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2017.08.30 (Wed)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.75~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.75~ ≫背中の靴跡シリーズ
※今回は手塚目線で、出産シーンも入りますので、お嫌いな方は御注意下さい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.75~ ≫背中の靴跡シリーズ


――――怖かった――――

「心配性ね、光は」
そう麻子は笑ったけど、言われて苦笑するしかなかったけど。
心配、なんてレベルじゃなかった。
恐怖。
どれだけ俺が怯えていたか、麻子はきっと知らなかっただろう。
麻子に先立たれる――――そんなことを少しでも想像することすら怖い。
怖くて、とても想像出来ない。

妊娠が解った時、俺は散々駄々を捏ねた。
お腹の赤ん坊より、麻子を失うことが怖かった――――
正直俺は、麻子が居れば、それだけで良かったのだ。

だけど、そんな俺に麻子は激怒して、そして泣いた。

2人だから生むことが出来るんだと。
2人で一緒に産もう――――。

麻子は泣きじゃくりながら必死にそう懇願していた。
正直、あの場には俺達二人だけじゃなかったから後で散々恥ずかしい想いをしたが、あの時の俺達は必死で、周りも見えずにお互いの想いをぶつけた。

――――結局俺は、麻子の意志に負けて、赤ん坊を受け入れた。
…………もちろん、俺だって赤ん坊が出来たことが嫌だった訳じゃない。
俺だって、麻子が健康で母子共に無事に出産出来ることが簡単に想像出来るような状態だったら、素直に心から喜んでいただろう。
麻子と喜びを分かち合って、出産まで麻子と夢見るような時間を過ごしただろう。
だけど、受け入れた後も、そのせいで麻子が苦しんでいるのを傍で見ていなくちゃいけないのが辛かった。
悪阻でどんどんと痩せていく細い細い身体。
ロクに食べられないせいでずっと点滴を手離すことが出来なくて、そのうち、心配していた腎臓の機能の方にも少し不安が出てきて――――……。

それでも、麻子はお腹の赤ん坊の検診のたびに、本当に嬉しそうに赤ん坊のことを俺に話す。
俺が麻子の体調に顔を曇らせる時も、「…………あたしの体調が治らないってことは、赤ちゃんがお腹の中で元気に育ってくれてる証拠でもあるから――――、そう思うとあたしは頑張れるの」なんて、本末転倒も甚だしいことまで言ったりして。
言われた俺が機嫌悪い表情に変わったら、麻子はクスクス笑いながら俺の眉間にキスなんかしてくるから、いつも俺は負けるんだ。

そう――――結局、俺は、麻子に弱いんだよ。

麻子が心から赤ん坊を望んでいるから、だから俺も望んだ。

――――麻子が居るから――――

何もかも、麻子が居ることが、大原則なんだ。

「……なんだかんだで、もう少しで臨月よね――――」
愛おしむように自分のお腹を撫でる麻子に嫉妬する。
いや、麻子に嫉妬するんじゃなくて――――麻子にそんな顔で撫でられているお腹の中の赤ん坊に。
「五体満足で生まれてくれればいいんだけど――――……せめて、元気に、無事に産まれてくれたら…………」

ほんと、ヤキモチばかりが湧いちまう。

最近の麻子の言葉は赤ん坊のことが多かった。
そんなことに拗ねていると思われるのも癪に障るが、だからと言って平気な振りも出来なくて剥れていると、麻子に呼ばれた。
「――――光?」
たったこれだけで、もう絆されるから、どれだけ惚れてるんだか自分で参っちまうよな。
麻子が俺を呼んでくれる――――それだけで、未だに舞い上がっちまうんだから。
けど、麻子が甘えた声で呼ぶのは俺の名前だけだって知ってるから、少しくらいは自惚れたって許して欲しい。
「…………お前の子供に生まれるって、幸せだよな――――」
思わずヤキモチと惚気が相まって、麻子を抱き寄せながらそう言ったら、麻子が大きい目を驚いたように更に見開いた――――次の瞬間にはクスクスと笑う。
…………最近、この笑顔が本当に優しくなったと思う。
母の顔、なのだろうか――――ずっと見て来たのに、この笑顔に更に惚れ直す毎日なんだ。
「自惚れ? ――――あたしの子供に生まれるってことは、あんたの子供ってことよね」
「……自惚れてもいいだろ。――――俺達の子供は、絶対幸せになる」
「…………子供嫌いだった手塚三正の言葉とは思えないわね」
クスクスクスクスと、麻子はずっと笑っていた。

幸せだった。

麻子が笑ってくれていれば、幸せだったんだ。

くだらないやり取り。
単調な日常。
そのどれもが、麻子が居るだけで、特別で、幸せだった。

体調はずっと不調だったけれど、麻子は随分と頑張って、もうすぐ正期産に入る目前だった。
麻子に言わせるとお腹の赤ん坊は順調すぎる程順調に成長してると医者にも太鼓判を押されているらしい。
痩せすぎた身体に不似合いなくらい大きなお腹は、やはり麻子の身体に負担をかけるのか、腰や膝に痛みが出たり、毎日のように足が攣って苦しめたりしていたけれど、麻子は本当に嬉しそうだったのだ。

もうすぐ正期産――――

そんな矢先に、破水。

たまたま柴崎のお母さんも泊まりに来ていたので、流石は出産経験者としか言えない落ち着きで、車を飛ばして病院に急行した。心配なことに、病院に向かう車の中で麻子が時折腹痛を訴え初めて、陣痛も始まりだしたかもしれないとの感じもあった。
「…………正期産まで後5日ってところだし、もう出産になっても大丈夫とは思うけどね――――」
柴崎のお母さんは麻子の腰辺りを擦りながらそう言ってくれた。その言葉に不安になりそうな気持ちをなんとか奮い立たせて、医者に診て貰った。
破水しているとのことで抗生剤を投与され、医者も迷いながらも、もつようなら正期産までこのまま入院してもいいんだけど…………出産を遅らせる薬を入れてみようか、ということになった。
薬の効果で陣痛は遠ざかる――――と思ったけれど、予想に反して、時折襲う陣痛が引くことはなかった。
みるみる麻子の体力が消耗していくのを手を拱いてみていることしか出来なかった。元々身体が弱っているから体力がないんだ。
初産は時間がかかるもの――――俺も麻子と一緒に出産については勉強していたから、そんなことは知っていた。知っていたけれど、丸1日かかっても陣痛があるのに生まれないなんて――――その時、母体がどれだけ消耗するものかなんて、誰も教えてはくれなかった。
陣痛の狭間は痛みもなく元気なものだと聞いていたけれど、痛みが去った後、グッタリと指すら動かせない程消耗しきっている麻子を目の前にして優しく抱き締めてやるしか出来ない。もちろん、食事なんか喉を通る状態じゃなくて、干乾びた唇が時折水を求めるのに補水液を与えてやることしか出来ない。点滴も施されたけど楽にはならない。
替わってはやれないもどかしさ…………。
それでも麻子は頑張って、24時間以上続く陣痛にずっと耐えてくれていた。
痛みに耐えて、痛みの狭間は朦朧状態で睡眠すらも細切れでほとんど取れずに、どんどんと消耗していくばかり……。
――――早く生まれてくれれば――――
医者もそう思ったのだろうか。
一転して、少し早いけれど出産に踏み切ろうと方針を変えてくれた。
それでも、なかなか分娩台に行く程にはならず――――。
…………麻子の消耗があまりに激しくなってきて、これ以上は母体の負担が大きすぎるとのことで、急遽、緊急帝王切開手術の用意もされ――――柴崎のお母さんも涙ぐみながら麻子に「……頑張って……」と声をかけて見送った。
俺も手術室には入れない――――手を拱いて待っているしかない。
とにかく両親にだけは、今日中には生まれそうだとの連絡を入れたら――――急に「手塚さん!」と呼ばれた。
手術に踏み切るよりも先に、分娩になりそうだとのことで慌てて呼びに来てくれたのだ。
「手塚さんね――――ああ、奥さんの方がね、ずっとうわ言で旦那さんを呼んで探してる感じで――――手術で引き離してしまったのが可哀想だったと思うくらいで…………正常分娩になりそうで本当に良かった! このまま正常分娩になれば、旦那さんもずっと傍に付いて居られますし――――傍に付いていてあげて下さい。私、手塚さんの場合はその方がいいと思うんです。――――本当に奥さんったら、切ないくらい旦那さんを呼んでらしたから…………」
そんなことを言われたら、今すぐにでも抱き締めてやりたくて堪らなかった。
手術着に着替えさせられ駆けこむと、グッタリと意識もないかのような麻子に駆け寄る。
「…………か…る…………」
「麻子」
覗き込んで声をかけるが、朦朧としているのか麻子の焦点が合わない。
涙に濡れた目がグラグラと不安に揺れて「~~~~っ……、ひ、……かる…………」とまた呼ぶなり、陣痛なのか苦痛に顔を歪める。
思わず麻子の手を取って、「~~麻子っ、……麻子、頑張れ…………」と言うと、看護師だか助産師だかが気付いて、「手は止めて下さい、握り潰れる程力が入りますから!」と言われたがどうでも良かった。
握り潰されたら本望だとすら思える。
「……っ……、~~ッ、か、……る…っ…………」
握られた小さな手に応えるように力を込め返して、また麻子の名を呼んでやる。傍に居る、ここに居る、と少しでも伝わるように何度も何度も。麻子はもはや声も出ない程の痛みなのか全身が戦慄きながら硬直するのを、見ているだけで涙が出そうだ。
痛みが引いたのか、切れ切れの乱れた息がようやく零れた。
「~~~~っ…………ひ……、……っ…………」
熱い麻子の手。手術帽から零れたらしい前髪が一筋、汗で濡れた額に張り付く。
はぁはぁとまともに息も出来ない状態なのに、確かに俺を呼ぼうとしているのがわかる。
「……麻子! ……麻子、頑張ったな…………ホントに、よく頑張って――――麻子……」
握り締める手が熱くて、このまま一つに溶け落ちそうな気すらする。麻子を覗き込みながらとにかく呼びかけると、グラグラと揺れていた瞳がふと俺を見つけたのか一瞬止まって――――次の瞬間、ひかる、と震える唇が無声音でそう紡いだと思った時にはボロリと涙が零れた。
――――途端に、また痛みが来たらしく、ギリギリと握り締めて来る手が愛おしくて堪らなかった。
「~~~~頑張れ…っ、麻子――――麻子、頑張れ…………」
そんなことが数度。
痛みが引いてくると、呼吸も整わない状態で微かに俺の名を呼んで涙に濡れた目で俺を縋るように見つめるから、俺も麻子の名を呼び返しながら、よく頑張ってる、えらい、なんてちっぽけな褒め言葉しか出なかった。
――――実際、出産がこんなにも大変だなんて想像以上だ――――
もはや30時間以上にも及ぶ陣痛との戦いで疲労困憊なのに、最後まで、本当に麻子は頑張ってくれている。
胸が熱い――――
と、助産師の冷静な声と穏やかな医師の声が上がる。
「――――頭が見えてきました…………急に赤ちゃんが降りて来ましたね――――次からイキんでみましょうか」
「手塚さん、もうすぐだよ。――――赤ちゃんが生まれるよ」
かけられた声を理解する頃には、麻子の痛みがまた少し遠退き、はぁはぁと苦しげな息を零す。

よくわからない熱いものが、俺の中から溢れそうになる。
理不尽で、必然で。
辛くて苦しくて、でも……胸が熱くて堪らないくらい感動してて。
大波に攫われるように、訳の分からないその感情に呑み込まれそうになる。

麻子と繋いだ手だけが命綱のような気すらして――――もはや俺の手なのか麻子の手なのか感覚もないその手に想いのすべてを込める。

「~~~~ッ…! ~~あ、あさこ…っ、もうすぐ…………もうすぐだ! 麻子…ッ、……」

頑張ったな、なのか、頑張れ、なのか、もはやわからなくなって、声は詰まってしまった。
もう頑張りすぎる程、麻子は頑張ったと思う。
なのに。
――――また麻子の顔が苦痛に歪んだ。
助産師の「息を止めて」――――という指示が聞こえた訳でもないだろう、だけど、麻子の身体が硬直する。

――――と「……出る…ッ、もう大丈夫、息を吐いて、吐いて――――力抜いて――――」「すごいな、最後は一瞬だったな」という声が上がった。
「手塚さん!! 力抜いて――――赤ちゃんが出てくるわ…ッ!!」
「麻子ッ!!!」
思わず麻子を包み込むように空いている手を伸ばしてしまう。
「あさこっ!!! 大丈夫、もう終わりだ――――よく……よく、頑張ったな…………」
痛みが引いて行くのだろうか、硬直していた身体が、一転して怖いくらいに力が抜け落ちてゆく。
微かに――――掠れきった微かな声が、俺を呼ぶ。

「……ひ…………か……る…………」

麻子の声をよく聞きたいのに、おぎゃあ、と恐らくは形容すればいいだろう声が上がった。
二度、三度、泣いたと思ったら、むにゅむにゅとむずがる声にすぐに替わって、聞こえなくなった。
――――俺だけでなく、麻子も一瞬、止まった。
腕の中から、掠れきった声が信じられないというような響きで確認する。
「…………あ……か、ちゃ……?」
まだ上手く呼吸すら出来ていない麻子が、俺の腕の中で必死に目を向ける先――――俺も目をやって慄く。

――――赤ん坊……?

みたこともない小さな小さな物体が、助産師さんの掌の中に居る。
掌の中に納まるくらいの大きさにみえる。

…………あれが…………本当に赤ん坊……?

ぐにゃぐにゃとした、柔らかそうな物体としか思えない。
「――――おめでとうございます。元気な男の子ですね! どうします? 奥様か旦那様が、臍の緒を切ってあげますか?」
そんな言葉に俺は、縋るように麻子を見るしかない。
麻子の目は赤ん坊に釘付けだった――――だけど、俺の視線に気付いて俺を見ると、ほわりと涙ぐんだ顔に笑顔を浮かべて、微かに呟いた。
「…………ひかる…………おねがい…………」
ドキドキする。
ホッとしたような麻子の顔は、確かに母の顔になっていた――――と感じた。
女性というのは出産すると、聖母になるのかもしれない。
麻子から手を離すのも緊張した――――麻子から離れたくなかった。
けど、麻子が熱の籠った目で俺を見るから、離れ難い気持ちながらも麻子からそっと身体を離して、助産師の指示のままに鋏を手にする。
麻子に見つめられる中、臍の緒を切る。
正直、こんなに緊張したことはない。
鋏を持つ手が、笑っちまうくらい震える。
看護師の指示した場所を切るだけのことなのに、麻子と赤ん坊を繋いでいた大事な管を俺が切るのだと思えば、経験したことのない緊張感が襲った。

切り離す――――俺の手で、この子を麻子から切り離す。
今、この瞬間から、麻子のお腹の中でずっと守られていた俺達の赤ん坊は、自分の力で生きていく「個」になる。

小さな――――小さすぎる存在。
ふと、守ってやらなければという、愛おしい想いが湧き上がる。
麻子に対するものと同じくらい、大きな大きな想い。

切ってしまえば、手際よく助産師が赤ん坊の身体の処理をして、慣れた手つきでササッとお湯を張ったシンクで赤ん坊の身体を洗うから呆気に取られる。彼女達にとってはいつものことなのだろう。赤ちゃんの状態を確認するのだと言って、体重計に乗せられたり、身長を計られたり、赤ん坊も大忙しだ。
手の空いた看護師が、両親たちに無事出産の連絡をいれてくれようとしている。
医師は後分娩の麻子の容体を確認しながら、麻子に処置を施していく。
「――――出血が多かったね――――まぁ、輸血する程じゃなさそうだけど…………手塚さん、気分は悪くない? っ、手塚さん?!」
穏やかだった医師の声が少し上擦ったから、慌てて麻子を見る。
見れば、俺が離した手を見て麻子が怯えた目をしていた。見ている手が異常に震えていて――――いや手だけじゃない、全身がガクガクと尋常でなく震えていた。
「~~~~っ……、ひ、か……る…………、な、…な、に…………っ、こ…っ…………、~~~~ッ……」
手だけじゃなく足も身体も、診察台を揺らすほどガクガクと震えて止まらないらしい。その自分の全身を襲う震えの異常さに麻子が怯えていて――――精神的な怯えは発作に繋がっちまう! ――――慌てて駆け戻る。
医師が血圧を確認しながら、過呼吸かもしれないな、と看護婦に紙袋はないかと指示を出そうとしていたが、俺もつい必死だったので医師や看護師の存在はすっかり頭から吹き飛んで、夢中で麻子の名を呼びながら、軽く息を吹き込む。
まだ呼吸が止まっているわけではないから、あくまで麻子の意識をこちらに向けるためだけの、ゆっくりとした吹き込み――――唇を離すと同時に「…………ゆっくり、息吐いて――――大丈夫、ずっと頑張っていたから体中の筋肉が疲弊してるんだろう。本当によく頑張ったから――――ほら、大丈夫だからゆっくり。息を吐いて、…………ゆっくり吸って……」と慣れた言葉を麻子に掛ける。
麻子が俺を呼ぼうとするから、大丈夫、傍に居る、大丈夫だから、と抱き込むようにして宥めて呼吸を促す。麻子の震える背中をゆっくり宥めるように撫でてやると、は…ぁ…っ、と麻子が細く震える息を零す気配がした。
ゆっくりと静かに声をかけながら、とにかく麻子が呼吸に意識を集中出来るように促してやる。…………身体の震えは治まらないけれど、呼吸はなんとかリズムを取り戻してくる。
――――大丈夫そうだな…………、と離れ難いけれど上体を起こして距離を取って――――ふと、医師の傍に居た看護師が真っ赤になって俺達をガン見していることに気付いた。
「あー…」と医師がコホン、とわざとらしい小さな咳をして、「~~~~ま、まぁ……もう大丈夫そうかな。血圧がかなりあがってるけど、ショック状態とかいうわけじゃなさそうだし、まぁ、そう、うん、もう呼吸も大丈夫そうかな」なんて医師の方がドギマギしているかのように言葉を発するから、一気に顔が熱くなる。

~~~~またやらかしちまった…………

と思ったけれど、麻子がか細く、途切れながら俺の名を呼んだから二人から視線を引き剥がして麻子を見る。
さっきよりも随分と落ち着いた目をした麻子が、まだブルブルと震えが止まらない手をなんとか俺に向けて伸ばそうとしながら「……さむい……」と掠れた声で呟くから、しっかりとその手を握ってやる。
――――本当に冷たくて驚いた。
慌てて医者を振り返る。
「~~あの…っ、麻子の手が…ッ、手足がすっかり冷えきってます!」
思わず恥ずかしさも忘れて医者に言えば、医者も慌てて毛布の指示を飛ばしてくれる。
医者が落ち着きを取り戻して、麻子を見た。
「手塚さん、毛布を持って来てあげるからね。 他に辛いところは? 気分はどう? 頭は痛くないかい? …………血圧がかなりあがってるから、しばらくはこのままここで様子を見るために安静にしててもらうからね。起き上がろうとしてはいけないよ――――このまましばらくここで様子を見て、容体が変わらないようなら、このままベッドごと病室に移動するしね。
とりあえず、トイレとか――――何かあったら、病室に戻った後でも、必ずナースコールして。看護師に血圧や必要な検査をして貰ってから判断するし、看護師に必ずついて貰うから。いいかな?」
麻子は医師の言葉に頷くと、質問ある? の言葉に、「……あの…………赤ちゃんは…………」と呟いた。
そう言えば、麻子はまだ間近で赤ん坊を見ていない。
「ここですよ」
さっきまでとはうって変わって、真っ白なバスタオルにくるまれた赤ん坊が、助産師に抱かれていた。
麻子が思わず身じろごうとするのを制するように、赤ん坊をそっと麻子の胸元に置く。
「カンガルーケア…………覚えてます? ああ、動かなくていいですから――――こうやって赤ちゃんにお母さんの匂いやおっぱいの匂いで包んであげるだけでいいんですよ。そうするだけで十分、赤ちゃんが安心しますからね」
そんなことを言いながら、でも手慣れた手つきで仔猫の首筋を持つかのように、赤ん坊の顔を麻子の乳房に引き寄せるから、助産師ってのは凄い。
俺の方がドギマギして、視線を宙に泳がせてしまう――――。
助産師の手で、麻子の乳頭を咥えさせられた赤ん坊は、チラチラと見ていると、二度三度と口元をむにゅむにゅさせたかと思ったら、くー、とそのまま寝てしまうようだ。
あらあら、と慣れた手つきで無理矢理また角度を変えて咥えさす助産師の手つきが凄い。慣れというのは怖い。
結局、むにゅむにゅと口を動かしはしたが、よっぽど赤ん坊は眠いらしい。
「…………お母さんの匂いに包まれて安心するのかなー。……まぁ、最初からごくごく飲む訳じゃないですし、このまま抱いててあげて下さいね。しんどかったら預かりますし――――大丈夫ですか? 赤ちゃんは体温高いから、こうやって抱いた状態で手塚さんに毛布被せておきますね。…………まだ寒いですか?」
愛おしそうに赤ん坊を見つめる麻子は、目を上げることなく助産師に「大丈夫です」と答えると、本当に優しい笑みを口元に浮かべた。
――――優しさを絵に描いたらこんな姿になるんじゃないだろうか。
赤ん坊だけを見つめる麻子の優しい顔――――

俺だって嬉しい。
けど、少しだけ赤ん坊が羨ましい。

妊娠がわかってから――――いや、麻子が体調を崩し始めたからずっと、俺だって、麻子の胸で眠るなんてこと、ずっとずっと我慢してたんだけどな。

ふと思って――――思った自分に恥ずかしくて、思わず顔が赤くなる。

「…………光?」

まったく、麻子はいつも、絶妙のタイミングで呼ぶんだよ。
「…………なに……」
少しだけぶっきら棒になってしまった口調に、まったく気にもしないように麻子が俺を見て笑った。
「――――光に似てるね」
言われた言葉に、瞬く。
赤ん坊の顔は、臍の緒を切る時に見たけど――――そんなこと、思ったことない。
「…………そう……か…?」
「うん。すぐに寝ちゃうとこ――――」
「そこかよ」
苦笑すると、麻子はもっと笑って、そうそうなんて。
俺も覗き込んだ。
…………やっぱりよくわからない。
赤ん坊は赤ん坊の顔だとしか思えない。
「…………誰に似てんのかなぁ……」
「だから光だって。目元そっくりじゃない? 切れ長で、おっきくて」
「そうか?」
「そうよ。――――光、無防備な顔して寝てたら、こんな顔してるよ」
「……ふ……うん…………」
まじまじと見つめる。見つめるけど、やっぱりよくわからない。わからないけど――――けど、麻子がすっごく嬉しそうで――――だんだん、どうでも良くなってきた。
麻子が喜んでくれるなら、俺はどっちに似てたっていいんだから。

気付けば、チラチラとたまにこちらに視線は向けられながらも、手術室はすっかりと片付けられていて、医師もどこかに行ってしまっていた。
俺達は2人して、ポツポツと他愛のないことを喋っていては笑って――――くーくー寝ている我が子は動かないのに、見飽きることはなくて。
俺の麻子の手を握った手はそのまま。
あんなに冷たかった手ももうすっかり温かくなっていて――――それでも麻子も俺もこの手は離そうとしなかった。
「――――名前なんだけど…………」
不意に麻子がその話題に触れる。
「うん。――――決まったか?」
実は、名前については、麻子に言われて考えた名前の候補をいくつか麻子に伝えてある。
男の子なら漢字1文字希望で、大きな意味を持つようなもの(要するに俺や兄貴みたいな雰囲気の名前がいいらしい)が希望だと言っていた。
女の子なら草花に関係するような文字が入っている(麻子や桃子さんのような感じのイメージなのだろう)ことが希望だそうだ。
イメージがあるんだから、それに麻子の方がこういうことを考えるのには適しているだろうに、敢えて俺にいくつか候補を出させた麻子だった。そのくせ、赤ちゃんを見てから決める、とそれっきり、どの名前が気に入ってるのか、いや果たして気に入った名前があったのかもまったく話してくれなかった麻子だ。
――――正直、俺が出した候補をどう思ったのかくらい話せよな、と拗ねて見せたこともあったけど、これまで一度もその話題に触れることはなかったんだ。
「――――晃――――でどうかな?」
言われてホッとする。俺が考えた候補の1つだ。
「…………俺が考えた名前だから、異論ない」
「なーに、その言い方」
「だってそうだろ? 俺が必死に考えた名前の中からお前が選んでくれたんだから――――俺はお前に伝えたどの名前でもいいと思ってるんだから、その中の1つならなんでもいい」
「この子に似合うのは――――とか、そういう考えはないの?」
「…………似合うも何もわかんないだろ」
「素っ気ないわねぇ」
そう言いながら、クスクスと麻子は気にしてなさそうに笑う。その笑顔があっけらかんと明るいから、俺も結局は苦笑するしかなくて「じゃあ、お前はどうして『晃』がいいって思ったんだよ?」と聞き返す。
「――――この子を見る光の表情が眩しそうだったから。眩しくてあったかくて…………あたし達のおひさまみたいな存在だなぁって」
「おひさま?」
「太陽のことよ」
「…んなことはわかってるよ」
「――――光がすっごく嬉しそうなんだもの」
言われて瞬いた。
俺――――というより、麻子の方がよっぽど嬉しそうで――――だから俺も嬉しいんだけどな。
「さっきから光の顔、おひさまに絆されて蕩けるみたいな顔してるよ」
「…………そりゃお前だろ」
「――――ふふ…っ、じゃあやっぱり『晃』がピッタリってことね。――――晃。晃だよ。これからよろしくね」
そう言って笑う麻子の顔はやっぱり聖母のように優しくて柔らかくて――――眩しそうに晃を見つめるから、こんな小さな赤ん坊が麻子にそんな顔をさせてるんだと思えば、確かにピッタリな名前なのかもしれないと思えてくるから不思議だ。
――――そして、名付けたのが自分だと思えば、なんだか誇らしい気もしてくるんだから不思議なものだ。
実感はまだないけど――――こうやって、少しずつ、父親らしい気持ちが湧くのだろうか。

どれくらい居たんだろう、普通の分娩よりは随分と長く居たらしい。
ようやく医師が戻って来て、大丈夫そうだからベッドごと病室に移動しましょうか、と声をかけて来た。
見れば、宮澤医師までニヤニヤと付いて来ていたから驚いた。
「――――出産、おめでとうございます。……いやぁ、まさか出産直後に光さんから麻子さんへ熱烈キスがあったんだって? 史上稀に見る熱愛美男美女夫婦だってもはや小児科病棟にまで名を刻んだみたいだよ。ホント手塚さん夫婦はあちこちでイチャついては逸話作っていくよねぇ!」
~~~~っ?!
~~~~い、いやあれは……っ、麻子が発作を起こしそうだったから!
俺にそんなことを囁く宮澤医師へ言い訳したかったけれど、産婦人科医の方が麻子の容体をテキパキと確認して指示を飛ばすので、なんだか口を開ける雰囲気じゃなかった。
麻子の胸元に居た赤ん坊を助産師がそっと引き剥がすと、また真っ白なバスタオルにくるんだ。その赤ん坊を俺に差し出すから、思わず瞬いてしまう。
「はい、お父さんも、どうぞ」
「――――は?」
「抱いてあげて下さいね。――――ああ、首だけ気を付けて」
「~~~~、…………は…っ…?」
固まるしかない俺を見て、麻子がくすくすと笑い出す。
どうしたらいいのかと縋るように麻子を見るのに、麻子ときたら「~~~~頑張って、お父さん」なんて笑うんだ。
どうしていいのかわからないままに、はい、と差し出されて、そのまま掌で受けてしまう。
受け取って――――そのまま固まっていると、周囲の宮澤医師や産婦人科医師、助産師達が大笑いする。
もちろん、麻子も散々笑ってる。
「~~~~ッ……、あさこ…………」
弱ってしまって麻子を見ると、麻子に「荷物受け取ったみたい」とからかわれる。からかわれるが、だからと言ってどうだけばいいのかわからない。
相変わらず掌の上に乗ったままの赤ん坊。
それでも身じろぎもなく眠ってるんだから恐れ入る。
数分はそうやって笑われていただろうか。
ようやく助産師が抱き方を教えてくれる。
腕に乗せるようにして抱けば、ようやくそれらしくなったらしい。
麻子ときたら、涙を拭きながら「……ふふ…っ…」なんてまだ笑ってる。
――――凄く……凄く嬉しそうだった。
からかわれるだけで教えてくれなかった麻子に対して剥れて見せたいのに、そんな笑顔を見せられたら苦笑するしかなくなる。
「――――様になったか?」
「…………一応ね。すっごくぎこちないけど」
「ぬかせ。――――初めてなんだぞ」
「最初はみんなそうでしょ? ふふ…光が抱くと、ますます小さく見えるね……」
正直、軽すぎて抱いてるかどうか心配になるくらい小さい。
小さくて潰しそうで怖くて、でも――――愛おしい。

愛おしい。

その言葉がピッタリだった。
思わず、小さな小さな存在を見つめてしまう。
――――と。
もう一人の、これまでたった一人だけだった、俺の最愛のその人がポツリと呟いた。
「――――光、幸せ?」
唐突な言葉に、麻子を見つめる。
「…………なんだよ、急に――――」
「――――ねぇ…………幸せ?」
「……なに……」

「――――幸せになって欲しかったの」

嬉しそうに、でも泣き笑いにも見えるような瞳で、そんなことを言う麻子に瞬く。
「…………覚えてる? 結婚式の日――――幸せになってね、って言ったこと…………」
「…………なにを…………」
「…………でも――――あんまり幸せそうじゃなかったよね、光……」
「?! 何言って…………」
「ずっとずっと、光ったら……あたしの身体の心配ばっかりしてたよね」
「~~~~っ! それは当たり前で…っ……」
「――――あたしが体調を崩さないようにあたしのことばっか気にかけて、怖がってるみたいにあたしに大事に大事に触れて――――光は、あたしをいつも心配そうに見てたよね」
「~~~~そ……っ……」
「――――ずっと…………光は本当に、あたしとで幸せになれたのかなって――――、心配そうに眉間に皺を寄せる光を見てたら自分でわからなくなってきて、どうしたらいいのかわからなくなってきて――――あたしらしくもなく光に問い詰めることも出来なくて…………怖くて…………幸せにしてあげてる自信がなくて、ずっとずっと聞けなかったの」
泣き笑いの瞳――――その瞳に、違う、幸せだったと――――ずっとずっと幸せだと言ってやりたいのに…………言葉に詰まった。
いや、違う。
言葉に詰まったんじゃない――――胸が痛んだんだ。
本当に――――本当に幸せだった。
今も。これまでも。
麻子と居れば、麻子といるだけで、幸せなんだ。
麻子が俺の幸せで――――その幸せを掴んでしまった俺は、その幸せが消えるのが怖くて……どうしても…………失うことを恐れていたんだ。
幸せを知ってしまったから、その幸せを失う恐怖まで知ってしまって――――ただただ、麻子に傍に居て欲しかった。
だから、少し調子の悪そうな麻子にずっと不安だった。

…………幸せなんだ。

麻子と居ることが、それだけが。

どう伝えればいいのか――――言葉を探している間に、麻子の方が先に言葉を紡いだ。

「でも――――今、光…………すっごく幸せそうだった」
「…………」
「晃をジッと見つめる表情がね――――すっごく……すっごく幸せそうな顔してた」
泣き笑いのような顔――――そこに、少しだけ拗ねたように、少しだけ唇を突き出す。
――――なんて可愛い顔するんだよ。
愛おし過ぎて、微笑みが浮かぶ。
「――――お前なぁ……お前が授けてくれた赤ん坊だろ」
「――――ふふ……、流石あたし。――――あたし、光を幸せにしてあげたよね」
「~~~~『貸し1』とか言うなよ」
麻子が少し茶化すような口調に変わったから俺も照れくさくなってそう言うと――――ふふっ、と麻子が笑った――――と思ったら、ボロリと大粒の涙が不意に零れた。
俺も驚いたけど、流れ落ちる自分自身の涙に麻子自身驚いたような表情で、涙を必死に拭うけれどまったく止まる気配がない。
そのうち諦めて腕で顔を隠した。
「~~~~ふ…っ……、~~ひ……かる、の……せい……っ、~~ば、ばか……な、こと…………言う…からっ」
堪らなくて麻子に手を伸ばそうとして――――抱いていたことを思い出して片手で抱くと、空いた手で麻子を優しく抱き締める。

「…………ありがとうな…………」

麻子の耳元に顔を寄せて呟く。
「ずっと幸せにしてくれて――――麻子と居るだけで幸せなんだ、俺。…………だから、麻子にもしものことがあったら――――それが怖くて――――ずっとずっと怖かった。
麻子を失うことが、何よりも怖かったんだ。

麻子が俺の幸せなんだよ。

けど、俺が怯えてたせいで、お前が不安になってるなんて思ってなかった。
幸せ過ぎるくらい幸せで、これ以上の幸せなんかないって思うくらい幸せだったから…………この幸せを失うなんてどうしても考えられなかったんだ。
そのせいで、確かに必要以上に麻子のこと、心配してたかもしれない。

――――正直に言うと、妊娠解った時も――――子供なんてどうでも良かった。
麻子さえ居れば、俺はそれで良かった。
たった今の今まで、そう思ってた。
正直、もう二度と、子供なんか要らないってそう思ってる。

けど。

お前の血を分けた子なんだよな。
お前があんなに苦しんで身を削って――――そうまでして、お前がこの世に授けた命なんだよな。
そう思ったら――――お前と同じくらい、愛しいなって思えたんだ。

お前と同じくらい、愛おしいなって。

ありがとな……

ちんけな言葉だけど――――愛って増えるもんだって言葉の意味、ようやく分かった気がした。
――――俺はお前に、幸せばっか貰ってる…………

俺の方こそ不安だよ。
俺はお前を幸せにしてやれてるか?
心配ばっかして、お前を不安にして、何やってんだろ俺…………」

「…………幸せなの…………」

麻子がギュッとしがみ付いてきた。
それが愛おしくて堪らなくなる。
「…………幸せよ。――――あたし…………幸せ過ぎて怖くなるくらい――――怖いくらい、幸せ…………」
耳元に囁く声に、魂まで震えそうになる。
目の奥がほんの少し熱くなったけれど、グッと堪えて、麻子を抱き締める。
「――――こうやって生きていくんだろうな、俺達は」
上手く言えないけれど伝えたくて言葉を紡ぐ。
「俺にはお前が必要で、お前には俺が必要で――――互いが大事過ぎて、互いを大事に想い過ぎて、大事過ぎて互いに擦れ違うこともあるかもしれないけど…………けど、迷いながらも寄り添って、互いをぶつけて――――俺達は、それでいいんだよ、きっと。――――きっと、こうやって互いに支え合って生きていくんだ」
そう言うと、ふと、腕の中で何かが身じろいだ。
我に返って、抱いていた我が子を慌てて見る。
ずっと身じろぎもせずに眠っていた赤ん坊が、片目を薄らと開けて、ふにゃりと口元を開いた。
思わず麻子と2人で見入って――――ふにゃふにゃと何か言いたげに、しばらくもぞりと動き続けた。
「「――――――――」」
やがて、ほわぁ…と小さな顔いっぱいに口を開いて欠伸をすると、また、むにゃむにゃと寝入るように動きがなくなる。
静かになる。
「~~~~ぷ…っ……」
「なんだよ? 俺も忘れるなって感じだったよな」
麻子と2人して思わず破顔した。こんなに小さい癖に、存在感のデカさはぴか一だ。
「…………わかってんのかな?」
「わかってるのよ、きっと――――。これからは、晃も一緒だって主張したかったのよ」
「――――お前みたいだよな」
「どーゆー意味よ?」
「態度がデカい」
そう言ったら睨まれた。
しばらく睨んで――――それから晃を見て微笑んで、また俺をみて睨んで――――苦笑するしかない俺に、睨みながら言った。

「…………言っとくけど、あたしは……欲しいからね」

その台詞に瞬く。
「光は、『もう二度と、子供なんか要らない』かもしれないけど――――それ、お断り。あたしはまだまだ赤ちゃん、産みたいからね」
「~~~~は…っ?! ~~お、おま…っ、何言って…ッ!!!」
「つーん! 聞きませーん!」
「~~~~麻子ッ……」

「はいはい……もうそこまでー」

不意に割り込んだ声に、ギョッとする。
ハッとして見れば、宮澤医師が複雑怪奇な表情で俺達に割り込んだのだった。
産婦人科医も表情に困ったように百面相になっていたし、助産師はなぜか感動した顔でもらい泣きをしていた。
~~~~またまたやらかした!
周囲に人目があることを、また失念していた。――――俺も麻子も一気に真っ赤になる。
「~~ったく! ホント手塚夫妻の糖害被害はエスカレートしてくんじゃないの? 周囲に被弾させてる自覚持って欲しいなぁ……」
「わ、私は……感動しました! お互いがお互いを想い合って…………す、素敵なご夫婦で…………本当に素敵です!!」
心底感動されたような声で助産師に褒められたが、俺も麻子も恥ずかしさしか湧いて来ない。
腕の中の赤ん坊は素知らぬ顔して眠ってる。
「出産直後に2人目の話をするなんて、手塚さんもなかなか強者ですね。あんな辛い目はもうコリゴリっていう人の方が特に出産直後は多いもんですけど――――。もう大丈夫そうなんでこのままベッドごと病室に移動しましょう。病室に行ってもしばらくはこのまま安静に――――トイレだとか水分を飲みたいとか、何かあったら必ずナースコールして。上体を起こすのもこちらの許可が出てからにして下さい――――いいですね?」
産婦人科医に念を押されて麻子が頷くと、赤ん坊は助産師に預かられ(体重的にも大丈夫そうだし、身体所見からみても機能的に問題はなさそうとのことではあったが、麻子が今は安静が必要な容体であることだし、一応早産児なので一先ずはNICUで預かるとのことだった)、ベッドごと移動する麻子について手術室を出た。

途端に、両親に囲まれる――――

両家の母親は泣きっぱなしだった。どうやら麻子の体調を随分と心配していたらしい…………。
麻子が大丈夫だとわかって、泣きながらも、おめでとうおめでとうと泣き笑いで繰り返される言葉。
高山まで駆け付けてくれていて、泣いていたことに驚く。
麻子と目を交わして苦笑する。苦笑しながらも嬉しくて誇らしい……。

NICUの外から、晃を眺めた両親(と高山)は看護師達に失笑されるほどのジジバカ、バババカぶりを散々披露して帰ったそうだ。我が孫のことしか目に入らず、可愛い可愛いと蕩けるように零しては、頭が良さそうだとか理知的だとか、わかりようもないようなことまで口にして褒め契って帰ったらしい。
柴崎のお父さんと妹弟も次の日には駆けつけて――――晃を見てやはり蕩けて、幸せな笑顔に溢れていた。
両家の母親達は毎日毎日晃を見に来ては賑やかに喋って、晃を褒め契って帰って行く。母親同士で意気投合もしたらしく飽きもせず退院の日まで毎日毎日顔を出しては孫の成長を見つけては誇らしげに称えて――――両親の蕩けっぷりに、麻子と苦笑しながら、やっぱり俺達もずっと笑っていた。

幸せを形にすると、今の俺達になるのかもしれない――――そんなことを想ってしまう程の幸せを、毎日毎日、俺達は噛み締めている。
幸せ過ぎて怖いね、なんて麻子は時々零すこともあった。でももう俺達は知ってる。幸せ過ぎて怖くなった時は互いの手をキュッと握る。そっと唇を重ねて互いの存在を確かめる。
幸せな気持ちがもっともっと幸せな気持ちを膨らませて、幸せだけになるまで、ずっと触れ合えばいい…………。
麻子の笑顔が本当に優しくなった。
晃がそうさせるんだと思えば、悔しい気持ちも少しだけ生まれるから、俺はもっともっと麻子を幸せにしたくて毎日毎日キスをする。
晃が生まれてくれたことで、気付けば麻子に触れることを躊躇う気持ちはどこかに消えてなくなった。
だって、晃はずっと麻子に触れてる。
俺だって本当はずっと麻子に触れていたいのに――――我慢していた自分が、よく我慢出来てたよなって今の俺は思うんだ。
麻子に触れたがる俺を見て、麻子にキスをしかける俺にキスを返して、呆れながらからかいながら、でも嬉しそうに麻子も俺に触れたがっているのを感じるようになった。キツイ口調は相変わらずだけど、柔らかくなった麻子の笑顔にどんどんとまた俺は惚れていく。
子供が出来ても、こんなに妻に惚れられるっていうのは幸せな男だと思う。
幸せで幸せで幸せで。
こんなに幸せでいいのかと思う程、幸せで。
だけど、幸せ過ぎる毎日を、俺達はもう怖がらない――――。
――――今日も明日も明後日も……ずっとずっと俺達は、互いの温もりを抱き締めながら、幸せな笑顔を交わしていくのだから。



……To be continued.



********************



今回もまた長々とすみません!(出産シーン、お嫌いな方もすみません)
なんだか、このまま終わってもいいじゃん!って感じに手塚が幸せだー幸せだーとノロケまくって終わりましたが(苦笑)、最後は柴崎目線で終わりたいと思っているので、後1話お待ち下さい!
一応、リクエストも育児編まで見たいという感じでしたから許されますよね?
って私が恐縮するくらい、なんだか手塚が幸せだー幸せだーと、随分最後に惚気てくれちゃって★(笑)
一瞬私も、これで終わりか?!って悩むような手塚の〆言葉でしたね(苦笑)
一応、ゴッドファーザーの話は、結婚式から始まって、家の扉がパタンと閉まって終わるんだそうなんです(って相変わらず最後までゴッドファーザーの全てを通しては見なかった私です(苦笑))
一応、この話も、最初は副官房長官の歓送迎会というパーティーシーンから始まって(結婚式じゃないけど華やかさは結婚式並みと言うことで)、最後はなんとなく扉パタンで終わろうと思っています(なんだそりゃ)
最後の柴崎目線は、これまであんまり書けなかった柴崎のノロケをいっぱい書きたいと思っていますので(笑)、柴崎の「幸せだー幸せだー」にお付き合いしてやって下さい。
ようやくこのお話も完結が……! 後少しです……なんか、感慨深いです!!!





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★大丈夫、以前も教えてもらいましたよー(笑)

Sauly様

ありがとうございます!
扉バタンシーンは、多分以前にも教えてもらったんですよ(笑)
今回教えて貰ったものと同じYoutubeを、ちゃんと見ているのでご安心くださいw
そして、恐らく、ゴッドファーザーの扉バタンと全然違うやんー!と盛大なツッコミをお入れください(笑)
わかってやってますw

最終回、書いてますが、なかなか終わらない~~~~(笑)


ツンデレラ |  2017年09月01日(金) 06:14 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年09月01日(金) 02:20 |  【コメント編集】

★正しいツッコミ(笑)

ママ様

いつもありがとうございます、このお話も後少し……。
毎回コメント頂いて、本当にママ様と共に歩んできたようなお話でしたね(笑)

そうなんですー。自然分娩になりました!
このお話の柴崎は、手塚と離れて1人で産むよりも2人で産みたかった気持ちが強いので、赤ちゃんにもそれが通じたんじゃないのかなって勝手に想ってます(笑)。
早産の時期じゃなければ、始めから促進剤打たれて、もう少し早く出産できたかもしれないなぁ…なんて勝手に私は思ってるんですが、体力ないのに長丁場になってしまって可哀想でした…………。
私はそういうタイプじゃないんですけど、友達がこのタイプで、24時間以上苦しんだ挙句に帝王切開になって産後も最悪だったって言った話を思いだして、柴崎に重ねておりました。
微弱陣痛なら痛みは緩めだろうし陣痛の間は楽なんじゃ…? と私は思っていたのですが、友達の話では結局陣痛で眠ることは出来ないから頭が朦朧としてくるらしいです。精神的に一番キツイから食欲とかもまったくわかないらしくて、本当に一番最悪だよー! と言ってました(確かに……)
陣痛はめちゃめちゃ痛いけど、スポーンって産むと、産後は結構体力に余力があるというか身体は楽でしたから(私の体験(笑))←このタイプは郁ちゃんに重ねております(笑)
というわけで(?)なんとか無事に出産…………両家の母親が猛烈に心配していたというのに、当人二人は分娩室でずっとイチャイチャしていたというオチでしたー!(笑)

> 二人の世界に入る度に[此所はまだ分娩室だよね]と突っ込みながら読んでました。
爆笑!!!
正しいツッコミを入れながら、読んでいただいて本当にありがとうございます!!!
いやもう、そこを考えつつ読むと、超笑える2人…………堂郁バカップルなんか目じゃないバカップルぶりです(笑)
まぁ、このバカップルぶりももうすぐ終わりますので(『ひとり寝る夜の~』の手柴は、ホント2人の世界にすぐトリップするバカップルぶりの激しい2人です(笑))、呆れながらもお楽しみ下さいませ(苦笑)

> 晃くんにばかり手を掛けて手塚が拗ねそう(実はもう拗ねている)ではあるんだけど、そこは麻子さんですから上手く使っていくんでしょうねぇ(笑)
笑!
次回を読んだかのようなコメント、ありがとうございます(笑)
第一子は、母親になって初めてで、母親としてどうすればいいのかも初体験の子供なので、どうしても手をかけますよねェ(笑)
手塚がヤキモキする感じを書ければとは思ってるんですが、どうなることやら(苦笑)
次回のネタバレにならない程度に(?)言えば、正直、母親になるのは、柴崎よりも郁ちゃんの方が簡単に気持ちが移行できるような気がするんですよねー。柴崎はどっちかっていうと先に考えたりこうである方がいいとか理想も頭にあっての行動を好むような気がするので、赤ん坊って考え通りにはいかない謎の物体ですし(笑)柴崎も柴崎で、母親として悪戦苦闘するんじゃないかなって思ってるんですよね。
(そういう意味では郁ちゃんの方が、わからないことはわからないで、とにかく突っ走る! ということに慣れているので、赤ん坊と向き合うのは向いてるかなって)
まぁでも、妹も弟も面倒をみてきた柴崎なので、最初のしんどいトコロさえ抜ければ後は卒なくやれるんじゃないかと思ってますが(柴崎は、赤ん坊がある程度母親の言葉をわかるようになってきたらもう、上手いと思ってます(笑)。乳飲み子の時代だけ、珍しい柴崎が見れるんじゃないかと…………そして、そんな柴崎を見れるのも手塚だけの特権じゃないかと(笑))

というような次回です(って、ヲイ、ネタバレかいっ!!!)

> (手塚は)自分では真剣な顔をしてるつもりでも、端から見たら嬉しそうで笑いながら世話をしてるように見えてるんじゃないでしょうか。そんな手塚をパシャリとして[こんな顔をして晃の世話をしてるのよ]と送信
笑!
それは考え付かなかったぁ……! パシャリ! はいいですねー!
柴崎の携帯には、これまでの手塚の写真とはまた顔つきの違う手塚の写真が貯まっていって、柴崎の宝物が増えていくんでしょうね!
ああ、なんか幸せな2人が見えてくる~~~~!
手塚のパパ顔写メをタスクの人達が見たら、「……うわ…っ、顔見ただけでノロケられてるみてェ!」と悲鳴をあげそう(笑)
いや、からかういいネタが来た……ってそっちですかね?(笑)
そんなからかい受けたら、ますます手塚は弄られキャラ定着だー!!(笑)

ツンデレラ |  2017年08月31日(木) 06:27 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年08月30日(水) 14:40 |  【コメント編集】

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