FC2ブログ

10月≪ 2018年11月 ≫12月

123456789101112131415161718192021222324252627282930
2017.03.06 (Mon)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.49~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.49~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.49~ ≫背中の靴跡シリーズ


「――――やっぱ、俺のこと覚えてんだな? 事件後、記憶喪失になったと風の便りに聞いたんだがな」
「…………ああ、すっかり何もかも忘れていたよ。――――でも思い出した」
「へぇ? ――――思い出さない方がよかったろ?」
「…………どういう意味だ?」
「婚約者が殺害された事実なんざ、思い出さない方が良かっただろって言ってるのさ」
そんな気心が知れた仲のような言葉をかけながら、飲めよ、と手塚に勧めて来る。
「……いらん、何か盛られそうだ」と答えた俺に明るく笑う。
「店で死なれたら困る。しねぇよ」
「死ななくても支障を来す程度のものなら出せるだろ」
「――――違いないな。じゃあ俺が毒見してやるからってのはどうだ?」
「あんたに耐性があったら無意味だろ。俺はお前を信用してない」
「固いなぁ――――それじゃやっていけないぜ?」
「やっていけなくていい。……どうせこういうことには向いていないとわかってる」
そう言えば竜士郎は面白そうに笑った。
「アンタ意外に面白いな。手塚慧とアンタとどっちと接触しようかと思ったケド、アンタにしといて正解だな」
「……兄貴だったらあんたに主導権はないだろうしな」
「なんだ、兄貴を尊敬してんのか?」
「…………尊敬してる訳じゃない。あいつと違って腹の探り合いは俺には出来ないと自覚してるだけだ」
「素直だな。――――手塚慧がココに出入りしだしてから、いつアンタが来るのか楽しみにしてたんだ。あんな兄貴を顎で使うような腹黒いヤツかと思ってたが予想は外れたな。正直、俺は手塚慧よりアンタの方が気に入った」
「俺の方が御しやすいと言う訳か」
「そういうトコロがスキだね。自分の存在価値を過大評価しないトコロが。――――アンタが来てくれたなら、もう手塚慧は無用だな」
サラリと言われた言葉に顔色が変わるのがわかった。湧き上がる感情のままに睨みつける。
「――――兄貴に手を出すつもりか」
自分で想うよりドスの聞いた声が出た。ピリッと肌に緊張感が走るのがわかる。
竜士郎の目がすうっと細まり、ニヤリと口角が上がった。
「おお、怖い怖い……。麗しい兄弟愛ってやつか?」
「…………そんなんじゃない。兄弟に限らず知り合いに危害が及ぶような発言をされりゃ誰だって気に障るだろう。――――特に、あんたみたいな腕利きのスナイパーの発言なら尚更な」
思い切って踏み込んでみた。意外にお喋りな竜士郎だけに斬り込んでみることにする。
「……へぇ、俺のこと結構調べてくれてるんだな。光栄光栄。俺の功績はなかなか世に出るモンじゃねぇから調べるにも苦労しただろ?」
「――――そうだな、なかなかここまで辿り着けなかった。……しかもお前の功績とやらは犯罪だ。お前自身、人目を避けて見つからないように何もかも隠して潜んでるから見つけるのが大変だった」
「人聞きが悪いな。誰にだって知られたくないことはあるだけのことさ」
「お前の場合は知られたくないことしかないだろ。だからこの店で影を潜めて生きてるんじゃないのか? ここがお前のホームなんだろ?」
そう言うと、上がっていた口角が若干下がった。だがまだヘラりと笑う仮面は貼り付けたままだ。
「…………おいおい、こんな高級クラブに毎日じゃあ、いくら俺でもスッカラカンだぜ?」
「平気だろ。今はこのクラブをあんたが牛耳ってるんじゃないのか? 表向きは大蔵財閥が出資の高級クラブだけど、あんたの父親が設立したクラブだよな。このクラブのお蔭で松和会は闇に隠れて想像以上の人脈を作ることが出来たんだろう。あんたの父親の功績だな」
最近知った切り札をチラつかせてみれば、少し竜士郎の顔から笑顔が薄れた。
「あんたの父親は、大蔵財閥の大蔵千代子と現松山会長の祖父との間に出来た子供だ。だろ? ――――あんたの父親が松和会と大蔵財閥を繋いでいたと知った時は驚きだったよ。大蔵財閥といえば軍需貿易に精通してる。松和会は大蔵財閥の不義の子供を隠して育てることで思わぬ絆が出来た訳だ。大蔵財閥が軍需貿易から手を引いた後、そのルーツのいくつかを松和会が掌握出来たのも、そのお蔭だよな。――――松和会にとってあんたの父親はなくてはならない存在だった」
「…………腹の探り合いは出来ないと言いながら、なかなかよく調べてるじゃないか」
辛うじて薄い笑顔を貼り付けた竜士郎の顔は、だが目だけは真剣だった。明らかに手塚を値踏みする目だ。
「……俺には腹の探り合いは出来ないからな。だから地道に調べるしかなかった」
「――――真面目だな、アンタ。スキだよ、アンタのそういうトコ。……けど切り札をそんな風に易々とチラつかせるもんじゃねぇよ。アンタの言う通りなら、俺はココでは何でも出来るってことだぜ?」
竜士郎は口角を上げると、素手の人差し指で手塚の眉間を狙って見せた。狙ったままで手は下ろさない。
手塚は表情も変えずに見つめ返す。
「そうだろうな。――――けど、俺だって何も対策もせずに乗り込んでいるわけじゃない。お前だってそんなこと百も承知だろう?」
「サツが外で張ってるコトくらい知ってるさ」
「この会話が筒抜けで録音されていることも?」
「――――それも想像の範囲内だ。アンタの真面目さから考えれば発信器だって付けてんだろ?」
「付けてると言うよりは食ったよ」
そう言えばまた声を上げて笑った。手塚の眉間に照準を合わせて向けていた人差し指を下ろす。
「――――ハハっ、アンタ相当面白いな。ますます気に入ったよ」
「……そいつは光栄――――なら、いろいろと教えてくれるか?」
「答えられることならな」
ふふっ、と含み笑いをする竜士郎は余裕綽々だ。――――それも然りだろう、こちらは竜士郎が犯行をしただろう事件についての証拠は何一つとして掴んではいない。掴めないから乗り込んだとも言えるくらいなのだから。
「まずは、何から聞きたい? アンタの婚約者が殺された事件の犯人が俺かどうかとか?」
「――――――――あんたじゃないのは知ってる。あの時、あの現場であんたを見たのは他でもない俺だからな。あんたの位置からじゃ柴崎を正面から撃つことは出来ない。あの時の犯人はあんたじゃない」
言えばくつくつと笑う。
「――――じゃあ現場に居た俺に目撃証言でもして欲しいのか? 犯人は誰だったのか――――せめて、犯人の手掛かりになるようなことでも?」
「いや、それは不要だろう。直に警察だって気付くさ。柴崎麻子殺害事件の実行犯は、先日あんたが殺した内閣府警備担当者の熊沢剛だということが」
「ほう? ――――こんなところで勝手に人殺しの濡れ衣をかけられたくないな。証拠もなにもないくせに」
「――――確かに、流石は敏腕スナイパーだ。あんたはいかなる時もまったく現場に証拠を残さないんだから」
「発破をかけるつもりか? 自白でも取るつもりで?」
「そんな簡単に裏が取れるようなヤツなら、あんたはとっくに警察に捕まってるだろう。そうじゃないから、今ここで俺相手にお喋りを繰り広げてるんだ。あんたを落とすつもりなら、俺なんかじゃ役者が足りないのもよくわかってるさ」
手塚の言葉に、ふ、と笑う。相変わらず隙はない。
「そこまで言うなら、俺に何が聞きたいんだ?」
「――――俺は『沙姫』という娘を紹介されるためにこの席に来た筈だ。熊沢剛の妻の熊沢沙姫――――だろ? なぜ、沙姫という女の代わりにあんたが居るんだ? 沙姫って女はどうしたんだ?」
手塚の問いに、虚を突かれたように一瞬目を瞠った。少し遅れて盛大に吹き出してみせた。
「――――ハハハハッ! 何を聞くかと思えば女のことか? ははっ、ただの色男かよ」
「――――別にそう思って貰っても構わない。俺は沙姫って女に会いに来た。沙姫って女はどうした?」
真面目に返せば、初めて竜士郎の顔に苦々しげな色が浮かんだ。
「生憎沙姫は、今別の男に接待中だ」
竜士郎の顔を見て、わざとカマをかけてみる。
「…………杉谷か?」
「違う」
即答だった――――吐き捨てるような。
その声音と雰囲気に、それまで手塚の中にあった竜士郎と杉谷との結び付きが、真っ直ぐではなく実は捩じれて歪んだものかもしれないとのイメージが浮かぶ。
雇い主と雇い人――――それだけの関係ではないのかもしれない。
「……じゃあ、待つ。沙姫って女に会うために今日は来たようなもんだからな」
「無理だな。――――沙姫は諦めろ」
その言葉に小首を傾げる。竜士郎のその言葉の意図を図りかねたのだ。
「――――お前……沙姫って女のことが好きなのか?」
手塚の言葉に竜士郎は瞬いて――――次の瞬間、爆笑した。一瞬、近くに居た店員が振り向く程で、手塚もたじろぐ程の素の笑いだった。
「~~~~あ、アンタ…っ、マジで笑かすッ!!! 面白ェなオイッ!!!」
「~~~~なんだよ…っ。――――沙姫って女を渡したくないとかそういうことじゃないのか?」
「女ァ? 女なんざロクでもねぇ――――って、ああそうか。アンタ、死んだ婚約者の為にわざわざこんなところまで足を運ぶような男だっけ――――。せっかくの機会だから目を覚ませ。女なんかロクでもねぇぞ。あいつらが尽くすのは私利私欲の為だけだ。なのに男ときたらすぐに騙されちまうんだ。――――まぁ騙される男も悪いと俺は思ってるがな。アンタもせっかくしがらみから解き放たれた身だ。いい機会だぜ、冷静になれよ?」
くつくつと笑う竜士郎からは、本当に、沙姫って女への恋愛感情からの嫉妬心だとか特別な感情のようなものは何一つ感じられなかった。
手塚は首を捻る。
「――――別に俺は沙姫って女と恋愛ごっこをしたくて『待つ』と言ってる訳じゃない。接待が終わるまで待つつもりで…………」
「だから無理だって。2、3日は籠るだろうよ――――部屋から出て来ねェよ」
「~~~~っ…」
それはその……、やはり情事でってことなのだろうか。この店には宿泊施設もあり、そういうことも確かに――――……と思考を巡らせそうになり、慌てて止める。
そんな手塚を見て、また竜士郎が爆笑した。
「なんだぁ? あんた色男なのに意外に初心なのな!!」
~~~~ッ、そういうわけじゃない…ッ!!!!!
心の中で精一杯の反論をする。こういう時口に乗せるのは得策でないことくらい身に染みて知っている。さっさと違う話に切り替えるが勝ちだ。
「~~~~わかった、じゃあ、今日のところは沙姫って女との接触は諦める。
その代わり、お前と杉谷との関係について教えろ。あの時、お前が現場に居たのは杉谷からの指示でか?」
問えば、今度はくつくつと笑った。
「――――それは答えられない質問だ。いろいろ面倒だからな」
「いろいろというのは杉谷に対してか? ……それとも、松山会長に対してか?」
「……腹の探り合いは苦手だと言いながら、なかなかどうして、しっかり調べて突っ込んでくるなアンタ」
「真面目な性質でね、わからないことをわからないままに放っては置けないのさ。だからこそここに来た。まだわからないことの方が多いが、少しずつ解していくつもりだ。
だからこそ聞きたい。――――あんたと杉谷が繋がっていることを松山会長は知ってるのか?」
「…………どうだろうな」
「はぐらかすのか」
「――――松山会長は狸だから、俺ごときが真意をわかるわけはないのさ」
「――――じゃあ聞くが、松山会長はここには顔を出すのか?」
「松山会長が? ここに? ハハハ、出す訳ねェだろう?」
「出さないのか? ここは松和会の人脈作りの城だろう?」
「……ああ、昔はそういう趣向だったようだがな。そんなことは親父の頃の話で、今は酒と女と欲望に塗れた、ただの闇に聳え立つ巨塔さ」
「でも杉谷とはここで会うんだろう?」
「…………そうでもないぜ?」
「あんたと杉谷は繋がってる」
「生憎、繋がってるって言われる程じゃねェよ。互いに顔見知りではあるけどな」
「――――だが、ここで二人で会っていたんだって? ここの女が言っていた」
食い下がれば、竜士郎の片眉が上がった。
「――――躾の甲斐なくお喋りが過ぎるヤツが居るようだな。…………確かに一度、正式に会う機会を設けたことはある」
「…………柴崎麻子の殺害依頼か?」
明らかなカマをかけて見れば、竜士郎が愉快そうに笑った。人を食ったような笑み。
「――――おいおい。俺は犯人じゃないって言ったのはアンタだぜ? しかもつい今しがたのこと――――自分で言った言葉すらもうわからなくなっちまったのか?」
「……依頼が来るのと、お前が受けるのはまた別問題だろう? ――――それに俺が確認したいのは、あんたのことじゃなく杉谷のことだ。――――杉谷が、柴崎麻子の『殺害』を依頼していたのかどうかを聞きたいんだ」
そう言えば、竜士郎の目が細くなり、手塚を値踏みするように見られる。
「…………ふうん……。依頼されて俺は断ったと? アンタはそう考えてるのか? なら、どうして俺があの現場に居る必要がある?」
「質問で返さずに答えろよ。――――まぁ、質問で返されたということは、あながち俺の推論は間違いじゃないかもしれないって思ってもいいのかもしれん。
――――俺はね、柴崎麻子殺害事件については、『あんたのこと』じゃなく『杉谷のこと』が聞きたいんだ」
「――――杉谷が、柴崎麻子殺害事件の計画犯だとの証拠が欲しいからか?」
また質問で返して来た竜士郎は、気付いて小さく舌打ちした。手塚はまったく態度を変えずに淡々と返す。
「いや。――――杉谷はグレーじゃないかと俺は思ってる」
「…………ふうん? …………なんだそれ?」
「あんたが依頼されたのは『柴崎麻子の殺害』ではない――――違うか?」
「…………殺害依頼じゃないとしたら、なんだって言うんだ?」
「――――杉谷は柴崎麻子を欲しがっていた。オモチャのように自分の手に入れたくてウズウズしていたのを俺は知ってる。――――そんなヤツが、ようやく柴崎麻子との接点を見つけたばかりの時期に殺害を頼むとは到底思えない。
むしろ――――むしろ杉谷は、強引に柴崎麻子を手に入れようとの算段だったんじゃないかと思ったのさ。『拉致』もしくは『誘拐』――――その後にどんな手を使ってモノのするつもりだったのかは考えたくもないが、恐らくあの時点ではそんな依頼をしたんじゃないかとな――――」
そう言うと、ジッと竜士郎の目を見据えた。
すると一瞬、竜士郎の目が宙を彷徨い――――だがすぐに手塚に目線を戻すと苦笑を浮かべた。
「…………なかなかどうして……。腹の探り合いは出来ないなんて、よく言ったものだ」
「探り合いは出来てないだろ? 一方的に俺の考えを告げているだけだ」
「…………ああ……そうだな、確かに……。だが、アンタの考えに追い詰められそうな気になっちまう」
「それはありがたいな。……証拠も何も見つからなかったが、動けない分、時間だけは山程あった。ありとあらゆる推察を立てて、可能性を考える時間がな。
――――俺はあの現場に居たから、あんたが犯人じゃないと言う結論に達することが出来た。角度の問題もそうだが、もしあんたが柴崎麻子を殺害するつもりなら弾は一発で十分だ。だが、柴崎に向けて発砲された弾丸は3発――――あんたじゃない。だがあんたはあの現場に居たんだ。そして事件を見守って居た――――だろ? あんたに依頼は来たが殺害を目的としたものじゃなかった。だが、あんたは殺害されるのを黙認していた。杉谷からの依頼を敢えて踏みにじった――――」
「確かに暇な時間は山ほどあったと見える。くだらない推察をいくつも立て、そんな回りくどい推理をする程の――――」
「ああ、本当に俺には時間だけだったからな。少しの情報を元にあらゆる可能性を考えてみたんだ。
1つは今言ったような推察だ。杉谷はあんたに柴崎麻子を『拉致』や『誘拐』するように依頼してきたが、あんたはそれを為す前に、内閣府の警備を担当していた熊沢剛によって柴崎が殺害されるのを知っていた」
「…………なぜ、知っていたと思うんだ? たまたま現場に居合わせただけの可能性の方が高いってもんだろ?」
「知らないヤツが、自分のターゲットを殺されてあんなに落ち着いて見守っては居ないだろ? ……大体、角度的にあんたは柴崎麻子を殺した実行犯が見えていた筈だ。見えていて、あんたが犯人を放置しておくなんて、あんたの意向に添っているとしか思えない。――――でなければ、自分のターゲットを取られる前に、一発で仕留めるだろ、あんたなら」
「――――やっぱ、あそこでアンタに見られたことは失敗だったな…………」
「――――けど、あんたはあの現場に「居ただけ」だ。あんたはなんら手を下しちゃいない。――――だからこそ、あんたはこうして俺と会ってみることにしたんだろ? あの現場であんたを目撃した俺と」
手塚はそう言うと、竜士郎を見つめた。――――いつしか竜士郎の顔からは苦笑が引いている。
思い切って、手塚は切り込んでみることにした。カマを懸けるだけになったとしても竜士郎の表情で何かしら読み取れれば、いくつかの推察からより真相に近いものを選ぶ判断材料にはなるだろう。

「――――杉谷の思惑を潰せと、松山会長に依頼されたのか?」

竜士郎が手で口元を覆った。竜士郎が何か言う前に、更に畳み掛ける。
「――――それとも、あんたの意志?」
――――ありとあらゆる可能性の中から、手塚が今回の事件について一番『本質』ではないかと辿り着いた考えは、『松和会の内乱』、だった。
推測にしか過ぎない。証拠も何もない。
ただの可能性の一つにしか過ぎないこの考え――――だが、この可能性は、いつしか手塚の中で燻りだした。
麻子が狙われた事件だ。
だがしかし、本当は、麻子を殺すことが事件の真の目的じゃない――――。
麻子が狙われたことで、本質が見えなくなっていたんじゃないか?
…………情報を得て、考えていくうちに浮かんだ手塚の考察――――。
狙われたのは、確かに麻子だった。
だが、射殺が目的ではなかった。
それをいつの間にか、射殺事件に摩り替えた――――柴崎麻子を射殺することに目的を違えた、別の計画犯の『真の目的』は――――……。

真に麻子を殺すつもりならば、あれだけ不審者の目撃されていた入院中に殺されていた筈だ。だが不審者は、麻子にまったく手を出していない。サイキマコとして偽る前――――銃弾に倒れて入院していた病院でさえも、麻子は手を出されていないのだ。例え警備や見張りがいるとは言え、不審者の侵入をあれだけ許していた病院内で殺すつもりなら赤子の手を捻るようなものだ。
不審者が柴崎麻子を監視していたのは、『柴崎麻子が生きていることを確認していた』のではないのか。
それは、手塚の考える杉谷側の思惑であり――――考えれば反吐が出る程不快ではあるが、生きているならば、再び手に入れることも範疇に置いての行動にすぎなかったのではないのか、とそう考える方が手塚の中で納得がいった。

では、なぜ杉谷の意志とは無関係に、麻子の命を狙ったのか。――――否、麻子の命を奪う奪わないは問題ではなく、杉谷の意図を覆せればそれで良かったのではないか――――。(もちろん、銃弾に倒れた麻子を思えば怒髪天を突くばかりの思考ではあるが)
その考えが、手塚の中で渦巻き、頭から離れなくなっていった。
事件を混沌とさせている真の本質は別だ――――それが手塚の中で、いくつもの可能性の中から一番しっくりとくる思考となってきたのだ。
杉谷は現松山会長からは忌み嫌われている。――――反松山派とも言えるその存在と財力、最近では権力も身に着けた杉谷は、和田派と親交があるようだった。和田派と言えば、裏事業や闇事業を主軸に取り扱うことが多く、代が変わり現松山会長になってからは、かなりのやり手である松山会長にどんどんと松和会の事業の分断を施されて弱体化しつつあるとも聞く。――――とはいえ、例えばメディア良化委員会と繋がりのある麦秋会との取引だとか、松山会長が和田派を斬り捨てることは松和会としてのデメリットも多くなる。
(蛇足ではあるがここ数年、麦秋会の手口がだんだんと暴力的で非合法的なものになってきているのは、和田派のやり口がそのようなものになっているからだとも言われている)
和田派の中で杉谷の存在は割合と大きく、杉谷のスキャンダルを機に和田派の膿を吐き出させ――――和田派の手足を封じて松山派がすべてを掌握しようとでもしているのではないか。
柴崎麻子殺人事件は、その取っ掛かりが欲しいだけで、一挙に内紛を起こすことが狙いだったのではないのか――――。
怒りに震えそうになるが、こういう組織の人間にとっては、赤の他人の人命など塵に等しいとも聞く――――。
だからこそ、松山派きってのスナイパーである竜士郎をあの現場に居合わせさせていながら、竜士郎の手に拳銃はなく、現場の処理をするのみだったのではないのか。

完全な憶測に過ぎない。

だから誰にも言ってはいないが、手塚の中でその可能性が燻ったまま消えることがなかった。
ようやく――――こうして、竜士郎にぶつけてみて――――黙ったままの竜士郎にあながち間違えではないのかもしれないとの思考が湧く。
松山会長の指示だと言うのなら、松山派の松和会掌握を狙ってのことだろう。
そして、もう一つの思考――――松山会長の指示ではなく、竜士郎本人の判断でのことだとすると――――目的は松和会の内部分裂であるかもしれない、との可能性もあると考えたのだ。竜士郎の父は現松山会長を差し置いて会長の座に、という程の人物だったと聞く。その息子である竜士郎――――彼もまた、松和会の頂点に立つ野望があったのではないか、と。
だからこそ、畳み掛けてみたのだ――――。
竜士郎は口元を隠して沈黙のままだ。
どう崩せばいいのかと手塚が試案していると、…………と、ざわめきが遠くから近づいてきた。
店員が「お待ちください」「止めて下さい」と言うのにも耳を貸さずにドカドカと数名の男達が乗り込んで来る。
手塚と竜士郎、双方に、表面には億尾にも出さない緊張感を持ったのはほぼ同時。
現れた人々に囲まれても、静かに無粋な男達を見た。殺気立った目の前の人々の方がよっぽどヤクザのようで、ドラマよろしく警察手帳を差し出しつつ威圧感を持って宣言した。
「警察だ。矢間竜士郎だな。署まで同行願う」
言われた竜士郎は、隠していた口元から手を離し、ふ、と口角を上げた。
「――――警察が俺になんの用?」
「しらばっくれるな!! さっきからの話はすべて録音させて貰ってる!! 柴崎麻子殺害事件の重要参考人として出頭して貰う!!」
「あー、重要参考人ね。まぁ、それなら出頭してやってもいいけど」
余裕綽々の矢間竜士郎に手塚は小さく溜息を吐いた。――――ここで矢間竜士郎を拘束したとしても、警察は何も手がかりを掴むことは出来ないだろう。
――――矢間竜士郎は柴崎麻子事件においては、何も直接手を出してはいない。あの現場に居たことは事実だが、 “居合わせただけ”の立場でしかない。――――もちろん、どうしてあの場に居たのかと言うところは警察からの厳しい追及があるだろうし、竜士郎がどんな言い訳をするのかも見物ではあるが、少なくとも今ここで警察へと竜士郎が出頭したところで、警察は竜士郎の身柄を拘束期限までしか確保できない。そして柴崎麻子殺人事件においては竜士郎はなんら関与していないということで釈放――――それが事実だから当然だ。そして一旦保釈されれば次はよっぽど新しい証拠や事実が出ない限りは警察は竜士郎に手を出せなくなる。
そこまですべてお見通しなのだろう、竜士郎は薄笑いを浮かべて手塚を見た。
せっかくもっと竜士郎には聞きたいことが山程あったというのに、手塚からすれば警察に邪魔をされたような気すらする。
「…………じゃあ、行くとしますか。――――警察の護衛とは心強いねェ」
手塚が口を開いた。
「――――俺も同行します。矢間竜士郎が事件現場に居た証言をしたのは俺ですから」
…………出来ればもう少しここで二人きりで話をしたかった、と臍を噛む。取り調べの合間でも、少しでも竜士郎と話せる機会があれば、とそれを願う。
警察に囲まれて店の中を通り抜けると、当然のように客達の奇異の目を浴びた。
わざわざ見に来る者も居る中、奥の兄と目が合った。兄はまったく動じずに問いかけるような目を送って来たのに小さく頷いてそのまま通り抜けた。
警察が外に出ると、道路に止まっていたパトカーの傍で警官が合図する。
竜士郎は両側を警察官に挟まれるように店の外に出た。
手塚はその後に続く――――。
パトカーに誘導された竜士郎を警官が乗れと顎でしゃくった瞬間、バババババババ、と音がして手塚の全身が総毛立った。

――――マシンガンだ。

崩れるように目の前の人達が地面に沈む。手塚も地面へ伏せるようにして転がりながら、竜士郎の傍に駆け寄る。竜士郎の身体を引き摺るようにしてパトカーの影に隠れた。
「……おい…っ」
見れば、複数発の被弾で血塗れの竜士郎だったが、致命傷になりそうな身体の部位には撃たれていない。――――マシンガンであることも考えれば、急いで治療すれば一命は取り留める。
警察が応戦を始めている中、倒れたままの警察官もなんとか救出して同じ場所に隠れる。犯人と警察との銃撃戦の中、どうするべきか周囲に目を巡らせる。
――――ずっとここに居た方が安全か?
犯人が一人なら、位置的にこのままの方がいい。
「…………っ…、……ザマ、ねェ…………、うら、ぎり……って…………」
掠れた声が呻いて、見れば竜士郎の方が意識を取り戻したらしかった。
「おい、大丈夫か?!」
覗き込もうとした瞬間、パンっと軽い音がすると同時にすぐ近くに銃弾が撃ち込まれて竜士郎を庇うようにして身を伏せる。
――――っ?! 一人じゃないってことか…ッ!!
角度からして、今警察が応戦しているのとは別の方角だった。
周囲の状況と地面に空いた穴から推察し犯人の居るだろう方向に目を向けた瞬間――――覚悟した。

――――銃口が見えた。



……To be continued. 






スポンサーサイト
05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

★出番…(笑)

ママ様

最後の、
> 進藤さ~ん出番ですよ(笑)
に笑ってしまいました!
でも、ここは図書館敷地内ではないから、図書隊に発砲権はないのです(苦笑)
図書館の敷地ならその権利もあるんですけどね~~~。
きっと進藤さんならパチンコで撃ち落としてくれる筈?!(笑)
BB弾入りのオモチャ銃とか?!(笑)→けど、BB弾は痛いところに当たれば痛いっす(笑)
まぁ何はともあれ、とりあえず、、、、、
そのあたりは手塚だけの『一般市民』に任せたいところですよね!(笑)
いや、任せたいも何も、きっと出張って来る筈(笑)
とはいえ、そんなのを上手に書ける訳もない私の書くものなので、サラッと流して下さいねサラッと(ヲイ★)
竜士郎クンは撃たれてしまいましたが、竜士郎クンのキャラは嫌いじゃない私。
(あくまで、キャラはってだけで、竜士郎クンは決していいやつではないですが。。。)
早く病院で治療して貰って、一命は取り留めていただきたいものです(そういう問題か?★苦笑)

> 二人の会話は一気に読ませていただきました。
ありがとうございます!
竜士郎クンキャラのイメージは書く前は次元大輔だったのに、いやにペラペラとよく喋るやつだな!と私がツッコミマシタ★(笑)
少なくとも次元大輔ではなかったようです(見りゃわかるって(苦笑))
どっちかっていうと、私的には、慧に似てるな~~~って印象でした(マジか★)。雰囲気だけですけどね((((^^;)
なかなかどんな人物か私もわかんなくて、竜士郎の喋くりは書くのに苦労したので、読む方まで苦労して読まなくちゃいけないなんてことにならなくて良かったです~~!!
まぁ、一気に読めたのはママ様の読術能が素晴らしかっただけかもしれませんけれど。
竜士郎クンは仰る通り、手塚の気持ちや想いは一生理解できないのではないでしょうか……。
ママ様の言うように、
> 記憶を失って尚柴崎に思いを寄せたというのは解らないんじゃ無いですかね。男女の事は駆け引きだと思ってる竜士郎には理解し難いでしょう。
は絶対そうだと思います!!
1人の女のことだけしか考えられなくなるほどの、自分の命よりも大事だと思える恋愛とか、そういうのは決してわからないと思います~~~~~。
さて。
いろいろと今回、実は一気に話的には進んできたのですが(いや進んだようには見えないかもしれませんが)、とりあえず、次回は私が映像としては見れないシーンを乗り越えたいと思います。。。
銃撃戦とか、想像するのも実は嫌だったり…………(苦笑)
いやでも、ちょっとは想像しないと書けないので、ガンバリマスですよ~~~!
次回もお付き合い下さると嬉しいです!!
さて、出番は誰でしょう?(笑)


ツンデレラ |  2017年03月07日(火) 06:04 | URL 【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2017年03月06日(月) 13:57 |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除に必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

この記事のトラックバックURL

→http://hujikoba.blog135.fc2.com/tb.php/702-e1e62b20
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME |