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2017.04.21 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.56~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.56~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.56~ ≫背中の靴跡シリーズ


「~~~~麻子…ッ!!! 麻子ッ、麻子ッッ!!! …………死ぬな…ッ!!! 頼むから――――俺を置いて逝かないでくれ…ッッ!!! ~~~~麻子ッッ!!!!!」
力を失くした骨と皮ばかりの身体を掻き抱いて、泣き叫ぶ俺――――。

ぽん、と肩に手を置かれた。

気付かない俺に、ぽんぽんと強めに何度か叩く。

「……大丈夫ですよ」
「~~~~あ……麻子が…ッ!!!」
「大丈夫ですって。……サイキさん、眠ってます――――」
「~~~~あ……あさッ――――……って……え? ~~あ、あの……けど………あ…麻子……」
「大丈夫、大丈夫! 脈拍はずっと落ち着いてますし――――こうやって脈を取れるってことは血圧も大丈夫でしょう。心配いりませんよ」
ニッコリ笑って医者が麻子の手首を取った手を上げて俺に見せる。
「ようやく眠れたんだと思いますね。――――初めて見るなぁ、こういう穏やかなサイキさん。すぐ起きるかもしれないですがね。…………これまではなんとか薬で強制的に眠らせるか昏倒するかで、でもそうやって意識がなくなってもすぐに飛び起きて…………ホント、睡眠らしい睡眠がほとんど取れてなかったんですよ」
いやはや、こっちも釣られて寝不足でねェ……なんて苦笑しつつ、茶目っ気たっぷりに、シイッと人差し指を口元にする。――――いや、中年の親父がそんな仕草したって可愛くもない。
宮澤医師――――矢間竜士郎襲撃事件の時に手塚の処置もしてくれた医師だった。見覚えがある。流石は医者らしく、手塚が落ち着いたのを見るとテキパキと動き出した。ボックスカーの中に作られたベッドに麻子を寝かすように指示をして、麻子の血圧や脈拍を測り、指先に簡易器具を取り付けて酸素濃度を見る。「…大丈夫そうですけどね」と言いながら、念のためと酸素マスクと点滴も施す……。
「あ、手塚さんはそこに座ってて」と麻子が目覚めた時にすぐに目に入るよう枕元の特等席を指示された。
落ち着いてみれば、医者が目の前に居たにも関わらず、発作を起こして呼吸が出来なくなった麻子に人工呼吸まがいのことを施したり、麻子に生きろと泣き付いたりと、自分の行動がかなり気恥ずかしく居た堪れない気持ちが湧く。…………ドラマじゃあるまいし、やりすぎだ…………。
顔から火が出そうに熱いけれど、あの時はただただ必死で周囲のことなんか頭になかった。麻子を助けたい一心で――――正直俺自身がプチパニックになっていたのかもしれない。周囲で見守って居た人達は、さぞかし居心地が悪かっただろう……。よくまぁ、この医者も何も口を挟まずに見守っていたな…………いや、口も出せなかっただけか。自分の形振り構わぬ行動を振り返れば消えてなくなりたい程恥ずかしい。
SPの2人は素知らぬ顔で車外で見張りに付いてくれているが、冷静さを取り戻してバツが悪い俺に気遣ってくれているのかもな、なんて発想まで浮かんでしまう。
車内で麻子に処置を施してくれていた宮澤医師もようやく落ち着いて腰かけた。
眠っている麻子を前にして、男2人――――沈黙も居心地が悪い。羞恥心で身が縮む。
誤魔化すように口を開く。こんな病院でもなんでもない場所でも的確に動けるって凄いですね、と。もちろん本当に医者としての宮澤医師の処置に手塚は感心してもいた。
「修羅場経験もあるんでね――――紛争地域で被弾した人達の救急救命に何年か立ち会ってたもんで。心も身体もボロボロになった患者を随分と診てきましたからね。…………まぁ何年もあの環境に居て、自分自身少し身体を悪くしたのと、このままだと俺自身が心身ともに倒れるなと思って数年前に帰国したんです。
…………サイキさん、身体の方が随分と良くなってきていたことが幸いしましたね。突然、鬱が酷くなって自殺願望が生まれて――――そこから急降下でしたから。人間って生き物は『生きる気力』がなくなると一気に身体も駄目になりますからね。貴方の到着が間に合って良かった」とニヤリと応じる。
…………流石は兄が連れてきた医者だ、一筋縄じゃない、と、癪に障るが頭が上がらない。
「…………ずっとマコを診てくれていたんですか?」
瀕死の麻子を転院させた病院――――兄の伝手はこの医師だったのだろう。
「ええ――――と言っても、俺もあの病院の常勤医師じゃないんですがね。アルバイトの方が時給がいいもんで――――朝比奈から連絡があって。キナ臭いなぁって思ったんですが、かなり奮発してくれたし、まぁ、個人的興味もあったんで引き受けたんですよ」
「――――個人的な興味って?」
「――――サイキさんって朝比奈を振った彼女でしょ? 違う? 朝比奈を振る女性ってどんな女性(ひと)なのかと興味があってね。
朝比奈とは学部は違うけど大学が同じだったんですよ。サークルでも、モテてモテてねぇ…………腹立つくらいの正真正銘のモテ男で。卒業後もすんなりと法務省のキャリア組、将来有望なエリートの地位をさっさと確立するわで、顔だけじゃなくてやり手でもあるヤツでしょう。女性にはかなり人気があったみたいですよ――――もっとも硬派なヤツだし、誠実なヤツだからホイホイと女性と付き合ってたわけじゃなくてね。付き合う時はいつも誠実で紳士的であろうとして……けど仕事が忙しくなって女性の相手をする時間もなくなって――――朝比奈から別れを切り出すパターンみたいでしたけどね。女性の方は、私はいつまでも待ってるからって言ってたみたいだけど、それはあまりに不誠実だからってヤツは嫌がったみたいですねぇ。変なところで堅物なヤツだ。
俺が海外に行く前――――あれは丁度振られた直後の朝比奈だったんです。朝比奈と2人で飲んでて――――あいつ、これまで出会った中で一番素敵な女性と出会ったんだってポツンと零してね。へぇ、こいつにそこまで言わせるなんてよっぽどの女性だったんだなって思ったら、けど振られたんだって笑って。けど喋ってると、その彼女にまだまだ後ろ髪を引かれてそうなんですよねー。だから発破かけたんですよ、今の仕事が一段落するまで待っててって言えばいいんじゃねェの? って。そう言ったらヤツは笑って――――妙にサッパリとした顔で『彼女のことは、今は、諦めるよ』なんて言って――――けど、『この先……俺がもっと大きな男になって――――今のこの状況が変わって、その時になってもまだ彼女が一人なら、会いに行きたいと――――改めて、最初からやり直したいと思ってる』なんて言うから――――あの朝比奈にそんなことを言わせる女性ってどんな女性なんだろうって思ってましたよ。
……帰ってきたら朝比奈は随分変わってましたね――――もちろん、仕事での立場だとか状況なんかの変化もあったんでしょうが――――だけど本質は、やっぱり『彼女』に振られて変わったんだと思いましたよ。今のあいつは、あいつの意志で足で力でここまで来たって言う、しっかりとした『核』みたいなものがちゃんとあるんですよねぇ……。仕事に対する意識が全然違ってるって言うか。
……昔、エリートだと言われてた頃のまま、そのままエスカレーターに乗って出世だけしてたら、今のヤツはなかったでしょうね。全然、仕事に対する姿勢っていうか――――そういうのが目に見えて違ってましたね。
――――挙句に未だに独身だっていうから驚きましたよ。まぁでも、もう彼女への未練はないらしいですがね。
人の恋路なんざ興味のない俺が未だにヤツがフラれたことは覚えてたんで――――『まだ忘れらんないのか?』って聞いたんですよ。そしたらそれはもう終わったんだ、もういいんだって言ってましたけどね。――――けど、今回、この話が来て――――『諦めらんないのか?』って聞いたんです。そしたら即答で、あいつは違うって言ってましたよ。けど俺から見れば、振られた彼女に金積んで命を助けて欲しいって言うってことはどう考えても未練でしょ? まぁ……スポンサーは別で、金の出所はあいつじゃないってのは聞きましたがね。それでも気に掛けてるってことだよなって食い下がったんですよ。――――そしたらあいつ、なんて言ったと思います?」
「……………………」
答えられる訳もない俺に、答えは期待してなかったらしく、急に宮澤医師が俺の目を覗き込むように真っ直ぐに見つめて来た。――――そして、ゆっくり口を開く。
「――――彼女が幸せに結婚するのを見て、ようやく一歩踏み出せると思ってたんだって――――そう言ったんですよ。彼女が幸せだって聞いて――――本当にこれで終われるなって思ってたって。
それは未練とか、まだ彼女と寄りを戻したいとか、そういう気持ちじゃなかったらしいんです。俺にはよくわかんねぇけど――――彼女が1人で居るんだって聞くと、他の女性へ目を向ける気持ちになれなかったそうなんですよね。新たな恋や愛に新たな一歩を踏み出そうって気持ちになれなかったらしくて――――だからって彼女の前に出ようとも思わないし、彼女と人生を共に歩こうとも思わなかったって言うんです。ただ、なんとなく、自分が彼女以外の女性を見る気にならなかっただけだって言ってましたね。だから――――彼女が幸せに結婚するのを心の底から俺も待ってたんだって。
…………そう思っていた矢先に彼女がこんなことになって――――彼女の旦那さんも怪我をして記憶が無くなって――――、朝比奈のヤツ、途方に暮れたらしいですよ。
ようやく踏み出せると思っていた自分の足が急に止まってしまったって。
彼女の幸せな話を聞いて、ようやく過去と決別できると思っていたのに、これじゃあまた身動きが取れないって――――どうにかして彼女を助けて欲しい、とあの朝比奈に頭を下げられましたよ。
…………もっとも、バックに居たのが大物の手塚慧だったから、それにも驚愕しましたけどね。――――どういう女性なんだろうって、ますます興味が湧いたんですよ。面白かったですね、彼女の担当医の立場になって、彼女の周囲には手塚慧を筆頭に大物も数多く居ると言うのに、彼女の婚約者は貴方でしょう。その頃の貴方は記憶が無くて彼女の前にも現れなかった。――――なのに、誰も彼女に手を出さない。…………どういうことなんだコレは、と悩みましたよ。まさか『手が出せなかった』とも思ってませんでしたからね。
――――少女みたいなんですね、彼女。今回、鬱になって病院から離れて一緒に行動して、初めてわかりました。
今はやつれてるけど、元々はさぞかし美人だったんだろうとわかる目鼻立ちのサイキさんだし、随分と男を泣かせて来ただろうとか、男を意のままにしてきたんじゃないかとか思ってましたが、全く違うんですね――――少し一緒に居るだけで、それはすぐにわかりましたよ。道理で誰も手が出せないワケだ――――純情無垢な少女を目の前にして自分の欲望だけで手を出そうなんて、彼女に好意を寄せている男は出来やしません。明らかにたった一人の彼(ひと)のことを一途に胸に秘め続けて、彼以外の誰も彼女は求めていないことが明確でしたからね。そんな彼女を無理矢理抱こうなんて、少しでも自尊心がある男は誰も出来ませんよ。
――――サイキさん、ずっと貴方を待ってましたよ。
貴方を待ちながら、貴方に怯えて、でも貴方のことでサイキさんはいっぱいでした。
手塚慧さんを貴方だと間違っている時も、彼女はずっと心のどこかでは彼は貴方じゃないとわかっていたんでしょうかね――――縋る時はあっても甘えることは決してしませんでしたね。ただただ謝っていました。泣きながらずっと謝っていましたよ。幻影とか幻覚とかそういうものだと認識してたんじゃないでしょうかね。
…………詳しいことは、私は知りません。わかりません――――わかりたいとも思ってませんしね。
でも、貴方に謝りながら、貴方に怯えながら、サイキさんはずっと貴方を探して貴方を待っていましたよ。
手塚慧さん自身も、貴方に間違えられながらも、サイキさんが手塚慧さんを結局のところでは『貴方じゃない』とわかっていることに気付いていたんじゃないでしょうか。
…………いよいよ、消耗が著しくなる彼女を見て、手塚慧さん自身が、貴方を呼びに行く、と決断したんです。点滴とマスクだけでは、本当に彼女の容体は落ちてゆく一方でしたので…………。貴方と間違っていた手塚慧さんに、ごめんね、と謝りながら、どんどんと生命力が削り取られていくようでしたよ。無意識に自らの死を望んでいることは行動や態度の端々に感じられてましたし、身体の機能が急速に落ちていって……精神力はほとんど使い果たしている状態でしたね。おそらく、サイキさん自身、これが夢なのか現実なのかもわからなくなってきてたんじゃないですかね。
今朝あたりから急激に呼吸や血圧がショック状態に陥る頻度が増えてきましてね、それで、実家は目前だとはわかってるんですが病院に緊急搬送したんです。彼女の状態を正確に把握したかったので検査もしたかったですしね。伝手を頼りに大学病院に駆けこんだんですけど、意識が戻った途端に病院という場所事態にサイキさんは耐えられなくて酷く怯えてオカシクなっちゃってね――――病院と言う場所は彼女を追い詰めてしまうんですね。そう判断したんで数時間ベッドを借りて簡単な検査だけさせて貰って出たんですけどね。
点滴も入れておきたかったし、そのままこの海岸沿いにある駐車場に停めたんです。
凄い消耗振りでしょう。これでも細切れでも点滴をしっかりと入れてるから、まだ身体を動かせるんですよ。まぁ心が壊れかけてるんで、本人の意図通りにはもう上手くは身体を動かせてないようですが、今すぐに死に至るような状況にまではなってないようには処置してるつもりです。
……まぁもっとも……正直、私も彼女の顔に、死相が見え始めたかもしれないな、と過り始めてたんですよ……。人間って生きる気力がなくなると、本当に死ねるんです。心が身体を殺してしまうんです。
まぁアレコレ手を尽くして、まだすぐには死ねないようにフォローはしてましたけど…………そろそろヤバい感じになってきてるな、って思えて来てたので――――本当に、貴方が間に合ってくれて心から良かったと思っていますよ」

     *

宮澤医師は、失踪してからの麻子の容体についてもすべてを聞かせてくれた。
肝が潰れるような話だった。
兄も兄なりに、本当に麻子に尽くしてくれていたのだとわかって、手塚の胸には複雑な想いが湧く。
まだ体力の残っていた失踪当初は、鬱からの自殺行動を突発的に起こすことがたびたびあったらしく、確かに麻子の手首や首筋には痣がいくつかあって、そのことを証明していた。
兄がそんな麻子の為に尽力を尽くしてくれたんだろうことは理解はしているのだが、だがやはり、最初に連絡を入れた時に何故教えてくれなかったんだ、との想いは消えない。例え、俺を見て麻子が死にたくなったとはいえ、せめて生きていることとどこに居るかだけでも教えて欲しかったと心から思う。
――――俺を見てショックに陥った麻子なので、並大抵のことでは普通に話しも出来なかっただろうことも、重々にわかってはいるのだが…………。わかっていてもなお、麻子の傍でずっと麻子を支えるのは俺でありたかったという念は消えないものだ。
…………初期の段階で、医者に付き添って貰ってでも、少しでもちゃんと麻子と話が出来ていたら――――俺は大丈夫なんだってことを少しでも伝えられていたら、こんな風にはならなかったんじゃないかと…………少なくとも麻子を俺と離れなくちゃならなかった理由はどこにもない、と思う。麻子が失踪してからの時間は、俺にとってだけじゃなくて麻子にとっても地獄だったじゃないかと――――。
……麻子の容体で、心配なのは腎機能らしい。軽い脱水状態になってるのは状態から診てとれると宮澤医師が言う。片腎の一部を摘出してるところにこの負荷だから、あまりよくないですね、とサラリと言われた。まぁ、腎臓ってのはすべての機能をフルに使ってる臓器じゃないから、一部摘出くらいじゃ全然支障はない筈なんですけど、弱ってるところに打撃が来るとなんでも壊れやすいもんなんでね、と軽い口調で言われて背筋が凍る。
今この状態で、麻子が再手術なんてことになったら体力がもたないことは目に見えている。
麻子は眠っていた。
宮澤医師からいろいろと話を聞いている間中ずっと。
「最近にしてはよく眠れてますね」と宮澤医師は感心したように呟き、「……気を利かせましょうか、少し席を外して来ますよ」と出掛けてくれた。海岸沿いのこの道に店はあまりないけれど、皆無と言うわけでもない。最悪、大学病院まで戻って軽く食事でもしてきますよ、と笑って出掛けて行った。何かあればすぐに携帯に連絡することになっている。
SPの2人も外での見張りをメインにして、麻子と二人きりにしてくれていた。どこに行ったのかは不明だが、何かあれば駆けつけてくれる範囲にはいるだろうことは予測出来る。

穏やかに眠る麻子と、エンジン音だけが響く車内で2人。
握っている手が愛おしかった。
酸素マスクが曇るリズムに、生きていると安堵する。
ようやく――――ようやく、ホッとした。

もちろん、目覚めたら、麻子とゆっくり話をしなければならない。
また、俺を見てパニックになるだろうことも予測できる。
いろいろと覚悟はしている。

…………と、ピクピクと握っている手が震えた。
眉間が寄って、切なげな表情になる――――と思った時には目頭や目尻に浮かぶ涙。

悲しい夢を見ているんだろうか。

「…………麻子…………俺はここに居るから。……大丈夫だから…………」

静かにそっと、声をかける。
床に膝を付いて、麻子の顔の近くに寄り添う。

酸素マスクが大きく曇った。大きな溜息を吐いたのだろうか。

薄らと少し瞳が開く。
溜まっていた涙が頬を伝っていくのに、胸が締め付けられる。
半開きの目の中いっぱいに広がる黒目が、瞼の中でグラグラと揺れているのがわかった。
――――夢を見てるんだろう。
手をしっかりと握り締め、覗き込むように顔を近付け、また静かにゆっくりと声をかける。
「……麻子、大丈夫だ……ここに居るよ、俺は、ここだ……」
はぁ…っ、と大きな吐息の音がマスク越しにも聞こえた。くぐもった響きがしたから何か言ったのかもしれない。
「……麻子、大丈夫だから……安心していいから……俺が一緒に居るから……」
声を掛けずにいられなくて、静かに言葉を紡いでゆく。
握り締めている小さな手にも力が籠り、また、マスクの中で何か聞こえる。

……ひかる……

そんな風に聞こえる。――――烏滸がましいかもしれないが、胸が震える。
「……俺はここだよ。……ようやく見つけた――――もう麻子を離さないから。俺はここに居るから……」

麻子の空いている方の腕が、重そうにぎこちなく動いた。
酸素濃度を測っている指が震えている。
俺の方に腕を伸ばそうとしているように見える。
機器の付いた指先なので、握ることに躊躇って――――代わりにその腕と交差するように俺の腕を回してやって、麻子の背中をゆっくりと撫でるように手を回す。
優しく抱き締めるような形になるように。
……ひかる……
――――確かに聞こえた。
不覚にも泣きそうになって、「麻子……麻子。……もう大丈夫だから……」と濡れかける声を堪えながら、小さすぎる背中をゆっくりと撫でる。
ふう…と、麻子の吐息がゆっくりと零れた。慌てて顔を上げて麻子を見つめると、重くて堪らないとでも言うように麻子の瞼が閉じてゆく。
眉間が開いて安心しきったような無防備な顔だった。
顔色も悪くはない。子供のように安心しきった寝顔。
すう…っ、と、ゆっくりとした寝息が聞こえ、また眠りに落ちてゆく。
ホッとして、不覚にもまた、涙が零れる。

――――ったく、この数日で、俺まで精神力が脆くなってしまったのかもしれない。

無意識な麻子が呼ぶのは俺だと言うことが嬉しい。
俺に抱き締められて、ホッと安心するお前が愛おしい。
お前には俺が必要なんだって自惚れちまう。

お前には俺だけだろ、なんて――――……。

強くならなきゃな。

今は、睡魔に負けて意識が戻るまでいかなかったけれど、意識がハッキリと戻ったら、恐らく麻子の中で相当な葛藤が起こる。その時にはショックを起こしたり、麻子からの罵声が来たり、覚悟はしているつもりだ。
――――それでも――――ちゃんと話がしたい。

話をしよう、麻子。

分かり合えると信じてる。

俺にはお前が必要で、お前には俺が必要なんだ。

一緒に――――……一緒に歩いて行こう。

一緒に生きていこう。

2人でなら生きていける。

手を取り合って、支え合って、こうして――――俺達は一緒なら生きていける。

お前だって、本当はわかってるんだろ?

俺に包まれて、わかっただろ?

――――安心する――――……。

互いの温もりを感じて、本当に心からホッとする。
鼻腔から入り込む香りは麻子のもので、麻子の香りが手塚に満ちる。
ホッとした手塚の胸は、ぽかぽかと温かい気持ちで満たされる。
失っていた自分の欠片がピタリと嵌まって心の隙間を埋めてゆく。
この温もりをもう離したくはなかった。

麻子を包み込みながら、手塚の方が包み込まれているかのような感覚――――。

――――手塚の吐息もまた寝息へ変わるのに、さほど時間はかからなかった。



……To be continued.



********************



すみません! 麻子サンとちゃんと向き合って話し合うところまでいきつかなかった……
次回、GW前には今度こそ麻子サンとちゃんと話合って貰いますので!!
……大事に書きたいところなので、もう少し猶予を下さいませね。






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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

★いきなり……運転手さん死亡ですよね?(汗)

Sauly様

お待ち下さいませ。
まぁ……続きを書いていってるんですが、なかなか麻子サンが睡魔に勝てなくて困っています…………まともに話が出来るんだろうか……(大汗)
3日間分の睡眠を今、漠々と補充していらっしゃいます((((((^^;)
起きて~~~~柴崎ィ~~~~!

さて、本当にたくさんキャラが出てきますねェ。
もう誰がどれやら…………(大汗)
そうでなくても、外人はみんな同じ顔に見える私ですので、もうヤバいヤバいヤバい…………
トニーの親友ながら、密告者の疑い…………そりゃあトニーの精神的ダメージは相当でしょうね……。
実際の所は、本当に密告していたんでしょうか?(謎)
まぁ……トップであると本当に大変ですよねェ(それで結論かよ!★苦笑)

ところで、スーツを奪うシーン…………まさかの事故(((((--;)
まさかの…………あれ、運転手死んだんですよね?(大汗)
あまりに突然すぎて、流石の私も怖いと言うよりは呆気に取られてしまいました★
まさか…………あんなことで。
まぁ、、、、それが、このお話なのでしょうけれど、、、、

> 最後にシルビオがアレをやります笑笑
アレは息抜きですね~~~~!
清涼剤ですね!(笑)
良かったです、アレ!!!(笑)
ちょっとホッと出来ました(笑)

なかなかキャラ把握は難しいですが……………Sauly様の記憶力の凄さに感心するばかりです~~!!

ツンデレラ |  2017年04月22日(土) 07:44 | URL 【コメント編集】

★慧の眼鏡……笑!

ママ様

宮澤先生……続きも書いてるうちに、だんだんお気に入りキャラになってきました(笑)
朝比奈さんとは真逆なタイプを想像(笑)なんでこの2人(宮澤先生と朝比奈さん)って友達なんだろう?って周囲が想うようなタイプを想像です(笑)。意外によく喋るキャラになりました…………っていうか、ウチのオリキャラってよく喋るヤツが多い?(苦笑)

> 宮澤先生は随分と朝比奈さんを後押ししてたようですが、朝比奈さんは麻子の深い部分を何も解ってなかったですよね。
そうですね!(笑)
友達なんで、宮澤先生の情報は大概朝比奈さんからの情報、ということになっています。(慧が依頼人なのですが、慧自身が表に出たくもなかったでしょうし(多少不正もしてますから……名前偽ってる患者ですしね)、もっぱら宮澤医師への依頼関係は朝比奈さん経由で行われていたものと思われます)
なので、、、まぁ……朝比奈さんの肩を持つ感じにはなってるのかな?
朝比奈さんは、内乱のあの部分にしか出てこないですけど、柴崎とは嫌い合って別れた訳ではなく(まぁ付き合うということまでも全然いってない状況でしたが)、むしろ最後は柴崎の事が朝比奈さんも好きになってた感じがあるので、あそこから朝比奈さんは自分の生きる道を自分で考えながら歩んでいってくれてたらいいなー。と思ってるんですよね、私。
柴崎は朝比奈さんにとって、人生を変えた人、みたいな。
その気持ちは、恋愛感情とかだけでなくて、まぁ……柴崎の同志のような気持ちであったりとか、流されて動いている今の自分の存在を見つめ直すきっかけになったりとか、朝比奈さん自身、ただただ自分の組織の在り方に流されそうになってたところがあったのを「自分の組織が悪いことをしているなら、それは正すべきことだ」という姿勢を見せられて、何かが変わってくれていたら嬉しいなって思うんですよねー。
なので、そういう「その後の朝比奈さん像」で、朝比奈さんは柴崎の本質を見たとか、それで柴崎が好きで、という感じとはちょっと違って、、、そうですねー、自分の生き方を変えてくれた女性(ひと)として、柴崎に憧れ感をずっと抱いていたんじゃないかなー。それをポロポロと馴染ある友人(朝比奈さんは宮澤医師を友人と思っていますが、宮澤医師は友人と言うか腐れ縁みたいなイメージがあるのかも…………そんなにしょっちゅう親しく合うような仲ではない想定で)に零していた、という感じですかねー。
なので、まぁ……宮澤医師にすれば、柴崎の事は朝比奈さんからしか聞いてないから、どうしても朝比奈さんの主観も入った女性像を聞かされていたから……こういう話になったのではないかと思います。
まぁ、朝比奈さんが、ここまで柴崎を想っていたのかどうなのかは微妙かもしれませんが、このお話ではまだ独身イメージで作っているので、独身なら言い訳としては柴崎に会って以降柴崎以上の女性に会えてない、という感じで作りました(苦笑)。
まぁ…………朝比奈さんに、手塚から柴崎を奪いたい、なんて気概はない人かなーって思いますしね(笑)
宮澤医師は、ちょっとばかり柴崎と慧の関係も見ていたし、これから柴崎と手塚の関係も目の当たりにすることになるので……まぁ人伝だけではない宮澤先生の考えっていうのも出て来るかと思います(笑)

> 麻子が間違えたって事は慧さん絶対メガネ外してましたよね。
ですよね!(笑)
流石に弱ってる麻子サンが自分を見て「光…」ってポロポロ泣いてたら、なんか可愛くてつい眼鏡外したんじゃないですかね?(笑)
少しだけ、光のフリをしてあげるのも悪くない、とか?(笑)
でも、原作では別に慧さんは眼鏡だって書いてないですよね?(笑)アニメのイメージ、強いなぁ。ドラマの松坂くんは眼鏡じゃなかったですよね?(笑)
慧サンにとっては、初めて見る弱さを見せる麻子サンだったし、かなりの胸キュンはあったかもしれません(笑)
「光」と思われてる分(幻覚だという自覚はあって、本物の光じゃないとはわかっていたとはいえ)、慧には絶対に見せない可愛い表情なんかも見れたと思うし。。。慧もかなり我慢を試された2日間だったかもしれない。
けど、やっぱり麻子サンが呼んでいるのは「光」であって「自分」ではないことを見せつけられてはいるので…………結局「フリ」以外の何も慧には出来なかったし、壊れ物を扱うようにしか扱えなかったと思うから(壊れ物すぎて、扱い方にも困ったかもしれないですね(苦笑))、そこはやっぱり手塚が麻子サンを完全に包んであげるようには抱き締められなかったとは思いますねー(苦笑)。慧さん、忍、忍、、、(苦笑)
結局、自分じゃ駄目だと気付いたのですが、ちょっと気付くのに、慧サンらしくもなく時間かかっちゃいましたね…(苦笑)


ツンデレラ |  2017年04月22日(土) 06:15 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年04月21日(金) 18:40 |  【コメント編集】

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