見ていると、傍に居ると、守ってくれていると感じていた。
誰かもわからず、姿も知らないのに、だけどその柔らかで温かい存在を感じては、その人に会いたいと、会ってみたいと焦がれた日々。

ずっと……

ずっと、俺のこと――――俺を、見てくれていた。

その、麻子の想い――――その気持ちは――――…………

…………自惚れじゃないって…………想ってもいいか…………?

正面切ってそんなことを言えば、自惚れないで、と言われそうだ。
でも、聞きたい。
――――いや、その前に、言いたい。伝えたい。
俺の気持ち――――

「…………ここで私が出来ることはなにもないようですから、王宮を見て参りますね」
そう言って、稲嶺は近衛部隊に指示をし、稲嶺も従者も、広間の外に出た。
横たわる麻子と俺の二人きり。

…………戻って来い…………

麻子の傍に跪き、御魂の気配のする胸上で手をかざして、自分の中の光よ集まれ、と念じる。
だけど、何も起きない。
自分の身体の中にあるという光の存在もやはりわからない。
――――麻子に、もはや生気はまったくない…………。
何度も何度も自分の中の光を探り、何度も何度も生き返れ、戻って来い、と念じる。
何度やっても何も起きなくて――――焦燥感だけが湧いてくる。

何やってんだ、俺……っ!
今、ここで光のコントロールが出来なくて、なんの為の力なんだよ…………。

出来ない自分に苛ついてくる。
情けない自分に落ち込みそうになる。

今、麻子を救えなくて――――……

『――――光殿下は神にその身を捧げることが出来ますか』
ふいに幼い麻子の言葉を思い出した。
『……人には向き不向きがあります。光殿下は光の力をたくさん持っていますが、その力を神に捧げるつもりはないでしょう。正直、神に頼る前に自分の力でなんとか出来ると思ってる。――――そういう人は、光の力が全身に散らばるんです。自らの身体を使って何かを守ろうとする人は、身体全体に光の力が宿るんです。……全身に分散した光の力を感じるのは難しい……光の力を感じないのはそのせいですね』

泣きたくなる程の絶望。
やはり俺には出来ないのか、と思いそうになる。
自分の中に散らばる光の力を感じられない…………。
だけど、思い出す。麻子の言葉を思い出す。
『あたし達は、この身を神に捧げます。身体は神様のもので、だから自分の命の部分を光の力として感じます。その力を使うことが出来ます』

…………俺は、神にこの身を捧げることはしてこなかった。
…………神を信じる心はあるけれど、自分の身に降りかかることは、自分でなんとかしようと思っていた。

『…………苦しい時に神様に縋りますか? 光殿下は縋らないでしょう。自分の力でなんとかしたいと思ってる。自分ならなんとか出来ると思ってる。自分を信じてるんです。
――――ああ、こう言うとまるでそれが悪いことみたいに聞こえるかもしれませんが、それは決して悪いことじゃない。自分を信じることは素晴らしいし、それも勇気なんです。
光殿下は、神に身を捧げるよりも自分の力を信じてる。それはとてもいいことで――――光殿下にとってはその力を伸ばす方がいいとあたしは思います』

…………だけど今、俺は俺の力ではお前を救えない。
どうすればいいのかわからない。

後悔の念が湧く…………どうしてあの幼い日に、ちゃんと教えて貰わなかったのか、と。
自らに宿る光の力を操ることが出来なければ――――お前をこの世に呼び戻せないかもしれないというのに。

ぞわり、と悪寒が走った。
恐怖。
…………怖い…………。
お前をもしも失ってしまったら――――お前が消えてしまったら――――俺は…………。

不安に怯えそうになった時、また、ふと思い出した。
幼い日の自分の言葉。

『絶対、見つけるから』

あれは――――笠原と初めて出会った日に鬼ごっこをしていて麻子に嫌われたかもしれないと不安になっていた時に、その後のかくれんぼで麻子を見つけられなかった時だ。
見つからない麻子が、このまま居なくなってしまうんじゃないかと途中から心が押し潰されそうになって、無性に怖かった。…………笠原と泣きながら探したけれど、麻子を結局見つけることが出来なかった。
涙が止まらなくなって、巫女達にも頼って虱潰しに麻子を探し回ったら――――麻子が自分から出て来てくれたんだ。
見つかった麻子を抱き締めて、泣きながら麻子に誓った。
『絶対、見つける』
だけど、その気持ちは今も変わらない――――いや、今の方が強くなってる。

…………絶対…………麻子を見つける。

グッと丹田に力を籠める。
強い想いが、不安になりかけていた俺の弱さを振り払う。

自分の力を信じて来た――――俺が、呼び戻す。
――――この身に代えても、麻子の命は、俺が守る…………。

強い想いが、ゆっくりと湧き上がってくる。

この身も、心も、魂も、命も…………全部、麻子にやる。
俺の全部を、麻子に捧げる…………。
俺の命を引き換えにしても、麻子だけは救いたい。

俺の命を、麻子に吹き込む…………。

身体の中から湧いてくる熱い想い。
俺の中に、熱い想いが溢れて来る。

その想いに突き動かされ、かざしていた手を麻子の冷たい頬に添えた。
触れたい。
伝えたい。
衝動に駆られる。
麻子に、俺の全部を――――
命を。
息吹を。
…………覆い被さるように、麻子の唇に俺の唇を重ねた。
冷たい唇――――だけど、麻子に触れていることに、心が震える。
ずっとずっと、こうして、触れていたい…………。
自分の命のすべてを麻子に吹き込むつもりで、ゆっくりと静かに息を吹き込む。
俺の命を――――
俺の命は、お前と共に――――

何も考えなかった。
ただ、自分の命を、麻子の中に…………その想いだけ。
光の力とか、この身を捧げるとか、そんなことじゃなく、ただ、俺の命が麻子の命になることだけを念じながら。
息吹を吹き込むごとに、俺の身体から、感覚がなくなっていった。
こんな感覚は初めてだった。
だけど、吹き込む麻子の中は、空っぽだった。
麻子の中に、麻子が居ない――――吹き込む俺の命は、何もない空間で離散していく。

いや、絶対に、居る。

…………麻子……?

麻子を探す――――何もない麻子の中に、息吹と共に命を吹き込みながら、麻子を探す。
何もない麻子の中で、俺の命は虚しく消えてゆく。
だんだんと、息をするのも苦しくなる。
だけど、吹き込んだ息吹は、次から次へと麻子の奥へ奥へと…………最奥へと進んでゆく。
もっと。
もっと。
とにかく、なにもない麻子の中へと命を注ぐ。
感覚がなくなってきたのみならず、視界も暗くなってくる。
苦しいのも、もうわからなくなってきた。
闇が大きくなり、俺を包み込み始める。
なにもかもわからなくなって――――

ふと、真っ暗な闇の中に、小さな小さな光を感じた。

…………御魂…………の気配?

蛍の光のように、微かに灯って、それは消えた。
消えた……と思ったのに、また微かに点いた。
…………呼ばれている気がした。
…………待ってくれている気がした。
必死に――――消えかけるのを堪えて、必死に消えないように、微かな光を灯している気がした。

…………麻子。

その光に向かって進む。
麻子。
見つけた。
一直線に進む。
俺が進むと、微かな輝きだった光が、少しずつ光を増したような気がした。
ここだと。
俺を呼んでいるように光る。
――――俺を待ってくれてる…………
本当に微かで消えそうに点滅していた輝きが、少しずつ強くなり――――いつしかその小さな光は消えることもなくなり、むしろ、強く輝き始めた。
気付けば、明るく眩い世界。
光溢れる、白銀の世界。

……………………る……

ふいに、現実世界で呼ばれた気がして、急に意識が戻る。
身体が酷く重くて――――クラリとふらつく身体を、必死で支えるために床に手を付く。
はぁはぁと息が切れていて、この世の果てまで全力疾走したかのような肺の痛みまである。
我に返って麻子を見れば、微かに麻子の唇が震えていた。
「~~~~っ…! ~~ぁ…あ、さこ…ッ…!」
必死で呼びかけた声は、驚く程しゃがれて声にならないくらい掠れていた。
――――光の力を使うと言うことは、こんなにまでも、消耗するものなのだと初めて知る。
「……………………る……」
……確かに、麻子の唇から吐息が零れた。
まるで俺の名を呼ぼうとしているかのような――――……
感動なのか、凄い激情が湧き上がって、また必死に、縋るように麻子に口付る。
もっと――――
もっと、麻子に…………
息吹を吹き込む。
俺のすべてを――――
――――全部、お前に、やる…………
クラクラと貧血なのか感覚が可笑しくなり、自分の体重が支えきれずに麻子の上に倒れ込んでしまい、唇が離れた。
必死に身体を起こそうとするが、酷く視界が揺れてままならない。
はぁはぁと切れ切れの自分の呼吸が酷く煩く、邪魔だった。
「……ひ……………………る…………」
本当に、麻子が俺を呼んでる。
――――込み上げてくる熱いものに、視界が歪みそうになる。必死に堪えて麻子の顔を見ようと身じろぐと、長い睫毛が震えていて、――――瞼すら酷く重いのか必死にこじ開けようとして震えている睫毛が、ゆっくり、ゆっくりと持ち上がり、薄らと開いた。
朦朧としたような、濡れたような黒い瞳が少し見えた。
「…………ひ……か……る……?…………」
麻子を見ていたいのに、視界が歪む。
涙腺が決壊したかのように涙が溢れた。
「…………あさこ…………」
言いながら、もうまるで力が籠らない身体を支えられずに麻子の上に倒れ込んでしまう。
「~~~~っ……ひかるッ?!」
必死に俺の下で麻子が身じろぐのがわかったけれど、もうまったく動けなかった。
ただただ口元に笑みだけを浮かべて、微かに動いた腕で、必死に麻子の身体を抱き締めた。
「…………あさこ…………麻子…………」
「~~光…ッ?! ~~ちょ…ッ、光っ、大丈夫…ッ?!」
「…………麻子…………良かった、戻って来た…………見つけた、…………麻子……」
「…………ひ…ひかる、もしかして――――あんた、ひょっとして、あたしにあんたの力を――――」
「……あさこ、そばにいて…………こうしてて…………もう……どこにも…………ずっと、ずっと、俺の、傍に…………おれの……あさ…こ、で…………」
嬉しいのに、ずっと感じていたいのに、朦朧とし始める。
身体は鉛のように重くて、麻子が重いだろうとはわかるのだが、もう自分の身体の感覚もなくて、ただただ麻子を感じることだけに全身全霊を使う。
「~~やりすぎよ…ッ!!! 光の命が――――あんた、どんだけ自分の命を…ッ?!」
いつもの麻子だ。
容赦なく俺を叱咤し、罵倒する――――だけど、その根源は俺のことをどこまでも心配してくれてるせいなんだよな…………。
嬉しくて、幸せで、唇が綻ぶ。
「~~~~まったくもう…ッ!!! しっかりしなさいッ!!!」
言いながら、俺の下敷きになっている麻子の身体から、温かいものが雪崩れ込んで来る感覚。
恐らく、麻子が俺に、癒しの光を与えてくれてるような気がする。
「…………ば…………か……、……おまえ…………の……いのち…………」
「~~~~どっちがバカよッ?! 自分の命を、全部あたしに注ぎこむ奴がいるか、バカッ!!!!!」

笑っちまうよな…………俺達。
俺も、お前も、自分のことよりも、ずっとお互いが一番だったんだ。

「…………いいんだよ…………俺、お前が、好きだから…………」

思わず零れた言葉に、俺の下で麻子が固まったのがわかった。
麻子がどんな顔になったのか見たかったけれど、見れなかった。
安心と安堵に包まれて、俺は意識を手放してしまったから。
だけど、瞼の裏に見えたお前は――――ビックリする程、真っ赤な顔していて俺を笑わせた。

なぁ麻子。
俺は、ずっとずっと、…………まだ小さかった頃からずっと…………
お前だけだった。
お前だけ、見てた。
俺、お前が、好きだ。
ずっと、お前だけが好きだ。
自分の命より、お前が大事で。
お前が居れば、他は何も要らないんだ。



……To be continued.



********************



…やりました…っ! 見事、渾沌を倒し……新王即位です!
手塚にしては(?笑)1人で本当によく頑張ったと思います。(ああでも、心の中はずっと柴崎と一緒でしたね)
手柴も、堂郁も、互いの想いをしっかりと受け止め、自覚もしたんじゃないでしょうか。
4人がこれからどうするのか……お話も最終局面です。
もうしばらく大団円に向けてお付き合い下さいませ。





スポンサーサイト
05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

★言い逃げ(笑)

ママ様

> 言い逃げ・手塚(笑)
笑!!
上手い…っ!!
確かに言い逃げですよね、しかもしっかりと自分の下敷きにして身体も逃げられないように封じちゃって(無意識に、だけど(笑))
手塚は、やっぱりパラレルの世界でも、こうやって素直な言葉で伝えるんですねェ……。そこが手塚のイイトコロw
もちろん、素直に嬉しいですよね、柴崎も(*≧▽≦*)!!!
だけど、柴崎だから、このまま言い逃げで意識なくしちゃった手塚に対して、手塚が意識戻って何か言おうものなら、柴崎ならば絶対に言わせないように封じちゃいそうです……素直じゃないからなぁ……。
本当は素直に嬉しくて堪んないのですが、それが素直に出せないのが柴崎で……ややこしい人間です、柴崎って。
堂郁の方は、堂上さんがいかに腹を括るか、ってだけだったんで(実はこのパラレルでも、これまでも肝心なのは堂上さんが腹を括るかどうかだけだった(苦笑…まぁこれまでは、腹を括れなかったワケですが((((((^^;)))、堂上さんが腹を括ってくれれば堂郁もなんとかなる筈!!!(さぁ、ガンバレ堂上さん(笑))

混沌については、ママ様も仰る通りだったと思います。
実は、妖魔をあれこれと調べてて、混沌が居たので四凶を選んだと言っても過言じゃないくらい、混沌は混沌として私の中で大きな存在でした!
混沌だけが、少し違う存在…………まぁ窮奇も弱い心を暴くために変身出来るという変わった存在ではありましたけれど、とにかく、混沌が憑依する妖怪だという設定は最初から決まっていたことでした。
(その設定で話が出来た、と言っても過言じゃない(苦笑))
聖剣の力で浄化出来た混沌。慧も被害者の1人ではあると思っています(もちろん、慧の場合は自ら宿主になった、という異質な経緯はありましたが)。
慧の考え方は強行で強引なものだとは思いますが、本当に民のことを想ってしようと思っていたことは間違いなかったのではないかと思います。ただ、弱者のことを思い遣りながら……という視点ではなかった為に、やり方が苛烈だったり残酷だったりすることはあって、そこが混沌に付け入られる隙になったんだろうなぁ、と。
慧もこれからは光の右腕になることでしょう(笑)
さぁ、ようやくお話も終わりが…!!!
ハッピーエンドが皆様にも見えて来たのではないでしょうか?
山場が過ぎて、後はサラリと読み流してくださいませですww
ツンデレラ |  2018年04月27日(金) 23:00 | URL 【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2018年04月27日(金) 09:40 |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除に必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

この記事のトラックバックURL

→http://hujikoba.blog135.fc2.com/tb.php/772-123e96d6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME |