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2019.01.19 (Sat)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『空駆ける靴』~vol.2~

≪ 空駆ける靴~vol.2~ ≫背中の靴跡シリーズ


深紅の絨毯のゴール地点に人影が見えず、俺達は互いに戸惑った視線を交わした。
親族すら居ない。
戸惑った表情のままに麻子がキュッと絡めている腕に力を込め、距離をゼロにしたら――――麻子の柔らかな胸の感触がグッと押し付けられる。
「…どうせ悪戯だろ。大丈夫。とりあえず進むか」
気を紛らすようにそう言えば、ホッと麻子の表情が緩むから、そんな素の顔にまた愛おしさが湧く。
歩きながら、それでもさっきよりも近い距離。
「……悔しいな、光に励まされるとか」
麻子が少しだけ拗ね
たような表情をした。照れ隠しだとわかり、俺の頬が緩む。
「どーゆー意味だよ。俺はいつもお前の支えだろ」
「大黒柱ではあるけど、精神的にはあたしの方が年上ですう!」
「『年上ですう』って言ってるようじゃ、もう俺の方が精神年齢は上――――…」
そう言った時には大きな絨毯のすぐ手前まで来ていて。
――――突然の大歓声が湧き上がり、俺の声なんか掻き消された」

「「「「「「「「「「ご結婚、おめでとう――――――――ッッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

ワーッ! と木霊する大歓声と大勢の人の気配が背後から迫って来て、驚ろきのあまり竦んで固まる華奢な身体をかばうように抱いた。
俺が振り向いた時にはもう、俺達は皆からすっかり囲まれた状態だった。
皆凄い笑顔で――――正直、俺達以上に笑顔満面じゃないかと思うくらいで――――が、抱きしめた小さな身体がガクッと沈みそうになる重みを感じて、慌てて力を込めて抱き上げる。
「~~ちょ…っ、麻子ッ!! バカ、うるせぇ、黙れッ!! 麻子ッ、大丈夫だからッ!!!」
「~~~~っ……、っ、……っ…」
抱き上げて顔を見れば、驚きのあまり、うまく呼吸が出来なくなってる。
咄嗟に口付けた。
口を塞ぐことで、『息をしなければ』と脅迫観念染みた無意識の自己防衛の麻子の思考は落ち着いてくるのが常だ。
今みたいな少しの衝撃なら、これでいつも治まる。
ごく稀に、町で見知らぬ人から急に声をかけられたり悪夢を見たりすると、麻子はこんな風になることがあり――――今では、この対処法が一番効果的だと知ってる。
これまでの心の傷の後遺症だと想えば、悔しく悲しい。
しばしそのままの状態で麻子の様子を探り、麻子の方から呼吸の気配がした段階でそっと唇を解放してやる。
「~~~~は……っ、ぁ……、はー……、はー……」
「そう……大丈夫、大丈夫だから」
苦しかったのか怖かったのか、潤んだ目で俺を見つめる麻子が、なんとか呼吸を整えようとする様子に胸を撫で下ろす。麻子を周囲の目から隠すようにそっと引き寄せて抱き締めた。
安堵すると同時に怒りが込み上げてくる。
「~~~~ッ!! あ・ん・た・た・ちっ…!!!」
ギロッと周囲を睨むのに、囲む人達は怯えるでもなく頬を染めて「おー…」「ひゅーっ」なんて声を上げる。
先程までの爆発的な騒々しさはなりを潜め、皆、固唾を呑んで見守っていたらしい。
進藤がニヤニヤしながら、「いやー、これからって前にイイモン見せて貰ったなー。式よりインパクトあったぜ」なんて言ってるのが聞こえ、小牧も必死に笑いを堪えようとしているらしいが完全に失敗しながら「……ごめんごめん、こんなに驚くなんて思わなくって」と呟いた。
このバカなアイデアの出所は、どうやらここら辺らしい。
一発ぶん殴ってやろうかと思ったけれど、麻子を抱きしめている状況と、緒形と堂上他、女性陣も恐縮した表情で「すまん」「ごめん」と何度も謝ってくれていたし、今日という日を思い出せば、握り締めた拳を堪えるしかない。
更に気持ちを宥めるように、俺の胸元に顔を埋めていた麻子が、どうやら呼吸も整ってきたようでいつもよりも少しか細いながらも「……光…、もう大丈夫……」と呟いた。
これからの晴れ舞台を想えば、精神力を搔き集めて堪える。
殴ろうと思った衝動を紛らそうと、おもむろに麻子を横抱きに抱え上げた。
「~~え…っ…?!」「うわっ!!!」「うひょーっ、やるーっ!!」「ヒューッ!!」
再び立ち上がる騒々しい歓声。
抱え上げた麻子もまた、驚きに固まった身体で顔を上げ――――スタスタと当初のゴールまで歩いているうちに、みるみると真っ赤に顔を染めてゆく。
言ってもものの数秒だが端まで歩くと、そのままクルリと皆の方を振り向いた。
ドッとひと際歓声がうねりを上げる。
見れば、見知らぬ通りがかりの人達まで、こちらを見て笑顔で大きな拍手をくれていた。
「~~ちょ…ちょっと光っ!! ~~お、下ろして…っ」
「立てないだろ、お前。まだ身体の芯が震えてる」
サラリと言えば、ぐっと珍しく麻子が押し黙る。恐らく自分でもまだ、立てる自信はないのだろう。
ふ、と思わず緩んだ口元のまま、麻子から皆へと視線を戻して真っ直ぐに見渡す。

「本日は俺達の結婚式にお集まりいただき、本当にありがとうございます!」

堂々とそう挨拶すれば、公園中に響き渡るような大拍手と歓声が上がり、せーのっ! と笠原の掛け声と共に
「「「「「「「「「「結婚、おめでとう――――――――ッッッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
と皆の声が一つになって祝福の声が上がった。
地鳴りまでしてるんじゃないかという大歓声だ。
そしておもむろに鳴り始める何十ものクラッカーの音。
舞い上がる色とりどりのテープが空を舞い、シャワーのように俺や麻子に降り掛かる。
綺麗なその景色に、思わず分かち合いたくて麻子を見れば、麻子も俺へと視線を向けていて、大きな黒曜石のような瞳が涙に潤んで煌めいていた。
互いに微笑み合った拍子に目から一粒零れた涙の煌めきは、きっとどんなダイヤモンドよりも美しいだろう。
愛おしくて嬉しくて胸が熱くて、ただただその気持ちを分かち合いたくて、そっとまた唇を重ねる。
またもや大歓声が上がったけれど、正直、俺達の耳には届かなかった。
触れるだけのキスだったが、離れがたくて随分と長い間重ねていたように思う。
ようやく離れた時には、皆が一斉に『長すぎっ!』とツッコミ、冷やかしとニヤニヤ顔に囲まれて、俺も麻子も茹蛸状態になってゆく。
「~~あー、コホン! お前らなぁ、これからが式だって言うのにオイシイところ全部攫っていきやがって、俺の出番が霞むだろーが」
皆の輪から前に出ながら進藤がそんなことを口にするので、思わず噛みついた。
「~~っ! もとはと言えば、師匠らが下手なサプライズを仕掛けるからでしょうがッ!! 人の、一世一代の結婚式をなんだと思ってんですかッ!! ちゃんとやってくださいっ、ちゃんとッ!!」
「あー? 一世一代の結婚式だからこそのサプライズだろ? なー、しば……じゃなくて麻子さんよ? 驚かせすぎちまったことは謝るが、久しぶりにこいつの男前なところも見れたんじゃねぇか?」
そう言われて、麻子はチロッと俺に向かって恥ずかしそうな上目遣いの表情を見せるから、あまりの可愛さにドキマギしてしまう。
「まー、とにかく! 派手なオープニングはここまで! ――――これより、新郎手塚光くんと新婦麻子さんの結婚式を始めよう!」
進藤の仕切り声に、一斉に拍手が起こった。
麻子が恥ずかしそうに、もう大丈夫だから下ろして、と言うのでそっと下す。俺の横に立つ足元は大丈夫そうではあったが、心配だから(というのは建前かもしれないが)腰へと回した腕は離さない。
寄り添ったまま二人で、改めて進藤を見つめると、進藤が満足そうに頷いた。
「さて! 既に見て貰った通り、入籍してから早1年半もの月日を共に歩んできた二人だが、相変わらずのラブラブっぷりだ! あてられるこっちの身にもなれ、と一言二言、言いたいこともあるだろうし、せっかくの機会だ、ここに集まった皆さんから、是非二人へと言葉をかけていただきたい!!」
そう言うと、進藤が指差した方から1人ずつ、新郎新婦へと言葉をかけてゆく。
内容としては、手塚の妻への過保護ぶりが凄いというものが大部分を占め、具体的なエピソードなどが飛び出しては皆を笑わせた。
やがて親族の順になり、桃子は「お姉ちゃんしか見えてない一途な光くんが来てくれて、お姉ちゃんは病気から救われました。笑顔を取り戻して、こうして幸せになることが出来ました。本当にありがとう!」と麻子の涙を誘い、柴崎の母は「歩くこともままならなかった娘が、光さんのおかげで自分の足で立ち上がって歩くことが出来るようになりました。それだけでなく、結婚して、母になることも出来ました。本当に感謝しています。娘にとって光さんはなくてはならない存在です。これからも娘をよろしくお願い致します」と言えば、柴崎の父は「二人にはこれからもずっと幸せでいてほしい。心から二人のことを応援している」と力強く声を掛けてくれた。
〆に相応しい言葉だった。
全員からの言葉を終えて、進藤が凛とした声を上げる。
「……そんな二人の結婚を、俺は、そしてここに集まった全員が、今日ここに承認する!」
「「「「「「「「「「承認する!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
公園中に響き渡るのではないかという程の大きな拍手と温かい笑顔。
思わず麻子の瞳に涙が浮かぶ。
スッと緒形が歩いて来た。
差し出された手の上には、出席者の署名がしてある1足の『靴』。
「~~~~ッ?!?! ~~そ…そ、それ…ッ!!!」
息を呑む手塚の様子に、ニヤッと進藤が笑った。
「懐かしいだろ? お前さんが一番最初に作った、見栄えはいいが履けねぇ靴――――けどよ、しば…麻子さんのことを想って一生懸命作った初めての靴だ。捨てるには惜しいデザインだったし、残しておいたんだよ」
「捨ててくださいッ!!」
「『俺の好きにしていい』っつっただろ?」
「履けない靴なんか捨てると思うでしょうがっ!!」
「ヤなこった。……いつか会うことが出来たら、この靴を麻子さんに見せてやろうと思ってたんだよ――――とはいえ、すっかり忘れちまってたんだけどな。……手塚はあんたに出会って、一人で必死にあんたの靴を作ろうとしてた。会いにいくまで2年もかかっちまったけど、本当にこいつ、片時もあんたのこと想わない日はなかったと思うぜ。まー、残念だけど、見栄えはいいがこいつは履けねぇ靴だけどな」
「……履けない…んですか」
見た目は綺麗な靴だ。
「ああ…インソールがなっちゃいねぇ。歩こうとしたら脱げるだろうし、衝撃もそのまま足に伝わるから足に悪ィ」
「……そう……」
「つーわけで、飾れる結婚証明書として使えるなと思いついたんだ。良かったら飾ってやってくれ」
「だれが飾…」
「絶対飾ります」
手塚の反論を封じるように麻子がそっと手を伸ばす。
手触りからして、今、光が作ってくれる靴とは全然違うのがよくわかった。
硬くて、でもどことなく頼りない手触り。
だけど、温かさは同じ。
光が作る靴は、やはり温かくて優しい。
「……二人の署名も」
緒形がそう言って胸からペンを取り出した。
ぶすっと剥れている手塚に麻子が呼びかければ、しぶしぶながら署名する。
見れば、インソールに『結婚証明書』とわざわざ書いてある。
手塚の次に、もう片方の靴へ麻子が署名する。
二人で一つ――――二つで一足になる靴――――まさに自分達だと思った。
……光が居なかったら、立つことさえ出来なかった。
自分一人では、生きている意味もわからなくなっていた。
こんなに相応しい結婚証明書があるかしら。
目の奥が熱くなる。
慌てて顔を上げて光を見れば、光もあたしを見ていて――――そっと身体を引き寄せられる。
唇に唇が重なる。

「「「「「「「「「「おめでとう!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

声が何重奏にも重なり、尽きることがない。
浴びせられる花びらのシャワー。
現実味のない美しく幸せな情景に、夢じゃないかとさえ思えてくる。
だけど。
重なる光の唇の感触は、これが夢じゃないと教えてくれる。
嬉しくて幸せで胸がいっぱいで――――涙が溢れて止まらない。
温かくて。
眩しくて。
優しくて。
あたし達は今日、皆に認められて結婚式をあげた。



……To be continued.






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2019.01.11 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『空駆ける靴』~vol.1~

≪ 空駆ける靴~vol.1~ ≫背中の靴跡シリーズ


「本当に美しい庭だな。ここには来たことがなかった」
「…………なんでお前まで一緒に来るんだよ。あっちで待ってろ!」
苦々し気な呟きに、手塚の兄が爽やかに笑う。
「これから結婚式を挙げようって弟がガチガチに緊張してたら、リラックスさせてやるのは兄の務めだろう。いやはやその仏頂面、どうにかならんのか」
「お前のせいだろっ!」
「……まぁでも、今日の柴崎さんを見たら途端に崩れるんだろうな。――――美しかったぞ。ドレスが彼女のスタイルの良さを思う存分引き立たせていて、美女に磨きがかかってた」
「うる――――ッて、なんでお前が先に麻子を見てるんだよッ?!」
「なんだ、お前だって知ってるだろう? 衣装合わせとか――――」
「~~~~笠原のドレスを借りてるんだよ! もちろん、麻子の身体に合うように少し手を入れたらしいけど、俺、まだ見せて貰ってない…ッ!!」
クソッ、と小さく呟きながら全力疾走で走り出した花婿の背で、慧の盛大な笑い声が上がる。
そのまま慧は皆が待つ広場の方へと向きを変え、悠々と歩き去った。

――――今日は麻子と俺の結婚式だ。

麻子とは、出会ったあの思い出のベンチで落ち合い、そこから麻子をエスコートして皆の前まで歩いていくことになっている。
皆といっても集まっているのは家族や師匠、そして本当に親しい友人達だけ――――念願が叶い、今日ようやく俺達は、俺と麻子の出会いの場であるこの公園で結婚式を挙げることになった。
式は、人前結婚式。
何故か俺達以上に進藤師匠がやる気満々で「俺に任せろ!」と胸を叩くので任せることにした。
「見知らぬ神父さんより、俺達がガッツリ縁を結んでやるよ」なぞと大口を叩くけれど、聞けば進藤師匠のところはホテルの教会で式を挙げたと言うんだから苦笑する。
まぁでも、見知らぬ人達が大勢集まる場所へは未だに行きたがらない麻子のことを考えても、よく知った人達だけで執り行う結婚式は俺達にピッタリだと思った。
それに駆け出しの靴職人である俺はまだそれほど裕福な暮らしが出来るような稼ぎがあるわけじゃなく、麻子と息子の晃との生活費で収入はなくなってしまうから質素な式しか出来ない――――それでも、皆に祝福されながら思い出のこの地で結婚式が挙げれられるということだけで、俺も麻子も胸がいっぱいだ。
グッと手にした箱を握り締める。
――――今日この日の為に用意した麻子の靴。
かなり細かい細工を施した為に随分と時間が掛かってしまって、この1か月くらいは仕事場に籠ることが多かった。結婚式を控えていると言うのに、麻子との時間が少なかったように思う。サプライズのつもりだったから、まだ麻子にこの靴の存在は言っていない。今日の麻子は、俺が最初にプレゼントした靴を履いている筈だ。――――「この靴で、結婚式に出たい」そう言ってくれた麻子の言葉が本当に嬉しかった。「この靴のおかげであたし、歩けるようになって――――光と一緒に歩いていく勇気をくれた靴だから…」
その言葉に感動して、同時に自分で作った靴に嫉妬した。嫉妬しながらも誇り高かった。
――――大切に大切に思ってくれている靴――――。
だけど。
――――この日だからこそ、今の麻子に一番相応しい、美しい靴を作りたい。
仕事の合間や時間外に、新しい靴作りに没頭してしまった。
だから、結婚式前だと言うのに、俺達の間で結婚式に向けての会話は事務的なことばかりだったように思う。
それもあって、麻子の衣装などは笠原や毬江さんとばかりで俺は見たことがなかった。
女性ならば誰もが抱いていた筈の――――結婚式への希望や憧れのような言葉を、麻子から聞いたことがなかった。「光、仕事が忙しいんだから無理に結婚式とかしなくてもいいよ」……そんな言葉は何度も聞いたのに。

ごめん。

今頃反省する。
――――新しい靴を、気に入ってくれるだろうか。
麻子に靴を渡す時だけは、俺の中でそんな期待と不安がないまぜになる。
彼女にだけは、心から、その靴を愛してほしいと思うから。
その靴を履いて「歩きたい」と心が動かされるようなものであって欲しいから。

息が上がる前には、ベンチが見えてきて――――普段はない紅い絨毯が、皆の待つ広場へ向かって長く続いていた。
ベンチにも今日は敷物が敷かれている。
初めて会ったあの時と同じ場所に――――純白のドレスを纏う雪のように白い肌を輝かせた天女が佇んでいた。
思わず、息を呑む。
ゴクリ、と無粋な喉の鳴る音。
視力のいい俺には彼女が見えているが、彼女からはまだ俺が見えていないらしい。
彼女の視点は遠く、美しく輝く庭を眺めている。
ドキンドキンと高鳴る心臓。
震えそうになる手を、グッと箱を握り締めることで堪える。
一歩。
また一歩とゆっくりと近づく。
……と、俺の足音に警戒したのか、バサバサと羽音がして鳥が飛び立った。
麻子が驚きと警戒を混ぜた視線をこちらに向けて――――俺を認めて、表情を緩めた。

…………天使だ。

光が差して、彼女が輝く。
風にふわり揺れて波打つドレスの裾。
真っ白で滑らかな素肌。
頭上には天使の輪のようにティアラが輝き、耳元に揺れるパールのイヤリングとお揃いのネックレス。

ドクンドクン、と心臓は張り裂けそうだったけれど、麻子が消えてしまわないか心配で、思わず早足になる。
…………天使じゃないよな…………麻子だよな。
俺の――――俺の麻子だよな。
そんな思いが聞こえたのか、ふわりと麻子が俺に微笑んだ。

――――この天使は俺のものだ! と神に向かって叫びたい。

「……あさこ……麻子、……すっごく、綺麗だ……」
昂る気持ちのままに零れた言葉は、胸がいっぱいすぎるのか、なぜか声が掠れてしまう。
目の前に立つ俺に、麻子もこの世のものとは思えない美しすぎる笑顔で「光もすっごく素敵――――ビックリするくらい良く似合ってるよ」なんて。
しばらくそれ以上の声もなく見つめ合っていたのだが、ふと、目の前の天使がこの世のものであることを証明するかのように頬をほんのりと染めた。
急に愛らしさを増した天使に戸惑って瞬きした俺に、「……そういう服装をさせると大人っぽいね。~~な、なんか、ドキドキしてきちゃった…」なんて言うから、思わず引き寄せる。
「~~きゃ…っ、~~バカ…、お化粧付いちゃったらどうすんの!」
「~~~~ッ、お前があんま可愛いこと言うからだろ!」
「なによっ! 似合わないって言えば良かったっていうの?!」
「じゃなくて! あーもー…、うーっ! ヤバいもうお前に触れたくて堪んない…っ」
「~~っ?! ~~ちょちょ…っ、だ、だめよ、お化粧…っ、あ、あんたに付くっ……」
「わかってる! わかってるから、抱きしめんの我慢してるだろ…っ!! あーもう…、その姿だけでもヤバいのに、ドキドキするとか超可愛いこと言うからっ!! そうでなくてもお前の方こそ天使みたいで俺ドキドキしてるってのに…っ」
「~~なななに言ってんのよ?! よくそんな歯が浮くような台詞が言え……っ、!」
引き寄せただけなのだが、ジタバタと暴れ出した麻子の手が箱を叩いてしまったらしく、意識が疎かになっていた手から箱が落ちてしまった――――絨毯が敷いてあって良かった、蓋の空いた箱の中から靴が少し覗いてしまう。
「…………な……っ……」
「――――天使には天使に相応しい靴がいい…」

屈んで靴を取り出す。
真っ白な鳥が羽ばたいているようなイメージでデザインした靴。
歩けるようになった俺達が、もっと遠くまで歩けるように、羽ばたけるように、新たな飛躍をイメージして作った。――――だがなんと今の麻子にピッタリな靴だっただろうか。
我ながら自分のデザインを褒めてやりたい。
麻子の大きな目が零れ落ちそうな程大きく見開かれる。
「……今日の為に作ったんだ。二人でもっと羽ばたいていけるように――――履いてみてくれないか?」
静かに声を掛ける俺の言葉も聞こえないように、呼吸すら忘れているんじゃないかと思うくらい固まったままの麻子。
麻子の前に跪くと、そっとドレスのカーテンを掻き分けて麻子の足へと手を伸ばす。
触れた瞬間ビクッと慄いたように麻子が震えるから、麻子の目を真っ直ぐに見ながら堂々と宣言する。
「――――これは、麻子の靴だ」
「~~~~っ…、ぁ、あた…し……」
「お前の靴だ」
大切に履いてくれている春色の靴を脱がせると、純白の靴を履かせる。
ようやく自分の場所に辿り着いたとでも言うように、靴が嬉しそうに輝いた。
ようやく番を見つけた鳥のように喜ぶ足と靴に、少し嫉妬のような誇らしくて堪らないような熱い気持ちが沸き上がってきて、その小さな足を恭しく両手で持ち上げると番に祝福のキスを贈るようにそっと口付けた。
「~~~~っ?! ~~ひ…ひか…っ……」
息を呑んで掠れた声を上げた麻子に顔を上げれば、逆上せたように熱すら感じるような火照った頬を晒す匂い立つように美しい天使が、俺だけを見つめていた。
「――――靴があんまりにもお前に履いてもらって喜ぶから妬けた」
「~~~~な…なに言って……」
「――――けど、お前の足にピッタリで……誇らしい…」
そう言えば、ようやくほわりと笑った麻子だったが――――次の瞬間、黒曜石のような黒目が潤んで俺を慌てさせる。
「~~え…っ?! バ…泣くな!」
「~~~~だ…っ、…だれの、せい…っ」
言いながらも、溢れそうになる涙を必死に堪える。
ズボンのポケットにしまってあった真っ白なハンカチを思い出して差し出せば、麻子は零れる前にした瞼に押し当てて涙を吸い取った。
麻子の気持ちが落ち着くのをしばらく待って、――――麻子から口を開く。
「……もう……仕事も忙しいし百貨店のこともあるのに……」
「仕事より百貨店より、どうしても俺が作りたかったのはこの靴だから。――――ホント言えば、前から作りたかったんだ。歩けるようになったお前に、もっともっと遠くまで歩きたくなるような靴を作ってやりたいって、もうずっと……遅くなってごめんな、ってくらいなんだよ」
「ううん、そんな……。……見たい、靴……」
麻子が差し出す手に、まだ履いていない方の靴を乗せる。
「…………綺麗……飛んでいけそうな靴……」
「飛ぶ時は二人一緒にな」
そう言うと、また涙ぐむから、思わず口付けたくなる――――が、顔が近づいて思わず止まる。
「~~~~くそ…っ、やっぱ、今はマズイよな?」
そう呟けば麻子が噴き出した。
同時にポロリと一粒零れて――――慌てて、化粧が落ちないようにハンカチで押さえてやる。
「~~あーもー…。サプライズはあたしがって思ってたのにィ……」
「たまには俺が麻子の上を行ってもいいだろ」
得意げに笑えば、麻子が幸せそうに苦笑した。
――――うん……我ながら大成功だ。
麻子の手から靴を取り――――履かせようとして、ふと気づいた。
靴の中に外国の銀貨が入っていた。
「どうしたの?」
「いや……これが」
「ぷっ…、今日の光は本当にロマンチストね」
「いや、俺これは知らない」
「そうなの? マザーグースのつもりじゃないの?」
「マザーグース?」
「え、ホントに知らないの?」
「マザーグースってなんだ? 結婚に関係あるのか?」
「…………サムシング フォーよ?」
「……………………サム……?」
理解に苦しむ俺に、麻子が手を差し出すからその掌に銀貨を置く。
「――――うん。……やっぱり6ペンスコインよ。それ、左靴だし」
「?」
『?』マークを頭上にいっぱい広げる俺に麻子が噴き出した。
「サムシング フォー…『なにかひとつ古いもの、なにかひとつ新しいもの、なにかひとつ借りたもの、なにかひとつ青いもの、そして靴の中には6ペンス銀貨を』って欧米で花嫁の幸せを願う演出として200年以上も前から伝わる、おまじないというか習慣みたいなものがあるのよ」
「へぇ……」
「なにかひとつ古いもの――――この6ペンスでもいいけど、そうね……あたし達二人の中でというなら、この最初に貰った靴でもいいかもしれないわね。まぁ、貰って3年くらいしか経ってないから古いというには語弊はあるけど、あたし達が結ばれる最初の物は間違いなくこの靴だから、そう言ってもいいかもしれない。
そうそう、光が身に着けてるパールチェーンブローチでも。お義母さんのお父さんが結婚式で身に着けていたものなんでしょ? 立派な先祖代々伝わる品だわ。
そして、なにかひとつ新しいもの――――これは間違いなく、今光が履かせてくれたこの靴。
なにかひとつ借りたもの――――笠原から借りたこのウェディングドレスがあるわ。
そして、なにかひとつ青いもの――――」
「……そういや、お前が作ってくれた銀の指輪に、青い小さな宝石を埋め込んであるよな」
晃を妊娠中にようやく母さんに結婚を認めて貰えて入籍して――――結婚指輪を買おうと言う俺に、お金はこれから必要になるから、と麻子が手作りで作ってくれた指輪が今俺達の手に嵌ってる。
俺にとってそれは何よりも大切なもので――――俺達の結婚指輪は新調しようとは思わず、このままずっと指に嵌めている。
そう言えばこの指輪も羽をモチーフにした形で、青い小さな石が施されているのだ。
「うん、それもあるけど――――光、これ…」
真っ白な小さな巾着袋から麻子が中身を取り出す――――ネクタイピン。
指輪と同じく銀製のようで、指輪とお揃いの羽のデザインで、これにも青色の宝石が1つ埋め込まれている。
今度は俺が思わず目を見開く。
いつの間にこんなものを作ってくれていたんだろうか?
結婚式のことは任せっぱなしだったのに、俺の為にこんなものを。
俺の視線にはにかむように麻子が微笑む。
「……百貨店に入ることになるんだし――――スーツとかも、きっと着るようになるわ。……光は思ってた通りどんどん世界を広げてる。どんどん羽ばたいて……ホント眩しいくらい…」
「…………んだよ、俺達……同じこと思ってたのか…」
「あたしはまだ羽ばたけてないけどね」
「羽ばたき始めてるだろ――――ビーズ教室とか、キラキラしたやつとか……正直、少しずつ俺の知らない麻子の時間が増えてくことに嫉妬してる」
「よく言うわよ。笠原のお友達とか毬江ちゃんのお友達とか……本当に知った人達としか上手く付き合えないもの。――――買い物ですら、まだ光と一緒じゃないと怖いし……」
「――――俺は別に、俺の仕事中もずっと俺の傍に麻子に居て貰って構わないのに」
「やだ。光が居なくても、ちゃんと自分の足で歩けるようになりたいんだもん」
そんなことを言われたら、独占したい気持ちと誇らしくて背中を押したくなる気持ちがないまぜになる。
愛おしくて、堪らない感情。
「~~ったく……けど、そんな麻子が――――」
と思わず腰を浮かせて顔を近づけようとすれば、麻子が「ストップ!」と止めるから口角を下げてしまう。
「だ・あ・め! 式が終わってからでしょ!」
チェッと小さく舌打ちするのに、麻子が小さく噴き出す。
「……こんなふしだらな新郎で、神様ちゃんと認めてくれるかしら」
「大丈夫。誰よりも幸せにする」
「あたしが光を幸せにしたい」
「もう十分幸せだよ」
「あたしも」
「もっと幸せになろう」
「…………はい」
二人で、と麻子が小さく呟いたのに、ふと笑んで綺麗な額にキスを落とす。
「~~~~ッ?! ~~な…っ…」
「いや、ここは誓いのキスだなって――――口付けはマズイけど、おでこくらいは神様も皆も許してくれるだろ」
「~~~~~~~~っ…」
湯気がでるんじゃないかと思う程、麻子の顔が真っ赤に染まる。
こういう先制攻撃にはすこぶる弱いことは、もうとっくに知ってる。
この世のものでないくらい美しい天使が、この世の人であることを証明するように稚く可愛い。
下腹部がムズムズしてヤバいな、と思うけれど、これ以上今は出来るはずもない。
向こうで待ってくれている人達も、そろそろ待ちくたびれて呼びにくるかもしれない。
「――――じゃあ、行くか」
麻子のくれたネクタイピンを付け6ペンスは胸ポケットにしまう。
麻子の左足にも靴を履かせて、ゆっくりと立ち上がらせて履き心地も確かめて貰えば、上々の出来だったようだ。
立ち上がった麻子の全身像にまた見惚れたものの、麻子が差し出した手に我に返る。
俺の腕に麻子の手が絡められる。
麻子の温もりと少しの重み。
1歩、二人一緒に踏み出す。
足取りも軽く、1歩、また1歩と歩いてゆく。
共に歩いて行けるこの幸せ――――それを皆が認めてくれて、祝福してくれるというのだから。
こんなに幸せで大丈夫なのかと思いさえするが、隣を歩くのは何よりも大切な人で。
この人とこうして歩いていける今の幸せを、二人は共に噛み締めながら歩いた。



……To be continued.







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2019.01.11 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『歩む先の空』~はじめがき~

長らく冬休みしておりました~~((((((^^;)
ようやく、『vol.1』が書き上がりましたので、本日よりこちらのblogも開店でーす!
今年もひとつご贔屓に♪(*^▽^*)

さて、今年も恐らくゆっくりでしか更新出来なさそうですが、お話を書き綴っていけたらと思っております。
今年最初の話は、ずっとずっとお待たせしていたリクエストから。

◆◆◆2016年サンキューリクエスト祭りから◆◆◆
ゆい様
********************
昨年のリクエストのお話でした「言の葉の空」の年上柴崎・年下手塚のパラレルがとても好きなお話でして、「言の葉の空」の手柴の結婚生活をもっと読みたいと思いましたので、リクエストします。ぜひ、Rも。
********************

ということで、『言の葉の空』のその後のお話です。
『言の葉の空』を知らない方は、カテゴリの目次から開いて読んでもらうか、もしくは、pixivにて昨日まで順にUPしていたので、そちらでお話を読んでくださいね。


それから、一度は書けないと思っていたリクエストですが、このパラレルの中だったら書けそう!と思いまして、

◆◆◆2017年サンキューリクエスト祭りから◆◆◆
さくさくパンダ様
********************
今回、結婚式後の披露宴などのお話が読みたいなと思ったので、リクエストします。
********************

という、こちらのリクエストにもパラレルですがお応えします!!

というわけで、新年一発目は、『言の葉の空』のその後……結婚式のお話からです!!
なんてめでたいっ!! 新年にピッタリ!! (爆笑)
もちろん血気盛んな若い手塚(しかも柴崎の身体しか知らない超果報者!)ですから、柴崎との夜はもちろん、あーんなことやこーんなことがしたいわけですよ!……というお話にしたいと思います(笑)
まぁ、内容はないよう! なお話の典型的事例になりそうですが、どうぞよろしくお願いいたしますwww







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2018.12.28 (Fri)

年末年始休業のお知らせ。(笑)

誠に勝手ながら、
冬休みにつき休業いたします( ´∀`)/~~

すみません。
pixivで、そろそろ終わりに近づいている『言の葉の空』の番外編(続き)のさわりだけでも年内に上げたいな~。と思っていたのですが、まったく進んでおらず、書く時間がなく、子供達が通常に戻るまで、お休みさせていただきます。
来年からまた、心機一転ということで、ぼちぼちと書いていきたいとは思っているのですが……ゆっくりのんびり、お待ちいただけると嬉しいです。(新学期始まって、書けるようになったら頑張りますね!)

こんな小さなblogに足を運んで、私の拙いお話を読んで下さる皆様のお蔭で、幸せな一年が過ごせました!
ありがとうございました!!!
温かく見守ってくださったおかげで、細々となりつつありますが、こうして書いていけてます。
本当に、皆様のおかげでしかなく、ただただ感謝です。

皆様にとって、今年も来年も幸せな年でありますように……。
では、皆様、よいお年を~~~ヾ(*≧∇≦*)〃






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2018.12.21 (Fri)

≪背中の靴跡シリーズ≫ 『とある休日の過ごし方』(完)~あとがき~

内容はないよう! なのに、ダラダラと書き綴ってきましたが、この辺で。
「とある」日常ということで、まぁ、いつまでーも話は出来そうなのですが、言い加減この変にしとこうと思います(笑)。
なんとなーく、手柴って、本人達に自覚がないだけで、堂郁以上にベッタベタな気がするのは私だけ…?(笑)
なんかね、もうホント、勝手に幸せになってなってください! って言いたくなる二人なんですよねぇw

というわけで、内容はないよう! なお話でしたが、甘々っぷりはこのブログ内でも過去最高となるお話となった気もしますねー。:*:・(*´∇`*)・:*:
お楽しみいただけたなら幸いです。


幸せなお話で、このまま今年は最後になるかもしれません。
今日で子供達の学校が終わる為、お話が書けないので……。

年明けから、リクエストお応えでの、『言の葉の空』の続きを書く予定にしています。
パラレル苦手な方も多いかとは思いますが、もしよろしければ、またお会いしましょう。
pixivの方で、振り返りをしていますので、よろしければそちらもお目通しくださいね。


ではではひとまずは、公休日が重なった日の過ごし方リクエスト、完結です!
お読みいただき、ありがとうございましたww






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