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2017.06.07 (Wed)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.63~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.63~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.63~ ≫背中の靴跡シリーズ


日に日に回復してくる麻子に、嬉しい反面、困ることもある――――。
…………触れたい。
…………抱きたい。
日に日に、その欲望が強くなっていくような気がする。

もちろん、いつだって理性を総動員して抑え込む。
抑え込んではいるが――――。

だけど――――正直、辛くなってる。

今日なんか、朝からいきなりだ。
寝起きすぐの俺の目に飛び込んで来た、麻子のエプロン姿。
「――――こんなところで寝てちゃ駄目じゃないの! 毎回言ってるでしょ! もう大丈夫なのにっ! あたしの言うことが信じられないの?!」なんて半眼でいきなり怒られた。
みるみる回復して来た麻子はすっかり夜も眠れるようになっていて――――、そうなると俺に「もう大丈夫だから」と言って、部屋で寝ろ、と麻子の部屋を追い出されて――――けど、自分の部屋なのに落ち着かなくて、結局リビングのソファで眠ることしばしばだった。(今は父さんが居るから、毎日ってわけじゃないことは言っておく)
怒られたけど――――その後、くるりと背を向けて台所に向かう麻子の後姿を見て、危うく背中から襲い掛かりたくなった。――――朝食を作ってくれるつもりだったのだろう、いつもは真っ直ぐに下ろしている伸びてきた髪を無造作に纏め上げてバレッタで止めていたのだ。目に飛び込んだ真っ白な細い項に産毛と後れ毛が艶めかしく零れていた。――――ただそれだけ――――なのに、思わず男を誘ってるんじゃないかと、普段目にすることのないその場所にキツク口付けて『作品』をくっきりと残してやりたい衝動に駆られて堪らなかった。
――――後ろからあの首筋に――――麻子の官能帯も多いあの白い首筋に顔を埋めて、麻子の喘ぐ声が聞けたら――――……。
寝起きすぐなのにそんな欲情に駆られそうになって硬直してしまった俺に、麻子はまだ寝惚けてるとでも勘違いしたらしく、シャワーでも浴びて目を覚まして来たら! なんて、子供を叱る母親のような口調で言うものだから、言われた通りそそくさとシャワーに駆けこんで、朝から自分で抜く羽目になった。

――――ヤバい……。マジで、回復してきている麻子を目の前にすると、自制が利かなくなりそうで、本気でヤバい…………。

いや、もちろん、まだ回復途中だ――――麻子の身体で俺の欲情を受け止めるなんてまだまだ無理な話で――――…………と言い聞かせるように思いはするのだが、ここ最近、日増しに麻子に触れたい欲求が強くなってゆく。
目がこれまで以上に麻子を追って――――思考も麻子のことばかりになってる。

…………麻子が回復して来たことで、麻子に触れられる機会が激減しているせいもあるかもしれない…………。

麻子が高熱に襲われていた3日間は、ずっと、麻子に触れていた。
経口補水液を飲むことすら自力では難しい程意識朦朧としていた麻子に、解熱剤や毎日飲む薬(ホルモン剤等)を服用させる為に口移しで飲ませるようなこともしたし(純粋に服用させるためであって、決して不埒な想いでそんなことをした訳じゃない!)――――汗で濡れる衣服が気持ち悪いのか、無意識にパジャマを脱ごうとして乱れた格好をする麻子に(昼間はもちろん高山に頼んだが、夜は俺しか居ないワケで…)目のやり場に困りつつも汗を拭いて衣服を着替えさせてやったりとか――――時折うなされて俺の名を呼ぶ時は、優しく抱き締めてゆっくりと背中を撫でてやれば落ち着くらしく、安心したように俺を離さないと言うようにしがみついて眠る麻子と共に寝たりとか――――…………とにかくもう、四六時中麻子の傍に居て、ずっと触れていたような気すらする。
――――不謹慎な物言いだが、今から思えば、麻子に満ち溢れた時間だった。
…………もちろん、もうあんな熱なんか出して欲しくはないし、意識朦朧の麻子を見て不安で胸が張り裂けそうな程心配したことは事実だ。苦しそうな麻子の様子に心配で堪らなかったし、一刻も早く熱を下げようと出来る限りのことはした。
正直あの時は、そんなにも麻子に触れていたにも関わらず、それ以上のことを麻子にしたいだなんて微塵も想わなかった(……そりゃもちろん、俺も男だから欲情しなかったとは言えないけど…………けどやっぱり今よりずっと病人に対する接し方に徹底することが出来た)――――ただただ、麻子が回復してくれることを願って、看護の気持ちの方がずっと強かったのだ。
麻子の熱がようやく下がってきて、少しずつ意識もしっかりとしてくると、麻子は自分のことを自分でしようとし始める。抱き起して薬を飲ませていたのが自分でコップを持って飲めるようになり、俺が食べさせなくても自分でスプーンや箸を持ってご飯が食べられるようになる。
ベッドの傍なら自力で立ち上がれるようになり、着替えも出来るようになったし、トイレにだって自分1人で行けるようになった。――――夜ですら悪夢に飛び起きたり、うなされるようなこともなくなって…………俺が抱き締めてやらなくても眠れるように…………。
驚いたことに身体の回復と共に、信じられないくらい麻子の精神状態がすっかり落ち着いていた。精神力まで凄まじい勢いで回復を見せている感じで――――今の麻子は、襲撃を受ける以前の麻子の精神力にまで戻りつつあると思える程……。
正直、これまでは身体が回復して来ても、どこかしらまだ精神的に不安定な部分が残っているような印象は拭えないところのあった麻子だが――――今の麻子からは、そういう不安定な気配や陰りのある雰囲気がどこにも感じられなかった。
麻子の中に、麻子自身をしっかりと支える芯のようなものが築かれた――――そんな感じだった。
どうして急に麻子の精神力が戻って来たのか――――。…………まったく心当たりはないのだが――――宮澤医師も不思議そうで何かあったのかと俺に聞いて来たくらいなのだが――――まぁ結論からすれば、無茶はしたけど結果的に柴崎さんの中ですべてのことが綺麗に片付いて、自分をしっかりと見つけることが出来たんじゃないかということだった。――――この様子だと、もう安定剤は要らないかもしれませんね。と言って貰える程の回復ぶり。発作も過呼吸も、あれからまったく起こしては居ない麻子だった。今は寝る前に1錠だけ安定剤を飲んではいるが、ごく軽いもので――――様子を見て、それも近く減量する方向で、との話も出ている。
今の自分を自分で認めてあげれるようになったんでしょう、きっかけなんて自分の中にありますからね、なんて宮澤医師は医者らしいことを言ったと思えば、いやぁ今の柴崎さんは凛として美しいよね、なんてほざくからウカウカ出来なくなる。時折零すこの宮澤医師の軽口が嫌いだ。
――――何がきっかけになったのかは皆目見当が付かないが…………麻子の心の中の不安が拭い去ったのなら、こんなにも嬉しいことはない。
嬉しいのに――――、麻子に触れる言い訳がなくなって…………触れる言い訳を必死に捜してる。

触れられなくなると、触れたくなるものだろうか。

以前のように悪夢にうなされて飛び起きなくなった麻子の、穏やかに眠る顔へ口付したい衝動に駆られる。
頬――――いや、唇に。(もちろん、実際にそんなことは出来ないけれど……)
熱が下がって初めてのお風呂の後、高山に支えられて出てきたパジャマ姿の麻子に鼓動が跳ねて、正直、近寄れなかった。――――しっかりと温もったのだろう、その火照った様子と濡れ髪に尋常でない色香を感じてしまった。風呂上りのしっとりとした桜色の素肌だとか、思わず想像しそうになって下腹部に熱が籠った。
――――ヤバい…………。
高山が心配するから、それ以降も、高山の居る時間帯に麻子は風呂に入るようになった。風呂上りの麻子を見ていつも欲情しそうになるが、高山や倉橋が居るから堪えることが出来ている。
――――本気で、ヤバい…………。

ここ数日は、事あるごとに、触れたくて堪らない衝動が湧き上がる。

もちろん、理性で抑え込む。
俺だってわかってる。
回復して来てるって言ったって、まだまだ襲撃前の体重には全然届いてない。体力だってまだ襲撃前の体力には程遠い。
俺がその…………そんなことしたら、麻子の身体は壊れちまうだろう。

そんなこと、しない。
麻子に負担がかかるようなことは…………。

けど…………そう言い聞かせても、堪えても、麻子に触れたくて堪らない欲求は日増しに強くなる。
麻子の身体に俺の身体を繋げたい――――麻子に満たされたい。
日に日に、そんなことを想ってしまう瞬間が増えている。

いやもちろん、思うだけで、本当にする訳じゃないと誓うけど――――……。

だけど、ここ数日、こっそりと自分で抜く回数は増えてきていた。
男って言うのはどうしようもない生き物なのだと、この年になって実感する。

麻子がリビングに入って来た――――ドキリとする。
――――風呂上り。あっちで髪にドライヤーも当ててきたらしいが、いつもよりは湿り気を帯びた髪がパジャマの肩に無防備に纏わり付いている。…………いつのまにか肩に届くくらいに伸びた髪。根元の本来の黒い色が随分と目に付くようになってきた。
こっちには近寄らず、そのまま台所に向かい――――乾いた喉を潤している気配。

…………ヤバいな、ドキドキする…………。

今日から父さんは出張なので、2人きりなのだ――――。
今日の昼間は、高山や倉橋に事情を話して、明日からの準備に追われた――――。高山は随分と心配して…………麻子がなんとか宥め空かして説得した。弁舌弁論で麻子に勝てるヤツなんか居ない。
そのため、今日は昼間に入浴時間が取れず、この時間にお風呂となった麻子だった。

…………ヤバい、我慢出来るのか、俺…………。

そう思って――――そう思うのに、麻子が近づきもせずに、「……今日は早めに部屋で休むね」と声を掛けて来たのに「~~~~え…ッ……、も、もうっ?!」なんて声を上げてしまう。
完全に上擦った、情けない声――――。
気付いただろうに麻子ときたら完全にスルーで「うん。おやすみ」なんて――――いや、いくらなんでも素っ気なさすぎないか?!
「~~~~ちょ…っ…、ちょっと待ってッ! ちょっとだけでいいから……そのっ、ちょ、ちょっとだけ、話、でも……」
「――――けど…………明日に備えて、今日は早くに身体を休めたいから」

さらりと言われて――――もちろん、麻子の言うことはもっともだと納得はしている。
明日――――明日は、いよいよ計画を発動する日だ。
杉谷と接触する。
麻子が直接、警察の取調室で杉谷と対面することになっていた。
上京してきた初日に図書隊のメンバーに計画を話し――――最初は猛反対を受けた計画だった。
――――確かに、麻子自身が杉谷に接触することで、沈黙を守り続けている杉谷の動向を誘う……。それは確かに理には適っている。もしも今でも杉谷が麻子へ執着を持っているのならば、何かしら動きがあるかもしれず――――杉谷を監視してその動きを今度こそしっかりと捉えて証拠を手にする。――――もし逆に、杉谷がなんら動く気配がないというならば、もはや麻子への執着はないとみなして、それもまた麻子にとっては一つの保障のようなものにもなる、と。
図書隊の皆は、当然のように、万が一のことが起きた時に麻子の身に危険が及ぶことについて危惧し、白熱した話し合いを何度も行った。――――結果的に、あまり動けない筈なのに麻子があれこれと裏で手を回して(麗華に頻繁に連絡を入れていたらしい)、警察の全面協力を取り付けての作戦となった。
――――相変わらずの麻子の手回しと手際の良さに舌を巻く。
自分の体調の回復に努めつつこんな計画を頭で練り上げてしまうあたり、麻子の末恐ろしさは変わらない。
計画の実行日を明日としたのは、父が退院して初の長期出張に合わせてのことだ。
父が留守のうちに――――杉谷の動きを見る。
杉谷が動きやすいように、明日から麻子と2人、兄のアパートへ移ることになっていた。(高山と倉橋には、ちゃんと回復しているかの確認の為に検査入院することになったと伝えてあるし、実際、宮澤の手回しでベッドも確保されていて日中は病院にも通うことになっていた)
もちろん麻子の配慮だ――――万が一にでもこの家を探られるようなことになれば、父や高山や倉橋だって平穏では居られない。
アパートの方が監視範囲が狭くなる分、守りやすいでしょ? と軽口のように提案したけれど、本当の意図は、周囲への危険の芽を少しでも減らす為だったことは明白だ。
…………明日からは、2人きりで夜を過ごすことになるとはいえ、夜も警戒を解けない状況となる。

麻子とこんな風にゆっくりした雰囲気で接するのも、しばしお預けになる――――と思えば、ほんの少しでいいから今、麻子に触れたい(……決して邪な意味ではない)と思ってしまう。
「~~~~それはわかってる、けど…………その、その…………こんな風に……麻子とゆっくりは…………しばらく出来ないし――――、その…っ…だから…………」
言いながら、急にこの距離がもどかしくなって麻子へと距離を詰めた。
麻子がたじろいだように少し後ずさるのを、なんなく踏み込んで手首を掴む。
「…………その……久しぶりに、部屋に入れてくれないか。俺は床で寝るから…………柴崎家でそうしてもらってたみたいに…………駄目か?」
思わず縋るように麻子に言えば、微妙に視線を逸らされる。
「…………駄目……」
「絶対、何もしない。ベッドからも離れて寝るよ。…………お前が傍に居るって、気配を感じるだけでいいんだ――――だから頼む……」
「…………駄目。……傍に人が居ると眠れないの、あたし」
「――――俺は大丈夫だろ? お前が回復するまでずっと俺は付いてたんだから……」
「…………もう回復したから、駄目」
「――――なんで……」
情けない程に強請ってしまう。麻子の顔を覗き込むと、麻子が顔を赤らめてまた目を逸らした。

…………ヤバい…………可愛い…………

その頬に口付けたくなる。
ドキドキしながら距離を詰める。
麻子の匂い――――シャンプーの匂いが漂う麻子の香り…………。
「…………なぁ……ずっと一緒に――――居たじゃないか……」
「~~~~っ! ~~だ、……駄目ッ…駄目なものはダメッ…!!」
ふいに、空いていた手で肩を押される。手で突っ張って距離を取ろうとするけど、なんなくその手首も掴んだ俺に、今度は盛大に暴れ出す。
「~~~~ダメ…ッ!! ダ、ダメ、なの……っ!! 今は……まだっ……」
「――――『今は』? …………なんで今は駄目なんだ? 俺はずっと――――」
言いかけた言葉を遮るように、麻子が金切声をあげて遮る。
「~~い、いい…今は、まだっ、まだあたし……ッ……あたしの決心が、付いてないの……っ!!」
「…………決心? ……ってなんだ……なんの…………」
「~~~~あ、あたし…………あたし、まだ…………自信……ないの…………」
「…………自信?」
――――わからない。わからないけど――――麻子の顔は火照ったように赤くて匂い立つようで…………その頬へと顔を寄せた。
慌てたようにギュッと目を瞑って、身体を強張らせるから――――触れたい衝動を必死に堪えて、寸止めた。
数秒が酷く長く感じる――――と、麻子の大きな黒い瞳が、恐る恐ると言うように開いた。長い睫毛が揺れて上がって――――この世の者とは思えない程綺麗な瞳が見えた。
抱き締めたい。触れたい。――――だけど、麻子の気持ちを踏み躙りたいわけじゃない――――。
至近距離で見る、麻子の綺麗な瞳。
その瞳が急に濡れた。
――――涙が零れないように堪えてる。
「…………待って……ごめん…………ごめん、待ってて…………。…………あたし……まだ、あたし…………、あたしでいいのか…………あたしがあんたの手を取っていいのか――――、……あたし…………自分に、自信……ないの…………まだ、決心が…………付かないの……」
――――綺麗だな…………
濡れる麻子のキラキラと光る瞳にそう思う。
こんなに綺麗な目で真っ直ぐに俺を見てくれるのに、何を言ってるんだか…………。
「……麻子がいいんだ。――――俺は麻子が好きで――――麻子だけなんだ。…………麻子が麻子で、ここに居てくれたらそれでいい…………麻子だけでいい」
そう囁くように言えば、俺の吐息が麻子にかかる距離――――更に朱に染まった顔からポロリと雫が零れて――――慌てて俯くからいじらしくて堪らなくなる。
手首を引き寄せて、ふらついた身体を胸に閉じ込める。
「――――麻子が居ればいい…………なにも要らない」
そう麻子の艶やかな髪に唇を埋めて言う――――抵抗はしてこない癖に口は反論を返してくる。
「…………でも、まだ…………まだ、駄目…………。あたし…………あたしがあたしを許せないから…………。
あたし――――あたしね、胸を張ってあんたの前に立ちたいの。
あたし自身が、あたしでいいんだって――――あたしがあたしとして生きていても大丈夫って自信が持てて――――、それから……なの。…………それが出来たら――――そしたら……ようやくあたしは、ちゃんとあんたを見て返事が出来ると思うの。…………そうじゃないのに…………今はね、あたし…………あたしはあたしを、まだ……許せないの…………」
――――愛おしい。
――――好きだって言ってくれてるようなものだ。
どれだけ自分が愛されているのかが伝わってくる――――堪らない……。
「……じゃあ、こうやって顔は見ないまま、抱き締めとく。――――お前が自分に自信が持てるまで、こうやってただ傍に居るから…………なにもしないから」
「~~~~バ…ッ、~~駄目……だったら……ッ!! ~~ダメったら、ダメ…ッ!! ~~~~絶対に駄目ッッ!!!」
「…………なんで……」
「~~~~な、なななんで……って……、そそ、そんな、の…………そんなのッ……!! あ、あたし……あたしが……っ、駄目になっちゃうからじゃない…ッ!!!」
「――――お前が? 駄目になる…………?」
「~~~~っ…!!!」
グイッ! と急に肩を強く押された。――――と言ったって、所詮麻子の力では引き剥がされるようなことはないのだが、少し距離を取って麻子を見る。
俯いた顔はまったく見えないけれど、顔や耳縁、首筋までもが真っ赤に染まっているのがわかった。
匂い立つような甘い気配が麻子から漂う。
…………ドクン、と鼓動が跳ねる。
「~~~~っ、……こ、こんな、こと…………っ、~~あ、あんたが傍に居て……とか…………平静で居られる訳、ないじゃないの……ッ!!! 解れバカッ!!!」
――――更に麻子から滲み出す甘い雰囲気を感じて――――ヤバい、ドキドキと俺の中の血が駆け巡る。
麻子が腕の中で暴れるから、それを言い訳にまた少し距離を置く――――……そうでもしないと、このまま押し倒して――――そのまま止められなくなりそうな予感。
匂い立つ。
――――麻子と俺にしかわからない、甘い雰囲気――――麻子から滲み出る、情事を許してくれる時と同じ雰囲気が麻子の身に纏い出す――――……

ヤバい…っ…。

明日のことを想うと、絶対に触れられない。
麻子の精神力を目一杯使うことになるであろう、杉谷との対面――――そんな大事な日の前の日に、麻子の体力を奪うようなことは出来ない。
わかってる。
――――頭ではわかっているけど、物理的にも離れておかないと――――本気でヤバい…………。
この距離を今すぐにも詰めてゼロにして、麻子に息も出来ない程口付けて押し倒したくなる…………。

そうか。

麻子の言葉を理解する。
そして。
つまり、それは――――

――――麻子も同じ…………

断ち切り難い想いを抱きつつも、必死に麻子を引き剥がした。
麻子から手を離した俺に、ようやく麻子が顔を上げた。
濡れた綺麗な瞳――――ドクン…ッ、とまた鼓動が跳ねる。

ヤバい――――このまま、抱き締めてしまいそうだ……。

「…………解ってくれる……よね?」
「…………わ…かった、……と思う。…………解らない方が良かったけどな…………」
余計な一言を付け足してしまう程、未練がましい気持ちは抑えられないが――――なんとか、麻子に触れずにおくことは出来た。
俺の言葉に、ふ、と笑った麻子に、また抱き締めたくなって拳を握り締めた。
ありがと、と小さく麻子が零した言葉すら俺の耳を擽って刺激する。
じゃあ、明日からよろしくね、と麻子が言って出て行くのに呼び止める。
「――――麻子……。俺、待ってるから。
…………正直に言えば、お前の気持ちがどうであろうと俺の気持ちは変わらないけど――――けど、お前の気持ちを大事にしたいって思ってる。だからお前の気が済むまで、自分の気持ちに向き合えるまで、とことん付き合ってずっと待ってるから――――」
伸ばしたい手を堪えて言えば、麻子の頬が薔薇色に染まって俯く。

――――抱き締めたい…………。

拳に力が籠り過ぎて震える。
――――と……。
「――――待ってて…………。今度は――――今度こそ、ちゃんと言えると思うの――――『多分』なんか付けないで、ちゃんと、あんたに――――……」
尻窄みになったと思ったら、身を翻して出て行った。
追い駆けて、抱き締めたくなる衝動を必死で堪える。
麻子の部屋の扉が閉まる音がして、静かになって――――熱い吐息を盛大に吐き出した。

…………可愛いこと、言いすぎだろ…………。

あー、ヤバい。
この熱をどうしてくれるんだ、と詰りたくなるが、原因を作った本人はここには居ない。
1人になると静かで――――自身の中で暴れそうになる熱にしか意識がいかないから困る。

…………好き――――って言ってくれたようなものだ。

麻子にしては珍しい本心を見せるような言葉――――俺を我慢させてると自覚があって、せめてものお詫びのつもりだったのだろうか。
舞い上がっちまうだろ。
麻子が俺のことを以前と変わらずに想ってくれてるのは知っていた。
だけど、わかってることと、口にされることでは破壊力が違う。
…………人の心臓を撃ち抜いといて、逃げるんだもんな…………。
明日を思えば到底何も手は出せないのだが、思わぬ麻子の告白を受けて、この暴れる熱をどうしてくれようか、と手塚は手の甲で額を覆い、天を仰ぐしかなかった。



……To be continued.







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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

★裏はなかなか書けないのですが

Sauly様

> 柴崎さんの作戦は囮になって杉谷を釣り上げる作戦でしたか
でしたー!
いやもう、それが確実に釣れる筈。それで釣れないなら、もう杉谷は柴崎に興味がないということでこれまた安泰、というわけですね。
連れない場合は、もう杉谷は身を潜めてしまって出てくるつもりがないと言う事なので、もちろん手がかりも掴めずにこの事件は迷宮入りで終わるでしょう(苦笑) 杉谷は今、極力身を潜める方向に居ますので、あまり動いてはいません。
でも、柴崎が直接会う、という餌があり----柴崎の襲撃は自分の関与した事件じゃない(杉谷は柴崎を誘拐したかったのであって、襲撃したかったわけじゃない)ので、自分に足がつくことはないと踏んで、接触する気になっています(なので、明日は面会、というわけなのですが)
このあたりの裏事情は、もう書ける予定がどこにもないので、ここで書いときます(なんだそりゃ★笑)

この裏の方の動きですが、なかなか書けないので、Sauly様が整理して下さろうとしたので補足を。
最初の手塚会長(手塚父)が襲われた国立図書館襲撃事件は、襲ったのは麦秋会で依頼は実は杉谷です。ただ、杉谷は「襲撃するフリ」だけでいいとの思惑で、文科省の義理の父の顔を立てるつもりだっただけです。国立図書館の襲撃を政府役人が目撃となれば、図書隊のみならずやはり図書館を文科省下において徹底的に管理すべきとの意見に傾くでしょうし、そうなれば文科省が図書隊を下部組織として置くという図式も整ってくるとの判断です(行政派の思考ですね)
ただ、手塚父が撃たれたことで、事件がおおごとになってしまったことは誤算だった次第です。
そして手柴が襲撃された方は、杉谷は柴崎を誘拐したかったのですが、その思惑とは別に松和会の方の思惑があって杉谷にダメージを与えたいと思っていたようです。そのために利用されたのが熊沢夫妻----というか、内閣府警備に当たっていた夫の方は個人的に杉谷に恨みを持っていて(妻を守る為と本人は思っていた)、杉谷を陥れる為に柴崎を殺そうとしたということでした。
手柴は正直、本当にとばっちりだったのですよねー…………。
杉谷は和木派に寄り添っていましたから、松山派には目障りだったんです。正直、和木派は血の気の多い集団ですが権力とはあまり結びついていないので、杉谷の存在(権力を持っている者)は松山派にとっては目障りだったんだと思います。
まぁ、それ以外にも松山会長と杉谷の間には、愛人の子供が自分の地位を脅かさないかとか、いろんなこともあったんだとは思いますが。
そのあたりは、お話の中でいつか書ければ、と思っていたのですが、どうやらもう書けそうにないし、ここでまとめておきますねー(ヲイヲイヲイ)

> さて、ソプラノズサブキャラ紹介。続いては先代大ボスジャッキーの兄、リッチー・アプリールです。
シーズンもいっぱいあるので、大変((((^^;)
そうですか、やはり敵役、という役回りはあるわけですね。
シーズン1の敵が「ジュニア」とは…………そうか、そうなのか…………
シーズン2の方が、そういう意味では敵がわかりやすそうですよね。
まぁ、どちらにせよ、トニーが精神的に追い詰められて悲惨、というところは変わらない訳ですけれど(苦笑)
昔馴染みに裏切られたら、ホント、いろいろと参るでしょうねェ。。。
確かに、なかなかに奥深いストーリー構成をしているようで…………頭が混乱しそうです、私(苦笑)

ツンデレラ |  2017年06月08日(木) 06:50 | URL 【コメント編集】

★【両想いなのにジレ期】www

ママ様

ですよね(笑)
ママ様の最後の1言【両思いなのにジレ期】という言葉が嬉しくて嬉しくて堪りませんでしたー!(笑)
いやもう、手柴の最大の魅力ですもんねェ(笑)
「だーかーらー、なんでくっついてないの?」的なヤツ(笑)
いやもう、周囲(手塚家)は散々糖害を受けているというのに、本人2人は『触れたいけど触れられない』をやってて、まったくの無自覚(苦笑)
手塚はもう『好きだー好きだー』オーラ全開ですし(笑)
高山さんや倉橋さんが見てたらもう、いちゃいちゃベッタリなのが目に見えてると思います(笑)

ママ様も仰ってましたが、柴崎の回復の源は、
> 手塚への気持ちが確固たるものになって力が湧いて来てる
ですよねw
手塚のお父さんからもOKが出ていて、手塚は全身全霊で『好きだー』オーラを出してくれてるし、一刻も早く自分の体力を回復させて事件解決(解決しなくても少なくとも自分が自分として生きていけるという確証のようなものを得られれば)に向けて動きたくて頑張ってるんだと思います。
自分に自信が持てたら、その時にはちゃんと手塚と正面から向き合いたいとも思ってると思いますし。
なので、今柴崎は、とてもとても頑張ってるんですが----ママ様も仰るように、
> 手塚は何故だか解ってない(笑)
まぁ、わかってないけど、ポロポロと本音を零してくれるから、柴崎は嬉しいし、更にまた頑張らなくちゃ!って思うんだと思います(笑)
> 図書戦の中で一番素直に言葉に出来るのは手塚なんじゃないでしょうか。言葉にしなくちゃ伝わらない事もあるって身近な人に学んでますしね(笑)
ですよねー!(笑)
手塚は、周りを見て学びつつ、そしてまた自分も長らく柴崎との関係が膠着していた過去の経験もあるので(傍から見てたらあからさまなのに、ずっと言葉にしなくて堂郁よりも長い長いジレ期を経験しましたからねェ…笑)、言葉にする必要性を実は誰よりも実感してる気がします。
だから、ちゃんと言葉にするし、その言葉を裏付けるように態度は『好きだー好きだー』オーラ全開(笑)
そりゃもう柴崎も言葉に上手く出来ないけど、嬉しいに決まってる(笑)
なので、ちょっとだけ、ちょっとだけと、珍しく本音を零したのかもしれません。
あーしかし、【両思いなのにジレ期】シチュエーションは堪らなく好きです!(私が★笑)
傍から見てると、どうみてもいちゃいちゃラブラブしてるんですけどね(笑)

ツンデレラ |  2017年06月08日(木) 06:26 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年06月07日(水) 10:16 |  【コメント編集】

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