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2016.12.16 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『ひとり寝る夜の明くる間は』~vol.37~

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.37~ ≫背中の靴跡シリーズ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  歎きつつ ひとり寝(ぬ)る夜の 明くる間は
   いかに久しき ものとかは知る
         右大将道綱母(53番) 『拾遺集』恋四・912
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【More・・・】

≪ ひとり寝る夜の明くる間は~vol.37~ ≫背中の靴跡シリーズ


――――また、変な顔してるって言われるかもしれん。
思って、自分の頬を軽く一撫でした。
気持ちを引き締めて、図書館を抜けて基地に入る。

     *

今朝も起きれば、結局ソファで寝てしまっていた自分に気付く。
寒くなってきているから、もう、掛布団をリビングに持ってこようと思う。
……すっかり、家の中で一番落ち着く場所がソファになっていた。ここは目を瞑って少しゴロリとソファの背もたれに顔を埋めると、麻子に似た香りが微かに漂う場所だ。
…………本当は多分、マコの部屋が一番落ち着くんだろうけど…………
思って少し顔が熱くなる。流石にそれは、女性の部屋だし無断で踏み込むのは躊躇われる。
昨日も結局、ソファに座って柴崎の母との話などを思い起こしているうちに眠ってしまっていたのだ。
落ち込みそうになる気持ちも、微かに香る匂いを吸い込めば少しほっとして自分の気持ちを落ち着かせてくれる。

昨日話をして、柴崎の母にはわかって貰えたと思う。
だけど、まだ、麻子に直接話せてはいない。
――――麻子に会えない。
その現実に、酷くポツンと孤独感に襲われる。
会えないと言う事実が、こんなに会いたい気持ちを強くするとか思ってもみなかった。
マコがこの家に来るまで、自分1人で過ごす方が居心地の良かった時間や空間が信じられない。
今では1人になると考えるのは麻子のことばかり。ふと思考が止まった瞬間には忍び込むように、麻子はどうしてるだろうか、大丈夫だろうかと思ってしまう。
……もちろん、自分で選んだ答えだ。
麻子を守る為に、その方がいいと結論を出したのは自分だ。
はあ、と大きな溜息を吐く。

昨日、柴崎の母から聞いた麻子の容体は、高山から聞いていたより芳しくはなかった。
微熱、と聞いていたが38度前後の発熱がずっと続いていると言う――――解熱剤を入れてその熱なのだから不安で仕方がない。
まだ水ですら口にしていない。いや、口にしていないというより、出来ない。
まだ身体を水平状態から起こせるところまでいっていないからだ。…………身体を起こすことは、今の麻子の身体にはかなりの重労働になるらしい。―――― 一応、意識も戻ったことだし明日の朝から少しだけベッドに角度を付けて身体を起こして様子を見てみようとの話は出ていると言う。だけどそれで、もし貧血や低血圧を含む異常が見られた場合はまた横臥位に戻し、容体を見てまたチャレンジして……少しずつ、少しずつ角度を上げてゆくのだと言う。
酸素マスクもまだ外せてはいない。
炎症を抑えるためのステロイドは免疫機能も抑制してしまうことから、酸素マスクは外部からの菌の感染予防という意味もあるとのことだったが。
――――想像以上に、回復するまでに時間がかかるのだと思い知る。
もちろん、今の麻子の状態がそれほど良くないからに他ならない。
元々、酷く体力が落ちていた所に、また大手術でまたかなり身体に負担を来しているから致し方ないのだが、手塚にとっては不安以外の何物でもない。
話を聞いて気持ちが沈みそうになる手塚に向かって、柴崎の母は、随分と明るい顔で言った。
「……これでも以前の入院に比べれば天と地ですよ。血圧や血中酸素、心電図もほとんどずっと安定していますから。意識が戻ったマコと少しだけですが話も出来ましたが、本当に意識がハッキリしていて……思っていたよりもずっとしっかり安定していて安心しました」
…………以前、というのは、本当に生死の境を彷徨っていた危篤状態の時の話だから、そんな状態と比べて良い、と聞いても手塚には全然安心出来ないのだが。
だが、その一番最悪な状況を知る柴崎の母にすれば、今の麻子の状態は全然良いと映るのだろう。
「今のマコの顔には、死の影は見えませんから。…………大丈夫ですよ」なんて、不安がどうしても拭えない手塚に向かって柴崎の母は笑った。
その顔を見て、かつてどれ程の死の影を見て、不安と心配の日々を送ったのだろうか、と手塚の胸が痛んだ。
マコとの少しの面会の中で、柴崎の母は柴崎に伝えてくれたと言う。
病院に運ばれた時ずっと手塚が傍に付いてくれていたこと、手塚の記憶が戻っていることを。高山から預かった花篭も俺からだと伝えてくれたと言う…………。
「……その……、……マコは……俺のこと、……何か言ってましたか…………」
「――――『婚約は解消した。もう関係ない』って…………。マスクを外してまで必死に言おうとしたのがそんな言葉で…………、その、……光さんには申し訳ないとは思いますけれど、……やはり、マコも…………その、そういうことで…………」
――――マコなら――――いや、麻子ならそう言うだろうと予想はしていたけれど、やはり聞くと落ち込む。
麻子のことだから、俺を切り捨てると思ってた。
切る時は思いっきり、スッパリと切るだろうことも想像の範囲内。
…………けど、顔も見れない時にその言葉を聞くのは意外に辛いな、と思う。思っていた程強くない自分を知らされた気がした。
だが、予想していたことだったので、なんとか柴崎の母に伝えたかったことを静かに口に乗せる。
「――――婚約についてですが…………現時点では、確かにお母さんも仰っていたように『サイキマコ』として安心して入院出来る環境の方が優先事項だと俺も思います。
――――ですから、今の俺は――――婚約者じゃありません…………その方がいいと……そうするべきだと俺も考えました。
『今は』それを受け入れようと…………。
――――ですが。
俺は麻子さん以外考えられません。
だから、『柴崎麻子』を取り戻したいと思います。
――――麻子さんが、柴崎麻子として安心して生きていけるように……二度と襲われたり狙われたりしないような、柴崎麻子の居場所を。――――なんとしても、取り戻したいんです!
…………まだ『今』はそうじゃない、だから、距離を置きます。甘んじてそれを受け入れます、ですが…………俺、絶対取り戻しますから。
柴崎麻子を取り戻した暁には、『婚約解消』を取り消していただきたい。――――俺は、柴崎麻子の婚約者ですから」
背筋を伸ばして、真っ直ぐに柴崎の母を見つめて、宣言した。
俺の言葉に、酷く驚いた顔をした――――次の瞬間、涙が盛り上がる。
「…………止めて下さい、危険です。…………もう、動かないで……もう、麻子を危ない目に合わせないで……もう、もう……このまま、そっと…………」
「お母さん。麻子は麻子です。マコじゃない。
――――それに、マコとして生きても、マコは幸せそうじゃありませんでした。…………いつバレるかわからない闇にずっと怯えて、夜になると発作が起こって眠れない日々が続いて――――マコとして生きても、結局ずっと怯えているんです。誰もが自分と深く関わらないように、常に距離を取って心に蓋をしていました。笑ったり喋ったりしていても――――でも、ふとした時に、寂しそうな目をして自分はここに居てはいけないと思っているようで…………。
…………ただ生きているだけの――――ずっと苦しんでいる生活で――――、本当に、それでいいんですか?」
「…………だけど…………でも…………」
柴崎の母の目から涙が零れ落ちる。
でも、の続きは何も出て来なかった。
代わりに泣きじゃくり始める。
――――軽い発作だろう。子供のようにただただ泣く。手塚の差し出したハンカチで顔を覆うと、時々「でも」とか「だけど」とか言葉を呟くけれど、続く言葉はない。柴崎の母の頭の中は葛藤のあまり混乱して、ただただ涙が溢れて止まらない――――そんな感じがした。
そっと隣に回って背中を擦る。ただ、無言で擦る。
随分と長い間そうして――――ようやく一山を超えたのを見て、ホテルの備え付けの温かいお茶を淹れて持ってきた。手塚のハンカチは絞れるんじゃなかと思う程びしょびしょになり用を為さなくなっていたので、柴崎の母へ声を掛けてホテルのタオルを持って来て渡せば、今度はタオルで顔を覆っていた。
少し恥ずかしそうな柴崎の母の表情や仕草は、どこかしら麻子を髣髴させる。
「…………お恥ずかしいところを……見せてしまって…………」
手塚の気持ちが少し解れた。
「いえ、ホッとしました。お母さんもずっと心に閉じ込めて苦しんでらっしゃる気がしていたので…………。
お母さんの危惧もわかりますし、俺も麻子さんを危険な目に合わせたくはない。
――――でも……麻子さんを幸せにしたいんです。
その……傲慢な言い方ですけど……俺は、――――俺が、麻子さんを幸せにしたい。
だから…………麻子さんを取り戻すためにどうすればいいのか考えます。麻子さんを危険な目に合わせはしません。…………そのために……それまでは……会いに行きたい気持ちは抑えようと決めました。でも……この気持ちは伝えたいんです、麻子に。麻子さんが大事にしていた図書隊の仲間もみんな、麻子さんを待ってることも。
――――ですから、麻子さんの容体が落ち着いたら…………ちゃんと落ち着いてからでいいですから、俺を麻子さんに会わせて貰えないでしょうか。1度だけでいいです。きっと今は麻子さんは俺を拒否するでしょうから…………けど、直接ちゃんと伝えたいんです」
「…………きっと…………会ったら、光さんは麻子に幻滅しますよ……」
「そんなことは――――」
「麻子はあなたを傷つけるでしょう。多分、光さんがもう二度と会いたくないと思うくらい…………麻子のことですから…………」
そう言って窄まった語尾に、項垂れるように俯いた。顔に当てたタオルを持つ手が、少し震えている。
そんな柴崎の母の背中を、また、そっと擦った。
「――――知ってます。俺を、傷つけて――――でも、自分はもっと傷つくんですよね」
そう言った俺に、驚いたように顔を上げた。また瞳が涙目になっているのを見て、慈しむように微笑んだ。
「…………俺、そんな麻子だから、守りたいんです。意固地で頑なで意地っ張りなあいつだから大事にしたいんです。バカみたいに麻子だけで――――。だから、どんなに麻子が俺を切ろうと酷いことを言っても無駄です。俺は麻子から離れられない。麻子のそんなところも全部わかってますから――――。
…………だから、落ち着いたらでいいので…………俺は、切られるだけだとわかってて、それでも麻子に会いたいんです。…………お願いします」
そう言ったら、また、ぼろぼろと大粒の涙がタオルに浸み込んでいた。
途切れ途切れに、絞り出すように、それでも、こちらこそお願いします、と言った柴崎の母の言葉が甦る。
柴崎の母は、わかってくれたと――――そう思う。

     *

はあ、と溜息を吐いた。
そのまま深呼吸する。
図書基地内の特殊部隊の事務室に向かう途中――――廊下で笠原に鉢合わせた。
「――あっ?! 手塚?! 丁度良かったー! って、あんた…………」
「黙れ、また変な顔とか言うんだろう。もう聞き飽きた!」
「えー? いや、あたしは……」
「黙れ、言うな! お前と違って俺はいろいろ考えてんだ!」
「なによソレ! あたしだってちゃんと考えてる!」
「理論で考えるより先に脊髄反射で動いてるだろうが!」
埒もない文句の応酬をしていたら、別の方から二人の上官が「そこうるさい!」と並んで歩いて来た。
アッサリと俺達の横を通り過ぎて、「もう先に会議室に居るらしい、行くぞ」と声を掛けられる。
怪訝な顔になった手塚に、笠原が肩を竦めた。
「折口さん、早目に来ちゃったんだって。気になって気になって、先の仕事をそそくさと畳んで来ちゃったみたいなの」
小牧も苦笑しながら事情を説明してくれる。
「さっき俺達のところに隊長から『今すぐ小会議室3に集合!』って内線入ってさ。手塚がまだですって言ったんだけど『主役は後から登場するもんだ。先に前座を聞かせろ』だって。――――見世物でも見るつもりかな」
「えー! 隊長に限って見るだけなんて有り得ないですよー! きっと大方のあらすじを聞いて、そこに自分の出番をどうやれば捻じ込めるか探るつもりなんですよ、きっと」
「…………出番なんか、あって堪るか」
堂上が渋い声で唸る。
手塚も黙るしかない。
――――折口を巻き込む時点で、いずれはこうなるだろうとは思っていたが、まさかしょっぱなからとは。
図書隊には無関係なこの話に、出来るだけ図書隊を巻き込まないようにしなければ、と手塚は再度肝に銘じた。……とはいえ、手塚ごときが抵抗したところで、あの玄田相手にどこまで盾になれるかは考えないようにする…………。

ノックして4人で入れば、玄田からは「なんだ、主役も居るんじゃないか」とぼやきが入り、折口からは「傷の具合はどう?」と悼むような声がかかる。
「お忙しいところお時間を頂きありがとうございます。傷の方はもうすっかり大丈夫で、以前の体力を取り戻すためにひたすらトレーニングを積むばかりです」
「……良かった。それに、気持ちも随分としっかりしてるみたいね――――事件の後面会した時は、いつもの手塚くんらしくなかったし少し心配したけど――――。あれから事件については世相社の方でも少し追ってたんだけど、なにかしら圧力がかかってくるみたいで思うように情報が集まらない事件だったのよね」
今日は事件のこと? と折口に言われ頷き、何から話そうかと思っている間に、玄田が口を挟んだ。
「手塚。――――お前、記憶が戻ったのか?」
唐突に言われて、目を瞠る。
記憶が戻ってから、まだ正式に図書隊の方に来る機会がなかったから報告はしていない――――と思う。もちろん、堂上達が上に報告して居れば別の話だが。
…と思って上官を見れば、上官も驚いた顔をしていたから、どうやら報告してはいなかったらしい。
なら、どうして――――…と思ったところで、折口がくすりと笑った。
「――――手塚くんの雰囲気が、全然変わったからよ。……この人、郁ちゃんだけを贔屓して新人から特殊部隊に引き上げた訳じゃないわ。確かに手塚君の成績はどの項目もトップでずば抜けていたって言うのもあるけど、そんな数字だけで特殊部隊に抜擢するような人じゃないってわかってるでしょ? この人なりに手塚君への評価がちゃんとあって、特殊部隊に引き上げる価値をちゃんと見出してのことよ。…………週刊新世相では、特殊部隊初の女性隊員ってことで郁ちゃんをトピックに取り上げたけど、玄田くんから二人のことはよく聞いてたわ。これでも二人のこと結構贔屓にしてるんだから。
…………だから、手塚くんと柴崎さんが事件に巻き込まれて、玄田くん、プライベートではかなりやさぐれたのよ」
「……やさぐれたってのは、なんだ。部下が事件に巻き込まれたんだから心配して当然だろう」
「心配って言うよりは愚痴だったじゃない。――――『今の手塚から、意志が見えん』って。手塚くんの手塚くんらしいところが全然見えなくなったって――――『卒なくやり過ごしやがって、面白味がまるでなくなっちまった』ってブツブツ零しててね。――――面白くないって言うなら気にしなけりゃいいのに、どうしても気になるみたいで、文句ばっかりのくせに玄田くんったら最近はずっと手塚くんのこと話題ばかりでね。だから、全然会ってない私でも手塚くんの雰囲気が前みたいになったから、記憶戻ったのかなって思っちゃうくらいね」
「へー。そいつは俺も初耳だ。――――お、コーヒー淹れて来てやったぞ」
ギョッとして扉を見れば、コップを乗せたお盆を持った進藤と、……なんと緒形までがそこに居た。
サッと入って扉を閉めると、ガチャガチャと無作法に皆の前にコーヒーを置いて、ちゃっかり自分達の分まで淹れてあったコーヒーの前にドカリと座った。
緒形の方は、すまないという目を手塚に送り、堂上や小牧にも小さく頭を下げた。
多分、進藤に引き摺られて来たのだろうとすぐにわかる。
「いつの間に記憶戻ったんだよ、手塚」
そう手塚に投げ掛けて、玄田に向かって「俺も手塚の上官です。狙撃部隊長として聞く権利があると思うんですが」と断る。
まったく退室の意思はないとの態度。
小牧が口を開いて「――――この会議を誰から聞いたんです?」と問えば、進藤がしれっと答える。
「いや、誰からも聞いちゃいねぇよ。――――さっき折口さんが来た後、今日の隊長の予定表に『1500小会議室3 手塚』って書き加えられてな。会議ならコーヒーがいるだろうってわざわざ持って来てやっただけだ」
なぁ副隊長、と振られた緒形は、憮然とした顔で「…………1人で持ち切れん、ってわざわざお盆2つ用意してたのはお前だぞ」と返事する。
「だって慣れないコーヒー8つだぞ? 扉も開けらんねェよ」
笠原でも8つはキツイだろ? と言えば、「バランスが難しいんですよねー」と受けるから頭が痛い。
手塚の代弁のように、堂上が玄田に噛み付く。
「いや、そこじゃないでしょう! なんでわざわざんなこと書き記すんだ、アンタは!!!」
堂上の激怒にニヤリと笑うと、不遜な顔とは裏腹に「手塚のことを心配してんのは、お前らだけじゃない」と真面目な言葉で一蹴するから、堂上も黙り込むしかない。
シシシ、と進藤が笑って、「安心しろ。部屋に居たのは俺達だけだし、隊長の予定表は『1500会議』に書き直しといた。俺ら以外の奴らが目にすることはないさ」となんでもないように言う。
手塚は思わず天井を見つめて、溜息を吐いた。……この人達を相手に、極秘で動けるなんて思った方が間違いだった。
同じ気持ちだったのだろう、堂上はコメカミを抑えて溜息を吐き、小牧は苦笑を浮かべていた。
「――――予定以上のことになったけど、この人達を抑えられるわけもないし諦めるしかないだろうね」
「…………こうなった以上、致し方ないですね」
苦々しげにそう答えた俺に、「――おっ、なんだ、生意気な口も復活してんなぁ! おいおい、結局いつ記憶が戻ったんだ? きっかけはなんだよ?」と進藤が嬉しそうに背中を叩いてくる。
結構な力で叩いて来るので顔を顰めながら、マコが緊急入院となったことで記憶を取り戻したことから、柴崎の置かれている状況を打破するために情報を集めてなんとか手を打ちたい旨を説明する。
一通りの事情説明にも、部屋は相変わらずの雰囲気だった。
――――流石、特殊部隊のトップ3は違うと言わざるを得ない。
「……なんだ、それなら、松和会ってところに2度と柴崎に手を出さないって約束させりゃ済む話じゃねぇのか」
いとも簡単に言う玄田を折口が窘める。
「……松和会って言ったら、かなり大きな組織で、分野も広くて迂闊には手が出せない組織なのよ。そんな簡単じゃないわ。――――堅気の分野では防衛省との繋がりも噂されてるし、裏の闇の方では麻薬や覚醒剤の売人グループの組織も操ってるとも言われている。会の規模が大きすぎて警察や公安も全体像を把握できてないみたいだし、かなりややこしいのよ。
しかも松和会と各組織の繋がりについては本当に闇の中で――――接点もほとんどわかってないのが実情…………麦秋会みたいに組員に流れてるっていうこともないしね。麦秋会に流れている松和会のメンバーは、ほとんどが松和会から見放されたホントに下の下の会員よ。行くところない組員を麦秋会が拾って……それでも麦秋会では上層部としてやっていけるらしいわよ。
松和会に話を付けたいなら、確かに手塚くんの言うように交換材料になる情報が必須ね。交渉の場にすらそうでなければついてもくれないと思うわ。
…………そういう意味では、流石は手塚慧ね…………松和会と会談が出来るだけでも凄いことなのよ」
「…………俺は、今の話を聞く限りは、松和会に拘る必要はないんじゃないかと思いますが。そもそも松和会が本気で柴崎を殺したいと思っているなら病院で躊躇いなくヤッてるだろう。病院のセキュリティはさほど頑強ではないからな。――――やはり、指示した者が別に居て、そいつを抑える方が賢明で手っ取り早いんじゃないのか」
折口の言葉に続いて、緒形が意見すると進藤も緒形に乗る。
「……杉谷ってヤツが怪しいんだろ? その辺りで事件との絡む情報はなかったのかい? なんたって内閣府内での犯行なんだしな」
「…………そのあたりがまったく……。確かに杉谷内閣官房副長官にも取材を申し込んだんですけれど、10分程度の時間しか貰えなかった上、柴崎さんや手塚慧、手塚くんとも初めての対談だったとその線を強く押されて――――事実、杉谷との接点は過去に見つけられなかったものだから私達もそれ以上は追及する手立てもなかったですし……」
少し折口の口調に苦いものが混じる。
恐らく、その路線は、あまり深く追求しなかったのだろう。事実、この前までは手塚ですら初対面の相手との認識しかなかったのだから。
「――――杉谷への探りは可能か?」
玄田の言葉にも、折口の口調は苦い。
「…………出来るだけのことはしてみるわ。…………ただ、杉谷って議員は、突然の成り上がりで…………情報が掴みにくい相手ではあるの」
「杉谷の秘書だとか後援会の人物からの線は?」
「――――周辺の人物は杉谷のことをあまりよくわかってないわ。…………ああ見えて、自分のことは自分でやり遂げるタイプみたいでね…………言い換えれば、他人をまるで信頼していないの。誰がやってもいいことだけはお金を払って熟して貰っているみたいで、そのための秘書で後援会みたい。秘書ですら杉谷1日の行動スケジュールすら把握してないんだから、相当だと思うわ」
折口の話を聞いて、進藤が首を捻る。
「…………そういうタイプなんだったら、病院に出没した不審者ってのも杉谷じゃないのか? その辺り探りを入れたらわかるんじゃないか?」
進藤の言葉に首を振ったのは手塚だ。
「……いえ、不審者は杉谷じゃありませんでした。一応、兄側からの確認です」
「おおっ、丸くなったな。お前の口から手塚慧の情報が聞けるとは!」
そう言いつつ、面白そうにバンバンと背中を叩く進藤に、ブスッと無愛想に「情報源としては有効ですから」と可愛げのない返事を返す。
「……不審者情報に関しては、警察にも確認を取ろうと思っています。事件直後の病院には警察も見張りとして張り込んでいてくれたようですから」
その手塚の言葉に、笠原が口を出した。
「…………そういえば、今、マコさんの警備は? なんならあたし、泊まり込もうか?」
「…………いや……、今の病院の周辺は、兄貴がSPをそっと配備してくれてる。それにサイキマコが入院してから図書隊が警備に付きだしたとかいう噂が流れても困る。今は犯人の目に留まるような行動は避けたいんだ」
「…………ん…………そうだね…………」
少し寂しげに頷いた笠原を横目に、玄田が折口に声をかける。
「とりあえず、折口。杉谷の路線と松和会の路線と…………少し当たってみてくれるか?」
「ええ、了解」
「……すみません、よろしくお願いします」
頭を下げた手塚に、いいのよ、私の個人的興味もあるから、と折口が笑う。
よし! と玄田が両の手を組んで、バキバキと指を鳴らした。
「お姫様奪還計画、始動だ!」
「~~~~っ!」
おーっ! と声を上げた笠原と、そのネーミングセンスに大笑いの小牧と進藤。
手塚は後頭部を叩かれたかのように思わず俯いて手で顔を覆った。
…………図書隊にはなんの関係もない話でしょうが!…………
そう言いたいものの、言ったところで聞く耳を持たれないことも目に見えていたので、諦めて溜息を吐くに留めた。



……To be continued.






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05:10  |  *『図書館戦争』二次小説  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

★Re: 真っ直ぐ

アリアアリス様

いつもありがとうございます!
本当におっしゃる通りです、真っ直ぐなんですよね手塚の視線の先に居るのは。
想いもそのまま真っ直ぐなので、柴崎のお母さんには伝わったんだと思います。
そこは手塚だから為せた技かと……(*^^*)

> やっぱり、記憶喪失の時にマコさんと一緒に居られたのが大きいですよねー。
そうなんですよねーw
そこをそう言って貰えて、わかって貰えたみたいで嬉しいです♪
記憶喪失編は、全然話は進まないし、2人はジレジレっとくっつかないし(特に手塚は悶々しているだけで一向に男らしくなかったし)、回りくどい上に全然意味なかったターンじゃないかと読者様は思うだろうなって思うのですが(いや実際そう言われると反論も出来ない正論だなって思うのですが)、実はそこがあるから、今の手塚はしっかり柴崎の想いを真正面から受け止められると思ってたりする私です。
だから、アリアアリス様にも
> 柴崎の精神状態が分かっていなければ、こんなに地に足がついてブレずに進めなかったと感じます。
と言って貰えて、本当に救われます!!!
ありがとうございます(*^^*)
あの時に散々悶々として、手を出していいのかどうなのかってウダウダと悩みつつ、でもずっとマコさんを(マコさんだけを)見て来たから、今の手塚は柴崎と離れていてもブレないし揺らがないんだろうなって私も思っているので…………
不要な時間に見えることでも、2人の為にはあの辛い時期も大事な時間だったんだと思えるような気がします。
(----というには、本当にいつも長々と長ったらしくて、だからそこらへんが読んでても伝わりにくいというか分かり辛くて申し訳ないというか、文才が不足しすぎているというか…………orz.なんですよねー…………)

> でもそんな手塚が「こっぴどく振られる」ターンを期待します(笑)
ですよねーww
私もそろそろ、柴崎不足です…………。
柴崎スキーの私が柴崎不足…………おおう……(TT)
こっぴどく振って貰うターンに早く辿り着きたい!!!と私も切実になってきました。
ガンバレ、手塚★

> 【コーヒー8つ事件!計画的完全犯罪が今ここに!】
爆笑!!
うまいっ!! 上手すぎます!!!
ですよねーw 無理ですね、上に隠すのは(笑)
進藤さんなんか後で知ったら激怒じゃないですかね?(笑)
もし蚊帳の外にされていたら、後で手塚イジメの為にみっちりと個別訓練ですよー(笑)
ねちねち、ネチネチと手塚の耳元に不満をばらまきつつ、射撃訓練(笑)
手塚の精神力が鍛えられそう!!!(笑)
> 難しい案件が、難しくなくなるような雰囲気が、すでに最恐(笑)
うまいっ!!! ですよねーww
なんだかすぐに解決しそうな雰囲気が今ここに!!!(爆笑)
…………まぁ、簡単ではないのですけれど、簡単そうですよねーこのメンバーなら(笑)

> 思いの外、手塚は愛されてた。
(笑)
ハイ、私もそう思います♪
郁ちゃんは主役で初の女性タスクフォース入りと言う特別なポジションで入ってきましたし目立つし、絶賛郁ちゃんウェルカムだった感じがしますけれど、隠れてるだけで手塚も愛されていたと思ってます(笑)
成績優秀だから選ばれた、とは思っていません。
だって、あの隊長だもん(笑)
成績優秀、図書館協会会長の息子、……でも、ちゃんと手塚が頑張っているところは皆が見ていたと思いますね。才能だけで入ってきた手塚じゃないから。
なので、原作ではあまり書かれてはいなかった気もしますけれど、私の中ではタスクフォースに郁ちゃんと共に2人選ばれる時点で、手塚も愛されてると思うんですよねーw
手塚の主な担当は進藤さんあたりだったのかな?(笑)
堂上さんはもう、初期は郁ちゃんしか目に入ってない感があるので、手塚の事はあんまり見てなかった気もしますけれど…(酷い★笑)

> この「お姫様奪還」チームの今後に期待しちゃいます☆
今後、期待に応える動きをするのかどうかは不明ですが(ヲイ★)、彼らあっての図書隊なので(笑)これで手塚も図書隊に居ながら動きやすくなったと思いますね!
ガンバレ、手塚。

それから、追伸!!!
追伸、凄いですね!!!
なんでしょう、私の書く文章よりもインパクト合って強烈ですー!!!
手塚の切ない想いが全部書き出されていて凄い…………。
凄いですね、こんな風に手塚の心理描写を短い言葉の中に書いてしまえるって凄いです。
私はどんだけダラダラ長く書いてるねんって感じですが、本当に、手塚の心理状態の全部が、追伸の詩のような言葉の中に全部詰め込まれた感があって……………
本当に素敵です……www
いやもう、私の文章要らなくね? と思うくらい、凄かったです!!!
読ませていただいて、ありがとうございました!!! 

ツンデレラ |  2016年12月23日(金) 06:18 | URL 【コメント編集】

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 |  2016年12月22日(木) 01:03 |  【コメント編集】

★手塚関係、必須メンバー?(笑)

ママ様

ありがとうございます!!
ですよね、隊長は『図書隊案件』と思ってくれていますよね?!(笑)
そして、手塚と言えば…………のメンツを揃えたんだと思うんですよねー。
あ、緒形さんは、何かの時の事後処理とか自分の代行とか頼まなきゃならないから(笑)
ウチの進藤さんは、手塚に関してはしゃしゃり出たいタイプなので(笑)もちろん隊長にとっては手塚関係では外せない人物(笑)。
というわけで、手塚関連といえばのメンツは揃えた、と(笑)
もちろん、事務室に進藤さんと緒形さんの2人だけなのをいいことに書き込んで、もうこれで二人ならわかるだろ、との確信犯だと思いますねー(笑)
もちろん、ちゃんと察する2人です(笑)。
こういうところが図書隊かなァ~~とか(笑)
…………とはいえ、当面は情報収集が主目的になるので、この面子ではあんまり動くことはないのですけれど、そのうち少しくらい出番があるかと…………。まぁ、図書隊は図書館内でないと自由に動けない筈なので、そこまで出張ることはないでしょうけれど★
やっぱり警察に動いて貰うより、図書隊に動いて貰いたいなァ。。。。。←ヲイ★そんなことしたら図書隊が叩かれるぞー!!

記憶を取り戻した手塚を、そりゃもう、このメンバー全員喜んでますよー!!!
やっぱり、記憶なくても卒なくこなしてはいたけれど、記憶ない手塚には面白味はなかったと思うし。(面白味って★笑)
もちろん、そんなことは隊長なので誰にも漏らさないけど、折口さんにだけはぼやく…………(笑)
折口さんには玄田隊長は、本当に図書隊内に留めなければならない極秘案件以外は、腹を割って話をしてただろうと思うので。
折口さんから漏れる玄田隊長もお茶目で可愛いような気がします(笑)

柴崎のお母さんは、ずっと一人で抱えていたと思うので、手塚の言葉に救われているかな、と思いますね。
気持ちを分かち合える人が居ると、本当にすっごく違ってきますから。
本当の柴崎をよくわかっていて、他人を傷つける言葉を吐きながら自分が一番傷つく……そんな頑なで素直じゃない麻子さんが好きです、なんてストレートに言われて、柴崎のお母さんは本当にホッとしたんじゃないかと。
麻子が生きるためには婚約破棄、と思い込んでいた柴崎のお母さんの頑なな心も、これで少し絆されてくれているのではないかなぁ…と私も思っているところです。
もちろん、母親なので…………娘が第一になるんですけれど、柴崎のお母さんにちゃんと気持ちをわかって貰えることで、これからの麻子サンとの距離が違ってきますものね。
麻子さんに会える日まで、頑張れ手塚!!!

ツンデレラ |  2016年12月17日(土) 05:19 | URL 【コメント編集】

★幸せ過ぎwww

Sauly様

ウチの特殊部隊の人達は、お節介でいい人達です(笑)
お蔭様で(?)手塚が一人で抱え込まずにいられます(笑)
清く正しく面白く喧嘩するのが特殊部隊風?(笑)

ところで、Sauly様の私の話から分岐したゴッドファーザーの方が、予想外の幸せっぷりに驚いているのですが!
まさかの結婚式とかビックリしました★
籍を入れてないから、あくまで名目上ですけれど、これは柴崎嬉しすぎるでしょうね!!
こちらの柴崎は、手塚が殺しをしたことを薄々わかった上で、でも名目上とはいえ式を挙げたのですから、それなりに覚悟してのことではあると思いますけれど。
手塚の殺しが明るみになっても、それでも傍に居る、という覚悟をもっての事かなァと……。

しっかし、いくら国外とは言え、ひっそり結婚式じゃなくて大々的に式を挙げっちゃってるので、これはいろいろな方面に情報がいくのではないでしょうかね((((((--;)
見つからないように、ひっそり挙げなきゃ!! と思った私です(苦笑)

とはいえ、とっても幸せなターンでしたけれど、Sauly様はあくまでもゴッドファーザーなので、きっと急転するのかなァ。。。とも思ったりしています。
やはり最後は郁ちゃんの見ている前で、扉がパタン、なのでしょうか…………。



ツンデレラ |  2016年12月17日(土) 05:02 | URL 【コメント編集】

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 |  2016年12月16日(金) 13:35 |  【コメント編集】

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 |  2016年12月16日(金) 06:40 |  【コメント編集】

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