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2017.03.26 (Sun)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.52~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.52~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.52~ ≫背中の靴跡シリーズ


「……内閣府で柴崎麻子を襲撃した事件の時に、あの現場に居た人物です。間違いありません。――――なんたって俺の頭を殴った犯人ですから。殴りかかってきた犯人の顔はしっかりと覚えています。間違いありません」

目を覚ました大蔵優哉を囲んで、病室での尋問が行われていた。
俺の証言に、そうでなくても蒼褪めた麗華の顔が泣き出しそうに歪んだ。フラ…と揺れた上体を支える仲間の刑事が差し出したお茶を受け取る手がぶるぶると震えて、お茶を飲むのもままならない程動揺している。
――――大蔵優哉の聴取に、麗華はまだ一度も言葉を発していなかった。手塚とも優哉とも目を合わせない。
優哉の事情聴取前、刑事仲間から麗華は席を外せと勧められていたが、敢えて同席しているのは麗華の意志だ。だが、同席したことを後悔してるんじゃないかと思うくらい、ずっと俯いたまま座っているだけだった。

俺の証言に蒼褪めたのは麗華だけではなく、大蔵優哉当人もだ。
衝撃を受けたように、手塚の言葉を聞いた途端マジマジと手塚を凝視し――――みるみる、顔色が悪くなる。
…………ようやく思い出したんだろうか。
「――――そういう証言があるが、間違いないか?」
一番年配の刑事が落ち着いた声で優哉に問えば、優哉は上擦った掠れ声で「…………い、いや…………なん……し、知らねぇよ…………」と呟いた。シドロモドロで小さすぎてよく聞こえないが、逃れようとの返事は間違いないので畳み掛けておく。
「――――俺の人違いだって言いたいのか? 俺の誤解だって言うなら、矢間竜士郎に聞いてみるが、それでいいか?」
手塚の問いに、優哉がギクリと身体を震わせた。慌てたように手塚を見て、目が合うとオドオドと目を逸らして……ギュッと布団を握った手があからさまに震えていた。
「矢間竜士郎とは昨日もコンタクトを取ってるんだ――――あんたが知らないって言うなら、竜士郎に伝えてこっちに来て貰ってもいいが?」
正直、完全なハッタリだ。竜士郎は、手術は無事に終えたがまだもちろん動かせる状況じゃない。
だが、あの時間にこの病院でマコに接触していた優哉は、その事実は知らないと踏んでいた。――――実際、キョドキョドと黒目が三白眼の中で酷く揺れている。
――――矢間竜士郎のことは知っていて、かつ、その存在を恐れている――――竜士郎のバックに松和会があることや、竜士郎が容赦なく人を殺せる人物だと知っているからこそ、こんな態度になる可能性が高い。
優哉の行動を見ながら、そうやって手塚は頭の中で予測を付けてゆく。
ハッタリだとしても簡単に留めを打てそうだ。
「――――ちなみに、矢間竜士郎は、あの日あの時、あの現場に居たことを認めている。――――あんたと一緒にな」
手塚の言葉にギョッとまた視線が手塚の顔に向き――――慌てて俯いて逃げる。
矢間竜士郎と違って、本当にチンピラだ。ただの小物――――便利よく使われただけの駒。……そんなイメージが湧く。
「~~~~あ……、そ、その…………そそそう、だった、かな…………」
溜息が出そうになる。――――埒の明かない話になりそうだ。
こんな小物相手だと、下手な小細工は必要ないだろう。単刀直入に斬り込んでみる。
「――――あの時、俺を殴ったのは何故だ? あの時あんたは『見られた』って呟いた――――別に柴崎麻子を襲撃した犯人でもないのに、俺に見られてあんたは焦ってたよな。後ろめたいことがあったんだろ?」
警察の方も、俺が口を出すようになってからの方が事件の本質や証言が取れているからだろう。好きに喋らせてくれる雰囲気が漂っている。警察にあれこれと細かいところを尋ねられないのは話を折られずに済むし有難かった。
返事のない優哉に畳み掛けるように言い募る。
「……あんたは指示されてあそこに居たんだよな? 本来はあの場で柴崎麻子は拉致される筈だった――――あんたと矢間竜士郎の手によってな。……けど、あんたが手を出す前に柴崎麻子は銃撃されてしまった。
驚いただろ? あんた、ああいう現場は初めてか? ……矢間竜士郎は襲撃されるだろうことを、あらかじめ知ってたっぽいぞ?」
「~~~~な…っ、……ばば、バカなッ!! 矢間は俺と一緒にあの女を……っ……」
「ああ、ターゲットが銃撃されなければ、あんたと一緒に誘拐犯になっていただろうよ。けど、矢間はあんたよりも情報網が広くてな。松和会の方から襲撃命令が出ていることを知ってたんだろう」
「~~~~松和会だと?! 松和会なら俺達だって…ッ」
「……あんたのバックは、杉谷の口が利く和木派の方だろう? あの時動いたのは恐らく松山派の方だ。矢間竜士郎は杉谷とは繋がりがあるようだが本来は松山派の方の人間だって知ってたか?」
「~~~~は…? わ…和木……? 松……な、ななんだよ…っ、松和会は松和会だろうがッ…?!」
――――ああ、こいつは本当に小物だ。手塚は断定する
杉谷に使い捨てにされているだけだ。――――いや、矢間竜士郎にか? ……いや、竜士郎ならばここまでの雑魚は使わないだろう。やはり杉谷の可能性の方が高い。
「――――あんた、大蔵優哉って名前なんだよな? 大蔵財閥との関係は?」
「――――はあ…ッ?! ななな、なんだよいきなりッ!!! あんたに関係ないだろッ?!」
「……矢間竜士郎と面会したナイトクラブの出資は大蔵財閥がかなりの援助をしてるんだ。――――矢間竜士郎の父親が、大蔵財閥の娘との不義の子供だったって知ってるか?」
「――――――――は?」
「繋がりがあるんだよ、大蔵財閥と松和会とはな。――――だからあんたも……って思ったけど、その知らなさ加減から言うと関係があったとしても相当遠いな」
「~~~~な、な…っ、ううううるせぇッ!!!」
「……じゃあ、杉谷とはどこで知り合った? 矢間竜士郎とも――――キッカケがわからないな……。杉谷と竜士郎はナイトクラブでのようだが…………」
「…………優哉も…………ナイトクラブで……じゃないかしら……?」
あまりに何も知らない埒の明からない優哉との会話に、掠れた声が割って入った。
驚いて見つめると、麗華が辛そうに一瞬目を逸らし――――だが、意志を総動員して手塚を見た。
「……昔ね、ホストやってたって…………優哉言ってたから…………従業員としてナイトクラブに居たんじゃないかしら。……それに……たまに自慢してたの。…………大蔵財閥とは遠い親戚なんだって――――だから、金には困らないんだって……ホストとしても指名ナンバー1だったって…………けど、今は、偉い人の秘書をしてるんだって――――偉すぎる人だから言えないけど、その人のプライベートな秘書だから、仕事は毎日じゃないけど収入が入る時はガッポリ入るんだって――――そう言って…………」
真っ直ぐ手塚を見ていた目が、チラリと優哉に移り、そして辛そうに伏せられた。
優哉が凄い目で麗華を睨む。殺してやろうかとでも言いたげに目を剝いたが、そんな麗華を庇うように隣の刑事が身を乗り出したのが目に入った。
…………なるほど。
麗華のお蔭で、少し見えてきた。やはりあのナイトクラブで繋がる。――――麻子を銃撃した犯人である熊沢剛の妻の沙姫もナイトクラブで働いている…………麻子を襲撃した事件の関係者達はすべてあの場所で繋がるのだ。
「――――なるほど。それじゃあ、沙姫って娘とも知り合いか?」
手塚の問いに、麗華から目線を外した優哉は目を瞑った。
「…………知らねぇ」
「クラブに出てたんなら矢間竜士郎とは雇用の関係だな。杉谷とはいつからだ?」
「…………知らねぇ」
一転して今度は『知らない』で通すつもりらしい。――――思わずその子供のような反応に冷たい目を向けて――――だが呆れるばかりでは自体が進まないと自らを戒める。優哉が口を開くような話題を口にしないことには始まらないのだ。
「――――なぁ…あんたはまだ『知らねぇ』だろうが――――矢間竜士郎が襲われた」
「~~~~ッ?!」
途端に、瞑っていた目を驚きに見開き手塚を凝視した。……そんな優哉を真っ直ぐに見つめる。
「今、この病院で緊急手術を終えたところだ――――警察に出向く途中に発砲され何発も被弾した」
「~~う…ううそ、だろ……? はは…っ、な、なに言って…………」
「本当だ。なんならガラス越しにしか見れないが確認にでも行くか? 一応手術は成功して一命は取り留めたが――――今は集中治療室で絶対安静になってる」
「…………な……っ……」
「――――次はお前かもしれない」
――――完全なハッタリだ。だが、あからさまに優哉が怯えた顔になった。
「矢間竜士郎を襲ったのは、松和会のメンバーだ。確保した犯人からそれは既にわかっている。竜士郎のみならず警官をも捲き込んでまでも殺害しようという手法だった――――容赦ない。……狙われたら終わりだ。お前も狙われる可能性がある」
「~~~~っ?! ……ななな、なん、なんでだよっ…?! しし、知らねぇよっ、俺はただ、女を調べろって言われただけで…っ!!!」
完全に上擦った声――――キョロキョロと目が落ち着かなく動く。恐怖心を煽る為に、嘘だろうがなんだろうがとにかく畳み掛けていく。
「………柴崎麻子は松和会から狙われている。知らなかったのか? 柴崎麻子って女は、触れてはいけない情報を知ってしまったんだ。松和会だけじゃない――――もっと大きな組織からも目を付けられていた女だ。あんたはそんな女に接触してたんだよ。柴崎麻子の情報を握ったお前も狙われる――――……」
「~~ななななんでだよッ?! 俺はただ柴崎って女のことが知りたいって――――銃撃されても生きてるかもしれないって――――あの女の情報を掴んだら杉谷が金を出してくれるから…ッ!!! 俺が知りたいんじゃねェッ、杉谷が知りたがってんだッ!!! 俺は調べただけでっ…………あの女が何を調べてたとか、どんな女だとか、なんも知らねぇよッ!!! 俺は関係ねぇッッ!!! 杉谷だよ、杉谷に言われただけだッッ!!!」
大蔵優哉の言葉に、チラリと緒形に視線を送れば、緒形も頷いて返す。
このやりとりは録音されている――――優哉が杉谷と繋がっている証言を得た。

――――ようやく、一つの山を超えた気がする――――

杉谷まで辿り着くのに、どれ程の回り道をしたことか。
「…………杉谷から頼まれて、柴崎麻子について調べてたんだな? 杉谷はなぜ柴崎を?」
「~~しし、知らねェよッ!!! どっかで見初めたんじゃねェのっ?! なんか異様に執着してる感じだったぜッ!!! 俺が直接落としてやろうかって言ったら――――」
と言ったところで口を噤んだ。見れば微かに薄ら寒そうな表情を浮かべていた。
「……言ったら? なんだ?」
「~~~~あ、い、いや……。女に手を出すなって――――女に触れたら殺すって――――な、なななんかよ、本気っぽくて…………あいつ、たまにすげェおっそろしぃ眼、すんだよ…………実際、杉谷にのめり込んだ女が廃人みたいになったのも見たことあるしな……。だから、柴崎って女には手ェ出してねェ! ……女が欲しいんならむしろ麗華に近づけって言われてよ。情報源としては最適な女だからって――――だから、あれこれ手を打って麗華に近づいたら、それだけで杉谷のヤツ、小遣いくれんだぜ? でかしたっつってよ――――麗華とのデート代に使えって札束渡されるし太っ腹で――――柴崎って女の情報持って帰ったら、更に大金くれんだよ!!! だから――――それだけなんだ!!! 俺は全然柴崎って女には興味もなんもねぇんだよッッ!!!」
視界の端で、麗華が手で顔を覆うのが見えたが、構わずに続ける。
「――――じゃあ、なぜあの時は、柴崎麻子に接触しようとしたんだ? 杉谷の命令で誘拐しろとでも言われたのか?」
「~~そうだよッ!!! ようやくチャンスが来たってヤツはすげぇ喜んでたぜ!!! なかなか接触する機会が作れなかったっつってよ? 隙のない女だったらしいな――――内閣府内はSPだって許可なく入れないし、当然武器の持ち込みは禁止だから、簡単にことは運ぶって言われてたんだ! 矢間竜士郎に任せておけば滞りなく済むし、連れ去った後はクラブの地下に監禁しておけばいいって――――それが済んだから俺はもう自由に生きればいいって――――。……そしたら、その前に銃撃されちまってよ? ……あんときの杉谷の怒りたったら…………」
思い出したのか、ブルッと震える。
「――――何がいいんだか…………ヤツの――柴崎って女への執着心は、完全にアレは病気だぜ…………」
怯えたように呟いた優哉の言葉に、手塚の眉間に深く皺が刻まれた。

     *

「あらかたの所はわかってきたかな」
「よーやくなんか、見えてきた感じ」
「手塚の想像通りだったわけだな」
小牧、笠原、堂上が、優哉の尋問の録音を聴き、溜息を吐きながら呟いた。矢間竜士郎とのサシでの会話も合間に話を入れながら聞いていたので、ここに居るメンバーは十分に把握出来た筈だった。
最後に進藤がチロリと手塚を見ながら、ペシペシと背中を叩いて来る。
「――――つーか、そんな予想を立ててたなら、もっと早くに俺らにも教えろや?」
その言葉に軽く肩を竦めると、申し訳なさそうに手塚が呟いた。
「……すみません……。何も証拠がなくて――――いろいろと考えた中の一つの可能性でしかすぎなくて、あくまでも俺の勝手な想像の1つでしかなかったですし……。……俺自身、可能性の1つとして考えていただけで、それがそのまま当て嵌まるとも思っていなかったので、あくまでも発破をかけるつもりで言った言葉で……」
「――――いやいや、あの展開は、名探偵の名推理をご披露! って感じだったじゃねェか。反論の余地なんかどこにもねぇって感じだったぜ?」
手塚の言葉に、さっき、優哉とのやりとりの録音を聞いた進藤はまだ絡むが、緒形が横から声をかけて往なしてくれた。
「……それだけ、手塚はずっと事件について考え続けていたってことだろう。――――警察も凄い味方を付けたものだ。昨日と今日で、飛躍的に事件解決に向けて前進したからな」
「前進はしたけど、ややこしくもなったけどな。矢間竜士郎を銃撃した犯人についてはどうだ?」
問われた堂上と笠原は、少し背筋を伸ばして緒形と進藤へと顔を向ける。――――図書隊の方で確保した銃撃犯の護送の警備と、尋問に立ち会ったのはこの二人だ。

――――玄田を除くメンバーが、病院裏の兄のマンションに集合していた。
玄田は図書基地に戻って、タスクフォースの主力メンバーが抜けた穴を埋めるべく、あちこちを奔走している筈だった――――とはいえ玄田のことだから、指示だけ飛ばして後は丸投げなんだろうなと、緒形や堂上あたりは現在乱雑に扱き使われているであろう隊員達に想いを馳せて心の中でお疲れ様と労いの言葉を掛ける。……もっとも、基地に戻った途端、事後処理を無理矢理押し付けられることになるのは請け合いだ。
玄田へは、このミーティング終了後に基地に戻ってすぐまた詳細を報告することになっているが、簡単な報告はそれぞれが任務完了時に玄田に報告はしているので、あらかたの情報は耳に入れてあるという状況だ。
お前らも互いの情報交換をして情報を共有しておけとの指示が緒形に入ったので、手塚が場所を提供したのだった。

優哉の取り調べからさほど時間は経ってはいない。
…………マコには今、高山が付いてくれている。夜が明けて高山が来る時間になってもマコは目を覚まさなかった。そのうち大蔵優哉が目を覚ましたとの連絡が入り、高山にマコを任せて大蔵優哉の取り調べに同席していたのだ。
優哉の取り調べが始まる頃、警察署へ行っていたメンバーから取り調べや事情聴取が終わったとの連絡が入っていたので、病院裏の兄のマンションで落ち合うことにした。この情報交換の後も誰かは病院に残り、竜士郎の護衛に警察官とは別で図書隊独自で付いておこうという話になっている。
竜士郎からもまだまだ情報を得たかった――――この病院が犯人にバレているとはあまり思えないが(銃撃戦の最中に密かに普通車で逃走したが、2手に分かれた2手共に追跡された形跡はなかった)、大事な証人でもあり情報源でもある矢間竜士郎にもしものことがないように、また警察が取り調べると言うなら同席させて貰えるように交渉するつもりだった。――――手塚ならば許可されるだろう、との目論見あってのことだ。

矢間竜士郎を狙撃した犯人グループのメンバーの尋問の様子について、堂上が端的に報告する。ボイスレコーダーで録音はしてあるらしいが、警察の尋問はあまりに長く、不毛なやり取りも多すぎるために聞くに耐えん、まとめて話す方が早い、と堂上が説明してくれた。笠原も大いに頷いていたからそうなのだろう。
どうやら、犯人は松和会のメンバーで間違いはないようだ。警察の方で、誰からの指示かと散々問い詰めたらしいのだが、それに関しては黙秘だったらしい。
「――――そこを口を割らせるのが警察の仕事だろうに」
と進藤は呆れ顔だが「…松和会のようなああいう暴力団に似た組織ってのは、殊更、上からの指示については口を割らんだろう」と緒形がフォローする。
「――――結局、なんもわかんねぇのか? 狙いは矢間竜士郎で間違いないんだよな?」
「はい。そうだと思います。……それすらも警察の方でのらりくらりとはぐらかされそうになって、警官の方をしっかりしろと殴りたくなりましたけどね。矢間竜士郎を狙ったもので間違いはない筈なのに、気付けば警察を相手に襲撃した、みたいな話にまでなりかけて……」
「なんだぁ? なにその発想」
「あの状況からそれはないでしょ」
「取り調べた警察官が、警視庁から来た若手のキャリア官僚だったから、現場のことなんかほとんどわかってなかったんだ。――――警察としては、あの現場で何が起こったのかということよりも、警察官が巻き込まれた銃撃戦について世論を納得させるために理屈をつけたい、という感じだった」
「屁理屈の間違いだろ? 市街地で起こしてしまった銃撃戦だから、個人を狙ったもんだなんてことで済ましては警察の名が廃るとでも言う訳か?」
めんどくさそうにぼやく進藤に、また緒形が口を出す。
「矢間竜士郎個人を狙っての犯行と言うには規模が大きかったからな。複数名でたった1人を狙った犯行だったわけだが、警察が応戦して映画のような銃撃戦をしでかしてしまったわけだ。幸い市民に被害はゼロだったが警官も複数名撃たれてる。警察の名誉にかけても、ちっぽけな事件として片付けるわけにもいかんのだろう」
「――――あーそーかよ。お前はいつから警察の肩を持つようになった?」
「肩を持つつもりはない。警察は警察で、威信をかけて解決したがってるんだろうと言ってるだけだ」
「……なるほど。確かに結果としては規模の大きな事件になりましたからね。警察としてもあれだけの発砲をしてしまった以上、それなりの理由付けが必要になった、というわけですね」
「そこで納得すんなよ、小牧! あー…ったく、緒形と言い小牧と言い、警察の建前の味方すんのかよ?!」
「味方するつもりも肩を持つ気もない。――――警察には警察の見栄があるだろうが、俺達には関係ないことだということだ」
「…………んじゃあ、最初から素直に警察を扱き下ろせよ?」
「別にそんなつもりはない」
「…………俺、お前のそーゆーとこが嫌いなんだよなぁ」
ぼやく進藤にふ、と緒形が笑う。
「……そういうお前は、素直に口にし過ぎるから墓穴を掘るんだ」
「~~~~いーんだよっ、俺はこれで家庭円満なんだからよ! お前さんも素直に口にした方がいいことだってあるんだぞ」
明らかに話を脱線させ始めた進藤に、まぁまぁと小牧が苦笑しながら割って入る。
堂上が話を引き戻した。
「…………ともかく、緒形三監の言う通り警察には警察の思惑も絡んで来そうな感じは受けました。警察の方では今回の事件が松和会絡みであることは確認が取れているようです。犯人達が松和会に所属している裏は取れているようですから。――――警察の方では今後、松和会本部に対して、どのように捜査を進めていくかで、かなり慎重になっているようですね。交渉にしても踏み込むにしても上との相談の上という感じのようで、すぐに事件について踏み込もうという感じは残念ながらまったく受けませんでした」

「……あの犯人2人は、松和会の松山派に所属しています。――――以前に警察で、モニタージュ写真と照合した際、何度か見かけた顔でした」

手塚が口を開いた。皆の視線が一斉に集まるが手塚は自分の記憶を辿りつつゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……警察でピックアップされているということは、恐らくああいう現場ではよく登場している人物――――過去には警察に捕まった経歴もあるのかもしれません。完全な捨て駒でしょう。
ただ気になるのは、松山派の人物だということです。和木派の人物と言うのならば、松和会内部の松山派と和木派との抗争の一部かとも思われますが、同じ松山派の人間同士が特に現在『闇取引現場』を取り仕切るような役割をしている矢間竜士郎の殺害を試みたという点で、松山派の中核人物が動いたと見て間違いないのかと思うんです。…………もちろん、竜士郎に警察でなにかを吐かれる前に殺せ、という意図なのかもしれませんが、矢間竜士郎程の人物を殺すとなると今後の松山派の組織図も変わって来ることになります。――――少なくとも矢間竜士郎と切り捨てるということは、これまで危険な仕事を綱渡りする時に捨て駒にしていた人物が居なくなるわけですから――――別人物にそのポジションを与えるともなれば、トップの耳には入れておかねばならないでしょう」
考え考え、ゆっくりと口にした言葉に、緒形が静かに言葉を添える。
「――――もしくは、松山会長の指示か、か……」
「…ははっ…、……これまで命運を預けてたヤツを一転、殺害するってのか……?」
進藤が笑い飛ばそうとして失敗し、苦い声になる。
「――――手塚の話によると、最近は少しずつ矢間竜士郎への捜査の手を警察も伸ばし始めていたと聞いています。…………そろそろ目を付け始められている矢間竜士郎にはそのポジションから降りて貰おうと、松山会長かもしくはその側近が考えてもおかしくはない時期が来ていたのかもしれない……」
堂上の言葉に小牧も苦笑いする。
「――――功績を上げれば上げる程、警察の目も厳しくなるからね。……功績を上げたが故にその身を追われることになるなんて理不尽な仕事だな」

…………ザマぁ、ねェ……、裏切りやがって…………

あの時、絞り出すように呻いた竜士郎の声。
――――裏切り――――……

『血は守るに値するが、穢れた血は排除するに限る』
ふと、麻子が言っていた言葉を思い出す。麻子が胸騒ぎがすると酷く心配しながら零していた松山会長の為人――――。俺はまだ松山会長に会ったことはないが、直接会った麻子は、松山会長に不穏な何かを嗅ぎ取って――――だからこそ酷く俺の身を案じて心配してくれていた。
松山会長にとっては、杉谷も、そして竜士郎も『穢れた血』に属する者達で、排除しようとしているんじゃないかと――――……。だからこそ、竜士郎と接触しようとしていた俺まで巻き添えになるかもしれないと、あれ程の警戒と不安を見せて『止めて』と縋り付いて止めようとしてくれた…………。
なのに、結局はその言葉を無視して、竜士郎との接触を試みてしまった挙句、麻子の恐れていた通りの結果となってしまったのだ。…………本当に、自分の失態に悔むばかりだ。――――だけど、麻子とはちゃんと話をして――――ひたすら謝って――――俺は大丈夫なんだとわかって貰うつもりだ。大袈裟な処置の痕を見せて不安にさせてしまった償いはちゃんとする。
…………とにかく、今の麻子との問題は少し置いておくとして、あの時の麻子の言葉は麻子らしくなく理論的ではなかったけれど、松山会長直々の声を聞いた上での漠然とした不安を感じ取っていたからこそだったのだろう。直感的な何かではあるが、情報屋としてずっと人々の言動から観察と洞察力で情報を拾い集めて来ていた彼女の勘は、ある意味経験論という論理を味方に付けるに値するかもしれない。

――――松山会長は、矢間竜士郎を排除したがっていた――――竜士郎が警察に接触されたことは、丁度タイミングでいい口実が出来ただけのことかもしれない。ずっと、何か口実を待って狙っていたのかもしれない……。

ならば、竜士郎が生き延びたことで――――計画が失敗したことで、松山会長はどうするのだろうか。
いや、今はまだ知れてはいない――――。矢間竜士郎を病院に運び込んだことはバレていない筈だ。もしバレたら――――病院まで来て、息の根を止めに来るのだろうか?
それとも何か違う――――……。

ふと携帯が震えた。
驚いて手に取り――――着信画面に浮かぶんだ「高山」の名前に慌てて周囲を見れば、出てもいいぞ、との雰囲気が流れたのに救われて、急いで受話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし、――――マコが目を覚ましたのか?」
「~~~~っ!! …あっ、ひ、光さん…ッ!! 光さんッ!! あああ、あのッ、まままマコさん…マコさんがッッ!!!」
「高山、落ち着け! ……どうした、マコに何か……」
……容体でも悪くなったんだろうか、と思えば、サァッ…と顔から血の気が引く気がした。
まさか。
「…………落ち着いて……どうしたんだ、マコに何が…………」
自分に言い聞かすように、ゆっくりと呟く。呟く自分の声が他人事のようにも聞こえる。
まさか。
マコの名を繰り返す高山の完全にテンパった声が、なんとかようやく文章を作った。意味のある文として手塚の耳に届く――――。……が、その言葉を手塚は理解出来なかった。
「――――――――え?」


――――マコさんが…………消えたんです……ッ!!!



……To be continued.








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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

★いっぱい居そう……

Sauly様

いっぱい居そうな登場人物に、ついていけるのかどうなのか不安なツンデレラです★(苦笑)
そこまで多くないとはいえ、と言われましたが、なかなかに物覚えの悪い私には大丈夫かな、と…(苦笑)

> メルフィー医師
なんとなく、視聴者が状況を理解したりするにも必要なキャラ、というワケですね(笑)
そういうキャラが居ると、状況の話も無理に出さなくても視聴者は理解できますもんねー! 便利なキャラだ!(笑)
しかし、メルフィー医師って、自らは離婚してるんですか。
セラピストだけど、旦那の心理や関係は築けなかったんですかねェ。
まあ当事者と話を聞いてあげるセラピストでは立場が違うし、当事者になったらやっぱりセラピストで培った知識とかも使えないモノなのかもしれませんねー(苦笑)

ちなみに、私はグッドフェローズも知らないので、残念ながら知識の足しにはならないのですが……。
やはり得意不得意でいくと、同じマフィアモノが得意な人が出て来るもんなんでしょうかねェ。
そっちの情報にもお詳しそうなsauly様なので、本当にマフィアモノがお好きなんだなぁ~と思いましたです(笑)


ツンデレラ |  2017年03月29日(水) 05:41 | URL 【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2017年03月27日(月) 15:45 |  【コメント編集】

★返り討ち…

Sauly様

どうでしょうね。
マコさんが自らで決着をつけに……となると、今の状況では返り討ち……(体が持たない…)
と思ったら、sauly様も仰るように、もしそうなっても
> ...まぁ凶となっても手塚が助けるか!笑
ですよねー?(笑)
いやもう、もしもそういう展開だったとしたら、手塚が助けないと私が無理ですね(苦笑)
柴崎が死んだ後の世界とか書けないわ…………(苦笑)
まぁ、なんにせよ、手塚が助ける筈なので、がんばれーと応援してあげて下さい(笑)

> The Sopranos
どんどん詳しくなる解説(笑)
バカ息子だけではなく、娘も居るんですね~~~~(苦笑)
いやぁ…なんというか、ちゃんと教育してあげて!(育ててあげて!)と思いますねェ。
とはいえ、マフィア業をしている家庭で育てているので「ちゃんと」教育することはやはり出来ないのでしょうね。
子供達の将来も、絶対に真っ当ではないだろうという、そういう感じがしました。
夫婦共に浮気かぁ…………浮気しているっていうスリリングさもいいんですかね? 浮気相手に本気でのめり込んでる訳でもない感じですよねそれって。
まぁ、マフィアのボスを夫に持ちながら浮気って、相当勇気あるなとも思いますが……(苦笑)
浮気相手はバレたら殺されるんじゃないでしょうか?(怖っ)
でもまぁ……マフィアかもしれないけど、一般人と同じように夫婦喧嘩しながら、普通に更年期障害とか一般人と同じような境遇もあり、そのあたりが共感を生んだりもするのかもしれませんね。

映像は、トニーの背中がデカいけどしょぼんとして、トボトボって感じの最後にちょっと哀愁を感じました(苦笑)
わかるわー。超ムカつくと目についたもの投げたくなりますよね!(ソコか?!★苦笑)



ツンデレラ |  2017年03月27日(月) 05:39 | URL 【コメント編集】

★うわ…、、、

ママ様

大蔵優哉って人も矢間竜士郎って人も、よーくわかってくれてありがとうございます!
オリキャラなので、わかりにくい各個人の性格ですが、ママ様の考えているような感じでほぼ当たってますね! 正確に把握して貰ってるなぁ!と嬉しくなりました! オリキャラはオリキャラの立ち位置とかわかって貰えるように書いてるかとかいつも不安なので、その辺りを正確に掴んで下さっていると本当にホッとするんですよー。
そうなんですよね、矢間竜士郎はやはり良く出来たヤツで仰るように松和会にも深く関わっている人物でもあり、知らされていることも多い上に自分でもきちんと必要なことは調べたり判断したりもしている人物なんですよね。なので、彼に関してはペラペラと喋っていそうでも実は肝心なトコロは一切掴まさない。結局のところ、現段階で竜士郎を何かの罪で問うことは証拠も何もないので出来ないというような状況になっているくらいです。
一方の大蔵優哉ですが、こっちはもう薄っぺらな人物で…………。
可哀想なんですけれど、現在麗華さんは甚く後悔と反省、懺悔の気分に満ち溢れているでしょうね…………。
まさか自分がポロリと零した話から、優哉が柴崎の周囲をうろつくことになり、その存在と生存情報が杉谷の耳にも入ってる可能性があるとなれば柴崎は再び狙われることになるかもしれない…………。
麗華さんは普通に正義感も強い女性なので、このことは相当麗華さんを苛むだろうと思うんですよね…………。
なので、目下、幸せな人が誰も居ないという状況になっております、ごめんなさい…………(深々反省)
とはいえ、ママ様も仰っているように、前回また自分がどのように柴崎と関わればいいのか(今の状況ですぐ傍に居て、麻子の精神状態は大丈夫だろうかとか、でも傍に居たいし目を離したくないと、自分の立ち位置に酷く戸惑う)グルグルしそうだった手塚も、それどころではなくなりましたので(苦笑)
ママ様のコメントの最後、
> 行け!手塚。
がもう、まさに私の気持ちにもピッタリで、その言葉に乗る手塚のイメージもめちゃめちゃカッコ良くてキュンってしました(笑)
そうですよね、もう行かずにはいられない(笑)
駆けずり回って麻子サンを必死に探す筈です。
----そしてママ様の発想の豊かさに感心しました~~~~!!
おおお…っ、その人物まで疑うとか本当に視野が広いというか発想が広いというか、着眼点が凄いですね!
まぁ……これに関しては安心して下さい、すぐに答えは見つかるので、、、、、(笑)
ここで失踪が長期になったら、多分柴崎の身体がもたないので私が無理です(苦笑)

そんなわけで、いろんなことを想いながら読んで下さってるんだなぁ…!といつもいつも、本当に嬉しくて励まされます!
丁寧に読んで下さって、本当にありがとうございます(*^^*)
ちょっとずつ、夜明けに向けて(私の中では)走り出しているので、見守ってやって下さいね?
とか、厚かましくコメレスを〆ときます(苦笑)


ツンデレラ |  2017年03月27日(月) 05:25 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年03月27日(月) 01:03 |  【コメント編集】

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 |  2017年03月26日(日) 15:50 |  【コメント編集】

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