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2017.01.23 (Mon)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.43~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.43~ ≫背中の靴跡シリーズ
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  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
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【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.43~ ≫背中の靴跡シリーズ


やっぱり心配で、お昼ご飯の時間に、高山さんと二人で覗きに来てしまった。
お昼の用意をしている看護婦の後について、看護婦に事情を話しながらマコの部屋の扉の前に来る。
大事な人がお見舞いに来てくれている筈で――――まだいらっしゃるか見て欲しいから、と。
静かで――――とても静かだった。中に人の気配が感じられない程に。
怪訝に思って高山さんと顔を見合わせた。
そんな私達にワゴンを押していた看護婦が「――ノックして入ります――、いいですか?」と言うので、慌てて頷く。
――――連絡はなかったけど、もう帰ったのかしら……?
不安になっている私を他所に、看護婦は頓着せずにノックして扉を開く。
「――失礼しま…………ッ?! どど、どうされました?!」
慌てて部屋に入る看護婦に、私達も大慌てで部屋に入る。
光さんがマコのベッドに横から倒れ込んだような姿で――――私達の声と気配に、バッ! と一瞬で緊張感を漂わせながら上体を起こした。一瞬の殺気に驚いて竦んだ私達――――普段の光さんからは想像出来ないけれど、戦闘職種なんだと思い知った瞬間だった。
だけど、それも本当に一瞬で――――次の瞬間、可愛らしすぎる程に(男性に向かって言う言葉じゃないけれど本当に可愛らしく)顔を真っ赤にした。
「~~~~ッ?!?!?! ……あ、~~~~いい、いやその、これは…ッ!!!」
「…………ん…?……」
光さんが庇うように囲っている胸の中で、小さな塊が身じろいでモゾリと動く。光さんに擦り寄るような動き。
「~~~~あ、ああの、これは別にッ!!! そそ、その、何もしてないですッッ!!!」
珍しく光さんがプチパニックになっていた。可愛らしすぎるその反応に顔が綻ぶ。
「~~~~す、すすすみません!! あの、俺……寝ちまってて…………そのっ!!! 本当に寝てただけでッ!!!」
上体を起こした光さんの動きに、さっきまで光さんの胸元に寄り添っていた塊がもぞもぞと動いて――――出てきた、完全に寝惚けたマコの顔。泣き腫らしたように真っ赤な顔をしていたけれど、その表情に驚く。
私でもめったに見ることの出来ない、酷く幼い無防備な表情。こんな表情を見たのはいつだったかしら…………。
思い出すのは本当にまだ小さい頃の……妹が生まれる前の、まだ麻子だけだった時に見た表情と同じ――――、驚きながらも思わず笑顔が綻んだ。
……考えてみれば、妹が生まれてからは『あたしはもう1人で寝れるよ』と言って、こんな顔を見せてくれなくなった。しっかり者で頑張り屋の娘の成長を嬉しく思いながらも少し寂しく感じていたことも思い出す。頑張って、いろいろと我慢して――――でも、不憫に思いながらも下の子の世話に追われていた私は、手のかからない姉娘を有難いと感謝して受け入れていた。…………我慢していると知りながらも…………。
珍しくぼんやりとした瞳で部屋を見回したマコは、私達の存在に気付いて認識した途端に、ポカンとまた珍しく呆気に取られた表情を見せ――――それから、みるみると真っ赤に染まる。
看護婦さんも、光さんが倒れているとでも思ったようで、光さんのなんともなさそうな様子に苦笑した。それからマコを見て、マコに近づくと額に手を置いた。
「――なんだ……、2人で寝てただけなんですね? 具合でも悪くて倒れているのかと思って焦りましたよ。――――あら…マコさん、珍しく熟睡だったのね? 珍しい……。少し顔が赤く腫れぼったいけど――――ああ、熱はないわね。俯いて寝ていたみたいだから逆上せたかな? ともあれ、しっかり眠れたみたいで良かった」
光さんは慌ててベッドから離れて、バツが悪そうに不必要なくらい遠くで直立不動だ。その様子にまた笑いが込み上げてしまう。
看護婦さんは手慣れたもので、サッサと食事の用意をして、「ごゆっくり」なんて光さんに笑いながら声をかけて(多分、からかいもあるのだと思う――――だって、なんだかとても光さんったら可愛らしくて)出て行った。
マコはマコで、こちらもバツが悪そうに手で髪を撫でつけながらずっと俯いている。
顔はあまり見えないけど、気不味そうではあるけれど嫌な雰囲気は2人から感じない。赤い顔は照れだけじゃなくて泣き腫らしているようにも思えるけれど、昔怖い夢を見たと泣きじゃくる娘を大丈夫大丈夫と寝かしつけた日の寝起きの顔にむしろそっくりだ。少し浮腫んだ赤い顔をしながらも明るく清々しく「もう怖い夢見なかったよ」と笑った幼い娘の顔に――――。
高山さんは少し心配そうに私を見たけれど、私は笑って、可愛い二人に声をかける。
「――ごめんね、お邪魔しちゃったね。……まさか2人で寝てるとは思わなくて――――これからちょっと高山さんとお昼に出るから、それだけ言って出ようと思ってね」
そう言えば、光さんは大きな身体を少しだけ縮めて、「~~~~あ、いえ、あの……寝るつもりはなかったんですけど……その、すみません、その……当直明けだったからか…………その、……」なんて珍しくシドロモドロだ。光さんの素の動揺が可愛らしい。マコはきっと恥ずかしくて何も答えられないんだろう。俯いて顔を見せないけれど髪の隙間から見える赤い耳朶がそれを教えてくれる。
マコに近寄って、上体を起こしているマコの頭をそっと撫でてみる。サラリとした髪の感触は今も昔も変わらない。
「良かったねぇ。随分しっかり眠れたみたいね。久しぶりに子供の頃そっくりなマコの顔が見れたよ」と笑うと、ますます頬を赤らめて俯く。
嬉しくなって何度も髪を撫でて――――そして立ち上がる。
「せっかくの睡眠を邪魔しちゃったけど、病院はお昼の時間が決まっているから仕方ないね。お昼食べて眠れそうなら、また光さんに付いててもらって少し寝たらいいよ。眠れる時に寝ないと、なかなか今だって眠れてないだろう? ――――じゃあ、お母さん達行って来るから。光さん、後はよろしくお願いしますね」
そう言って部屋を出た。
高山さんは少しだけ心配そうに、「……マコさんのあの顔、酷く泣いた後って感じじゃなかったですか?」と聞いて来た。
「……そうね。でも、心に溜まっているものは吐き出した方がいい――――そう思わない? 吐き出して、光さんが受け止めてくれて――――だから眠れたんじゃないかしらね。あんなに完全に寝起き顔のマコを見るのは久しぶりだったわ」
「そうですね。――――確かに二人から嫌な感じは受けなかったし、大丈夫だとは思ったんですけど――――。じゃあ、やっぱり光さんに来て貰って良かったんですよね?」
「ええ。――――光さんが居てくれて良かった……」

――――光さんを信じて良かった――――

娘が銃弾に倒れてから、初めて、柴崎の母の心は晴れ渡った。
明るく温かい日差しに包まれて、気持ちも軽やかになる。
「美味しいものが食べたいわねぇ」
嬉しそうに微笑む柴崎の母に、高山がおススメの店の話をする。楽しく弾む二人の声。
外に出ると、今日はこんなに綺麗な快晴だったんだ、と柴崎の母は初めて気付いた。
柔らかな日差しが降り注いで、みんなを優しく照らしてくれている気がした。

     *

「~~~~あー…、すまん。……当直明けで…………つい、寝ちまって…………」
「…………いいわよ……お互い様だもん…………」
気まずい。
看護婦だけじゃなく、柴崎の母や高山にまで見られたことは大失態だ。
泣きじゃくっていたマコだったが、いつの間にか寝息になっていることに気付いた。俯いたままで苦しくないのか、大丈夫だろうかと覗き込んだら、少しこっちに顔を向けて鼻や口元は外気に開放されていることにホッとした。涙に張り付いた髪のせいであまり顔は見えないけれど…………そっと起こさないようにドキドキしながら髪を掻き上げて見ると、泣きじゃくった幼子が泣いてスッキリしたかのような無防備な顔が半分見える。
――――可愛い…………
この顔にやられちまったんだろうなぁ。と思う。
なんていうか――――顔の可愛さというよりは(まぁそれもあるかもしれないが)、滲み出る雰囲気の可愛さが堪らなく愛おしかった。
記憶が無かった俺の前に兄貴の彼女として現れ、フラフラしてやつれ果てた病人でしかなかったマコ。それでも惹かれて止まらなかった。
普段はきっちり引かれた境界線。誰にも踏み込ませず自分1人で抱え込んで苦しんで。フラフラしながらも誰の手も借りずに必死に自分で耐えて我慢して――――それがほっとけなくて、少しでも助けてやりたくて分かち合いたくて、傍に居させて欲しいと願うようになって――――。
発作で自制が利かなくなって初めて――――こいつが俺に縋り付いてくれるのが嬉しくて堪らなかった。いじらしくて可愛くて仕方なかった。
発作に苦しんでる――――わかっているのに、俺なんだと、俺の名前を呼ぶんだと嬉しかった。
兄貴の彼女と思っても、離せなかったし、ずっとこうしていたかったんだ…………。
意固地で意地っ張りで、大丈夫じゃないのに大丈夫って言い張って、俺を拒絶して――――でも拒絶されてもどうしても離れられなくて傍に居たくて、気持ちは募るばかりだった。その気持ちが俺を拒絶するお前に焦りや苛立ちを生んで――――でも、それでもどうやってでもお前の傍に居たいと願ってた。
拒絶されても好きだとか――――苦しくて堪らなかったけど、それでもお前が好きな気持ちばかりが溢れた。
…………今では、ようやくお前が俺を斬る理由がわかって―――― 一層愛おしくて堪らなくなった。
ギリギリの状態で必死に生きているお前が、俺を守ろうとしてたんだと、すぐにわかった。
守りたいのは俺なのに、俺をお前が守ろうとしてる――――。
俺が、お前を守りたい――――
今日会ったら、伝えたかった。
そう伝えるつもりで話をして――――、隠し切れず抑え切れずに泣きじゃくった小さな人が愛おしくて堪らなくて――――髪に顔を埋めて抱き締めているうちに、いつの間にか俺まで眠っちまってたなんて。
看護婦や柴崎のお母さんや高山に見られるなんて、恥ずかしすぎて穴があったら入りたいくらいだ。
とりあえず、恥ずかしさを紛らわすように目の前のことに集中する。
「…………とりあえず…………メシ食おうか……」
「…………あんたの分なんかないわよ」
俯いたままでブスッと、これ以上不貞腐れることは出来ない程不貞腐れたマコの声が、ボソッと嫌味を滲ませて言う。
「俺は適当に買って来るし――――……ってお前、……なに、これ……」
言いつつ傍に寄ってみて、瞬く。
「――――重湯……だけ、か? なんだ、コレ……」
「…………違うわよ、お粥よ!」
「重湯だろ? 米粒なんか見えないぞ、それ」
「入ってるわよっ!」
言いながら、箸で重湯のようなものを掻き混ぜれば、何粒かが確かに見える。
「――――これだけ? ……と、ジュース?」
紙パックの見慣れないそれを手に取って見れば、タンパク質・糖質流動食と書いてある。
「…………栄養食…………こっちの方が、重湯より高カロリーで大事なの」
「……………………」
これは、――――そりゃ、高山が心配するわけだと合点する。
だけど、これだけしか出ていないということは、今のマコはこれしかまだ食べられないということなんだろう。
そう言えば、なんとか水やお茶を口に出来るようになってそろそろ食事も……という頃に、液体に近い流動食を口にして、1時間しないうちに胃液まで出る程の酷い嘔吐と激しい腹痛に見舞われて大変だったと高山から聞いたことを思い出す。二日程は水を口にしてもえずいて受け付けず、身体だけでなく精神的にもかなりのダメージを受けていて見るのも辛いくらい消耗が激しくて、またより一層やつれてしまったと話をしていた。
…………心配と不安で、飛んでいきたくなった話だった。
「――――食べて見ろ、見とくから」
「……見てなくていい…………もう帰って……」
「それは聞けないな。柴崎のお母さんによろしくって頼まれたし――――高山からお前が食べられないって話は毎日聞いてる。…………これだけしかないのに、それでも食べられないのか? それじゃあ高山が心配するのもわかる」
「…………食…べれるわよ…………だから、あんたは……」
「ちゃんと食べるか見とく。食べれるんだろ? ほら食べて見せろ」
「……………………」
どっちから食べる? と言えば、項垂れながらも重湯から。上澄みの汁を口に運んで2口程……米粒を掬って口運んで――――喉を通そうとして、ゴ、クリと呑み込む様がぎこちない。気まずそうにチラリと俺の気配を窺ってもう一度米粒を掬って――――今度は少しだけ顔を曇らせながら、随分と口の中でもぐもぐして――――なんとかまた、嫌々食べるようにして呑み込んだ。呑み込んだものの、咽そうになるのを必死に堪えているような様子に、そっと背中を擦ってやった。
大丈夫か? との問いかけに、頷いたのか項垂れたのか微妙に深く顔を伏せる。
「……ちょっと味見していいか?」
尋ねた俺にマコは俯いたままだった。俺が茶碗を手に取っても何も言わなかったので、少しだけいただく。
――――米の甘みも何もない。
――――これでは食欲も湧きようがないだろう。
「…………こっちは?」
紙パックを手に取ると、微かに頷いた。
ストローを差して渡すと、ほんの一口。微かにコーヒーのフレーバーが手塚の鼻腔を擽る。少しずつ少しずつ何口か飲んで――――でも、途中でえずき出して止まった。――――宥めるように擦ってやれば少しして落ち着いてきて――――また飲み始めて数口で、気持ち悪そうにえずき出す。悔しげにキュッと唇を噛み締めるのが見えて切なかった。身体の為に飲まなければという意識はあるのだろうが、身体が呼応しない――――そんな感じだった。
なんとかそれでもそれから数口無理矢理飲んだものの、1パックは飲み切れず、気持ち悪そうに吐き気と戦いながらの様子に胸が痛んだ。少しグッタリと蒼褪めるマコを(食事をして消耗するというのも変だが……そんな様子だった)、宥めるようにただ背中をゆっくりと擦ってやる。
こっちも味見をさせて貰って――――まだしも、こっちの方が味は付いていて飲みやすい気はしたけれど、付け足したような味付けは飲み進めれば飽きてきて、口の中に異物のように残って来る。――――これが駄目なんだろうな、となんとなくわかる。
食欲を掻き立てるようなものが何もない――――元々まるで食欲のない人間にこれを食べろと出されたら苦痛でしかないだろう。苦痛と戦いながらも身体の為に食べないといけない。それだけの為に必死に食べているだけ。それではいくら気力で食べようとしても身体が受け付けなくなる……。
まだ時折えずく小さな背中に切なくなって、ただただ優しくずっと擦り続ける。
ようやくマコの吐き気が治まってきた頃に看護婦がトレイを下げに来て――――食事量を確認して、いつもよりも食べてると褒めてくれた。その言葉に恐縮して俺も少し味見をして……と言えば笑って、いつもは本当に一口、二口、申し訳程度に口を付けるくらいしか食べられていないと言う。それは高山から聞いていたのと同じで……ということは、今日のアレでも相当頑張って食べたんだということになる。
たったこれだけで、いつもよりも食べているとか――――……どうしてやれば、と思って、ふと思い出した。
柚子茶を持って来ていたんだった。
看護婦に、マコは出されたもの以外は食べたら駄目なのか確認すると、医者に聞いてみると言ってくれた。けれど、おそらくは無理じゃないかしらねぇ……と消極的な答えに、「――あの、飲み物で――――コレとか……柚子茶なんですけど、こいつが好きだったもので」と瓶を取り出して渡した。
「柚子茶?」
「ええ。……飲み物は飲めると聞いていたので……どうでしょうか?」
「うーん。……先生に聞いてみますね。お薬とかに影響があると駄目だし、果肉も入ってるみたいだし」
「よろしくお願いします」
看護婦が部屋から出て行くと、驚いた顔でマコが俺を見ていた。
「…………柚子茶って……」
「高山が作ったヤツ。……お前好きだって言ってたし…………昔、お前の携帯水没させた時も、俺にくれたの柚子茶だったよな。好きなんだろ? それに疲労回復と免疫アップだって言ってたし、今のお前にも丁度いいよな、と思って持って来たんだ。最近たまにだけど俺も飲んでて――――確かに疲れている時には美味く感じるし、いいもんだなって思って」
「…………あんたが? 飲むの…?」
「まぁ……甘いから、本当にごくたまにだけどな。飲んでるとお前がふうふうしながら美味そうに飲んでた姿とか思い出して――――…」
と言ってしまって慌てて口を噤む。ポロリとお前と会えなくて寂しい自分の姿を零しそうになって慌てて話を逸らす。
「~~~~あ…っ、それから忘れてたけど、これ…見舞いの花……」
今更だ、と思うと気恥ずかしい。
本当は会ってすぐに渡す物なのにすっかり忘れていた。
朝、選ぶ時にはあんなに真剣に悩んで選んだと言うのに、まだ俺の手元で袋の中だった。
取り出すと、ほわりと香る。
我ながら、今日の花は良かったんじゃないかと思う。――――マコの香りによく似た芳香。
俺が差し出すと、マコは手を伸ばすどころかギュッと布団を握り締めた。
「…………要らない…………要らないわ。……言おうと思ってたの。もう花は要らない」
「なんで。花も好きだろ?」
「…………あんたからの花は要らないの」
「…………そうか。けど、悪いけど俺が贈りたいから贈らせて貰う」
「~~~~あたしが要らないって言ってんの! なんで嫌がるものを贈るとか――――」
「俺が、お前の花を選んでる時間が楽しいから」
「――――――――は?」
俺の言葉に、呆気にとられた顔。
「……いや、俺も最初は花とか全然興味なくて――――何をどう選んでいいのかもわからないし、花屋の店員に任せるのが一番いいんだろうって思ってたんだけどな。けど――――花の匂いってお前の匂いに似てるんだよ。でも集めると微妙に違ってて――――どんな花を組み合わせたらお前の香りになるんだろうなって花を選んで――――それに見た目もやっぱりそれなりに綺麗なものにしたいし、とか考えたら結構奥深いのな。花言葉なんかもあるとか教えてくれるし。それが楽しいんだよ。だから花は贈らせて貰う」
「~~~~っ…」
「……それに…………。記憶戻って、兄貴からお前の身に振りかかった事情聴いて――――今はまだ、俺がここ(病室)に毎日見舞いに来るのは人目を考えると難しいことはわかった。――――本当は、毎日顔を見に来たい――――けど、それでお前の存在を匂わすことになるかもしれないなんてことは、俺自身許せないしな。けど、本当は傍に居たい――――その俺の代わりなんだ、コレ。ここに来ることを我慢する代わりに、花だけは贈りたい。お前のこと想って選んだ花だけでもお前の傍に置いて欲しい」
「~~~~ッ…! ~~~~バ…っ……な、なに言って…………」
みるみる真っ赤になったマコがあまりに可愛くて抱き締めたくなる。手にしたアレンジメントが邪魔をして思い留まり――――代わりにそっと花をマコの布団の上に差し出した。
真っ赤な薔薇と同じくらい赤いマコの頬。マコの目が、アレンジメントを見つめる。
「――――今日のは結構お前の香りに似てると自画自賛してる。見た目も良いように店員が少し花を足してくれて――――綺麗に出来てるよな」
「~~~~っ」
「――――それと、コレ…………」
かなり気恥ずかしく緊張しながらそっと差し出すカード。
俺の顔も赤くなっているかもしれない。
アレコレ悩んで書いている時は真剣で――――ただ、伝えたい気持ちでいっぱいだった。
でもいざ渡して――――こいつの反応が見れるとなると、酷く恥ずかしくて少し怖い。

『会えなくても心は傍に居る。
愛してる。』

拒絶されて追い返されても、これだけは置いて帰って伝えておきたいと思っていたことで――――面と向かってこうやって渡すなんて本当に恥ずかしすぎる。
でも、毎日会える訳じゃないだろうとわかっているから、どうしても伝えたかった。
自分でも気障だと思う言葉――――でも本心からそう思っている言葉で――――いろいろ考えたけれど、一番伝えたい言葉はやはりこれだと思って心を込めて書いた。
カードを受け取ることを躊躇っている手を取って、しっかりと渡す。
震えるような指先が、カードを開いて――――真っ赤になると同時に、みるみる大きな瞳が濡れる。
こんもりと盛り上がる涙を必死に零さないように堪えようとしたのだろうけれど、呆気なく堰を切って頬を伝って布団へポロポロと大粒の雫が落ちてゆく。隠そうと俯いたって、シミがあっと言う間に増えて大きくなってゆくのが見える。
「~~~~ッ……っダ、ダメ…………駄目なの…………」
ギュッと握り締めたカードが少しよれた。マコの手の甲には筋が浮かび上がっている。
ボロボロと涙を零して、しゃくり上げた。
俯いて、カードを抱き締めるようにして身体を折る。
「~~~~もう……駄目なの…ッ、…………もう…………」
胸が痛かった。
溜まらずに、アレンジメントを横に避けて、マコを抱き締めて引き寄せた。
耳元で静かに乞うように囁く。
「…………お前がもう俺のことなんとも思ってなくても――――俺はお前が好きだ。…………この気持ちは治まらない――――止まらない」
胸の中で必死に、違う、ダメだと頭を振るマコは、細すぎて折れそうで怖い。
「――――俺、お前じゃないと駄目だ。お前のことばっか考えてる。お前のことしか考えられなくなって、お前が駄目だってさよならって言っても、俺がもう無理なんだ。
――――なぁ……お前が俺を守ろうとして俺を斬ろうとしてるのはわかってる。だけど、俺は無理だ。斬られても傍から離れたくない。お前に会えないだけで、頭がお前のことでいっぱいになって溢れるんだ。――――言ったろ? 死んだってお前の傍に居られる方が本望なんだ。だからお前を取り戻す――――お前がお前として生きていける場所を取り戻す。取り戻して、もう一度やり直そう。――――それが俺の……俺だけじゃない、笠原だって図書隊のみんなだって、待ってるんだ。
父さんや母さんだって、お前のことが好きだった。婚約破棄は母さんを完全に失意のどん底に突き落としたよ…………鬱が酷くて母さんは今、父さんとすら話もままならないんだ。俺達の婚約破棄を喜んだ人間なんか一人も居ない。――――俺はお前を取り戻して、お前とのこれからの時間も全部取り戻す。そうなったら婚約破棄も解消だ――――それだけが、今の俺の望みで生き甲斐だ。そのために今の俺は頑張れる――――お前を取り戻すことが今の俺のすべてなんだ」
そう言っても、まだ、壊れたように頭を振り続けるマコが居る。
どうしても駄目だと、怖い程に頭を振り続ける。
後頭部を手で支えて、力加減に相当気を遣いながら俺の胸に押さえ込む。
「……………………なんで…………なぜ、駄目なんだ? なぁ…………なぜだ? お前――――まだ俺に隠してることがあるんだろう?」
胸の中で激しく抵抗しようとする小さな身体の力を、なんなく封じ込める。
渾身の力で暴れているのだろう、はぁはぁと荒い息遣いに不安と心配が過るが、頼む、教えてくれ、頼むよ……、と抑え込みながらもただひたすらに懇願する。
そのうち、ようやくグッタリと抵抗が弱まった。
はぁはぁと肩で息をする華奢過ぎる身体を抱き締め直して、お願いだ、頼む……、と何度も懇願していたら、しゃくりあげるような振動がまた伝わって来て――――息すらも噛み殺すような嗚咽が零れて――――絞り出すような苦しげな掠れた声が完全に濡れ声で空気を震わせた。
「…………あ…たし…………も、う…………ふさ…わ、しく……、ない……の…………」
その言葉を頭に反芻させて瞬く。
――――確か…………その言葉は、内臓出血で倒れる直前に、マコが俺の告白を受けて呟いた時にも言っていた。

相応しくない?

「相応しくないってなんだ? 俺はお前が好きで――――お前とずっと共に歩いて行きたい」
抱き締めたまま想いを込めて言っても、弱々しくふるふると頭が揺れる。
「……ふ、さわしく、ない、の…………あたし……もう…………」
「相応しいってなんだよ? お前しか居ない俺に、お前は相応しくないって一体――――っ」
わけがわからず詰問口調になりかけた俺だったけれど、初めて胸の中でマコがギュッと俺のシャツを握る感触がしてそれに気を取られて言葉が途切れた。
マコが俺の胸の中で震えて、またしゃくり上げながらシャツを濡らしている。
――――大きくて重い何かが、マコの心も身体も押し潰そうとしている…………。
濡れるシャツの感触にも構わず、マコを俺の胸に押し付けるようにしっかりと抱き締めて囁く。
「――――教えてくれ、頼む。…………わからないままじゃ納得できない。なんなんだ? 相応しくないって――――俺がお前が好きで、お前も俺を頼ってくれて、そのだけじゃ駄目なのか?」
抱き締めながら髪や背中をゆっくり宥めるように擦る。撫でながら、俺の中にもいろんな可能性が思い浮かび、不安に駆られてくる。
不安は最悪の答えまで思い浮かばせる。
――――まさか…………予後が悪くて長くは持たない、とか――――……。
もし、そうだとしたら。
ザァーッと血の気が引くのが分かった。凍り付きそうになる。思わず、グッと華奢な身体を抱き締めてしまう。
細い細い身体――――無理に無理を重ねたこの身体――――……。
――――恐怖。
――――この小さな人を失ってしまったら――――俺はどうしたらいいのかわからない。
頼むよ、教えてくれ、なんなんだ…? と苦しくなって懇願した声は、酷く弱々しくなった。

――――怖い…………。

もし、長くは持たない、と言われたら……?
もし、お前が俺を置いて逝ってしまったら…………?
怖くて怖くて、考えるだけで震える。
「…………ま…さか……、まさか…………お前――――まさか…………?」
上手く動かなくなった俺の身体の中で、マコはしゃっくりを何度も繰り返し、嗚咽を堪えきれずに零していたけれど、――――ようやく、俺の様子が変わったことにマコも気付いたらしい。
おずおずと、恐々、俺の様子を見るために、胸の中で顔を上げて――――
「…………て…づか……?」
俺を見て、驚いたように濡れた大きな目を見開いた。
涙に掻き濡れた顔を晒すことよりも、俺の顔を見た衝撃の方が大きかったらしく、俺の顔を見つめたままでまた問うてくる。
「――――手塚? ど……したの…?」
それでも固まったままの不甲斐ない俺。
――――けれど、マコを――――麻子を失ってしまったら、という恐怖で身体も心も竦んでしまっている。
どうしたらいいのか、もし、そうだとしたら――――……。
問われても言葉も出ない俺に、ますますマコが俺を覗き込んで――――そっとシャツを握っていた手を伸ばしてきた。頬にその手が添えられる。
「…………手塚?」
手に手を重ねると、その手を取って縋るようにキツク抱き締めた。いつもなら壊さないように苦しくないように、と思うけれどもついキツイ抱き締めになったと思う。
ここに居るよな?
生きてるよな?
それだけを確かめたくて、縋り付くように抱き締めた。
「…………お…前…………、まさか、……まさか…………俺を置いて逝ったりしないよな?」
言いながらも震えそうになる。いや、その想像に正直震えていた。
――――誰かを失うことがこんなに怖いとか――――父さんが病院に運ばれた時も恐れ怯えた自分が居たけれど、想像するだけでこんなに恐怖するなんて自分でも信じられない。
――――怖い――――
縋り付く華奢な身体。もし、この存在がなくなったら…………。

――――と。
ふいに胸元で、クスリと不似合いな吐息が零れた。
そして、ようやくゆっくりとマコが口を開く。

「――――――――そうじゃないの。…………あたしね…………赤ちゃん……出来ないの…………」

………………………………。

言われた言葉を理解するのに、かなり時間を要した。
その言葉はまったく予想もしていなかった言葉で――――……、途方に暮れた。
――――もちろん、最悪のシナリオを想像していただけに、そのシナリオからはあまりに遠い言葉が降って来たことに頭も気持ちも付いていけなかったのだろう。
恐怖心から一転、途方に暮れる。

「……………………は? …………あの…………えー…っと…………」

それがどうして相応しいとか相応しくないとかいう話になるのかわからない。
というか、全然話が見えてこない。
「えーっと…………それが…………?」
「『それが?』って何がよ?」
「…………何がって……その、……話が…………」
「わからない? 事件の時の銃弾が子宮や卵巣を霞めてたらしくて機能的に不安があるって言われてたの。以前のようにちゃんと機能しない可能性が高いかもって……事実、全然生理も来てなくて――――ホルモン剤もずっと飲んでるんだけどサッパリだしね……。
多分、全然機能してないと思う。
その上で――――この間の出血がね、やっぱり卵巣からだったんだって。他に手立てがなかったから卵巣を摘出したって説明を受けたの。…………腎臓も傷ついててね、一部摘出されてるんだって。片方でも大丈夫だってことなんだけど、妊娠は身体に負担がかかるから難しですねって言われてて――――まぁそれ以前の問題なんだけどね、まったく機能してないし。
……あたしね、手塚の赤ちゃん、産めないんだ」
「~~~~~~~~っ」
前からのカウンター攻撃に怯えていたら、横から足を引っ掛けられ、ダウンを奪われた気分だった。
「…………それが、理由――――。……ごめんね、あたしが予後どんだけ生きられるかはわかんないわ」
「~~~~っ?! いいいいやそれは…ッ!!! あんまりお前が泣くから、……俺……その、最悪のことを考えちまって…………」
居た堪れずに顔が熱い。
俺は言葉もなくて、マコもそれ以上は言わなくて――――しばし、部屋が静かになった。
ようやく、大きく息を吐いて――――思わず、「…………良かった…………」としみじみとだが思わず零れた。
俺の言葉にマコは苦笑すると、いつものように返してきた。
「『良かった』って、あたしが手塚の赤ちゃんを産めなくて?」
「~~~~じゃない…ッ!!! んなわけないだろッ!!! お前が――――お前の身に何かあるわけじゃなくて――――それが良かったっつってんだッ!!!」
思わず、恥ずかしさやらさっきの恐怖の反動やらで、また強く抱き締めてしまう。
――――マコの、麻子の香りだ。
――――ここに居る。
――――この小さな温もりが愛おしくて、抱き締めて安堵する。
「…………本当に良かった…………、情けないけど、想像しただけで震えるくらい怖かった…………」
さっきの恐怖心を振り払う為に敢えて口に乗せれば、マコが小さく笑って、そっと腕を回してくれた。

――――今日、初めて、マコが俺を抱き締めるように小さな手が背中に回り撫でてくれる感覚。

くすぐったくて優しい感触だった。
「……迷子の子供みたいな顔してた」
「…………ぬかせ……」
「……あんな顔見せられたら…………あんたを放って逝けないね」
「――――言うな。例えでも絶対そんなこと言うな」
「あんたが先に言ったのよ?」
「…………二度と、あんな想像はしない」
「…………じゃあ、あたしがどんな気持ちかわかるでしょ? …………危ないことしないで。――――怖いの……」
ギュッとしがみ付いて来る感触に、また愛おしさが増す。
「――――危ないことはしてないよ。情報を集めて事件を解決したいだけだ」
「~~~~それが駄目だって言ってるのよッ…!!」
「別に俺が犯人を殺しに行く訳じゃない。――――何も危なくはないさ。警察に協力してるだけだ。そうだろ?」
「~~~~知ってしまったことが原因で狙われることだってあるのよッ?!」
ふいに金切声で叫んだ。縋り付きながら俺の胸に顔を埋めたから、声はくぐもっていたけれど。
ポンポンと、背中や頭を撫でながら、包み込んだ温もりに顔を埋める。
サラリとした髪に口付けて、直接脳に話し掛けるように言った。
「…………俺は一人じゃない。俺一人が秘密を抱えるわけじゃないから、俺一人殺したって犯人は無駄なんだ。――――信頼出来る仲間が俺の傍に居て共に分かち合ってくれてる。みんなでお前を取り戻す。みんな、お前を待ってるよ――――あの仲間が居る限り、そう迂闊には犯人も手が出せるもんじゃない」
「……………………」
俺の言葉に、しばらく黙っていたマコが、静かに口を開いた。
「…………笠原に…………教えたの……?」
「教える前に、先に真相に辿り着いた。――――お前の寮の部屋、まだ残ってたんだ。まだ記憶が戻ってなかった時だったけど、香りでお前が――――お前だってすぐにわかって――――混乱した俺に、笠原は俺の想像は合ってるって直感だけで言い切りやがって…………俺でもまだ半信半疑だったのに、あいつは――――笠原は絶対そうだって確信もってやがった」
――――本能だけで真相に辿り着くとか、笠原には参る、とぼやいた俺に、クスリと笑う気配が胸に響いた。
またしばし沈黙して――――そっと胸の中で顔を上げる気配がして、腕を緩める。
「…………そんなことになってるなら…………もうあんただけに言っても無駄よね……。でも――――でも、本当に必要以上に手を出さないで。犯行の手口から考えても、相手は容赦のない人物や組織だわ。人を撃つことに躊躇いもないし場所も選ばない――――検閲抗争とは違うの。お願い、絶対に無茶しないで…………」
「ああ。――――お前を取り戻したら、今度こそすぐに結婚したいからな。その為には俺だって無事で居ることが必須条件だろ? ――――絶対無事に事件を解決するよ」
そう言うと、約束代わりに口付けようと顔を近づけたけれど、俯いて逃げられる。
「…………それは…………それは、さっきの事情も……、ちゃんと手塚のご両親に言った上で、承諾を貰ってからの話だわ…………」
「なんで。俺はお前が居ればいいんだ。――――子供が欲しくてお前と結婚したいわけじゃない」
「…………あんたはそれで良くても…………手塚家の方は後継ぎが欲しいと思うわよ…………」
「父さんや母さんからそんな話、一度もない」
「…………ね、親戚の人達を思い出して…………皆さん、家柄とか身分とか凄い人達が揃ってる血筋よ。…………あたしは確かに気に入って貰えたけれど、その時は世継ぎが産める前提あっての話で――――最初から不生女(うまずめ)だってわかってる女だったらまた話は違うと思うの」
「親戚なんかもっと関係ない。――――俺はお前がいい――――っていうか、お前以外無理。お前以外の誰にも惹かれない。お前との結婚を親が駄目だって言うなら、俺、柴崎家に入る」
「~~~~ッ!!! なな、なに言ってんの…ッ!!! あんた自分が何言ってるかわかってんのッ?!?! そんなの許される訳ないでしょうッ!!!」
「わかってないのはお前だろ。――――俺の両親がお前との結婚を反対するとは思えないけど、もし反対されたって俺はお前じゃないと無理なんだから、しょうがないだろ? 承諾できないって言われたら手塚家から出るまでだ」
「~~~~ッ!!!!!」
カアアアアアッ! と顔が、身体が熱くなる。
朴念仁の癖に天然駄々漏れとか、本当に止めてよねッ!!!

舞い上がりそうになる気持ちとは反対に、酷く冷静に手塚のことを考えるあたしが居る。
――――手塚慧が家を飛び出した時に、あんなに兄の行動に反発して家族を大事にしていた手塚。
――――きっと、本当にそうなったら…………手塚は傷つく。手塚家を飛び出してしまったら、手塚は一生心に傷を抱えることになる…………。
――――ご両親が反対したら、あたしはそっと消えよう…………。
手塚にそこまで言って貰えることに嬉しがって熱くなる身体とは裏腹に、衝動だけで手塚に本当に大事なものを斬らせてはいけないと理性は必死に主張して、やっぱり今はまだ手塚を抱き締める資格はないと思う自分も居て、自分の気持ちがバラバラで張り裂けそうで――――

ふいに、頭頂部に唇の感触がして、思わず声を上げそうになる。
「~~や…っ、やめ……ッ…、……や………んんッ!!!」
堪らない感触に、必死に暴れるのにビクともしなくて頭頂部の吸い付くような唇の感触が離れない。
~~~~だ、だめッ!!!
たかが頭に唇の感触がするくらいで意識がそこに集まって動揺する自分が情けない。情けなさに必死にとにかく無茶苦茶に暴れたら、ようやく唇が離れた。
はぁはぁと息が乱れるくらい暴れていて――――気付いたらあたしはベッドに沈んでいて――――すぐ傍に手塚の顔が――――……。
息を呑んで、カアアアアアッ!! とまた身体が熱を持つのが分かった。
慌てて、手で顔を覆って――――その片手を取られて、手の甲に唇の感触がした。
また声を上げそうになる自分が居て、必死に空いている手で口を塞ぐ。

~~~~な、…なななな…………っ、
なに、なによ…………コレ!!!!!

潤みそうになる目を瞑って、とにかく手塚を拒否する。
おかしくなりそうな程、どうしていいのかわからない。
身体ごと手塚から背こうと、逃げる――――と、ふいに耳元に手塚の唇の感触がして囁かれた。
「…………わかった。お前を取り戻したら、両親にもちゃんと話をする――――けど、俺の意志は変わらないから」

かあああああ…っ!!!

囁かれただけで、体中が熱いとか――――……。
あ、あたし、どうしちゃったって言うの?!
なんなの、この…っ

そう言うと、手塚の顔が少し離れた。
宥めるように背中を撫でる大きな手。
優しい――――優しい手。

キス…………したかったんじゃないの?

ふと思って、離れた手塚に寂しく思う自分を自覚させられてプチパニックになる。
~~~~キ、キスなんか、しないからッ!!!
あたしは手塚の婚約者じゃないからッ!!!
違うわよ、急に唇の感触なんかしたから――――動揺して気が動転しただけよッ!!!

制御できない身体の熱と反応に、あたしは完全に混乱していたのだった。



……To be continued.






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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(7)  |  EDIT  |  Top↑

★Re: 「幸せ」の条件

アリアアリス様

そうですね!ホントに……
確かに柴崎のお母さんは、一つの大きな山であったと思います。
本当に娘が大事ですもの……その親に認められる、ということは、手塚にとって大きな勇気にもなると思います。
記憶を取り戻してすぐは、完全に柴崎のお母さんからは、光さんとはもう終わっています。という態度であったり接し方であったわけですし、手塚も、柴崎の母が娘を想ってのことだとはわかっていたでしょうけれど、やはり面と向かって反対されていることに対しては苦しかったと思いますから……。
一つの大きな山を、誠意と根性と柴崎への愛で、軽々と乗り越えられました!!
そこは、手塚のひたむきさだったり、一途さだったり、一生懸命さがあってのことだと思います。
柴崎の母も、本当に心から、娘の婿になる人物の凄さがわかったんじゃないでしょうか。
こんな素晴らしい婿は居ないわーって(笑)
柴崎の母と言う大きな山を越えて、またググッと手塚は柴崎に近づけましたね~♪(*^^*)♪
そしてもう、距離が近くなっちゃったらもう、手を出したくて触れたくてチューしたくて堪んなくなっちゃいましたなァ、手塚さん(笑)
いやもう、アリアアリス様のツッコミ満載に、爆笑でしたよ!!!(笑)
そうそうそう、きっと、麻子ロスの反動ですね。リバンド怖い(笑)
でも、まだ「よし!」って言われてないのに…(笑)

> 無意識に充電を満タンにしていく戦闘職種
> 腹が減っては何とかですからね(苦笑)
いやもう、この表現に大爆笑でした!!! ですよね~~~!!!
傍から見てたらもう、完全にオオカミですよ~~~!!!
匂いをくんくん嗅ぎまくりの、手はどこかしらマコさんに触れ捲りの、唇はすぐにチューしたがるし(笑)
ああもう、病人マコさんに容赦なしかいっ!!!(いや、本人は一応これでも容赦していたそうです(笑))

> 31話で危惧していた通り...。
その節は、本当に、ドッキリコメントにレス出来ずで……そういうわけでした!!!
あの時点で、さらっと流しちゃう、ほんの一行に目をとめたアリアアリス様は凄過ぎます!!!
最初の襲撃事件でも、機能的に不安が、と言われていたところに、結局は出血してしまって摘出せざるを得なくなって…………。
やはり、自分が狙われていて周囲の人間も巻き込むかもしれないという不安もあるところに、自分が女性として不完全になってしまったということが、柴崎の中では柴崎だからこそ許せないというか手塚の隣に居る女性として相応しくないと思ってしまった原因でもあるかと思います…………。
なんだかんだ言いながら、乙女な夢を持っていたんじゃないかなって…………。

> しかし!それを知った手塚の回答が私の予想の遥か上をでした!
……ほんまですか?!
嬉しいです……! 頑張った、手塚!と褒めてやりたいです(笑)
そうなんですよね、アリアアリス様も仰っているように、手塚も必死なんです。必死すぎるくらい必死。
ようやく掴んだマコとの面会で、この面会でなんとかマコを繋ぎとめておかないとマコは自分を遠ざける一方で会ってもくれなくなるかもしれない…! との一心で、ただただ必死なんでしょうね!!!

> どれだけ黒幕をやっつけようとも、このある意味手塚にとってのラスボスがうなずいてくれないと「解決」ではないですからね!
うまい!!! まさにそうだと思います。
最後は、柴崎がどう手塚を受け入れてくれるか…………手塚の元に手を伸ばせるかが、このお話の最大のKeyだと思っています!!!

> ーーー願う幸せがある。
> その幸せを埋める条件は、ただ1つ。「あなた」
素敵な締めくくりで…………このお話の締めくくりがこんな素敵な言葉だったらいいのにっ!!って思いました★
そして、そうなんです、まだなんです…………。
まだ、柴崎は自分が手塚の横にいることを自分に許してないんですよね。
だから、「光」とは読んで貰えていないわけですが…………。
柴崎の口から「光」って呼んで、その小さな手が手塚を掴む時まで、まだまだ、頑張れ手塚!!!です!!!
本当にガンバレー!!!
ずっと応援して貰えていてありがたいです!!!!!

ツンデレラ |  2017年01月30日(月) 13:34 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年01月29日(日) 12:49 |  【コメント編集】

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 |  2017年01月24日(火) 08:45 |  【コメント編集】

★いやもう、絆されているかも(笑)

ママ様

そうですねーw
でももう、あと一押しも二押しもなくても、柴崎の強張った心と体は解れてる気もしますね(笑)
ママ様も仰るように、
> いゃあ素であんなん言われたら何にも言えないわ(笑)
ですよ、ですよー(笑)
いやもう、あれ以上の言葉なんかないんじゃないでしょうか。
っていうか、あそこまで言われて、いくら柴崎だってもう気持ちは正直手塚に一直線になってると思う(笑)
後はいろいろ諸々のことが気がかりであるだけで…………跡取り問題とか、跡取り問題ね(苦笑)
ママ様も仰る通り、身分が違うとは言わないけど家柄の差は感じてると私も思っているんです。
なので、子供が産めない身体になってしまったことは、柴崎の中では重大な問題なのですけれど…………手塚にとっては、「は? なに、そんなこと…」程度のことで、そこに2人の認識の違いはあると思います。
でも、それって、気持ちとはもう別の問題なんですよねー。柴崎が手塚を本当は求めていることもわかってての、更にその上の問題で、そこらへんは手塚の言うように、手塚はまるで問題視してませんから…………。
正直、普通に手塚家で言えば、手塚は次男でもあるのですしね。
家族を捨てて出て行った兄に対する反発は凄いですけれど、それは、「兄が跡取りの座を捨てたから」ではなくて、家族を顧みなかったから反発しただけですもんね。後継ぎが出来ない、ということが手塚家の中でどれだけクローズアップされるのかはわかりませんけれど、少なくとも、これに関しては麻子サンの先走りと言うか、そんなことまで心配してたら身体がもたないよ、と言いたいというか…………まぁいろいろと自分の身体がもう以前のように丈夫じゃなくなってる、という認識もあっての、例え食事が取れて動けるようになってももう以前と同じじゃないんだっていうことも麻子サン自身には酷く不安になる材料だったのだとは思うんですけどね。
自分のせいで、事件がまた起こって手塚を巻き込むかもしれない。
自分の身体はもう、以前と同じじゃないし、事あるごとに発作も起こるし、迷惑をかけてしまう。
そんなあたりが、手塚に想いをぶつけられて、本当は手を取りたいのに躊躇してる要因かも。
でも、気持ち的にはもう、手塚の言葉の数々に絆されている気がします。
っていうか、そこまで言われたら普通、もうメロメロだって(苦笑)

柴崎母は、ようやく、娘を託すに値する人物なのだと、手塚に絶大な信頼を寄せることが出来たのではないかと思います。
ホッとしたんじゃないでしょうか。
いろんなことがあって、柴崎母にしてみれば、動けるようになったらもう郷里に麻子を連れて帰りたい、とまで思っていたような気もするし。東京でこんな事件があって、更にその後また倒れて…………って、母親にとっては心配するばかりの場所だっただろうし、手元に引き取りたい気持ちでいっぱいだと思うし。
でも、手塚が麻子サンには必要なんだってわかったら、柴崎の母も見方が変わった筈です。
麻子サンを安心して託せるのは手塚だなってわかったら、柴崎の母からも手塚を後押ししてくれそうな気がする(笑)

ところで、最後で出てきた麗華さん…………ここで名前を出すママ様が凄いですわー。
麗華さんにはね、もし、麻子サンは素直になって手塚の手を取ろうと決める日が来たら、麗華さんに申し訳ないって気持ちが麻子サンにはあると思うんですよね。
一度は託したけど、やっぱり……ってことなので。
いまはまだ、「やっぱり」っていう踏ん切りまでは付いてないから現状維持(?)かもしれないですけど、その時に、麻子サンは、麗華さんは…………と思うと…………女の修羅場?(苦笑)
でも、正直、手塚の気持ちはまったく振れなかった、という時点で、麗華さんには手塚との道はないんですけどね。
なので、麻子サンが後ろめたく思わないといいな、と、それは私も気になっているところです…………。
ああ、手塚がまったく気にしないと思いますが!(笑)
だって、見向きもしなかったですからねぇ。。。。麗華さんに関してはトコトン朴念仁でしたね、手塚(苦笑)

ママ様も仰るように、後は、柴崎にもっと、周囲に目を向けるようにさせないといけませんよねー。
図書隊のみんなも(一部メンバーですが)、柴崎が柴崎として、図書隊に戻ってくることを望んでいること。
殻に閉じこもってしまっている自分に柴崎が気付いて、皆が自分を待ってくれていることに気付いて、動き出して欲しいと思います。
郁ちゃんと会えればねぇ~。郁ちゃんなら、柴崎を引きずり出してくれると思うんだけどなァ!!!
一先ず、手塚との会話でそこはかとなく、図書隊のコアメンバーには自分が生きていることがバレているんだと認識出来た柴崎ではないかと。
この後、まずは体を回復させて、早く図書隊のメンバーにも会えるようになれれば、と思います。
会えば、柴崎もわかると思うから…………。
手塚が手を引いてくれるといいですね。

ツンデレラ |  2017年01月24日(火) 06:49 | URL 【コメント編集】

★Re: 大丈夫!

Sauly様

いやぁ、根拠のない(笑)大丈夫の太鼓判をありがとうございます(笑)
まぁ、なるようにしかならん、は常套句ですしね。
大事なのはSauly様も仰るように、一緒にいること、ですもんね(笑)

そして、〝そんな事より”大相撲初場所!(笑) どんだけ笑わせてくれるんだか★
稀勢の里は綱取りじゃないんですか? 綱取りって見た気がする…(苦笑)

さて、続きをどんどんとありがとうございます。
映像と合わせてみると、雰囲気がよくわかりますね。
文章読んで、映像見て、また文章読んだら、雰囲気が全然ガラリと変わりました。
そっかー、ケイは子供産んでたのかー、とこの時点で本編のゴッドファーザーの見落としていたところも認識しましたです((((^^;)
しっかし、マイケルもアレだな。高跳びしてた時にも女が居たのに、ケイにああやって言い寄る訳だな、とそっちも気になった私でした…………Sauly様の手塚の方がイイ男じゃん!(笑)
堂上さんは足が駄目になってしまったけれど、図書大学復活で、就職先が確保されて良かったですねー。
図書隊も、またここで、戦力の充実を図る訳ですなー…………盛り返せるかな?
世論やメディアも、その時々で意見も変わってきますもんね。
小牧さんが結婚式を挙げられるような世の中になってくれるといいのですが。
郁ちゃんがちゃんとりんごを剥けるようになっていたのは、二年以上の年月の進歩ですね(笑)
二年以上たっても、切らないか?って心配されてるけど(笑)
一方の手塚も一年前に帰国………次回、麻子サンの安否もわかりそうで………生きているんじゃないかと!!!(切望)
ガンバレ、麻子、とエールを!!!
まぁそれと、郁ちゃんに手塚がすんなり受け入れられたことに安堵しましたです。
手塚が原因で図書隊は崩壊寸前になってたわけですし、…………ねぇ?
結構、手塚に対してはあたりがきつくなりそうだと思っていたので…………まぁ郁ちゃんだということもあるのかもしれませんが。

次回はいろいろと明かされていく回となるのでしょうか。
こういう回は、書くのが大変ですよねー、でも頑張って下さいね!!!


ツンデレラ |  2017年01月24日(火) 06:16 | URL 【コメント編集】

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 |  2017年01月23日(月) 12:42 |  【コメント編集】

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 |  2017年01月23日(月) 07:49 |  【コメント編集】

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