FC2ブログ

08月≪ 2018年09月 ≫10月

123456789101112131415161718192021222324252627282930
2017.08.23 (Wed)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.74~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.74~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.74~ ≫背中の靴跡シリーズ


麻子さん――――以前はマコさんとお呼びしていましたけど――――のお世話をすることが出来たことは、本当に私の人生を豊かにして貰ったと思います。
ただただ、こうして麻子さんと過ごした時間に感謝しています。

元々看護婦だった私は、伯母さんからとても手当ての良い仕事を紹介して貰いました。
大学生と高校生の息子を持つ私ですから、とてもお金がかかるんです。
いっそ、常勤看護婦として仕事を探そうかと思っていた矢先だったので、とてもありがたいお話でした。
家政婦として病人の世話をして欲しいという内容で、週40時間を自分で配分しながらやって欲しいとのこと。夜勤もないというのに常勤看護婦の3倍近くのお給料なんて――――まぁ、その分、原則毎日必ず顔を出して欲しいと言われてたのですが、あまりにお給料が良いのでひょっとして、……その、いわゆるアブナイ仕事と言いますか、もしくは騙されているとか、そういうことももちろん考えました。
面接は感じのいい男性で、でも看護師資格と栄養士資格をしっかりと確認され、家族構成や経歴、最近の日々の生活についてもかなり突っ込まれた厳しい面接でした。
なにが良かったのかはわかりません。
そりゃ、若い頃はバリバリと救急病院で正看護師の仕事をしていましたから経験はそれなりに積んでいるベテランだとの自負はあります。それだけでなく病人さんの為に栄養についても勉強しようと、栄養士の資格もとる程の料理好きでしたので、まぁ――――自分で言うのはなんですけれど、病人相手の家政婦としては最適だったかもしれません。あくまで技術的な面では、ですけれど。
その一方で、私はとても地味なタイプで…………特にここ数年はずっと両親の介護に追われていましたので、両親が他界して1年になるのですがまだ社会復帰する勇気はなくて、友達と遊ぶこともなく家で引き籠り気味だったのです。元々社交的な性格ではない上に、今住んでいる周囲にあまりお友達も居なくて…………面接での私の印象はとにかく地味でおとなしい――――正直堅実ではあったでしょうけれど少し暗いイメージではなかったかと思います。
だから、出来るのなら明日からお願いしたいと言われた時には驚いてしまいました。
そしてもっと驚いたのは、当日私を案内したのは、あの手塚慧さんだったんです。
――――驚愕と緊張で、はぁ、とか、はい、しか言えませんでしたよ。
正直、年甲斐もなく少しドキドキしましたね。テレビで見てイケメンだとは思っていましたけれど、本当に整った綺麗なお顔でしたもの。
まぁ……天下の手塚慧さんだったら、アブナイ仕事ではないだろうって、案内されながらそれだけは安心しましたけどね。有名人ですから訴えられるような下手なことはしないだろうと思いました。
連れて行かれた病院で、病人のマコさんに会って――――余命どのくらいの方だろうと眉を顰めてしまいました。
だってどう見たってもう長くはなさそうな身体でしたし。
退院するって言うので、ああ、最後は自宅で看取るんだなって思った程です。それ程にその時のマコさんはやつれて、生気もない感じでした。
なるほど、周囲とあまり接触して来なかった私が採用された訳ですよね。――――手塚慧の恋人――――スクープになるネタですから、私は本当に家族にも口を閉ざしました。
あ、仕事に行ってることは話してますけどね、その仕事の内容については今でも言ってません。
退院して――――マコさんの自宅ではなく病院の裏のマンションへ。恋人の慧さんが足繁く来るのかと思ったけれどあまりそんな感じもなく――――日増しにマコさんは衰弱していくし、だんだん私も怖くなってきました。
マコさんの最後に看取る係、のような仕事で雇われたのかと思うと――――死ぬ場面に出くわすなんて、両親だけでもう十分です。
朝行くと、夜通し泣き続けて昏倒したんだろうって状態でマコさんが倒れているのが常で。
慌てて呼びかけて抱き起こせば、朦朧としながら意識を取り戻していたのが、そのうち、意識が戻らなくなって来て――――もう怖くて怖くて。
思い切って慧さんに連絡させて貰って、マコさんを入院させて下さい、夜を1人にさせないで上げて下さいってお願いしたら、――――恋人なのに冷たいですよね、俺は忙しいから実家で見て貰う、と言われたんです。
…………そりゃ、今のマコさんはやつれ果てて顔色も悪いし綺麗とか可愛いとか言えないですけど――――、でも昔は随分綺麗な方だったんだろうなって面影はありますし、病気のせいでこうなってしまったのは決してマコさんのせいではないのに。
でも、慧さんは本当にマコさんを手塚のご実家の方に連れて行かれて――――慧さんの弟の光さんを見て、また私は驚きました。
そっくり。
でも雰囲気は全然違うんですよ――――兄弟って不思議ですよね。
光さんの方は少し――――なんて表現すればいいんでしょうか、慧さんと同様にとってもイケメンなんですけど…………どこかしら可愛らしい雰囲気が漂っていて。完全無欠って感じの慧さんにはどうしても私も緊張感をもって接してしまう雰囲気が漂っているんですけど、光さんの方は柔らかいと言うか優しいというか少し接しやすい雰囲気があって――――でもやっぱり慧さん同様にすごく整った顔付のイケメンなので、それはそれでドキドキはするんですけど、でもうまく言えないんですけど全然雰囲気が違うのが本当に不思議でした。
そして不思議と言えば、マコさんが手塚家に来てからみるみると回復し始めて――――私も驚いてしまいました。
やはり、夜も見てくれる誰かが居るということがマコさんには良かったのでしょう。
四六時中、いつでもどこでも救いがないように見えたマコさんの気持ちのどこかに、少し安堵というか安心と言うか…………少しだけホッと出来る何かを見つけたんじゃないのか、というような感じを受けました。
夜が眠れるようになって――――すると、体力が回復し始めて――――本当に目を瞠る程の回復でした。
慧さんが手塚家に連れてきた判断は間違ってなかったんだ! と思わされる一方で、ちょっとだけ気になることも出てきました。
――――光さんです。
マコさんは慧さんの恋人で――――でも…………光さんが次第にマコさんのことを気にしていく感じが、私の目から見ても明らかなんです。
マコさんも慧さんや私に対する時と光さんに対する時とでは全然対応が違っていて――――私などには丁寧に礼儀を持って受け応えなさるのに、光さんには容赦ないというか――――でも、そんなやり取りがとても自然体な感じがして、なんだか2人はあれはあれでいい雰囲気に思えるから不思議でした。

――――誰にも言いませんでしたけどね、ある時――――洗濯機の前で、ソファーカバーを抱き締めているマコさんを見かけたことがあって――――。その姿があまりにも切なくて寂しくて、なんだか胸がギュッと締め付けられました。ソファーカバーに顔を埋めながら、マコさんが泣いているような気がして――――。
…………私にはよくわかりませんでした…………慧さんの恋人であるマコさんだと思っていましたから、慧さんが来てくれない寂しさを、慧さんにそっくりな光さんに重ねてしまうのかしら…………とも思いましたけど――――だけど普段のマコさんは、殊更光さんには距離を取っているように見えました。慧さんの代わりに光さんに頼っているというよりは、わざと嫌われるような言い方や態度を取っているようにも思えたんです。
慧さんは相変わらずほとんど顔すら出してくれません。でも、マコさんはそれに対して何も言いませんでした。
私の方からそのことを口にすると「――――いいのよ。彼は忙しいから。――――それより今のあたしがやるべきことは、早く元気になってこの家から出ることよ。…………そうして初めて、新しい時間が動き出すから…………」となんでもないように、よくわからないことを仰いました。
――――不思議でした。寂しくはないのかな? と思うのですが、慧さんが来ないと言う事実はそんなにマコさんを寂しい気持ちにはさせていないように思えました。
マコさんが慧さんを求めてる、というようなものを、感じることが出来なかったんです。
その代り――――というわけではないですが、よくよく気にして見ているうちに気付いたことがありました。
光さんがマコさんの存在に気付いていないところで、光さんを見るマコさんの目は、本当に寂しそうで切ないことに…………。
決してその目を光さんに見せることはしないマコさん。
光さんが気付くと、光さんを避けるように部屋に戻ってしまうマコさん。
光さんの前では頑なで意固地で――――嫌ってるように斬り捨てるような態度を取り続けて。
――――でも、陰からそっと光さんを見るあの目は――――光さんを求めている目のような気がしてなりませんでした。
…………そして光さんもマコさんに、どんどんと好意を寄せていくのがわかって――――それがまた一生懸命で応援したくなるような感じで――――それに何と言いますか、言い方は悪いんですけど本当に不器用で下手くそで。
あんなにイケメンでなんでも卒なく熟す人が、マコさんを前にすると上手く気持ちを現せなくて回りくどいことをしてみたり、じれったいようなことをしていたり――――どうしてマコさんに告白の一つも出来ないんだろうって不思議でした。
――――いつしか――――私は、恋人である慧さんより、マコさんには光さんの方がお似合いだと思うようになっていました。
だって……マコさんが苦しい時、しんどい時、傍に居るのは恋人の慧さんじゃありません。
マコさんはそれに関して一度も文句を言ったりしませんでしたが――――だけど、マコさんは病気なんです。マコさんが口に出さなくても、傍に付いていてあげようとか、そういう気持ちがない人を恋人と言えるでしょうか?
――――それに対して、光さんは一生懸命でした。本当にマコさんのことが好きで――――マコさんのことをずっとずっと見守っていたんです。

だけどそのうち、光さんとマコさんの関係が少しギクシャクしたような気配がありました――――雨降って地固まればいいのに、と最初は思っていたのですが、マコさんの様子が急激に衰弱して来て――――倉橋さんとも心配していた矢先、マコさんが内臓出血の為に緊急入院することになり――――本当に、生死を彷徨われました。
その日――――私と倉橋さんは昼過ぎまでマコさんと一緒でした。特に変わりはなく――――その日は、光さんや麗華さんと一緒に映画を見に行くのだと言って――――ほんの少し、光さんと仲直りされたような雰囲気を漂わせていました。量は本当に少なかったですがお昼も少し食べて下さって――――久しぶりの外出で映画館で寝ちゃったら恥ずかしいからと言って、少し寝ると仰って部屋に戻られました。
私達もその日は晩御飯の準備もなかったので、2時過ぎには家を出て――――翌日、光さんから連絡を貰って、まさかの緊急入院に私達も驚愕したくらいでした。

…………これがきっかけで、光さんがガラッと変わられました。

――――知らなかったのですが――――光さんはずっと記憶喪失だったんだそうです。
マコさんが倒れたことで、その衝撃から記憶を取り戻して――――それだけじゃなくて、なんと驚いたことに、マコさんの恋人は慧さんではなく光さんがマコさんの許嫁だったって言うじゃないですか!
ずっと慧さんの恋人だと思っていましたが、でも、やっぱりそうじゃなかったんだという事実は私をスッキリさせました。――――だってやっぱりどう考えたって、慧さんと居るマコさんより、光さんといるマコさんの方がお2人共想い合っている感じがしますもの。『やっぱり』っていう感想しか浮かびませんでした。
…………正直、ドラマ以上にドラマティックで…………特に光さんについては、記憶がなくてもやはり好きな女性を一途に想っておられたんだと思うと、本当に感激いたしました。
だったらどうしてマコさんが光さんと距離を取っていたのかはよくわかりませんでしたが――――病気になってしまった自分では光さんに申し訳がないとでも思われたのでしょうか。
その証拠にマコさんときたら本当に頑なで…………。
光さんの記憶が戻ったことをお伝えしたようなのですが、頑なに光さんには会われようとしなくて――――。
だから私が光さんの代わりに、マコさんに毎日会いに行きました。そして毎日光さんにマコさんの様子を伝えに行くようにお願いされました。
「…………すまない。でも、マコの様子は毎日聞いておきたいから…………」と光さんに申し訳なさそうに言われましたけど、2、3時間病院に居て、その後光さんへの報告なんて30分程なのですからお安いご用です。
それで同じだけのお給料を貰ってるんですから、むしろ私の方が申し訳ないくらいですよね。
私としては、好きな女性の容体を毎日気にする光さんがとても素敵だと思っていて――――むしろ、光さんに報告することが楽しみですらおりました。1人の女性をそんなにまで愛してるなんて素敵じゃないですか。
その一方でマコさんの行動がまったくわかりませんでした。許嫁の仲だった光さんはその記憶を取り戻して――――病気で酷い状態だった時のマコさんのこともずっと好きでいた光さんです。もう何の問題もなく光さんを求めればいいと思うのに、絶対に会おうとしなくて――――正直、この頃のマコさんには少し苛々しました。
だって、光さんが可哀想ですよね?
記憶を失くしていたことを怒っているのでしょうか? ――――でも、そんな風にも見えませんでした。
本当によくわからなくて――――。
だけど1ヶ月程経った頃になってようやく、マコさんは光さんに会うと言ってくれて――――ほらね、会って顔を見て話をすれば、すべては上手くいくんです。元々想い合っているお二人なんですから、仲直りなんてすぐなんです。
まぁ……仲が良すぎるというのも、周囲は糖害を受けて大変なんですけどね(笑)。
その日、朝早い時間から光さんはいそいそと病院に来られていて――――2人きりにするのがいいだろうと、マコさんのお母さんと私は遠慮して連絡を待っていたのですがお昼になっても連絡がなくて、マコさんのお母さんはそれはそれは心配して、お昼時間に2人で病室を見に行って――――2人でベッドで眠ってらっしゃったのには意表を突かれたと言うか、仲直りしたらいきなりそれか! と、本当に笑ってしまいました。
ああ、決していやらしい感じじゃなくて――――2人して本気で熟睡されていただけなんですけどね。あの時のお2人の寝惚けた顔といったら――――無防備な子供みたいな顔をしてて――――美男美女のお2人ですがなんというか可愛らしくて――――。
年甲斐もなく、きゃあって心がトキめいちゃいました。光さんがマコさんを包み込むように抱き締めてらっしゃってて――――ようやく大事なものを手に入れたとでも言うような大事に大事に抱き締めている感じで――――起きたお二人がみるみる真っ赤になったのがまた可愛らしくて微笑ましくて。
――――何と言いますか、その、そう――――見てるだけで幸せな気持ちになるような、そんな感じだったんです。
照れ隠しなのかマコさんは相変わらずつっけんどんな言い方で言い訳をしてらっしゃいましたけど、だけど、お2人が気持ちを通じあわせたんだろうなってことはすぐにわかりました。
だってマコさんの態度が一変しましたからね――――本当に体調を回復しようとマコさんは必至に頑張っていて――――マコさんの頑張りを見ていたら、私も出来る限りのお手伝いをさせていただきたくなる程で。
光さんが差し入れをしてもいいかと確認して下さったので、そりゃもう腕を振るってマコさんが食べたくなるような食事を挿し入れました! 美味しいって食べて下さると本当に嬉しくて、最初はほんの数口しか食べられなかったマコさんが少しずつ少しずつ量も増えていくのがまた嬉しくて、毎日毎日作ってました。
マコさんは「毎日手作りの差し入れなんて大変でしょ? 病院のご飯でも頑張って食べるから気にしないで」と言ってくれるのですが、私が作ってあげたかったのです。――――全然大変じゃなかったです。だって明らかに病院のご飯よりも私が作ったご飯の方がマコさんは美味しそうに食べてくれて、私の作った物だと少しでもたくさん食べれるんですもの――――そういうのって本当に嬉しいじゃないですか。
光さんと心を通じあわせてからは元気になろうと言う意志の力が強くなった感じがしました。だってそれまでは時折、生きる意志がないんじゃないかなって思うような雰囲気をマコさんは纏っている時があって、酷く不安な気持ちになることもあったりしたんですけど、そんな気配は全くなくなって――――驚く程のスピードで回復してきました。自分の身の周りのことを出来るようになろうと必死にリハビリにも励まれて、立って、歩く練習まで出来るようになって――――本当に日常生活に支障もなくなってきたんです。
愛の力って素晴らしいなって、この年になって教えられた気持でした。
――――このまま順調に回復してくれると思っていたのに、だけど、なんてことでしょう!
病院内でマコさんを狙う不審者が出たそうで――――元々お美しい女性ですから、見かけた誰かが見初めて接触しようとしたのでしょうか? ですけれど接触されたマコさんは、恐怖のあまり昏倒してしまったそうで――――光さんが犯人を捕まえて取り調べている間、マコさんの傍で看病していました。
目を覚ましたマコさんは――――無表情で、目に何も移してなくて、なんだか無機質なお人形みたいな反応で怖かったです。精神的に相当なショックを受けているのが明らかで胸が痛みました…………。その一方で、少し怖くて――――私が呼びかけても無関心で――――私が傍に居ることすら、理解出来てないんじゃないかと思うような感じで――――私もどうしていいのかわからなくて途方に暮れてしまって――――。
…………だからしばらくして、トイレに行きたい、とマコさんから言葉を掛けられた時にはホッとして、泣きたくなったくらいです。
ああ、反応がある、生きてるって思いました。
でも――――……思い出しても怖い…………マコさんはそのまま、トイレから消えてしまったんです。
もう私もどうしていいのかわからなくて、光さんに泣きながら連絡して――――光さんは飛んで戻って来て必死にマコさんを探したのですが見つからなくて――――初めて、光さんの鬼気迫る表情を見て怯えました。
戦闘職種の方の殺気と言いますか――――光さんは私を責めるような言葉は言われませんでしたけれど、びりびりと伝わる緊張感が私を竦ませてしまって――――……。
マコさんは見つかりませんでした。
私はしばらくお休みを言われてしまいました。
光さんに顔向けできないのですが、でも、マコさんの行方が何か少しでも――――と思うと連絡を入れずにはおれなくて…………倉橋さんにも情報を教えて欲しくて連絡したら、光さんが日に日に消耗していくのが目に見える程でとても心配だと言っていて――――もう、何をどうお詫びすればいいのかもわからなくて、私も自責の念に駆られて家族が心配するくらい暗く辛い毎日を過ごしました。
――――ようやく見つかったマコさんは、実家に戻られていました。
光さんはマコさんを追い駆けてしばらくマコさんの実家で過ごし――――戻って来た時にはすっかり光さんは元気になっていてホッとしました。(倉橋さんから聞き、本当に胸を撫で下ろして涙が出ました)
――――それから1週間ほどして、突然、マコさんが実家から東京に戻ってくると言うことで、私の元にも連絡が入ったんです。
本当に久しぶりで――――また光さんやマコさんに会えると思うと嬉しかったです。
ですが、話はそんなに簡単なものではありませんでした――――その時に初めて、私はマコさんの真実を教えていただきました。

マコさんは偽名で『柴崎麻子』というのが本当の名前であること。
そうしなれけばならなかった事件の概略。

――――衝撃でした。
――――事件に巻き込まれて命を落とし掛けたそうで――――再び狙われる可能性があったために偽名を使っていたんだそうです。…………でも、それもようやく解決しそうだと言うことで――――柴崎麻子さんとして帰ってくるのだと言うことでした。

――――道理で――――その話を聞いてそう思いました。

これまで、不自然なまでに光さんと距離を取ろうとする麻子さんの気持ちというものが、少し見えてきた気がしたからです。
命の危険のあるようなことに、光さんを捲き込みたくなかったのでしょう。
――――なんて健気で悲しい決意だったのでしょう。
だから、あんな寂しそうな目をすることがあったのだと、ようやく私にもわかってきたんです。
――――話を聞いて私は、麻子さんに対して更に愛おしさのような気持ちが湧きました。
早く麻子さんの元気な顔が見たくて、手塚家で待たせて貰いました。
午前中には着くと言うことでしたので、今か今かと倉橋さんと楽しみにまっていたんですが、麻子さんがやってきたのは日も落ちてからで――――しかも意識はまったくなくて、光さんが抱きかかえたまま、そのまま部屋に入られました。
お顔を見て――――とても顔色が悪くて、またとてもやつれた感じになっていたのに胸が痛みました。
翌日、早目に手塚家に行かせて貰うと発熱しているとのことで――――お医者様にも来て貰って点滴もしたにも関わらず夜は高熱になり――――薬の効果もあってか今は少し落ち着いているけれど、でもまだ身体に籠る熱は高そうだと光さんは顔を曇らせていました。
――――まったく、無理の利かない身体なのに上京してきていきなり1日中外出し通しだったなんて、無茶し過ぎなんです!
それから3日間――――麻子さんはずっと高熱に冒されて、細切れにしか意識も戻らなくて、本当に心配でした。
光さんがずっと付いて――――看護師の私なんかいらないくらい献身的に看病し続けて――――ようやく、少し熱が下がって容体が落ち着いてくれてホッとしました。
ホッとして思い返せば、光さんがのベッタリ具合に笑みが浮かびます。夜通しの看病ですから光さんも一緒に寝てしまってる場面もよく見かけましたが、ベッドで寄り添って寝てるのがもうセオリーのようになっていて。
そういえば麻子さんが緊急入院した時も、仲直りの面会の時にうっかりと抱き締めて眠っていたなぁ、と思い出して笑ってしまいしました。――――なんて言いますか、美男美女のお二人なので少女マンガみたいに綺麗な絵図らでドキドキするんですよね(笑)。
ドキドキすると言えば、朝、手塚家に来させて貰ったら、夜のうちに麻子さんが着替えた汗で濡れたパジャマなんかが洗濯に出ていたりして――――密かに倉橋さんと「これって――――光さんが着替えさせたんだよね?」ってもう2人できゃあきゃあと騒いでしまいましたよ。だってその頃はまだ麻子さんは高熱で意識朦朧状態が続いてたので、お昼間に着替えさせるときは私が麻子さんのパジャマを脱がせて、抱き起すようにして新しいパジャマを着せてましたもの。同じことを光さんがした――――だなんてもう、オバサンとしては騒ぐしかない話題ですよね(笑)。
――――いやもう……今思い出しても、恥ずかしくなるくらい光さんは麻子さんにベッタリでした。光さんって本当は恋人にはそんな風に接していたい方なのだということも初めてわかりました(笑)。
これまでは随分と堪えてらっしゃったんですね(笑)。
ですけれど、麻子さんの意識がしっかりして、麻子さん自身が回復して自分のことを自分で出来るようになると、これまた面白いくらい麻子さんも光さんに対して素っ気無くて。――――まぁ、私が少しからかってしまったのが悪かったのかもしれませんけど、自分のことが出来るようになった麻子さんは光さんを部屋から追い出してしまうし、私達が居る時は絶対に光さんには頼らずに私達を頼る徹底ぶりで、本当に素直じゃなくて。…………自分を頼ってくれない麻子さんの態度に、光さんが拗ねたり消沈したりするのがまた可笑しくて可笑しくて、私達は笑ってたんですけどね。
ですけど麻子さんは、本当に肝心なところだけは光さんに甘えていたと思います。
普段はどちらかというと光さんを邪険に扱うような素振りを見せたりもしましたけれど、私達に対する方がむしろ配慮と言うか気遣いなんかもあったりして――――ですけどそれって、裏を返せば光さんには遠慮なくありのままの自分を晒して受け止めて貰えることを、本能でわかってるってことですよね?
――――ああ、いいなぁ……なんて年甲斐もなく思ってしまいました。
こんな風に思い合える、解りあえるって、なんて素敵なんでしょう!
私はてっきり、このまま二人は麻子さんの体調の回復を待って、やがては何事もなく結婚なさるのだと思っていました。
それが…………意外にもなかなか結婚されなくて――――かなりヤキモキしました。
――――私も詳しいことは教えて貰ってないのですが――――、恐らくなんですけど、どうやら麻子さんが巻き込まれた事件に絡む何かがあったのではないでしょうか。
旦那様(手塚会長)が長期の出張に出られた頃だと感じています。
順調に回復されている麻子さんが、急に、病院に検査入院するとか言われて――――面会に行こうにも、いろんな検査をしているからバタバタしているとかで、お昼を過ぎたあたりの1時間ほどしかお会い出来なくて――――麻子さんは点滴中で眠っていらっしゃる時も多くて、その様子が日増しにだんだんとまたやつれていくような気がして心配で溜まりませんでした。
やはり病院という場所は麻子さんにとって辛いのではないかと、差し出がましく光さんに意見もしたのですが、今はこうするしかないからと光さんも厳しい顔で心配そうに麻子さんに寄り添ってらっしゃいました。
オカシイなとは思っておりましたけれど、それ以上のことは言えませんでしたし聞けませんでした。だって私よりも光さんの方が辛かったに違いないのですから。
そうこうするうちに麻子さんは本格的に体調を崩されてしまって――――また酷い高熱に見舞われて――――やはり想像以上にお体を弱らせていたせいでしょう、熱が引いてからも随分と入院生活が長引いて――――本当に大変だったんです。1か月近くも入院されて…………。

ですけど、この入院がお2人にとっても手塚家にとっても、転機となったようにも思います。

まず1つは、手塚の奥様です。
手塚の奥様がずっとご病気で入院していることは存じていましたが私はお会いしたことはありませんでした。心のご病気らしい雰囲気は薄々感じていましたが――――その手塚の奥様が、麻子さんが同じ病院に入院していることに気が付かれたんです。丁度、麻子さんが高熱で衰弱しきっている頃でした。
――――それがね…………なんと、奥様にとっての好機となったのです。
麻子さんの入院が、麻子さんの消耗しきった体調が、奥様の意識を覚醒させたようなのです――――麻子さんの世話をすることで、奥様の方の病状が急速に回復されたのです。――――正直、これには光さんですら驚かれていました。
知らなかったのですが奥様はそれはそれは麻子さんを気に入ってらして――――よくよくお話を伺うと、なんでもまだ麻子さんが事件に巻き込まれる前は、毎日のように奥様の元に麻子さんがお見舞いに来てくれて、家族以上に入院中の奥様によくしてくれたんだと、それはそれは我が子を自慢する母親のように麻子さんのことを誇りにして褒め契られて――――心から感謝してらっしゃるようでした。
「麻子さんはね、毎日顔を出して私を励まして元気にしてくれたの――――あの時のお返しに、今度は私が麻子さんを励まして支えてあげたいわ!」なんて仰ってて――――とはいえ、麻子さんにとっては姑に当たる奥様があまりに出張られると逆に麻子さんはきっと気を遣って疲れてしまうでしょう。それとなく奥様には、面会時間を決めてお会いするように差し出がましくもアドバイスさせていただきました。
毎日病院に顔を出しては、麻子さんと奥様のお二人に会っているうちに、いつしか奥様ともすっかり意気投合させていただいて――――早く麻子さんと光さんのお二人が結婚なさればいいのに、と私達はその話題ですっかり盛り上がったんです。
だって、相思相愛、しかもこれ以上はないくらいのお似合いのお二人なんですもの。
「麻子さんには早く元気になって、すぐにでも光と結婚して貰いたいのよ」と毎日のように仰っていて、「麻子さん以上のお嫁さんなんてどこにも居ないわ!」が奥様の口癖でした。「娘が出来るってウキウキするわよね」とも仰って――――「麻子さんはね、結婚式のドレスの試着に私も連れて行ってくれて――――本当に何を着てもとても良く似合って――――こんなに似合うんだからもう、ファッションショーのように10着でも20着でもお色直ししたらどうなのかしらって思わず言っちゃったんだけど…………」なんて夢見るように仰っていましたから(まぁ、奥様の意見は流石の私も絶句でしたけど、麻子さんが上手にかわされたようです)、こんな風に嫁と仲良く出来たら素敵だなぁ、なんてまた私はウットリしてしまいました。
私の所も息子が二人なので――――お嫁さんとこんな風にいい関係で居られるなんて、まさに理想ですもの。
もっとも奥様の場合は麻子さん贔屓が激し過ぎて、光さんまでが嫉妬する程で、それはそれで少し麻子さんも大変だな、とも思いましたけれど(苦笑)。
ある時、私が差し入れを持って顔を出させて貰った時に、光さんが「……母さん、そろそろ麻子のリハビリの時間だから――――」って苦い顔をして奥様に仰っていらして(どうやら、そろそろ奥様に退室して欲しかったのでしょう)、――――それを聞いた奥様は肩眉を上げて小首をわざとらしく傾げて「あら、今日は麻子さんにはリハビリスケジュールは入ってなかったと思うけど? 昨日ちゃんとリハビリ室で確認したのよ――――ね? 麻子さん」だなんて――――。
結局、麻子さんが笑いを噛み殺しながら「…………光さん、嘘はいけないんじゃないの? 仕事の話でお義母さんに席を外して欲しいならそう言えばいいのよ」と助け舟を出してあげれば、奥様は更に光さんに眉を吊り上げました。
「…………まぁまぁ……この子ったら、また麻子さんに仕事の話を? これだから麻子さん、入院中だと言うのにゆっくりもしてられないのよ――――この前なんてずっとパソコン作業していて――――ちょっとは考えなさい」
「いいんですよ、お義母さん。あたしが光さんに頼んでるんです――――今は日本中の図書館が、もちろん図書隊にとってもまさしく転機となる瞬間で――――あたし、そのお手伝いがしたくて――――、その気持ちが早く良くならなくちゃって頑張る原動力にもなってるんです」
「あらあらあら…………麻子さんったら…………」
「――――ご心配おかけしてごめんなさい。……だけどあたし、やっぱりこの仕事が好きだから――――」
「……そう――――そんな風にお仕事に取り組めるなんて、確かに素敵なことね。…………でも無理は決してしては駄目よ。約束してね、無理はしないって――――。
…………そう言うことなら仕方がないわねぇ。
光も、それならそうと、麻子さんみたいにハッキリ言えばいいのに、何を遠慮して嘘を吐いたりなんかして、ほんとにもうこの子ったら――――」
そう奥様に言われて、うっと詰まる光さんは大きな身体なのに子供そのもので笑いが零れてしまいます。
麻子さんもニヤニヤと光さんを見て笑いながら、奥様と一緒に光さんを弄るんです。
「ですよね、今のは完全に光さんのペナルティ――――お義母さん、光さんにこのお返しに何かして貰ったらどうですか? 光さんが嘘を吐いた罰に」
「ペナルティ! …………面白いわねぇ! そうね、そうねぇ――――何がいいかしら。
あ! じゃあ退院したら1日麻子さんをお母さんに貸して貰おうかしら。お買い物とかしてみたいの! どうかしら麻子さん?」
「――――お互い、早く良くならなくちゃ、ですね。――――いいですね、早く良くなってそういうのも…………」
「でしょう? ああ本当に早く元気にならなくちゃね!」
「~~~~2人だけとか心配だから、その時は俺、荷物持ちで付き合うから!」
意気投合される奥様と麻子さんに、焦ったように口を挟む光さんがもう可笑しくて(笑)。――――まさか親にまで麻子さんを取られることに嫉妬してらっしゃるのかと思えば、普段の冷静沈着でスマートな光さんはどこに行ってしまったのでしょう(笑)。
奥様は本当に麻子さんがお気に入りで、光さんも本当に麻子さんが好きだから、まさか親子でこんな風に麻子さんを取り合うなんて――――傍から見てるとコメディのようですけど、麻子さんにこっそり、大変ですねぇと言えば、麻子さんは花が咲いたように微笑んで、
「――――こんな幸せな悩み、あたしにはもったいないわね」
だなんて――――正直、同性でもドキンとする程の表情で、そんなことを言われました。
――――こんな素敵なお嫁さんが来てくれたら、私だってお嫁さん贔屓になっちゃうかもしれません。

そう、2つ目に変わったことは、麻子さんの雰囲気です――――光さんへの気持ちを、少しですが以前よりも出されるようになったような――――なんて言うのでしょうか、麻子さんも確かに光さんのことがずっとお好きだったとはわかっているのですが、わかってはいるけれど表面的には凄くわかりにくかったというか、そこに触れると麻子さん自身がご自分の気持ちを潰してしまいそうな危うさも感じたりとか、そういう所があったのですが――――この入院を境に、少しだけ素直に表情や態度に出されることが時々あるようになったように思うと言いますか…………その、歯切れが悪いのは、やはり麻子さんはわかりにくいというか、いえお気持ちはわかりきっているんですけれど難しくて――――ですけれど、確かに以前とは何かが変わられて、ああ光さんともうすぐ結婚されるのかなって素直に思えると言うか、そういう…………光さんへの想いを麻子さんからも時々感じて。

だから正直、退院したらすぐにでも結婚なさるんだと思っていたくらいだったんです。

だけど、予想は外れて、退院してからも1年半ほどは結婚なさらなくて――――体調面のこともあって慎重になっていらっしゃるのかなとも思いましたけれど、退院して半年程する頃には本当に体調もすっかりと回復されたのに、麻子さんは結婚ではなく、なんと図書館協会に勤務することで社会復帰されることを選ばれたんです。
――――正直、少し心配してしまいました。
もちろん、手塚家にはまだいらっしゃいましたし、恐らく光さんといつかはご結婚なさるのでしょうけれど――――何と言いますか手塚家に居ながらにして、麻子さんのキャリアウーマンぶりがわかると言いますか、物凄く仕事の出来る女性だってことをヒシヒシと感じたと言いますか…………社会復帰されてしまったら、光さんとの結婚は遅くなるのでは、と思ったんです。
私はずっと、病人のマコさん、病人の麻子さんと付き合っていましたので、麻子さんの仕事ぶりを知りませんでした。ですが、退院されて手塚家に居ながらにして仕事をされている雰囲気のある麻子さんを感じて――――そして、自宅で時折なされるお仕事の話などから、光さんも、そして図書館協会会長の旦那様も、何より驚いたことにあの手塚慧さんですら一目置く程、麻子さんが仕事の出来る方だと言うことが解って来たのです。
お仕事のことはサッパリわからない私ですけれど、そんな私ですら明らかにわかる程、皆が麻子さんに意見を求めたり、資料をお願いしている様子が感じられて、麻子さんも体調を鑑みながらもバリバリとお仕事を熟されている雰囲気を手塚家に居ながらにして感じていました。(お仕事のし過ぎで、また体調を崩されはしないかと心配になることもあるくらい、麻子さんは精力的に活動されておりました)
それが、図書館協会に正式にお勤め――――光さんとのご結婚はいつになるのだろうと、心配は日増しに大きくなりました。
ヤキモキすること、1年弱――――。
手塚の奥様は私とまったく同じお気持ちだったようで、倉橋さんも当然のように同じで、よく昼間は3人でお二人の結婚の話題をしておりました。早く結婚なさればいいのに、とそれが私達の願いだったのです。
麻子さんがお世話も要らないくらいに元気になられても、私がこうして手塚家に居ることが出来たのは、この時期、奥様の話し相手として重宝されたからかもしれません。
奥様とは意気投合してしまって、2人で(家事の手が空いた時は倉橋さんを含めて3人で)、あんなに仲がいいんだから早く結婚して欲しいのにね、と、いろいろと熱くお喋りに花を咲かせたものでした。

私や奥様の願いとは裏腹に、時代は大きな変革の時期だったのです――――テレビでは良化委員会の不正について毎日のように取り上げられて議論を重ねる大問題となっていました。慧さんをテレビで見る機会も多く、検閲についての手法や問題点なども浮き彫りにされ――――あんな横暴なことがこの日本国内で起きていたのかと私などは驚愕するばかりでした。日に日に社会情勢が動き、世論の検閲撤廃への声が昂り――――正直、これまでの私はそんなに本も読まないタイプでしたので、検閲なんて雲の上の話で身に関係のないことと思っておりましたが、実は子供の学校教育における思想コントロールにまでなりかねないような事態になったかもしれないとのことで――――危うく私達は、政府の意図だったかどうかはわからないですが、決まった思考、必要な情報だけを与えられる社会に傾いていて、まるでロボットのような存在になりかけていたかもしれなかったのでした。
…………恐ろしいことです。
もしも政府に対して影響力を持つ誰かが独裁政権を作り上げようとしたとしたら、私達は知らぬ間にそういう意識を植え付けられて、何も考えることなく気付けばその政権を支持していた、というような思考操作を容易くされてしまえる社会にいつの間にかなりかけていたのです。
自らの思考、自らの意識を作るための判断材料である情報をコントロールされるというのは、そういうことなのです。
メディア良化委員会の不正に始まった問題は、こんな風に、メディア良化法自体の意義を問うような議論へと移り変わって行きました。
ようやく、マスコミもしがらみから解放されて自由に放送しようと言う意識が芽生え、言論や表現の自由を私達に提供してくれて、様々な発想や思考、討論会等がメディアでも流れるようになり――――決まりきった枠が取り外された多種多様な思考に触れるようになりました。
それに気付くと、自らが考えて行動することの必要性を強く感じるようになりました。
自分の意志、思考、行動――――自由であると言うことは、私達1人1人に自己責任が生じると言うことです。自由を謳歌するには個々がモラルを持って行動しなければなりません。

メディア良化法自体を改正しようという動きの中で、慧さんは中軸となってご活躍されていました。
テレビでもよく見かけるようになり、皆がこぞって慧さんに意見を聞きにいっているようにも感じました。まさに日本を動かそうとしている方を、こんなに傍で見られるなんて想像したこともなかったです。
そんな慧さんが、時折手塚家に来ては麻子さんに会って帰られるのですから、麻子さんの凄さが解ろうというものです。あの手塚慧さんが、麻子さんに助言を聞いたりしてるんですから…………。
もっとも、そうして慧さんがやってきたその日の光さんの機嫌の悪さといったら、長く付き合っている私も驚く程でしたけれど(笑)。
ああ、決して慧さんは麻子さんを光さんから奪おうとして訪れているわけではありませんよ?(笑)
明らかにお二人の雰囲気は仕事のソレでしたから――――時に麻子さんの方は完璧なまでの営業顔でした。
それでも光さんは嫉妬してしまうらしかったです(笑)
可笑しいことに、光さんはどうにも慧さんには目くじらを立てられるんですよね(笑)。
マコさんを自分の恋人だと偽っていた時期があったことへの恨みもあるのでしょうか(笑)。
光さんが嫉妬しても、麻子さんときたらどこ吹く風でした。実際、慧さんとの仕事はとても重要なことも多かったようで、それでも忙しい最中も慧さんが麻子さんに会いに来るのは、麻子さんにそれだけの仕事の力量があるからだと私ですら感じました。――――ここだけの話ですが、まるで日本社会をお二人で動かされてるんじゃないだろうか、なんていう錯覚まで生まれるくらい――――それくらい、真剣なお話をされていたりしました。
慧さんは本当にお忙しそうで…………国会議員としてのお仕事だけでなく(国会議員と言うのは国会のみならずさまざまな委員会にも所属したり顔を出したりと、分刻みのスケジュールだそうです)メディアにも出演されて様々な講演もされて、時代を動かす最先鋒だったのです。
麻子さんは図書館協会のお仕事もあるのに、慧さんのお仕事の書類等を作成したりする仕事もされていたようで、光さんの機嫌がすこぶる悪い時は慧さん絡みのお仕事を麻子さんがされてるんだなってすぐにわかりました。
でも、麻子さんに会う為という名目で慧さんもこの家に顔を出す機会が増えて――――奥様が本当に嬉しそうでした。初めは少しぎこちない感じも受けましたけれど、やはりそこは親子ですし家族です。
時折は、お食事も取って帰られることもあったりするようになりました。
麻子さんと慧さんがお部屋で打ち合わせをされると言う時は、大慌てで光さんが駆けつけて一緒に部屋に入られて行くのが常で――――それがなんとも可笑しかったですけれど。
慧さんが手塚家に出入りする機会はどんどんと多くなって――――倉橋さんが、ようやく本来の手塚家に戻って来たと涙ぐんでいましたので、それほどまでにこれまで、確執が深かったんだなと私もわかりました。

慧さんの方の仕事も抱えるようになって、麻子さんは本当に仕事に忙殺されるように忙しそうでした。
体調面は光さんがかなり慎重に見ていらしたので、そこまで崩されることがなかったのは流石としか言いようがありません。少し過保護かなって私が思う程の麻子さんへの気遣いっぷりで、しかも私達の見ていない所では本当にお2人は仲が良くて(そういうのを他人に見せようとしないところがまた、私達の目を皿にしてしまうのですけれど(笑))、お二人して仕事がお休みの時なんかは、想像するだけでもドキドキするんですけれど、光さんが麻子さんに添い寝していたのだろうなってわかるようなお姿で2人して寝坊して起きてきたりなんかして…………もう、倉橋さんや奥様と共にキャアキャアと盛り上がってしまうようなことも本当に多かったのです。
――――もう正直、少女マンガのように美男美女の美しいお似合いの2人なだけに、本当にドキドキしますよね。
でも、私達が見ていることに気が付かれると、大慌てでパッと離れられたり、麻子さんが素っ気なく光さんを斬り捨てるような言動を取ったりと(光さんはそのたびに、捨て犬のようにシュンとされるのがまた可笑しくて堪らなかったのですが)、そういう所は妙に不器用と言いますか子供っぽくて、またそのギャップに私達は萌えたりしたものでした。

そうこうするうちに、気付けば、街でよく見かけていた良化委員会の検閲現場に怯える人達の姿は見なくなりました。国会ではメディア良化法自体の改正を目指して、慧さんが中軸となって議論が繰り返されたり有識者会議が開かれたりと、自由に向けて時代は確実に歩み始め――――ようやく麻子さんのお仕事の方に先行きでも見えたのでしょうか、麻子さんが遂に遂に、光さんとの結婚を決意されました。
奥様や旦那様はそりゃあもう大喜びで。
特に奥様は、披露宴は後でもいいんだし、とにかく麻子さんの気が変わらないうちに、明日にでもすぐにでも式を挙げられるところはないかしら?! なんて、あちこちに電話をかけ始めそうな勢いでした(笑)。
光さんが慌てて、式も2人で一番いいと思えるところで挙げたいから、と必死に奥様を宥めていました(笑)。
私もお祝いの言葉を伝えながらも「もっと早くにご結婚を決められても良かったでしょうに」と思わずぼやいてしまいましたら、麻子さんは「…………あたしね、ずっと、あたしでいいんだって自分で自分に自信がなかったの…………。でも、こうしてあたしのやってきたことが新しい時代を作っていくんだってようやく目の当たりにして――――あたし、あたしでもいいかもしれないって思えるようになったの。
あたしが――――光の隣に立つのが、あたしでもいいかなって…………ようやくあたしがあたしのことを許せるようになったから…………」と少しよくわからないことを仰っていました。――――麻子さんは結婚に対して何かを悩まれていたのでしょうか。私の目から見れば、光さんの隣に立つのは麻子さん以外には有り得ないことだったんですけどね?
それから間もなくして、手塚家としては驚くほど早くに挙式に踏み切られました。まるで焦ってらっしゃるみたいに皆して、麻子さんの気が変わらないうちにとお2人の背中を押すような感じで――――実際、光さんや麻子さんには内緒なんですけれど、以前に(麻子さんが事件に巻き込まれる前に)予定していたホテルにお2人が見学に行かれた際にはなんと、ホテル側から極秘で奥様や旦那様に直接連絡が入ったようで、どうやら奥様や旦那様が日程やら何やらを上手く調整されたらしく、とても早い時期でのいい日程で式場を押さえることが出来て――――そこからは本当に早くて、あっと言う間に結婚式となったのでした。
結婚式は本当に幸せいっぱいな、感動する式でした。
心の籠ったいいお式で、私のような者まで出席させていただいたのですが、私はもうずっと涙腺が緩くなりっぱなしでした。途中、図書隊の方のサプライズなんかもあったりして、それは笑いすぎて涙が出るくらい楽しかったのですが、麻子さんもすっごく笑っておられて――――そのうち笑いながら泣き出したのを隣から優しくそっとサポートしている光さんの姿にまたジーンと感動したりもしました。
涙を零してしまった麻子さんが、見られたくないのか少し顔を俯けるのを、気付いた隣の光さんがそっと隠すようにして引き寄せながら、ハンカチで涙を拭いてあげていて――――私も泣きながらも、あまりに美しすぎるお二人のそんな姿に年甲斐もなくドキドキしてしまって、私だけでなく会場中がそんなお二人の姿に目を奪われて、いつしか誰からか温かな拍手が知らずに湧き上がってきたりもしました。
注目されていることに気付いたお2人が少し照れた表情で、互いの顔を見て恥ずかしそうに苦笑される様子にまた会場中がヤラれてしまったのですけどね。――――ホント、拍手喝采となりましたよ(笑)
――――本当にいいお式だったんです。
図書隊の方々を筆頭に(本当に図書隊の方々は賑やかでしたけれど(笑))、お2人を囲む皆さんは本当に優しくずっと二人を見守ってくれていたんだろうって感じの方ばかりで――――笑いに満ち溢れているのに、心はあったかくなるようなたくさんのやり取りが合って、本当にあの式に呼んで貰えて私は光栄でした。

絶対にお二人は幸せになる――――それはもう、お伽話のように、末永く幸せに――――と確信していたのですが。

結婚式の当日は光り輝くように眩しかった麻子さんでしたが、結婚されて1週間もしないくらいから、少し体調を崩されているんじゃないかと思う節があって(麻子さんの帰宅は私が帰ってしまった後であることがほとんどでしたので直接お顔を見る機会はあまりなかったのですけれど、たまにお顔を見た時にふと感じた違和感と言いますか、少し疲れているような感じと言いますか)――――ですけれど、結婚式の前後というのは花嫁は多忙で疲れるものですし、ましてやお仕事もバリバリとされている状態での麻子さんでしたので、環境が変わったせいもあって、しばらくは仕方がないのかな――――と思っていたのですが、それから1ヶ月もしないうちに、急速に体調が悪化したようなのです。
私も、その頃には手塚の奥様からもすっかり信用して頂けておりましたので、光さんと麻子さんの新居の家事手伝いとして雇われ続けておりまして、麻子さんがお仕事の日には晩御飯を作りにお家に上がらせていただいたり、(ほとんど私は必要ないくらいに家は片付けられていましたが)お掃除等の家事を少しお手伝いして、夕方には帰るという日々でした。(こんな簡単なお仕事でお金を貰っていいんだろうかと思うくらいの内容でした)
それがある日、急に朝から呼ばれて行ってみれば、私が驚愕する程麻子さんがすっかり消耗しきった様子でグッタリとベッドに横たわっていて――――気持ちが悪くて、と私が支えてあげないといけないくらいふらふらと覚束ない足取りでトイレに行ったと思ったらもう、酷い吐気のあまりそのままトイレに籠って動けなくなってしまったのです(とはいえ、胃の中に吐く物すら何もない程、麻子さんは食事も出来ていなかったのでしょう――――何も出ないのにただただ酷い吐き気で動くことが出来ない状態でした)。
麻子さんに話し掛けても意識も朦朧としているのか、私の言葉に反応も出来ない有様の麻子さん――――どうしてこんなことに、と必死に考えているうちに、新婚の奥様のこんな状態って――――悪阻にほかならないのではないのかと思い至った私でした。
丁度その時、神様が引き寄せて下さったのか、笠原さんが訪問して来られて――――私と同じ発想で、半ば無理矢理でしたが麻子さんを病院へと連れて行ってくれました。(心配でしたので私も同行させて貰いました)。
結果は、予想通り、妊娠――――。
お2人に赤ちゃんが出来たのだという事実は、本当に嬉しかったです。

ですけれど、おめでたくて嬉しいこの事実は、麻子さんのお体にとっては相当な覚悟がいることでした。
――――正直、麻子さんの弱っているお体での妊娠は、本当に辛く大変なものだったのです。
これまでだって、他の人が経験する何倍もの辛い目に合ってきたお2人だというのに、神様はどうしてこんなまでお2人に試練を与えるのでしょうか。

妊娠という事実を体が拒絶してるのではないかと思う程の酷い悪阻で、麻子さんは、出会った頃の病気だった頃を髣髴させる程、激痩せされてしまいました。
お仕事もとても出来る状態ではなくて、それでも少しでも身体を起こせる日は、麻子さんは仕事を引き継ぐために尽力されて、見ていて痛々しくて涙が出そうになりました。もっとも、旦那様である会長の計らいもあり、大部分は光さんが麻子さんから話を聞いて引き継ぐこととなったので(図書隊の方のお仕事は出向という形で便宜を図って貰えたようです――――相手が光さんでしたから、麻子さんのお仕事の引継ぎも、一を聞けば十を知る、というような感じで、随分と麻子さんにとって楽だったと思います)、少しでも麻子さんが楽そうな日には、光さんが麻子さんを抱き起すようにしてお2人でベッドに寄り添われていて、パソコンを覗き込みながら、とても近い距離でお2人がお話されている様子に、見ていてこちらがドキドキしてしまいました。(もちろん、内容はお仕事の事だとはわかっているのですけれど、やつれてもやはり麻子さんはお美しかったですし、光さんは麻子さんの妊娠が解ってからより一層優しくて慈しむような目を麻子さんに向けられるので――――お2人がお仕事の話をしてるんだって解ってる筈なのに、それでもドキドキするくらいお二人の雰囲気が柔らかくて甘い感じがして、年甲斐もなくトキめいてしまうのです)
本当に、お2人の仲睦まじさに、私はずっとやられっぱなしでした。
お仕事の方もなんとかそんな感じで麻子さんの負担が少ない形で引き継がれ、出来ればこのまま安定期に入ってくれれば麻子さんの体調も少し落ち着いて楽になる筈――――皆がそう思っていたのですが、落ち着く間もなく、妊娠したことで元々弱っていた腎臓の方に負荷がかかってしまったらしく、麻子さんの体調はちっとも良くなることはありませんでした。
悪阻が激し過ぎて、ずっと軽い脱水状態も続いていたのでしょう――――腎臓機能の検査数値がずっと芳しくなかったようなのです。
それでも妊娠中期に入って、ようやく酷い吐き気が少しだけ治まって来た麻子さんは(そうはいってもまだムカつきはありましたので、食事はほとんど取れていない状態は続いていたのですが)、自分の出来ることはしようと思われたようで――――少しずつ、家事を再開され始めたのです。
もちろん私も毎日行かせて貰っていましたから、そんなことをされなくても、ゆっくりしてくれればいいのだと何度も言わせていただいたんですけれど、少しは動かないと身体が鈍っちゃうわよ、最近めっきり筋肉がなくなっちゃってすぐに息切れしちゃうんだもん、と笑って、無理のない程度にするから、と少しずつ家事をし始めるようになったのでした。
――――それから、間もなくのことでした。
なんてことでしょう! 洗濯物を干している最中に倒れてしまったのです。
麻子さんのお姿が見えなくて探し回っていた私の目に、倒れている麻子さんの姿が飛び込んで来た時の私の恐怖と言ったら……! どんなに怖かったか解って貰えますか?
もちろん息はあって、抱き起して名前を呼び続けるとすぐに意識を取り戻してくれたのですが、怖いくらい真っ蒼で、「…………ごめ…………、ひんけ…つ…………かな……」と呂律も怪しいくらい弱々しく呟くのが精一杯という感じで、ご自身では体も起こせないくらいの状態で――――慌ててお医者様を呼びました。
それで検査をしてわかったのですが、どうやら腎臓の方の働きが少し悪くなっているとのことで――――少し家事をするだけでも酷い疲労感に襲われて、酷い時には起き上がれなくなることもしばしばあって――――正直、お傍で見ていて、お可哀想で涙が出そうになりました。
「…………光には言わないで…………」そう言った麻子さんの言葉は、お医者様にアッサリと拒絶され、連絡を受けた光さんが飛んで戻って来たのは言うまでもありません。
グッと何かを堪えるような眼差しをした光さんが、私を見ずに、「――――少し麻子と話をしたいから…………」とお2人で部屋に籠られた時にはどうなることかとハラハラしてしまいました。
――――もう、中絶も出来ないような次期になっています――――
愛する人の赤ちゃんをお腹に宿す――――女性にとっては幸せなことの筈が、麻子さんの身体にとっては、身を削るようにして赤ちゃんを育てなくてはならないのだという事実。
その日、お2人はずっと部屋に籠っておられて――――帰り際に顔を出した私に、光さんだけが出て来られて、「今日はありがとう――――麻子といろいろと話をして――――ようやく、麻子には自分の身体のことだけに専念するように説得出来たから――――。だから、明日からは高山さんに、これまで以上に家のことや麻子のことで迷惑をかけると思うけど…………どうかこれからも、よろしくお願いします」と頭を下げられました。
とんでもなく勿体ないお言葉に、私は恐縮の極みでした。
だって、家政婦本来のお仕事を頼まれただけなんですから。
そっと麻子さんの顔を見せて貰うと、少し涙の跡も見受けられましたが、無防備な穏やかな寝顔をされていてホッとしました。麻子さんはやっぱり光さんの前でだけは、ああいう可愛らしいお顔をされるんですよね。

光さんも出来る限り、麻子さんの傍に居る時間を増やしているように感じました。
本当にいつまでも仲睦まじくて――――羨ましくなるようなご夫婦です。

光さんは麻子さんのご実家にも連絡されて、時々、麻子さんのお母さんも泊まりに来るようになりました。
…………少し悔しいですが、やはり実母の力は偉大です。
麻子さんの気性もよくわかってらっしゃるので、上手く言葉を交わしながら麻子さんに、お腹の赤ちゃんと自分のことに専念するようにと、口添えしてくれていました。
「赤ちゃんの為なんだから」「赤ちゃんを守ってあげられるのは麻子だけなのよ」と、麻子さんに反論の余地を与えず、自分の体調管理がどれだけ大切なことなのかを口を酸っぱくして何度も言っておられたのが印象的でした。麻子さんもそれを前面に出されると、赤ちゃんを中心に過ごす気持ちが湧いて来たように思います。決して自分の為ではなく、赤ちゃんの為に無理をしないこと――――その大切さが伝わってくれたのでしょうか。

妊娠後期に入ると、痩せすぎて全然妊婦に見えなかった麻子さんの身体も、少しずつお腹の膨らみが解るようになってきました。
目に見えだした変化に、驚くくらい麻子さんが嬉しそうで――――私まで嬉しくなりました。
愛おしそうに自分のお腹を撫でる麻子さんの顔と言ったら、まるで聖母マリア様のように優しくてお美しくて!
とてもとても赤ちゃんを大事に想っておられて――――ある時、胎動を感じたらしくて、あの麻子さんが子供のように嬉しそうに、「この前から感じるようになったの…! 凄いわよね、もうお腹の中で自分の力で動くのよ! ――――この子ったら誰に似たのか、すっごく元気みたいで動き回る時があるの!」なんて向日葵が咲いているような笑顔で教えてくれたんですよ。私もこの年でなんですけれど、だんだんと自分の孫の誕生を心待ちにしているような、特別な気分を味わっていました。
ある時なんか、光さんとお部屋で2人きりの時に、2人してお腹に手を当てて、赤ちゃんが動くたびに2人で笑っている姿をお庭に出ていた時に見かけたりなんかして――――その姿に何故か、あまりに幸せ過ぎて、ドキドキして、なぜだか私の方が泣き笑いをしそうになったくらいです。

――――本当に、無事に生まれてくれたら――――

それが皆のただ一つの願いでした。

唯一つの――――

     *

「…………麻子さんはッ?! 赤ちゃんはッ?!」
明け方、麻子さんが緊急手術に入ったとの連絡が入って、居ても経っても居られずに、私まで病院に駆け付けました。
……私なんかが行ったところで、もちろん、何も出来ないとわかってはいたのですが。
待合室には、麻子さんのお母さんと、奥様と旦那様がいらして――――奥様の方は震えてらして、旦那様が腰に腕を回してしっかりと支えてあげている感じでした。
麻子さんのお母さんが、気丈にも答えてくれました。
「――――赤ちゃんは、無事――――無事、生まれたみたいなの。――――院内の携帯電話で連絡があって――――無事、出産されました……って…………ただ……その連絡の最中、麻子の容体が急変したらしくて、途中で電話が切れて――――私達も手術室の前に行ってみたんだけど手術中の電気もまだ消えてないから――――私達もわからなくて…………」
そう言うと、言葉に詰まったように声を途切らせて涙ぐまれました。
私も言葉もありません――――……。
「~~~~あ、あの…っ…………手術室はっ?! 私、手術室の電気がまだ点いているかどうかだけでも見て来ますッ!!」
「…………まだ点いてるわ…………あそこ…………」
見れば、待合室から確かに赤い電灯が見えました。

赤い電灯の光だけが、薄暗い廊下の中で浮かび上がっています。

――――麻子さん……!!

薄暗い廊下はシン…と静まり返って、生まれた筈の赤ちゃんの泣き声すら聞こえなくて――――私は足元から崩れ落ちそうになるような覚束ない感覚に、立ち尽くすことしか出来ませんでした。



……To be continued.



********************



まさかの高山さん目線★(笑)
めっちゃ長くてゴメンナサイ~~~~ι( ̄ロ ̄ll)
とりあえず、妊娠生活を手柴2人目線でやっちゃうとどんだけまた辛くて長い話になるの…って感じだったので(この妊娠は麻子サンにとってとてつもなく大変な妊娠だという設定なので)、第三者目線で経過を書きたかったんですが…………高山さん目線にしてみたら、高山さんの回想録みたいになっちゃって~~~~どんだけ長いんだよ……ヽ(  ̄д ̄;)ノ
ほんっと、ごめんなさいね。
次回はちゃんと手柴目線でお送りします!(苦笑)







スポンサーサイト
05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

★詳しい…

ママ様

高山さんの回想録にまで、しかも高山さんというキャラにも着目してコメント下さってありがとうございます!
なんか、私よりもよっぽど詳しく高山さんについても見ていただけてるような気が(笑)
手塚家に元々いた倉橋さんも、身元はしっかりしていると思いますよー。
高山さんも、もちろんしっかりしていると思います。本家はきっと昔からそれなりに地盤もしっかりしたところじゃないでしょうか。高山さん自身は分家の子供だし、本当に一般人的に普通に育ってますけどね(苦笑) 
高校生と大学生の息子を持つと家計が苦しいなって思うような、普通の家庭です(苦笑) まだ、高校の息子も大学に行くでしょうからねェ…キツイわ!(苦笑)

> 外側(手塚・柴崎視点)から見た二人は緊迫感を伴ってますが、高山さん視点では甘い!
ありがとうございます! ちょっとは甘いトコロを感じて貰えてめちゃめちゃ嬉しいです!
そうなんですよねー。手柴目線では事件の事も何もかもわかった上で、互いに距離を置く、距離を詰めたいと願いながらの行動で、いろんな葛藤を抱えながらずっときていましたけれど、第三者から二人を眺めていたらきっとただのバカップル(笑) 
行動の節々にイチャついてる感が満載な(笑)どうあってもアンタ達は離れられないでしょうが!って感じがひしひし(笑)
そのあたり、高山さん目線で書ければ……と思っていたんですけれど、あまりにこれまでの回想(経緯説明)みたいになってしまい、肝心のソコは少なかったかな……ととても自分の文才のなさを想っていたので、ママ様がソコをわかって下さって本当に嬉しかったです!(*^^*)

> 回想録と云いながら出産まで。
そうなんですけどれど、高山さん目線をどこまですれば区切りが良いかと思いながら書いてたらここまで(苦笑)
でも、出産はリクエストにもありますし、ちゃんと手柴目線でもう一度次に出しますけど(笑)
いや、私も帝王切開……?も考えたんですが、手術からは時間も経ったし、子宮的には(苦笑)自然分娩でもいけるくらいの時間なんだよなー。ということで、目指したのは自然分娩、ということにしています(苦笑)
そのあたりはご都合主義も入ってるということでご容赦下さいませ~~~~。
手塚に叱られてから(妊娠中期で洗濯途中で倒れた時)は、柴崎も家事は高山さんに任せる方向で自分の体調管理に専念したということで(それでもずっと体調は安定しなかった設定ですが)、なんとか自然分娩を目指すところまでは来てたんだな~~~~ってところで次回を見て下さいませませ。

あ、そうそう、ママ様のコメントの最後にありました念押しは、その辺は大丈夫ですので大船に乗って貰えば(笑)
最後は完全にご都合主義でまとめると思います(笑)
後、2話くらいで完結出来るかな~~~~♪(*^^*)

ツンデレラ |  2017年08月24日(木) 06:45 | URL 【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2017年08月23日(水) 14:39 |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除に必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

この記事のトラックバックURL

→http://hujikoba.blog135.fc2.com/tb.php/732-95e975ce
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME |