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2017.08.02 (Wed)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.71~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.71~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.71~ ≫背中の靴跡シリーズ


柴崎、大丈夫かな?

衝撃的な杉谷射殺事件の後、積み重なる過労で柴崎が入院したのはもう1年半以上前のこと。
1か月近くまた入院生活を余儀なくされた柴崎だったけど、2週間を過ぎたあたりからは急速に回復してきて――――あたしも何度もお見舞いに行ったけど、会話をしてるだけだともう以前の柴崎となんら変わりないくらいだった。
もちろん、杉谷射殺事件の前も柴崎が回復出来たかなって思うことはあったけど、そのたびに無茶をしたから、最終的には長期の入院が必要になっちゃったわけである。
とはいえ、意識はしっかりしてきても、やはり身体は元通りじゃない。退院と聞いてまた無理をしないかと心配だったけど、柴崎が苦笑しながら、でも少し嬉しそうに、
「……笠原も手塚のお母さんと同じこと言うのね。大丈夫なのに――――でも手塚のお母さんがね、あたしが本当に以前のように元気になるまでは、どうしても手塚家に居て欲しいって言うの。光が仕事に言っている間、あたしの面倒を見たいって――――早く元気になって光と結婚して貰いたいからって……」
光の意志も聞かずにそう言うんだよ、なんて柴崎は笑っていた。その笑顔は少し恥ずかしそうで、でも誇らしげで、とても眩しいものだった。
心の中で呟いておく。――――手塚の意志なんてもうずっと決まってる。手塚のお母さんじゃなくたって、手塚には柴崎しかいないんだってわかるんだよ。だから手塚の確認なんか全然必要なくて――――むしろ柴崎が手塚の前から居なくならないように見張っておきたいんだろうなってわかるのだ。
だけどそう言ったところで柴崎はそれに噛み付くか流すかだろうから、わざとスルーしといてあげる。
「お姑さんが一緒で、柴崎、気を遣ってしんどくない?」
そう聞けば、「あら、あんたから既婚者らしい“先輩としてのお言葉”が聞けるなんて」とおどけるから、「そりゃ、あたしの方が、結婚に関しては先輩ですからー!」と言い返しておく。
くすくすと笑い合う。
――――こんな会話が、本当に嬉しい…………他愛のないやり取りが、本当に。
「…………大丈夫よ。そりゃやっぱり気は遣うけど、でもそれほどじゃないわ。…………それに手塚のお母さんね、本当にあたしのこと一生懸命面倒みようとしてくれるの。大事にしてくれるんだ……。
お互いにしんどくならないように、ケジメみたいなのもつけてるしね。その辺りはお互いに、精神的な病気も患ってるから、本当にわかってくれてる――――だから、リハビリとか用事とか予定がある時はむしろハッキリ言っておくの。……政府の動きも気になるしやりたいこともあるし、そういうのって内容はもちろん言えないけど、今日はこの時間あたしは予定があるんだって先に言っとく方がお互いにいいんだよね。手塚や手塚のお父さんも、お母さんにそれとなくあたしの情報活動の話をしてくれてるみたいで…………あたしがここに居ながらも仕事をしてるんだってわかってくれててね。――――最初の頃は、仕事なんてとんでもない! って感じだったんだけど、今はわかってくれてるみたい。今あたしがやってることはとっても大切な仕事なんだねって最近はそっと見守ってくれてて…………まぁ……なんかすっごく美化されて、あたしが図書隊の未来を背負ってるみたいなイメージで見てる感じはあるけど――――「こんなに小さな麻子さんの肩に、図書隊のすべてがかかってるのね」なんて言われちゃったりさ――――まぁけど面倒だし、そう思って貰ってる方が動きやすいから、そのままの印象で居ることにしようかなって。その方が動きやすいしね。
――――だから…………、あたしが本当に元気になるまではお世話になろうかなって思ってるの。
手塚家には家政婦さんも居るから、あたしもいきなり家事に追われる心配もないし。お母さんもあたしが居ることで気分転換になるみたいだし、あたしも自分の体調の回復と情報収集に集中できるしね。――――丁度いいかなって。
…………なんならいっそ、お兄さんを呼びつけて現在の進行状況を聞くのもいいかなって思ったりもしてる。あたしは手塚家から動けないんだもん、来てもらうしかないでしょ。――――お兄さんが手塚家の敷居をまたいだら、光がどんな顔するのか想像すると笑えるよね」
そんな風に手塚をからかうような物言いをしてたけど、それが手塚家の為にもなるだろうことはよくわかった。
素直じゃないけど、柴崎らしい手腕と手段を使って、手塚を――――手塚の家族を喜ばせることをしたがってるんだってこともよくわかった。
しんどくなったら寮に帰ってきなよ? その時はあたしが泊まり込んであげるからさ! と口にすれば、柴崎はクスクスと笑いながら「そんなことしたら、堂上教官に一生恨まれるじゃない!」なんて言っていた。
「別にいいよ。篤さんとあたしは四六時中一緒に居れるんだしさ」と言えば、「だからって、夜は夫婦にとって特別な時間じゃないの! 昼とはわけが違うでしょ?」なんてニヤニヤと意味深な笑みでキワドイ話を振って来るから茹蛸だ。
「…………そういえば、マスコミや世論から良化委員会もすっかり叩かれ出して、検閲も難しくなって来てるでしょ。――――堂上教官と、そろそろ子供を作ろうかって話にならないの?」
「~~~~え…ッ?! ~~ななな、なんで柴崎が知って……ッ!!!」
「え? あらやだ図星? なになに、もう妊娠してるとか?」
「~~~~妊…ッ?! すすすす、するかバカッ!!! まだしてるわけないじゃんッ!!!」
「そう? ああでも『まだ』ってことは、結構励んでるんだ?」
「~~~~は、ははは励ん……って、そそそそそんなことは…ッ!!!!!」
「あ、励まなくても堂上家では普通のことだっけ? いつまでも新婚そのもののおアツイ家庭だもんねぇ! 毎日とか?」
「~~~~い、いいいや……そんなことは…………」
「謙遜しなくてもいいわよー」
そうやって笑う柴崎が、子供が望めなくなっていたなんて、その時のあたしは知らなかった。

退院して柴崎は言葉通り、手塚家に1年半程お世話になっていた。
退院したもののやはり柴崎の体調的には完全な復調ではなかったため、社会復帰のお許しが出るまで半年程かかり(ただし、手塚家に居ながらにして情報収集は怠らず、柴崎が言っていた通り本当に手塚家に何度か手塚慧を呼んだりもしてその都度手塚が随分と剥れていた)、ようやく医者の許可が下りて図書隊に復帰してくるかと思いきや、柴崎は図書館協会の手塚会長付き秘書として勤務するようになり、図書隊には戻って来なかった。
(――――その頃に図書隊でも辞令が下りて、柴崎の事件解決に動いたメンバーはそれぞれ1階級昇進を遂げた。驚いたことにあたしは――――あたしと手塚は二正へ昇進、篤さんと小牧教官は三監、進藤さんと緒形副隊長は二監へ――――そして更に驚いたことに彦江司令が退役し、図書基地司令に玄田が就任したのである。功績としては柴崎の陰の情報収集でわかった麦秋会と良化委員会の武器弾薬の密売の事実を暴いたこと、麦秋会の犯行(銃刀法違反)を世に晒した功績が口上に述べられていた。柴崎の功績なのにあたし達が昇進するとか――――少しモヤモヤしたあたしの気持ちは、篤さんが、柴崎の分も頑張れって発破かけられてるんだ、これからの図書館はこれまで以上に意義が問われる時代になる、と逆にこれまで以上に頑張らなくちゃならないことを教えてくれた)
――――柴崎に会って、どうして図書隊に戻って来てくれなかったの、のぼやいたこともある。
また柴崎と仕事が出来るものと思っていたあたしは、柴崎が戻って来てくれなかったことがショックだった。
柴崎は笑って、今の情勢を見て見なさいよ? とあたしを諭した。
「こんな美女が受付に座っていれば図書館の集客数はそりゃ上がるでしょうよ。――――でもね、今はそんなことより社会を動かす絶好のチャンスなの。時代は動こうとしてる――――今こそ表現の自由を取り戻す絶好の機会なのよ。
――――そのためにあたし、全国の図書館情勢のわかる場所に居たいの。政界にも発言の出来る場所――――必要によっちゃ、お兄さんの秘書を務めてもいいかなって思ってんの。……手塚は臍を曲げるだろうけどね」
最後は軽口のような言葉に換えていたけど、柴崎の言葉は本当のことだった。
図書館協会の立場を使えば、全国の図書館の動向が掴める。図書館の立場や意志を政界に伝えるという役割を担ってもいた。それからまた極秘で手塚慧の秘書として法案改正の書類作成等にも携わったりもして政界情勢の把握もしていたらしいから柴崎の恐ろしさがわかろうってものである。(これに関しては随分と手塚が荒れていた)
時には警察に入り込んで良化委員会や麦秋会、松和会のことについての捜査協力までしていたらしいから心配になる。…………松和会の方は内部抗争が激化しており――――やがて分裂することになるのだが、松和会の暴力団指定との繋がりを証明したりもした。いろいろなことが明るみに出るにつれ――――メディア良化法への法改正の声が高まって行った。良化委員会と言う名に反して、反社会的組織との結びつきも取り上げられ――――良化委員会そのものに批判の声が高まるばかりだったのだ。
手塚がかなりピリピリしていた時期もあって、慧と柴崎で松和会会長(松山派会長)と面会する機会も設けたようである。分裂抗争中とあってなかなか他の小さな事まで手を回す余裕はどこにもないでしょうよ、と柴崎は普段通りの態度で臨んだと言うが、SPとして手塚も同行し抗争とはまた違う緊張感だったという。結果として、松和会がメディア良化法改案において動くことはないということで合意したらしい。むしろ松山派としては良化委員会(麦秋会)とはもう手を切る方向で進めており、現段階で検閲における政府内の動きに乗ることは松山派にとって不利益にしかならない情勢であることを松山会長は理解していたと言う――――むしろ、松山派としては和木派が良化委員会等からの武器弾薬の密売ルートを警察に付き留められて締め上げられている今の現状に満足しているとまで供述していたというから、薄情なものである。柴崎によれば、おそらく和木派はこのまま消滅してしまうかもしくは闇ルートにのみその存在を残すだけになり――――松和会として公的な事業についてはすべて松山派が掌握するんじゃないかとの見解だった。組織の解体と言うのは、実はあっけないものなのかもしれない。
松山会長との会談を経て、再び柴崎が精神的に不安定になるんじゃないかとの危惧もあったけれどまったくそんなことはなかった。柴崎の身の危険もかなり手塚は気にしていたが、むしろ杉谷の犯行を暴露したことから和木派を窮地に追い込んでくれたことに感謝するとまで麻子は言われていたと――――手塚慧と松山派との間には親密な関係を築いていくという話まで出たと言うから驚く。柴崎はまったく動じることもなく、その後もなんら不調もなかったことから、完全に精神的なダメージからも回復したのだと証明された。
――――ほんっと…………凄いよ。
柴崎の凄さを、しみじみと感じた笠原だった。
もちろん、傍にずっと手塚の存在があったからに他らないこともわかってはいるが、あれだけの心の傷を負いながらも、柴崎は見事に復活を遂げて雄々しく立ち上がった――――のみならず、精神力は以前以上に強くなったのではないかとすら思える程だった。

柴崎が社会復帰をする少し前――――玄田と折口が親しい人達だけを呼んで挙式した。(結婚式だけで披露宴はなかったのが残念だった)
折口は本当に綺麗で――――『リアル美女と野獣』だと、みんながそう評した。
玄田は図書隊の礼服を着ていて(それしか似合わなかったそうである)、写真撮影では「新郎様、笑って!」の声に「俺を笑わせたければ、何か面白いことをして見せろ!」なんて無理難題を叫んでいた。
興味深かったのは、出席していた稲嶺がカメラを向け「先日の囲碁の貸しです。いい顔で」とサラリと言えば、世にも恐ろしい笑顔ながら必死に顔を作って観客を凍り付かせたりもした。(小牧が失笑のあまり死にそうになっていたのは言うまでもない)
――――まったくネタに尽きない隊長である。
そもそも結婚式も、神も仏も信じてないんだから入籍だけで済まして、証拠に写真だけ撮っとけばいいじゃないかと言っていたらしいが(折口から聞いた話である)、そこは折口の女の願望と進藤のそれだけは押さえておかないと一生恨まれるとの力説、及び、穏やかな稲嶺の口添えでなんとか実現したらしい。
披露宴もないとのことで、日頃のお返しとばかりに周囲が俄然張り切り、特殊部隊+柴崎+世相社のメンバーによるサプライズで、式の終了後、巨大クラッカーをバズーカー砲に見せかけて登場させ、折口を庇うように抱き合った二人に盛大なテープと紙吹雪が舞うなんて演出は、最終的には玄田と折口にも喜んで貰えたようだった。

皆で、そのサプライズを企画している時に、笠原は柴崎に妊娠したことを密かに報告した――――柴崎は笠原が想像した以上に喜んでくれて――――そしてその時、笠原は初めて、柴崎が妊娠を望めなくなっていたことを知ったのだ。

「……やだぁ、なんて顔するの」
「…………ごめん」
柴崎にしては珍しいくらい喜んでくれたから、照れくさくて、「早く柴崎も結婚して子供作りなよ! 今ならまだ同級生が望めるし!」なんて言ったら、「……身体も悪くしたし、左の卵巣ももうなくて……ホルモン剤も飲んでるけど生理もまったく来ないし――――無理なんじゃないかな」なんて天気の話でもするような口調で言われて言葉を失くした。
…………知らなかった。
「~~~~で、でもでもっ、右の卵巣は残ってるんでしょ? もう少し元気になったら生理だって――――」
「…………銃撃された時に弾が子宮も傷つけてるみたいで――――あたしね、生殖器はいろいろとダメージ受けてるみたいなの。もしも受精出来たとしても――――今度は子宮で赤ちゃんを育てられる可能性はかなり低いみたい」
「~~~~け……けど…っ……」
「…………それにね、もしも、もし――――もし妊娠して赤ちゃんが出来たとしても――――無事に産めるかどうかわかんないんだって。あたしの身体にかかるリスクがかなり大きいみたいなの。腎臓も片方は3分の1は取っちゃってるみたいだから――――もしも妊娠できたとしたら――――この身と引き替えても産めるかどうか、なんだって――――そうなったらどうしようかな」
死ぬ気で産むか――――あたしにそんな気概あるかしら、なんて笑って言うから――――あたしの方が泣きそうになった。――――辛いのは柴崎なのに。
「……やだぁ、なんて顔するの」
「…………ごめん」
そういうのがやっとで――――俯いたあたしの頭を小さな手が撫でてくれた。
「いいのよ。手塚のお父さんもお母さんもそのことを知ってて、あたしにお嫁に来て欲しいって言ってくれてるし――――あたし、幸せ者よ。
ふふっ、あたしがこんなだし…………あたし達の分まで、お兄さんには頑張って貰わないとね。早くいい人を見つけて貰いたいわ。発破も掛けてるんだけど、なかなか…………まぁ、大臣職と法改正に向けて今はお兄さんも修羅場だし、仕方ないわよね。
――――ね、だからそんな顔しないで。
あたしね、笠原の赤ちゃん……本当に嬉しいのよ。この手に笠原の赤ちゃん抱いてみたい…………抱かせてくれるでしょ? だからお願いね、無事に元気な赤ちゃんを産んで。――――きっとこんなことお願いしなくたって、あんたと堂上教官の子供だからとびっきり元気だろうけど――――……」

今から4か月前に、あたしは無事に赤ちゃんを産んだ。
女の子で――――名前は篤さんといろいろ考えて、『由(ゆう)』と名付けた。自由の由だ。
柴崎は本当に喜んでくれて――――社会復帰した柴崎は、手塚が体調の心配をするくらい忙しいのに、入院中は毎日顔を出して赤ちゃんを見に来てくれた。
「…………可愛い…………」そう言って微笑む柴崎の優しい表情は聖母のようで、我が子を褒められて嬉しい傍ら、柴崎が赤ちゃんを望めないのだと思うと少し胸が痛んだ。
柴崎が1人で来ることもあれば、手塚と一緒に来ることもある。手塚ときたら小さな赤ちゃんだというのに、頑なに抱くのを拒否した。…………小さすぎて怖い、壊しそうだの一点張り。柴崎は爆笑して、あんたってホントに子供が苦手よねェ! とまた散々弄られていた。

柴崎と手塚も、2週間ほど前にようやく結婚した。

最低限の人しか呼ばない、と言っていたのに、あたしと篤さんとの結婚式よりもたくさんの人が出席して、それはそれは盛大な披露宴だった。
手塚家は親戚筋だけでも相当数なのだという……父方は政府官僚筋が多く、母は旧財閥出身である。祝電や贈られてくる花束の量だけでも圧倒される。その上、兄の慧は法務省政務官、伯父は文科省副大臣とくれば、政府官僚筋も凄い。また父は図書館協会会長であり、全国からも祝電が届いて来るありさま。
そんな政財界経済界の社交パーティーさながらの披露宴と化していたけれど、要所要所では、柴崎や手塚の気配りは配慮が行き届いていて温かい式だった。
柴崎のウェディングドレス姿は本当に綺麗で――――身体のラインもほぼ以前のように戻って来ていて、あたしの涙腺は緩みっぱなしだった。
結婚指輪は、襲撃事件が起こる前に婚約指輪として手塚とお揃いで購入したと言うカミツレの模様の入った指輪をそのまま使っていて――――その指輪に凄く思い入れがあるから、手塚やお母さんは新しいのをって言ったけど、あたしがどうしてもこの指輪が良かったのよ、って話してくれる柴崎は本当に幸せそうで――――嬉しくてまたあたしは涙が零れそうだった。
――――苦難の中の力――――柴崎と手塚のこれまでの経緯を思えば、これ以上二人にピッタリなものはないだろう。

今日は毬江と手塚家の新居訪問の予定だった。
手塚と柴崎が引っ越して直ぐに、堂上や小牧も含めた皆で訪問したことはあるが、女子会は初めてでとっても楽しみにしていた。
――――手塚と柴崎の家は、手塚家のすぐ傍――――いわゆる、味噌汁の冷めない距離にある。
新居にあたって、手塚のお母さんはかなり、二世帯住宅だとか敷地内に建てたらどうかとか言っていたらしいが、手塚が断固拒否したらしい(手塚が拒否って驚きだ――――柴崎が気を遣うから、というだけじゃなくて、母さんは独占しすぎるんだよ、俺に返してくれないから困るんだ、とかなりブツブツ言っていたから本当に嫌だったようだ)。
外聞的にも、慧がまだ結婚していない状況で次男が実家に……となれば、後継ぎ問題など勘繰られることは間違いのない話で、やんわりと柴崎から手塚の父に話をして、すぐ傍に住むからと言うことで落ち着いたらしい。
2人の新婚生活は1か月ほど前から既に始まっている――――手塚がいそいそと図書基地を後にするらしく、上官達のからかいのネタにされているらしい。よっぽど早く柴崎の待つ家に帰りたいんだろうなと思った(もっとも、柴崎の方が帰りが遅いことも多々あるようだったが)。
結婚式の写真もあるし、新居訪問を兼ねて手塚家に行かせて貰う約束をしたのは1週間前――――その時は柴崎は元気そうな声で、お昼は適当に作るわよ、とまで言ってくれていたのだが、3日程前から少し調子を崩したらしい――――胃腸風邪らしく、昨日申し訳なさそうにキャンセルの連絡が入った。声までしんどそうだった。
大丈夫なの? と聞けば、家に居る時はそんなに調子も悪くないのよ、と言っていた。空元気なのがわかるような力のない声。心配を口にすると柴崎は苦笑して―――― 一応、月曜日には病院に行くことにしてるから、と言っていた。手塚の公休が月曜らしい。
その時は「……そう……お大事にね。また元気になったら行かせてね」と流したのだが、よく考えたら、手塚の付き添いが必要なくらい調子が悪いってことじゃない? と気になった。だってまだ木曜日。昨日から調子が悪いのだったら普通は今日、明日にでも病院に行くんじゃないだろうか。
どうしても気になって、今日、手塚に連絡を入れてみたら、手塚の声のトーンもかなり低かった。
「……この3日程、メシがほとんど食えてないんだ…………水飲むだけでも吐いちまう時もあって…………昨日は流石に医者に来て貰って点滴を入れて貰ったんだけど――――新生活や結婚式でストレスや過労がかかったのかもしれないけど、でもちょっと違うんじゃないかって言われて、ひょっとしたら胃の方に器質的な異常があるかもしれないから……って、月曜に検査予約をいれてあるんだ。――――本当は今日、俺仕事休んで病院に行こうって言ったんだけど、月曜日が公休なんだしそれで大丈夫だからって聞かなくてな。ひょっとしたらそれまでに良くなるかもしれないし、なんて――――吐き気だけの話だからって――――そうは言うけど、少し前から体調は崩してるっぽかったんだよ。熱って程じゃないけど、いつもより体温が高い日が続いてるし…………環境が変わって結婚式もあったから疲れてるのかなって麻子自身もずっと言ってて…………出来るだけ、家では無理をしないように俺も気を付けてて、家事もしなくていいように先週から高山にも来て貰ってるんだけど――――高山も麻子の調子が悪そうだってずっと気にしてて…………けど、今あいつ仕事も忙しいから体調不良を隠そうとするんだよ。仕事もずっと行ってて――――けど3日前に遂に早退して帰って来てな。そこからはもう、隠せないくらい調子が悪くて――――なんせ、食べられないのに吐き気が凄いのがな…………」
あいつ体調悪いと、すぐに食べられなくなるから…………と手塚は溜息を吐いたけど、いつにも増して重い溜息で、本当に柴崎の体調が悪いのだとよくわかる。
一応、今日も医者に往診を頼んではいるらしい。
――――そう…………お大事にしてあげてね、と電話を切った。

確かに今、社会情勢は良化委員会への批判が凄くて、一気に検閲撤廃への動きが加速化して、柴崎が忙しくしているのは聞いていた。
政府へ提案する書類作成まで手塚慧から依頼されているとか――――メディア良化法改正案として、有識者会議で提出する資料の一部を柴崎が噛んでいると言うから恐ろしい。
それに追われているからってことで、一段落する頃を見計らって、あたし達は訪問させて貰う予定になっていたのだ。――――ストレスや過労が原因と言われても十分に頷ける。
バリバリと仕事を熟す柴崎だけど、何度も身体を悪くしたから、無理が身体に障るのだろう。
――――ホント、無茶ばっかりしてきたからなぁ…………。
思えば、苦しくなる。
柴崎自身が狙われて銃弾に倒れてからの日々――――柴崎は死んだと聞かされた日々。
別人になって、この世から消えようとして――――だけど、戻って来てくれた。
手塚が必死に柴崎を取り戻そうとして――――柴崎もようやくそれに応えて、帰って来てくれた。
だけど、帰って来てくれた時にはもう、柴崎の身体はボロボロだった…………。

無理しちゃ駄目だって言ってるのに――――

柴崎、大丈夫かな?

一度壊れた身体は、無茶が聞かない。
それでも、少しずつ少しずつ、以前の体調にまで戻って来たと思ったんだけど。

――――結婚式の時の写真を見て、溜息を吐く。
この時の柴崎は本当に綺麗で――――以前と同じ――――ううん、以前よりも柔らかな雰囲気があって、内面から輝くような何かがあって、本当に綺麗だった。
もうすっかり元通りかと、誰もが思って――――……。

もちろん、同じじゃない。

隊長と折口さんの結婚式の時に、卵巣や子宮、腎臓の話を聞いた。
柴崎は笑ってたけど、あたしが泣きたくなった――――。
『――――赤ちゃんが産めなくても、あたしは幸せよ――――』
そう言って笑った柴崎が本当に幸せそうに笑ったから、あたしは泣きたくて――――

――――――――って。

~~~~ちょ…………ちょっと待って?

ねぇ…………もしかしたりはしない?

もしかして、もしかして、もしかしてってこと…………ないなんて言いきれなくない?

~~~~ちょ……ちょっと待って!!!

だって――――柴崎の今の様子って――――ほら……いわゆる…………だとしたら…ッ?!

もしかして、もしかするなんてことが…………あるんじゃないの?!



……To be continued.



********************



夏休み辛い~~~~ι( ̄ロ ̄ll)
全国の子供を抱える母親の皆様、頑張りましょう~~~~
まだ夏休み前半だよ……ヽ(  ̄д ̄;)ノ
ほんっと、1週間更新が出来なくなったらごめんなさい…………。






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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(5)  |  EDIT  |  Top↑

★お互い、頑張りましょう!

りんご様

ですよねー!夏休み!!
ウチの子供も、誰一人として夏休みの宿題、終わっておりません!!(苦笑)
どうすんだ、ホントに終わるのかと、8月に入ってまずは発破をかけておきつつもなかなか進まず、お盆を過ぎてから「ひいいいいい~~っ」となるのはいつものことです。
特にやっぱり、遣り辛い宿題が残って行くもんで、そのやり辛いモノをあまり時間が無くなってからしなくちゃいけないとか、いっつもなんで最初にやらなかったんだ!と頭を抱えるんですよね。
ホントに夏休みは魔物が居ます…………(苦笑)
りんご様も、まだ夏休みはあるので、頑張って熟していきましょうね!!
そして、暑いので体調も崩さぬよう…………。
りんご様にとって、楽しいことも盛りだくさんの、有意義な夏休みとなりますように!!!
ツンデレラ |  2017年08月04日(金) 07:24 | URL 【コメント編集】

★トランクの人

sauly様

> 妊娠オチじゃねーかw
ですww
よろしくお付き合いください(笑)
もう最後がそろそろ見えて来たので頑張りますよー!って夏休みに入って、ほぼ書けてないので、そこがジレンマです。
sauly様の方は、一先ず、メンタルの回復が見えて来たということで、ホッとしました!
まぁいきなり、アッサリ気持ちが吹っ切れることはないと思うので、そのあたりは自分の気持ちと上手く向き合ってあげて下さいね。
夏休みですから、いろいろと体験して、気持ちを他に向けるのもいいかもしれませんね!

君の名は。はレンタルで借りられ捲ってて、まだ手に入りませんが、そのうちに見たいと思っています。

スプラノズもいよいよ最後の人物ですか。
たくさんの人物が出てきましたよねェ…………しみじみ。
今回、グッドフェローズのアドレスは、びくびくしながら観ましたが、ビクビクしながら観て正解でしたね…………。
なんか、最初っから嫌な予感がしていたんですよー。
グッドフェローズは、ものすっごく殺人シーンが多いような気がします…………。
瀕死のトランクに詰めた人間がその人と言われても、全然わかりませんでしたー(苦笑)
いや、瀕死の人に、そこまでやるんなら、最初からやってあげた方が苦しまなくていいじゃん!と思ってしまいました…………。
と思いません?
苦しんだ挙句に、滅多刺しが先で、その後で拳銃って……………ホント、痛い想いをさせるだけさせてからやるとか、それ自体がどうなんですかー!とドン引きでした。
いやぁ、スプラノズの最後のシーンの方が、よっぽど平和です…………。
って、意味が全然わかんなかったけど(苦笑)
結婚式なのに、赤ちゃんが居てて、洗礼を受けてるんですよね?(え?違う??)
ああ、紹介してくださった人物は、その前にバーカウンターで酒を飲んでた白髪のお爺ちゃんとの認識はちゃんと出来てますから(苦笑)
いや、なんというか、グッドフェローズの後で見たので、もうなんか、頭がいろいろと回りませんでした(苦笑)
なんせ、グッドフェローズがドン引き過ぎたので…………小心者ですみません。
ツンデレラ |  2017年08月04日(金) 07:18 | URL 【コメント編集】

★笑★

ママ様

> 慣れない郁ちゃん視点お疲れ様です。
……に笑ってしまいましたー(笑)
確かに、郁ちゃん視点(笑)
部外者から見た感じをちょっと挟ませて貰いましたー!
郁ちゃんだと、玄折の結婚式も出席するし、郁ちゃん視点が一番いいかと思って(笑)
そして勝手に、堂郁に赤ちゃん誕生で申し訳ない感じです(苦笑)
まぁでも、手柴妊娠よりは絶対、郁ちゃん妊娠の方が先だと思うので(特に、今回のパラレルの場合は、もはや抗争はない設定になったし)勝手にごめん!とさせて貰いました(苦笑)
郁ちゃんの妊娠・出産も、想像すると楽しそうですよねー!(笑)
このひとり寝る夜の~での郁ちゃんと柴崎の妊娠は、
○郁ちゃん→あんまり悪阻なし(っていうか、ほぼ悪阻なし)。出産もスポーン!と短時間で産めちゃうタイプ(2人目からは病院に行くまでに生まれてしまう恐れもあるので、2人目以降は気を付けましょう(笑))
○柴崎→悪阻が酷く妊娠で激痩せしてしまうくらい。その後も何かと中毒症やら体調管理が難しくて医者泣かせな患者(苦笑)
ということで、真逆設定です。
私は郁ちゃんタイプなので、妊娠も出産も全然しんどくなかったんですけど(だから4人産めたんだよー!と皆から言われました)、友達には悪阻で半年くらいトイレと友達の子とか、早産になりかけるから何か月も入院とか、出産も丸2日か掛かって、挙句に帝王切開になったとか(地獄だと言ってました……だって、陣痛の苦しみを2日体験したのに、帝王切開で手術したので術後も痛いしもういいことが何もなかったって……(((((TT)。少なくとも最初から帝王切開だったら、陣痛の苦しみはないですもんね……)、そりゃもう、大変な妊娠・出産体験もいっぱい聞きましたから…………。
というわけで、柴崎には可哀想ですが、大変な妊活が始まる…………ということで((((^^;)
柴崎が大変な分、手柴の絆は深まっていく、と思って読んで貰えれば~~~~ってどんだけネタバレやねん!(苦笑)

松和会の方は、ママ様も仰るように、昔と違って今はもう名のみの繋がり。
松山派に関しては、現松山会長は、どちらかと言うと情に厚いタイプではなく完全経営者思考の人物ですので、和木派が揉め事を起こしやすいのを見ててもうずっと嫌がっていた感じもあります。これを機に、和木派を潰して自分達が美味しい利権を取れるなら、組織分裂も良しとするような人物です。
まぁだから、松山会長に関しては、手塚慧と手を組んだりという動きも今後はあるかもしれません(自分達の利益になるような事業を持ちかけられたら、松山会長は呑むでしょう)。

> 隊長が司令って…。

でも、全然出来ると思います。
要するに骨格だけ作って、後は各役割に要人を配置して丸投げ(笑)
でも、その要人も、ちゃんとやれる人物をちゃんと宛がうから、丸投げされて大変だけど組織としてはやっていけるんですよ。
抗争がなくなってますからね。
玄田隊長も、隊長だけだとやることがなくてつまらなかったでしょうし(笑)
いざとなれば、稲嶺顧問に個人的な相談もできる玄田隊長だし、何ら問題なし(笑)
そして、武装解除になるので、玄田隊長も喧嘩が出来なくなります(笑)
折口さん辺りには、「もう喧嘩する年じゃないでしょ!」と窘められて(笑)

> 特殊部隊で一番腹筋が発達してるのは小牧さんだと思う。
爆笑!!!
ですよね!!!
大丈夫でしょう、今後も小牧さんの腹筋は衰えませんよ(笑)
中年のビール腹とは無縁に過ごせそうで、良かったね小牧さん!(笑)
検閲抗争がなくなって、皆さん、今後は自己管理で体を鍛える時代になるので頑張らないと(笑)
皆でジムとか、そのうち行くようになるのでしょうか?(笑)


ツンデレラ |  2017年08月04日(金) 07:05 | URL 【コメント編集】

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