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≪背中の靴跡シリーズ≫ 『一歩先へ vol.4』~『1つだけの願い』番外編~

≪ 一歩先へ~vol.4~ ≫背中の靴跡シリーズ『1つだけの願い』番外編

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柴崎の着替えを待つ手塚に、須賀原伯爵夫人の姪水島久美子が笑顔で話しかける。
※今回は柴崎に対する不快なシーンが出てきます。お嫌いな方は絶対に読まないで下さい。
  こちらへのクレームは受け付けておりませんので、くれぐれも自己責任でお読み頂くようお願い致します。





≪ 一歩先へ~1つだけの願い番外編~vol.4 ≫背中の靴跡シリーズ


「…覚えてますか? あの……昔、まだ小さかった頃に……私、光殿下の妃候補としてお会いしたことがあるんです」
シナを作った久美子の身体が少し触れる――――遠慮して、触れない距離に間を取りながら「ああ」と相槌を打つ。
「覚えていて下さったんですか?」
久美子のトーンが嬉々として上がった。
まさか、さっき思い出したとも言えない手塚は「確か貴女は泣いてしまわれましたよね」と思い出したことを口に乗せた。
「ええ、ええ!」
久美子の顔がパッと明るくなり頬を染めた。
「…あの時…、私は、見たこともない方と婚約をさせられることにとてつもなく緊張してしまっていて――――ですが光殿下を目にした途端、わかったのです――――これは運命の出会いだって。光殿下の優しく私を見つめる瞳や声……思わず胸がいっぱいになって、感動で涙が溢れたのですわ」
「――――は?」
ウットリと自分の世界に入っている久美子は、手塚の呆れた相槌などには気付くことなく続ける。
「ですが丁度その頃、黄国の姫君との縁談もあるとかで話が流れてしまって――――私は光殿下を想って、泣きました……ですが、やはり運命は私達の赤い糸を切ることは出来なかったのですわ。結局、黄国の姫君は慧殿下と婚約なさり――――私達の間に障害はなくなりました。
…………ずっとこの日を待っていたんです。こうして再会を果たし、お互いの胸に秘めた想いを確認し合う日を……。――――ずっとずっと待っている間には、光殿下が私のことを忘れてしまったのではないかなどと疑ったこともありますわ。……でも……違ったんですね。ようやく今日、わかったんです。あの巫女の皮を被った魔女が光殿下の傍に居たせいで――――光殿下はあの女狐から私を守る為に、今日まで沈黙を貫いてらしただけなんですね――――今日、あの女を見て、ようやく私にもわかったのですわ」
そういうと手塚の手に包帯の撒かれた手を重ねて来たから思わず虫唾が走り、手加減はしながらも容赦なく振り払った。
なのに、にんまりと久美子は笑う。
「……もう大丈夫です――――もう二度とあの女が光殿下に纏わり付くことはないでしょう。この私の手を取ることにもう躊躇う必要ないのです。私達は幸せな未来に向かって――――」
「……どういう意味だ?!」
久美子の台詞を切り裂くような、怒気を孕んだ鋭い手塚の声がした。
一瞬で変わった手塚の気配に、さすがの久美子も気圧されたかのように口籠る。
「――――言えッ! どういう意味だ?! もう二度と纏わり付くことはない、とは?!」
「~~~~そ、そそれは……、あの女は卑怯にも光殿下の【御魂】を自らの内に取り込み、光殿下を縛り付けたのです――――王族の宝である御魂を奪われた光殿下は為すすべもなく、心に秘める私への想いを隠して、光殿下は私を守る為にも、あの魔女の言い成りになるしかなかったのですよね……。ひょっとするとあの女狐はそんな傷心の光殿下に、更にその上無理矢理自分の方へと目を向けるように媚薬を施したり誘惑の魔術をかけたりしたのかもしれませんわ――――光殿下が正常な思考を出来なくするように…………」
あまりに勝手すぎる自己解釈を能弁と綴る久美子に反吐を吐きたくなったが、グッと堪えた。思わず拳を握り締める――――そうでもしないと、女性だとしてもこの女を本気で殴り飛ばしたくて仕方なかった。
唇まで噛み締めた手塚を見て、何を思ったのか、また久美子は口元を緩めた。
「――――光殿下のせいじゃあ、ありません。……すべてはあの女の仕業――――魔物なんですわ、きっと。……私は過去のことなんか気にしません――――光殿下はたぶらかされていただけですもの。私が傷ついた光殿下の心までも癒して差し上げますから――――」
また柴崎を貶めるような言葉をくどくどと並べ始めた久美子に、もう聞く耳を持つ気はなかった。
目の前の扉に向かって猛然と向かい、柴崎の名を呼びながら、鍵が閉まった開かない扉に体当たりを何度も食らわせ、扉を壊して中に入る。
――――予想した通り、もぬけの殻。
背中から、ねっとりとした久美子の声がした。
「――もう大丈夫ですってばぁ、光殿下は解放されました。…………今頃あの女は、あの女に相応しい場所で処理されてゆくのですわ。――――人間、分不相応が一番で、…っ」
久美子の言葉が途切れた――――振り向いた手塚の形相は仁王そのもので、怒気を孕んだ鋭い声に貫かれたかのような気がした。
「言えッッ!! 柴崎をどこにやった?!?!」
「~~~~ッ…、わ、私、し、しし知ら…な…………しら……」
声だけだと言うのに手塚に威圧されたように後ずさってふらついた久美子は、呟きながらそのまま白目を向いて失神した。
一瞥しただけで無表情に捨て置くと、修羅のような空気を身に纏ったまま疾風のように手塚は駆け出した。
会場に戻ると兄の慧を見つけ――――異様な弟の雰囲気を一目見て兄も非常事態を察する。
「――――どうした」
「麻子が攫われた。共犯は須賀原の姪の久美子だ。警察、警備部隊すべて召集、総動員で捜索を――――麻子は東の方角に居る。俺は先に救出に向かう」
「どこだって? おい、ちょっと待て! 東のどこに――――」
「わからん!! だけど東に御魂の気配を感じる――――ともかく、急いで人手をッ!!」
そう言い捨てるや否や、もはや手塚は飛び出してゆく。
その脱兎の勢いに、慧をもってすらそれ以上の言葉をかける暇もなかった。
既に見る影もなく出て行った背中に溜息を吐くと、慧も早足で会場の外で待つ警備兵の元へと向かう。
流石というべきか、慧が会場から出て少しのところで、今回同行の警備隊長の緒形が急ぎ足でこちらに向かって来てくれていた。
恐らく、仁王のような形相の手塚を見ただけで、ある程度の事情を察したのだろう。
有能すぎる警備隊長に手塚から聞いた事情を説明すると、緒形は眉を潜め――――警察だけではなく玄田にも連絡し、玄田から須賀原と姪の久美子に事情を聞くように手配をしてくれた。
……舜国でも一、二を争う富豪である須賀原伯爵家に捜査の手を施すのは、今でもそれだけ大変なことなのだ。
その上で、下女や下仕え、給仕達に聞き込みをし、宴が始まってから会場から出て行った馬車や荷車についての情報収集に努める。――――その中から手塚の残したヒントである『東』に向かって走ったものに絞り込む。
犯人と思しき集団を2組まで絞り込むことが出来た――――商品となる黄金属品を取りに向かったと言う鉱山従事者。もう一人は宴に出す飲食物の補充の為、食物庫に向かったと言う須賀原伯爵家の下人。
どちらも屈強な男達だったそうで、大きめの荷物を運んでいたという。
駆け付けた進藤に事情を説明したら、進藤がニヤリと笑った。
「……もう1つ、確実な情報があるだろ」
「…………なんのことだ」
何か大切な情報を忘れていただろうかと眉を潜めた緒形に、お前は真面目すぎんのがたまに傷だな、と人を喰ったような進藤が笑った。
「柴崎の行先となりゃ、もっと確実な痕跡があるだろ――――修羅の様相で馬に飛び乗って行ったとかいう我が宰相殿の後をつけりゃ確実だろうよ」
言われて、なるほど、と緒形も認めた。
慧曰く、手塚には柴崎の居場所がわかる――――つまり、手塚の向かっている先こそがビンゴだ。
「つまり、鬼を乗せた馬の駆けた方角に俺達も向かえばいいだけの話さ」
そう言った進藤の肩を緒形は頷きながら叩くとすぐに、馬に乗って精鋭部隊を連れて走り出したのだった。


     ***


痛みのようなものを感じて目が覚めた。
意識が浮上するや否や認識できない程近くに人の顔があり、驚愕しつつも逃げようと身体を動かそうとして手足の自由が効かない。
「――――起きたか」
見れば、覆い被さるように目の前に男が。
跳ね退こうとするが、背中で縛られている両手首と、縛られている両足首の紐が鳴り身に喰い込む。
身じろいだせいで、身体の芯に疼くような痛みが走った。
一瞬で目が覚めた。
記憶が急速に巻戻る。

ワインで汚れた服を着替えるために案内された部屋に入り、服は奥のクローゼットから自由に選べと言われて更に奥の衣裳部屋の扉を開かれた途端、中から男達が複数飛び出て来たのだ。
最初の男を避け、次の男の攻撃を交わしたところまでは覚えているが、後ろから衝撃が来て体勢を崩したところに、鳩尾に強烈な拳が入って意識がなくなった。

連れ去られたのだろう、ここは衣裳部屋ではない。
――――どこだろう……。
独特の砂埃に、体臭だろうか異様な匂い――――その生臭さに交じって更には食べ物が腐ったようなカビたような異質な匂いも交じっている。
柴崎が足を踏み入れたことのないような場所だ。
目途も付けられず、何はともあれ、ともかく目の前の男を睨みつけた。なのに男は鳥肌が立ちそうな程厭らしそうな笑みを浮かべて口を開いた。
「――――気ィ強ぇ女は嫌いじゃねェ」
グッと顔を近付けてきたから、唾を吐いてやった。
途端に凄い衝撃が来て、身体が捩れる程だった。
口の中に鉄の味がして、ジンジンと熱くなる頬の痛みに、力任せに殴られたのだと知る。
「――――舐めんなよ、こっちは毎日、岩石相手に働いてんだ! オメェの骨を砕く事なんざ造作もねェんだぜ」
そう言うと、柴崎の顎を掴んで顔を向けさせる。抵抗しようと思っても、首の骨が折れそうな程の力だ。
無理矢理向けさせられ、せめてもの抵抗にまた唾を吐いてやろうとすれば、固く厳つい手で口を塞がれた。
その手を噛んでやろうと思うのに、床にめり込ませようとするかのごとく骨が軋む程押さえられて動かすことも出来ない。
――――苦しい……。
「お上品そうな顔に似合わず、とんだじゃじゃ馬だな。――――いいか、今日からお前は俺らの慰安婦だ。お前は鉱山の男どもを慰め、欲望の捌け口になる為だけに生きて貰う――――なぁに心配すんな、すぐに正気も失せる。大概の慰安婦は初日で狂っちまうからな。
廃人と化した抜け殻の女でも穴に挿れて突く道具として居ねェよりはマシだが、今みたいな初日の強姦プレイが、血気盛んな俺達にとってはソソルんだよなぁ――――腕っぷしが強ェ順に待ってるからよォ、せいぜい抵抗して面白がらせてくれよ?」
そう言うと、少し男の気が逸れた。
必死にもがいて、唇を塞いだ手がずれるように体勢を捩じって、手を噛んでやった。
「~~痛ェ…ッ?!」
叫びながらも男の平手が飛んだ。
頭が真っ白になる程の衝撃と共に、さっきと同じ側の頬に痛みと熱が増す。
口の中は更に血が溜り、思わずむせて咳き込んだ。
口の端から血が流れたのがわかる。
「…………へぇ…、ホントに気ィ強ぇ女だな! ――――けど、その気力もどこまで続くだろうな?」
言いながら、男は手にナイフをもてあそんでいた。
さっき一瞬男の気が逸れたのは、ナイフを取る為だったのだろう。
斬られるのか、と緊張が走った――――男のナイフが柴崎の胸を狙う。
ナイフが皮膚に喰い込むかと思ったが、そうではなかった。
滑るように皮膚を撫でた刃は、柴崎の胸を隠していた布を胸の真ん中で切っただけ。プツッという軽い音がして、その音に被せるように一瞬男の鼻歌が聞こえた気がした。
……胸、が……
見られる、と羞恥に顔を背けようとしたけれど、抑えつけられているので動かせもせず、後ろ手に縛られている腕を身じろがせただけ。
「――――スゲェな……マジで特上級だ」
男は本気で感嘆したように独りごちた。
――――と、柴崎の全身に、虫唾が走るように気持ち悪さが襲い、身を震わせた。
吐きたくなる程の不快感――――何が起きているのかわかるまでに、しばらくかかった。
男が、胸を鷲掴んで吸い付いていたのだ。
チュパチュパと明らかに聞こえよがしに口音を立てて吸っていたと思ったら、次は耳を塞ぎたくなるようなねちゃねちゃとした水音をわざと立てながら胸を嘗め回し始めた。
あまりの気持ち悪さに胃から込み上げてくる感覚がして嘔吐いた。
口の中に広がっていた血の味が、更に吐き気を酷くする。
そんな柴崎の様子も感じていないのか、男は柴崎の素肌に舌を這わせながら執拗に吸い付いている。
堪らなくなって思わず柴崎の口から「…………っ、…ぇ……っ……」と嘔吐きが零れてしまった。
その漏れた声に、男がようやく顔を離して柴崎を見る。
「なんだ、もう感じてんのか? 早ェな」
と下品な笑い声を上げた。
柴崎が答えられもせず必死に込み上げてくる吐き気と闘っているうちに、次は逆の方の乳房を喰らわれた。
「~~~~ッ、つ…ッ…………」
今度は噛まれたらしく痛みが走る。
さっきまで舐められていた方の胸は捥ぎ取られるかのように荒っぽく手で掴まれて形を崩された。
痛い。
気持ち悪い。
吐く……。
訳もわからず、柴崎の頭は真っ白だった。
あまりの苦痛と不快感に、呼吸すらままならなくなる。
……苦しい……。
こんな苦痛は初めてのことで――――思わず縋るように、ただ一人の男を心に思い浮かべた。

…………たすけて…………

助けて。

熱くなった目頭の奥に浮かぶのは、柴崎の想い人の顔。

――――バリンッ!!!

突然、激しい音がして、男の動きが止まった――――と思った時には、柴崎の上に馬乗りになっていた男の身体が消えた。
だが、咄嗟に柴崎はまったく頭が付いて来なくて――――随分と遅れて、激しい物音と共に自分の名前が呼ばれていたことを認識した。
…………な……に…………
ノロノロと首を回すと、柴崎の上に乗っていた男は完全に意識を失って(その顔は鼻の形が明らかに歪んで、その鼻と唇からは血を流していた)――――手塚が縛り上げていた。
無造作に男を転がすと、手塚は柴崎の方を向き――――まるで自分が刺されたかのように痛そうな顔をして色を失った。
気丈にも何も言わずに道行を脱ぎながら静かに近づいてくると、脱いだ服で柴崎の前を覆って抱くようにして柴崎の身体を起こして、男が無造作に放ってあったナイフで柴崎の手足を縛っていた紐を慎重に切って、残った縄は丁寧に手で解いてくれた。
解放された腕を下ろすだけで肩も肘も痛み、上手く動かない上、自分でもわかる程に震えが止まらない。
「……もう大丈夫だ。…………遅くなってごめん」
きつく抱き締めてきた手塚だったが、それでも労わるように力加減に気遣っているのがわかる。力強く抱き締められてはいるが苦しくはない。
ひかる、と名を呼ぼうと思ったのに、最初の一文字を口に乗せようとしただけで、しゃくり上げそうになって――――堪えようと思ったのに、ボロリボロリと熱いものが目から込み上げて止められない。
…………どうしたと言うんだろう…………あたしとしたことが、事態にまったく頭が付いて来ない。
手塚の胸で、震えていることしか出来ない。

――――と、外がざわめいた。
柴崎の身体はそれだけで息を呑み、手塚の胸の中で固く縮こまった。顔色は完全に蒼白だ。
手塚にも緊張感が走る。
素早くナイフを手に取ると、グッと柴崎を胸に抱き締めて立ち上がり――――締まっている部屋の扉を睨み付けた。
近付いて来る静かな足音は数人といったところか。
この部屋の扉の前で止まる。
――――ゆっくりと扉が開いた。

シュ…ッ! と手塚の投げたナイフが扉から入って来た人目掛けて飛ぶ――――。

「…あっぶねー!! あぶね、あぶね、お前なぁ!!」
危ない、と言いながらも緊張感の欠片もない様子でナイフを引き抜いて手塚を見て笑った進藤に、思わず手塚は安堵の溜息を吐いた。
「――――なんだ……。早かったですね」
「『なんだ』じゃねぇだろッ!!! 顔を串刺しにされるトコだったぞ!!!」
「まさか。全然余裕で避けてたじゃないですか」
「お前なぁ! 上官目掛けて凶器投げ付けといてその言い草はねぇだろ!!」
「大丈夫ですよ、こんな攻撃はお2人にとっちゃ攻撃のうちにも入らないでしょう」
「相変わらず可愛くねーなー。俺達じゃなくて、先に部下に踏み込ませてたらどうするつもりだよ?」
「下士官なら、あんな堂々と扉を開いたりしませんよ。悠長に足音立ててやってきて呑気に扉を開くなんてことは、よほど腕に自信のある人物にしか出来ません」
手塚の物言いに、かー可愛くねー! と進藤が嘆いている横から緒形が口を挟む。
「この部屋以外の連中は精鋭部隊ですべて捕えた。――――柴崎は」
緒形に問われて抱き締めた人を見れば、手塚の胸に顔を埋め意識を失っているようだった。
泣き濡れた、血の気のまったくない蒼白な顔。――――その中で頬だけは赤く鬱血して腫れ上がり、口端からは血が流れた筋。そして――――今は隠してやっているが、露わにされていた乳房。
下半身のズボンは乱された形跡はないけれど、貞操を奪われようとしていたのは明らかだ。
…………どれだけのショックを受けていたんだろうか――――柴崎らしくもなく、手塚が部屋に飛び込んでからも、ただ茫然として一言も発することが出来ない状態だった。
ようやく助かったとの意識が芽生えた途端、隠すことも出来ずに大粒の涙を溢れさせた。
抱き締めた華奢な身体は、これ以上ないくらい強張って震え続けていた。
手塚の胸が締め付けられる。
どれ程の苦痛と恐怖を味わっていたんだろう――――みすみす柴崎を攫われた自分の不甲斐なさに歯噛みする。
「…………気を失っています。…………酷く殴られていて……、早く王宮に戻って手当てをしてやりたいのですが……」
とにかく、この場から一刻も早く柴崎を出してやりたかった。
手塚の気持ちが伝わったのだろう、緒形は頷くと、「後の処理はこちらでやっておく。手塚は柴崎を安全な場所へ連れ、至急手当てを」と言ってくれた。
頭を下げると、扉に向かって歩き出した。
進藤が手塚に声をかける。
「柴崎だけじゃなく、お前も手当てして貰えよ。……窓に体当たりで割って突入したんだろうが――――顔も腕も酷ェ傷だぞ。ったく道具使って割れよな!」
「…………冷静さを欠きました。中の様子が見えた途端、頭が真っ白になってしまって――――」
「……まぁ……けど、痕が残らんようにしっかり手当てして貰えよ。お前に傷が残ったら……その姫さんが気にするだろうからな」
「――――はい」
進藤の言葉に、あまり自分に関心がなかった手塚だったがもっともな意見だと気付く。
ようやく自分の身体に目を向ければ、確かにあちらこちらにキリキリするような痛みを感じる。だけど、傷の痛みよりも気になるのは柴崎の心に受けた傷――――……。その上、俺の怪我を目の当たりにしようものなら、自分のせいで、と柴崎は自虐的なくらい自分を責めるだろう――――自分が受けた傷よりも傷つくかもしれない。
……そういう柴崎の内面は、自分と笠原くらいしか知らない柴崎の一面だと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。
柴崎を認め、見守ってくれていた仲間達は気付いていたんだ。
進藤と緒形に深々と頭を下げた。
そんな手塚に、柔らかな笑みを浮かべながら、進藤と緒形は肩を叩いた。



……To be continued.








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待っていて下さってたなんて、嬉しい…w

ママ様

ありがとうございますw
こんな回ですが、待って下さってて嬉しいですw
そうなんです、前回、麻子との会話で思い出した『何も喋らず、話かけても無反応だった挙句に泣き出した女の子』が水島です★

手塚の中ではその印象すら薄いけど、『同じ女の子でも麻子は泣き顔を見せたがらないのに、こいつは大声で泣くんだな』ってことだけが唯一思い出した印象と言うか…………(苦笑)
とりあえず、自分に、と会わされた女の子が泣いてたら、まぁ……とりあえず手塚の性格上、どうしようもないけどとりあえず付き合って(傍で佇んでただけですが)やってたのかなー、という感じです。
でも、水島の中では美化されてるから、手塚は自分のことを気に入ってずっと傍に居てくれてたんだ、と思ってたことだと思います(苦笑)
でも、婚約は手塚父より『ノー』と言われたんですけどね?
そこはもう、自分の都合のいいようにしかとらない水島ですから(ある意味、とってもオメデタイですね)、手塚は自分のことが好きなのに政略結婚に使われそうになってるとか、黄国の姫君との婚約が慧だとわかったら今度は『私を想って黄国の姫君の事は拒否されたんだわ!』とか、もうホント傍若無人な思い込みのみで生きて来たんだと思います(苦)
なので、今の水島は『魔女(麻子)から光殿下を救って差し上げた』くらいにしか思ってないと思います。
後は麻子が二度と手塚の前に現れなければ、麻子がどうなってたって構わないんですよね。
須賀原家も水島家も、恐らくは、借金のかたに娘を差し出せ、とかしてたんじゃないでしょうかねぇ。。。
商売の代償等で金が払えなかった相手に対しては、娘やら息子やらを差し出させて、娘は慰安婦だとか下女とかで死ぬまで働かせ続け、息子なら鉱山作業員とか家畜の世話係とか下人とかでこれまた一生扱き使って働かせたのではないかと。
そういう無償の労働力を使って、自分達は利益を貰っていたんじゃないかとか……思うトコロはいろいろありますね。

あ、爵位は基本的に、既に『ない』社会です。
一応、手塚が身分制度の廃止を初勅で謳い、それから1年半以上は経っていますから……。
これまでの慣例的に伯爵夫人、とか呼んではいますけれど、本当は実質そんな身分を付けない筈なんですが、いかんせん須賀原女史は身分制度カムバック派で『名門伯爵家』に固執しているタイプなので、柴崎を筆頭に、まぁとりあえず名前を呼ぶくらいなら……という感じで伯爵夫人、と言ったりしているだけです。
なんで、正しくは『須賀原さん』って呼んでいいんですけれど、須賀原女史の醸し出す雰囲気や須賀原女史の周囲が、旧体制の呼び方通りの『須賀原伯爵夫人』と呼ぶのを止めないために、まぁ倣ってそう呼んだりしてる、というだけではあります。
ややこしくてすみません。。。
とまぁ、本編では出てこないような、細かいトコロの説明をレスしてみました★(苦笑)
なんせ、須賀原女史も、水島も、旧体制では身分制度の上に立っていることにふんぞり返っていた人達なので、正直、新体制においてはとてつもなくやりにく相手の1人だったというわけです。
この後、この2人がどうなっていくかは、この話で追う気はないですけれど、やはり時間と共に、衰退していくと思いますね。

> 手塚と進藤さんの上官を上官とも思わない会話好きだわ(笑)
ありがとうございますー!!!
私も実は好きで(笑)
進藤さんが若干ハッチャケてますけれど、進藤さんと手塚のやり取りって結構好きなんですよねェw
堂上さんはやっぱり郁ちゃんが第一になってしまうけど、進藤さんにとっては狙撃手としての一番弟子の座は手塚だったと思うし、手塚のことを良く見てることがわかる会話をするからかなww
緒形さんと進藤さんのペアも、なかなか面白くて好きですねぇ。
寡黙な緒形さんの性格が、若干私には掴みにくくはあるんですが、進藤さんがそこを美味しいスパイスに代えてくれてる感じがw(笑)
番外編では、こういう外部も書けるのがまた楽しくていいですねーww


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