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2017.08.16 (Wed)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.73~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.73~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.73~ ≫背中の靴跡シリーズ


麻子が倒れた、と笠原から連絡は入って、病院に駆け付けた。
インフォメーションの所で、笠原が立ち上がる。
「――――あ、手塚! ここ!」
「~~~~麻子はッ?!」
「今日からしばらく入院した方がいいって、お医者さんは言ってる――――あ、こっち!」
笠原の後に付いて、早足で病院内を通り抜ける。
「――――容体はッ?!」
「検査の途中で意識がなくなって――――今は点滴して貰って眠ってる」
「~~~~くそ…っ!」
――――やっぱり仕事を休めば良かったと後悔が襲う。
どう見たって調子が悪そうだった。
『よくあることだし、大丈夫よ』『光はちゃんと仕事行って』
真剣な顔で必死に言うから、後ろ髪を引かれながらも仕事に出かけてしまった。
大丈夫、大丈夫って、麻子の大丈夫は信用しないことに決めてたのに。
疲労が重なって体調が悪くなると、高熱が出たり、嘔吐したり――――どちらの時も、まったく食事が取れなくなるのが常で。そんな時は出来るだけ傍に居て、麻子が少しでも楽になるように介抱してやることしか出来ない。
――――それくらいしかしてやれないのに、なんで今朝は仕事に行っちまったんだろう…………。
後悔しても悔み切れない。
案内されたのは応急処置の部屋で、扉を開けると、高山が傍に付いていてくれた。
覗き込むと、蒼い顔をして麻子が眠っていた。
腕には点滴がされている。
――――堪らなくなって、眠っている麻子の空いてる手を取ると麻子の瞼が震えた。
ゆっくり――――ゆっくりと、重い瞼をこじ開けるように、麻子の瞳が開いた。
「…………ひ……か……る……?」
「――――麻子…………大丈夫か?」
「…………ひ…か…る……?」
「――――ああ……。無理しすぎなんだよ、お前――――入院した方がいいって医者が言ってるらしいな」
「……なんで…………ここ……に……?」
「笠原が連絡くれて――――お前が倒れたって――――入院手続きもしてくるから、しばらくは病院で大人しくしてろ――――な?」
「――――え……? …………や、やだ…………入院は、いや…………」
「駄目だ! ちゃんと俺も付いててやるから――――ほら、家だとどうしてもお前無理するだろ――――少し回復すると持ち帰った仕事とかもやっちまうし――――それに俺に心配かけないようにって無理もするだろ? だからこんな風に、過労で倒れ――――」
「~~~~や…っ…………倒れたって言うか、気付いたら眠っちゃってて――――けどっ! ただの悪阻で――――ただの悪阻なのに入院なんて、ヤダ…ッ!!!」
「~~~~お前なぁ! ただの悪阻って言ったって、倒れる程の――――――――
…………って、
――――――――はぁ?!」
一瞬で頭が真っ白になった。――――言われた言葉が上手く理解出来なくて混乱する。
「…………つ……つわり…………? ~~~~悪阻って……その、…………あの、あの悪阻…………?」
「~~~~どの悪阻があるってのよ?! ――――悪阻で吐いたり気持ち悪くなったりするなんて普通のことだし――――よくあることでしょッ!!! なんでそんなことで入院しなきゃいけないの…っ!!」
「――――え…え、え…ッ?! どう――――、……なっ…………つ、悪阻って……?!」
「悪阻は悪阻でしょッ?!」

「…………いやぁ…………かなり酷い悪阻だから、入院した方がいいと思うけど? 柴崎さんの体力の消耗が激し過ぎる――――しかし、悪阻とはねェ……昨日は思いも付かなかったな」

ふいに割り込んできた声に驚愕すると、扉の所に宮澤医師が立っていた。
呆気に取られて――――そして周囲を見れば、笠原と高山が俺達の会話に腹を抱えて失笑していた。
その様子に、じわじわと顔が熱くなってくる。
だけど、ハッと気付いた――――。

「~~~~あ…、いやその……悪阻って――――悪阻ってことは、その、お前のお腹の中に――――」

思わず凝視して――――布団に隠れるような麻子の腹部へとゆっくり目を向ける――――……

麻子の綺麗な微笑み――――はにかむように笑った麻子が俺を見た。
ドキン!! と鼓動が跳ねる。
「――――ん…………2か月から3か月――――だって…………」
思わず麻子に見惚れて――――理解しようとしても頭がバカみたいに真っ白になって、うわ言のように言葉が零れる。
「~~~~ほ…………ほんと…に?」
「――――うん……。……あたしも全然気付かなかった――――」
慈しむようにそっとお腹に手を添える麻子の表情にまたどきん、と鼓動が跳ねる。――――最近まったく食べられなくてやつれてるのに…………聖母のように美しかった。
見惚れて咄嗟に言葉が出ない俺の代わりに、笠原が会話に割って入った。
「~~~~なんで気付かないのよぉ? 手塚の話だと、完全に妊娠初期の症状じゃない!! ――――思い付いた途端、居ても経っても居られなくて慌てて由を堂上家に預けて飛んで来たわよ! 
…………ね、けど柴崎、――――本当に入院した方がいいんじゃない? 悪阻が酷くて入院する人は居るよ? 産婦人科のお医者さんもかなり消耗が激しいから入院した方がいいって言ってたよ」
笠原の言葉を受けて、割り込むように宮澤医師の言葉が挟まる。
「――――というより、柴崎さん…………妊娠ってことになると、柴崎さん自身にリスクがいろいろあるんだけど――――わかってるかな?」

――――そうだ――――。

舞い上がりそうになっていた気持ちが、一気に冷えてくる。
麻子から聞いたことがある――――麻子の身体での妊娠出産はリスクが高すぎること…………。

「もちろん、わかってます――――。でも、この身に替えても、この子だけは無事に産んであげたいんです」
「~~~~駄目だッッ!!!」
思わず叫んで――――叫んだ自分自身に驚いた。
麻子も驚いたように俺を見て――――目が合った瞬間、思わず、その華奢過ぎる身体を抱き締めた。
「~~~~駄目だッ!! 麻子の身と引き換えになんか出来ないッ!! 可哀想だけど諦めよう…………麻子の身体が何よりも一番大事だっ!!! 誰よりも麻子が大事なんだッ!!!」
「~~~~ひ、ひか…る…っ?!」
麻子が声を上げたけど、子供のように聞きたくなくて言葉を並べる。
「~~~~麻子にもしものことがあったら…………なんて、もしも、なんて…ッ!! ――――駄目だ駄目だ駄目だッ!!! 絶対、駄目だッッ!!!」
「~~~~光? ~~光ったら…っ!」
「駄目だッ!! 麻子が居てくれればいい――――麻子が居ればいいから――――麻子だけが居ればいいんだ…………なぁ……頼む――――無茶は止めて…………なによりも自分を大事にしてくれ……」
麻子に縋り付く。――――こんな華奢な身体に救いを求めるように縋り付く――――壊さないように力加減を気にしなければ、とは思うが(力は籠めないようにはしたが)、麻子の肩に顔を埋めて懇願するように鼻を擦り付けた。
――――麻子の香り…………麻子がここに居る香りだ。
頼むよ、と麻子の耳元で囁く。
酷く頼りなく揺れるような自分の声が情けない。
「――――光? …………光…………」
麻子のか細い腕が回されて、脇腹辺りをポンポンと叩いて来た。
麻子が胸の中で身じろぐ。――――離したくないのに、麻子が俺を覗き込もうと距離を取ろうとするから――――仕方がなく、麻子を縋るように見下ろす――――。

と。

ぺちり…ッ! と軽い音がするような勢いで両手で顔を挟まれた。
怒ったような顔で、麻子が俺の目を覗き込む。
「――――あたしも言い方が悪かったけど…っ!! けど、生きてるのよ…ッ!! この子だって、こんな居心地悪いお腹の中で必死に生きてくれてるのッ!! 心臓だって動いてるのよっ!! 一生懸命生まれてくるために頑張ってくれてんのッ!!! あたしと光の赤ちゃんなんだよッ?!」
「…………けど…………そのせいで、お前――――まるで食べられないし、水すらも飲めない時だってあるじゃないか! ……そうでなくても丈夫じゃない身体なんだ――――大事にしないといけない身体だ――――お前に負担がかかりすぎる! ――――わかってるだろ?! 今だって限界が来てるから起き上がれなくなる時があるんだよ?! そうだろ?!
――――なぁ……俺とお前の赤ちゃんだからって言ってもな、俺は替わってやれないんだよ。――――もし俺が替わりに生んでやれるんだったら、俺だって喜ぶよ――――けど、こればっかりは替わってやれないんだ。絶対駄目だ、負担はお前にしかいかないし――――お前の身体にリスクが高すぎる…………駄目だ」
必死に説得しようと言葉を紡いでいたら、怒気を孕んだ目が一瞬大きくなった。

パン…ッ!

軽い音がして――――ふと麻子を映していた視界がブレた。
慌てて麻子に視点を戻して、息を呑む。
怒っている目が――――大きな黒目が濡れて揺れて、次の瞬間にはボロリと涙が零れた。
ボロボロと大粒の涙が次から次に溢れては落ちてゆく。

「~~~~ばか…ッ!! 2人、で、産む……んでしょ…ッ?! あ、あた……1人で、産める、わけ、ないじゃないの…ッ!! ひか、るが支えてくれる、から…ッ、ささ、…てくれ、る、から…ッ!!」
泣きながらしゃくり上げて、叫ぶように麻子が言う。
言葉もなくなって、麻子を見るしか出来ない――――左の頬がだんだん熱くなって来て――――麻子にぶたれたんだとわかった。
「~~~~産…みたいの…ッ!!! ~~ひ、かる、の……ッ!!! ~~~~う、生み…ッ…………たっ……、け、けど、~~あ、あたし、だけ、じゃ…………あたし、1人、じゃ、――――絶対……ムリ、な…のっ! ひ、ひかる、が助け、て、くれ…ッ――――そ、そば、でっ……ささえて、く…………、~~っ、~~~~だ、だか、ら…ッ!!! ~~~~だから…………
いっしょ、に、産んでよッ!!! 
一緒に、産もうよ――――、ねぇ…っ、……あたし達は、2人、で、生きてく……んでしょ…ッ!!! お、おなか、の、赤ちゃ……もっ……!!! ひかる、が居て、くれなくちゃ、~~~~あ、あたし…1人、じゃ、赤…ちゃん、だって――――……き、きっと……きっと…………ち、力……尽き…………ちゃう――――。
~~~~あ、あたし…………ひかる、が、居て、くれないと…………だめ、なの、…………。
だから、お、おねが……い…っ!! い、いっしょ、に、……一緒に、産んで――――2人で産もうよッ! …………あたしと、光の――――あたし達を繋ぐ、大切な、大切な…………この命を…………」
――――お願いよ――――……
泣きじゃくりながら怒鳴っていた麻子が、最後は縋り付いて泣き出した。
――――咄嗟に、言葉が出て来なかった。
…………ただ……壊れ物に触れるように、恐る恐る、麻子の小さな背中に腕を回す。
すっぽりと――――俺の胸の中に埋まるくらい小さな背中。
細い肩が、身体が、吐息が、ずっと震えてる――――。
こんな小さな身体の中に、小さな小さな命が宿ろうとしてる――――その小さな命を育んで、膨らませ、この世に生まれさせてやりたいと、自分のリスクもわかった上で麻子は懇願してる…………。

――――間違っていたかもしれない。

――――ずっと麻子を守りたかった。守っているつもりだった。――――麻子の代わりになるんじゃなくて、麻子が生きるためにずっと守って支えていくつもりだった。
生みたい、と――――自分の身体のリスクもわかった上で、それでも生みたいと麻子が言ってくれるなら――――俺は、麻子が無事に出産出来るように、ただただ守ってやるんじゃなかったのか。
柴崎麻子が、柴崎麻子として生きていけるように――――その為に、麻子の傍で麻子を守って生きていくつもりだった筈だ。

――――もちろん、もしも…………もしものことがあったら、俺は後悔するだろう。
――――今――――、…………もしも、と考えるだけでも血の気が引く…………考えるのも怖い…………。

だけど。

それでも、麻子は生みたいと思ってくれている。
――――あれだけ麻子を苦しめていた、妊娠出来ないという事実――――、その事実が、今覆されたのだ。
麻子の目の前には、麻子が本当に欲しかった人生が目の前に開けて来ていて――――その人生に足を踏み出そうとしている麻子を、俺は真っ向から否定しただけだった。
――――麻子を失うことが怖い、という自分の本心から目を逸らして、ただの自己欺瞞で麻子を苦しませているんじゃないのか。

――――麻子を失う――――

…………それは途方もなく怖くて――――それ以上は考えられない。
だけど、その為に、俺は麻子の希望を切り裂くのだろうか。

――――俺は――――……

「…………ひかる…………」
縋り付いて俺の服をびしょびしょに濡らしながら、麻子が縋るように名を呼んだ。
愛おしくて、抱き締めている華奢な身体に、もう少しだけ力を込める。
――――麻子の香り――――
――――麻子が、ここに居てくれる――――
「…………ひ…かる…………、ねぇ――――こ、こんな…………あたし、だから、心配…ばっか……、かけてる…………。~~~~けど…ッ!! けど――――ちゃ…ちゃんと…っ、…………生んで、み…せる、から……ッ!! ~~~~無事…にっ…………あ、赤ちゃん、も、あたし、も…………み、み、んな、で……っ!! 無事に……ッ!!! ~~~~ひ、かる、を…っ、ぜ、ぜった…い…………1人、に、し…ない……ッ!!!
――――お、お願い…………あ、あたし、を信じて――――。…………お願いッ……あ、あたしを、支えて…………1人じゃ、ダメ、なの――――……あ、あたし達……は、2人で――――い、いっしょ…じゃ……なきゃ、ダメ、なの…………。
――――ねぇ……光…………い、いっしょ、に、生きて――――2人、で、家族、を…………いっしょに、作って…………いこうよ?」
「――――――――麻子…………」
麻子の香りに満ちながら、縋り付く麻子を抱き締めながら、俺も麻子に縋り付いている――――。

――――そうだ。
俺は、こんな麻子に惚れたんだ――――。

強くて。自分で自分の未来を切り開いて掴み取る強さを持っているヤツで。
だけど、――――本当は自分のことをわかってくれる大切な人を誰よりも求めているヤツで。
傍に居た所でなんでもなさそうな顔をしているのに、離れると酷く寂しそうな目を向けてくる。…………本当は独りぼっちになりたくないくせに、そんな弱味を見せないようにいつも虚勢を張ってる。
…………素直じゃなくて、口には出さないから、麻子の本心はとても解り辛い――――だけど。

だけど、今――――必死に麻子が俺を求めてくれているのがわかった。
虚勢も張れないくらい、『――――あたし1人で産むから――――』なんてそんな台詞すら言えないくらい、麻子が俺を求めてくれてる。

こんなにまで求められていることに感動して、涙が出そうだ――――……。

なにやってるんだろ、俺。
麻子と一緒に生きていきたいと願ってるんだ。
麻子に幸せな未来を諦めて生きてくれ、なんて、これっぽっちも思ってない。
――――俺の為すべきことは、麻子が幸せであるようにずっとずっと守ってやることだ――――

麻子がどうしても赤ん坊を生みたいと思うなら、俺は徹底的に麻子をサポートして守ってやることが、俺の為すべきことだ。
麻子は何もかもわかってる。
リスクも何もかも全部わかっていて――――それでも無事に、母子共々無事に、出産したいと言ってるのだ。
麻子自身も無事に、腹の中の赤ん坊も無事に産まれて来るように――――その為に麻子は頑張りたいと言っていて、その為には俺の力が必要だと言ってくれているのだから。
――――麻子の幸せな未来の為に、生きていく為に、俺の全身全霊を懸けて麻子を守る――――
その為に俺は、傍に居たいのだから…………。

「――――わかった…………けど、約束してくれ――――絶対に、無理はしないって…………俺も出来るだけのサポートはするけどお前のことはお前が一番よく知ってる――――自分の身体の為にも、しいてはお腹の赤ん坊の為にも、絶対無理はするな。俺も出来る限りお前のこと注意して見守っていくつもりだけど、最後はやっぱり自分自身にしかわからないことだからな…………。
――――父さんにも兄貴にも、赤ん坊のこと、耳に入れとく…………。出産のこともあるし、仕事も整理してかなきゃな――――これからは、仕事じゃなく、自分と赤ん坊が最優先だ。わかるよな?
――――約束……出来るか?」
麻子の香りを吸い込みながら尋ねた。
俺の胸の中で、麻子が泣き笑いをしたのがわかった。
「――――あたしのこと――――あたしより、光の方が、あたしの身体のこと、よくわかってたよ……。熱っぽいとか、これ以上は駄目だとか、あたしのこと、あたし以上に光の方がわかってる…………。
――――だから、これからも…………あたしのこと、見ててね。
…………ちゃんと、約束する…………無理しない。
――――仕事も少しセーブする…………だから、安定期に入るまではお父さんとお兄さんには言わないで欲しい…………もしも…………もしも、駄目だった時に、申し訳ないから…………」
「駄目だ、2人には伝えておく! 兄貴はきっと、ある程度リスクもわかってるだろ? …………悔しいけど、俺よりも事件の後誰よりも麻子の状態を見て来たんだから。
…………父さんには、父さんの胸にだけ留めて置いて貰って、母さんには言わないようにして貰うから。母さんが聞いたら――――きっと毎日でも家に押しかけてきそうだもんな。家に来て、休め休めって母さんに言われたところで母さんが居たらお前だって気持ちが休まらないだろう。母さんはお前のことになると過保護になりすぎるからちょっと困りもんなんだよ。俺よりもお前の世話をしたがるし…………」
言ってるうちに、胸の中の麻子がくすくすと笑い出したのがわかって、瞬く。
「――――なんだよ?」
「…………ううん…………。…………幸せだなぁ、って…………」
「なにが?」
「――――あたし――――光も…………光の家族も、……ううん、みんなが…………あったかいなぁ――――幸せだなぁ……って…………」
言いながら少し顔を上げた麻子の表情が、本当に柔らかくて穏やかで、ドキッとする。
見惚れかけた俺に気付いたように、ニヤッといつもの人を食った表情に変わる。
「――――それより――――お兄さんとお父さんには光から言ってくれるのよね?」
気付けばいつもの麻子の口調で念を押される――――押されて気付いた。
――――兄貴に連絡しなきゃならない――――
ムッと意固地な気持ちが湧きそうになったけれど、だけど、麻子の為だから仕方がない。
――――それに、麻子への仕事を減らして貰って、兄貴の秘書みたいな仕事はもう回して貰わない方が――――
…………なんて、自分勝手な想いまで湧いてしまう。
複雑な心境が入り混じって来て――――だけど、2人には絶対に伝えなきゃならないことだと、最後はちゃんと冷静に判断する。
「――――ああ…………俺から、連絡する」
少しだけ苦いものが混じった声でそう言うと、麻子がくすくすとまた笑った。
一頻り笑うと涙の跡を手で拭って、泣き腫らした顔を上げて、俺を見た。
スッキリと雨上がりの青空のように清々しい笑顔。
無防備な素のままの微笑みだった。
――――ドキッとする――――可愛すぎるだろ、その顔――――

「――――ありがと、光。…………あたしね、光と一緒だから、だからあたし…………赤ちゃんを無事に産んであげられると思う」
「――――絶対、無事に産んでもらう…………一緒に生きていく約束も忘れるなよ?」
「――――忘れたこと、ないよ。――――光が居てくれるから――――あたし、こうして生きていられるの…………毎日毎日、幸せだなぁって生きていられるの」
「――――麻子…………」
「…………一緒に…………この子を守ってあげようね――――あたし達、2人で」
「――――麻子…………」

愛おし過ぎて優しく麻子を引き寄せてキスしようと――――ってところで、ぐぎゃっ、とかいう変な声と気配にハッと我に返る――――麻子も同様だったらしく、ハッと周囲に視線を向けた。

「~~~~め、メロドラマを、素でやんな…ッッ!!! あんたらのビジュアルでやられたら目を逸らすことも出来ないだろ…ッッ!!!」
当てられたように真っ赤な顔で(だけど目は感動で涙目になっていた)笠原が叫び、横で高山は感極まったように涙を拭っている。
「~~~~お、おめでとうございます……っ!! か、感動、しました…………わ、私も、微力ながらお手伝いしますわ…ッッ!!!」
頑張りましょうね、麻子さん…ッ!! 言いながら駆け寄って、ガシッと麻子の手を握る。
慌てて笠原も「あたしもッ!!! あたしだってなんでもするッ!!!」と駆け寄ってくる。
――――俺も麻子も、顔から火を噴くんじゃないかってくらい真っ赤だ――――
すっかり必死で――――周囲のことをすっかり忘れてた…………。

これじゃあ、メロドラマと言うより、まるでコメディだろ……ッ?!

――――すっかり、迂闊、と言う言葉の代名詞になりそうな自分に、頭を抱えるしかなかった。



……To be continued. 






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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

★次回を待って待って♪

Sauly様

手塚夫婦への応援ありがとうございます!
どんどんとヤラかし具合が盛大になっていく夫婦でゴザイマス(笑)
もっとやれー!と誰よりも思っているのは私でゴザイマス(笑)

> 柴崎は入院するのでしょうか?…(以下略)…考えるとキリがないですね😓
ですよね。
そのあたりは一々書いてたら、また出産編で1年はかかっちゃうので、ある程度端折ります(笑)
いや~~~~誰も、事細かな辛い柴崎の妊活生活なんか読みたくないと思うし(辛い、というのが前提なので)、そのあたりはお話って端折れるから便利ですよね(?←ヲイ!!)
しかし、妊娠・出産編は妙にサクサク書ける(笑)
やっぱりヤクザとか政界の動きとか、そっち方面はとてつもなく苦手だったんだなァって今ならわかる感じです(笑)
手柴愛の劇場風味は、とっても楽~~~気持ちも楽~~~♪
ではでは次回!
端折ってほぼ出産までいけるのでは? と私自身期待(?)しています。
ガンバロウ★


ツンデレラ |  2017年08月17日(木) 06:00 | URL 【コメント編集】

★『手柴愛の劇場』(笑)

ママ様

ピッタシ!!
> 手柴愛の劇場(笑)
いやもう、この表現がピッタシです!!(笑)
ですよね~~~今回はまさしく『愛の劇場』ですよ。やらかしすぎ(笑)
堂上夫妻のように、無自覚にイチャついてるつもりもなくイチャつくことはしない手柴でしょうけれど、2人っきりの時はイチャイチャしてると思ってる私です(笑)。それも下手すれば堂上夫妻以上に(笑)
今回のパラレルでは、あんまりにも柴崎の身体が壊れてしまっているため、柴崎の体調がガタ崩れると周囲の目にも気付かないほどに柴崎の身体を心配する手塚になっておりますので(笑)、柴崎の体調が下降すると途端に周囲の目を忘れて暴走する手塚仕様になっております(笑)
結果、迂闊クンとして私の中でもすっかり定着しつつある、ひとり寝る夜~の手塚クンです(笑)
柴崎も自分の体調が悪いと、どうしても周囲への注意力が無くなるために、迂闊手塚を止めることも出来ない(苦笑)
結果、盛大に人前でも憚らずにイチャつくバカップルと化しております~(笑)
しかも、体調の心配のし過ぎで話もデカい(笑)
今回はまさしく『愛の劇場』と呼ぶに相応しい(?)バカっぷりでした~~~(笑)

> 身体が丈夫で何か一緒になれない理由があるなら、一人で産んで育てるって言いそうですが、一緒になれない理由もなく今の手塚は自分より自分の事を良く解ってくれてるから、一緒に育てて欲しいって本音を言えるんでしょう。
うわああwww ありがとうございます!! ソコ、わかってくれて本当に嬉しいです!!
そうなんですよね、柴崎の性格上、産むことで手塚に迷惑がかかりそうなら、普通は1人でひっそりと産む、という選択をとると私も思うんですよね。柴崎ならそうするだろうなって。
でもこの話の柴崎の場合は、手塚と離れてしまうととてもお腹の赤ちゃんを守れるほど自分の体調を管理できないことも、精神的にも手塚と離れて大丈夫では居られないこともわかっているので、赤ちゃんを守る為にも手塚に傍に居て貰わないと自分は駄目なんだってことがわかってる柴崎です。……まぁ、これまでに手塚を切ろうとしては失敗してきて、そのたびに体調が保てなくなってしまう自分を何度も何度も経験しましたしね(苦笑)。
その辛い経験も踏まえて、赤ちゃんが出来た今、赤ちゃんを守る為に手塚の傍に居ることを、手塚が傍に居ることを必死に望む柴崎が居る訳で、意固地になって意地を張れないほど、素直に手塚を求める柴崎に手塚も思わず感動でしょうね(苦笑)
まぁ、赤ちゃんのことがなかったらこんなに柴崎も素直じゃないと思うし(現に、悪阻じゃなくて単に体調不良で嘔吐してると思ってた時は、大丈夫、大丈夫って繰り返してましたからね(苦笑))、わかったばっかりではありますけど、柴崎も赤ちゃんを守りたい一心での必死の素直な叫びだったということで……………『手柴愛の劇場』ですね!!!(笑)←いやぁ、本当にまさしく上手い表現すぎて……ピッタリですよ!!!(笑)

> 流石に親友たちのキスシーンは見れなくて叫んじゃいましたね(笑)
ですよねぇ。。。。。流石に見れません(笑)
いや、小牧さんなら見たと思うけど(笑)
堂上さんならそっと部屋を出たと思うけど(笑)
郁ちゃんだけに、動くことも目を逸らすことも出来ずに、でもキスシーンは流石に郁ちゃんには刺激が強すぎて(笑)叫んじゃいました!(笑)
いや~~~~未遂に終わっただけに、郁ちゃんもドッキドキで、堂上家で堂上さんにさぞかし触れ回るんでしょうね(笑)
堂上さんはその話を聞いて、また一層夫婦のスキンシップを増しそうな気もします(笑)



ツンデレラ |  2017年08月17日(木) 05:52 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年08月16日(水) 20:33 |  【コメント編集】

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 |  2017年08月16日(水) 17:08 |  【コメント編集】

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